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ニートの俺が勇者に間違われて異世界に  作者: 五月雨拳人
第三章
53/127

剣対炎

          ◆     ◆


 それはあまりにも大きく、分厚く、重く、だが紛れも無く剣だった。


「これが聖剣か……」


 手に持った大剣を見て、平太がつぶやく。自分で思い描いたとはいえ、こうもゲームの大剣そっくりだと聖剣という感じがしない。ありがたみも何だか薄い。


 だが、聖剣というだけあって剣から発するオーラのようなものをビンビン感じるし、柄を握って持っているだけなのに身体中に力がみなぎってくる。


 そして何より、この剣の破壊力がとんでもない事が振る前からわかる。どうしてかわからないが、わかるから仕方ない。


 これなら、勝てるかもしれない。


 あの圧倒的実力差を見せつけたイグニス相手でさえも、この剣はそう思わせてくれる。北欧には戦士の死への恐怖心を薄れさせ、蛮勇を誘う精霊がいると聞くが、この剣にはそういうものが宿っているような気がした。


「なんだそれ……? 剣、なのか?」


 視力が戻ったイグニスが、平太の持つ大剣を見て驚愕の声を上げる。無理もあるまい。自身の身体よりも大きな剣を振る人間など、これまで見たことないのだろう。


 だが彼も聖剣から出る波動を感じるのか、すぐにそれがグラディーラが変化したものだと気づくと、ぽかんとした間の抜けた顔が下卑たものに変わる。


「なんだ、そういうことか」


 くくっ、とイグニスはいやらしく喉の奥で笑う。


「今度はそのガキをたらしこんだのか。とんだ尻軽女だぜ、この淫売が」


「何だと!?」


 グラディーラを罵られ、平太はさらに腹を立てる。


「結局お前は、誰かに身体を預けねえと何もできねえ半端者ってことだ」


 剣は、人に使われ初めて武器となる。それは当たり前の事だ。だが、人の姿になれるグラディーラを、果たして剣と同じに扱って良いものだろうか。


 平太の二次元脳は、最初からグラディーラを剣としてではなく、一人の個人として認識していた。それは、彼女が自分の正体を明かした後でも変わらない。


 だから、イグニスの彼女をモノとして見なす態度と、彼女を貶めた発言はさらに頭にきた。


 聖剣の放つ波動の影響か、脳汁垂れ流しの平太は完全に戦闘モードだった。そしてこれまでに溜め込んだ怒りはすでにゲージを突き抜けており、相手が四天王とかもうどうでもよくなっていた。こいつはもう、ただの試し斬りの的だ。


「いくぜ」


 剣にささやくようにつぶやくと、平太はイグニスに向かって全力でダッシュした。


「はっ、また馬鹿の一つ覚えで突っ込んで来やがったか」


 常人を遥かに凌駕した平太の踏み込みであったが、相手もまた人間を超えた魔族の上位種。その動きを容易に捕らえたイグニスは、向って来る平太に向けて右手の平を向ける。


「喰らえ」


 その掌から火柱が生え、平太に向けて一直線に走る。平太は、炎に向かって突撃する形になってしまった。


「骨まで溶けてなくなりな」


 呪文を唱えたわけではない。ただ己の中にある魔力を熱に変換させて掌から出しただけの単純な技だが、その熱量は魔力に比例する。


 つまり、平太は人間など簡単に炭化する温度の炎に向かって自爆した、


 ――かに見えた。


「あん?」


 一瞬で燃え尽きるはずが、手応えがおかしい事に気づき、イグニスは炎の量をわずかに減らす。


 すると、平太は大剣と化したグラディーラを地面に突き立て、盾の代わりにして高温の炎から見を守っていた。


「ふう、危なかったぜ」


 これがレクスグランパグルの大剣であったら、もって数秒といったところだろう。だがこれは聖剣――かつて数えきれないほどの魔物を屠り、魔王さえも倒した伝説の剣である。例え四天王の放つ炎であろうと、そう簡単に燃え尽きるものではない。


 とはいえ、余裕こいていつまでも炎に晒されているわけにもいかない。聖剣といえど物理的に限界があるだろうし、何よりこれはグラディーラが変化した剣なのだ。もしかしたら熱いかもしれない。


 そこで平太は炎を正面から受けるのをやめ、大剣を斜めにずらした。こうして炎の勢いを受け流しつつ、剛身術によって再び前に出る。


「なに?」


 まさかまだ生きているとは、しかも再び向かって来るとは思っていなかったイグニスは、虚を突かれ咄嗟に炎を止めて平太の突進を防御する。


 大剣による体当たりは大したダメージを与えられなかったが、厄介な炎が止まったので良しとしよう。今の平太の装備だと、大剣で防ぎきれなかったら一発で終わる。


 ならば、もう炎を出させるわけにはいかない。平太は再び距離を詰めたこの好機を逃さぬように、そして大剣の利を最大限に活かすように攻めを組み立てる。


 大きく振りかぶり、右足で地面を踏みしめる。


 まずは一撃。上段から振り下ろす。


「はん、そんな大振りが当たるかよ」


 余裕でイグニスにかわされ、大剣はそのまま地面を斬り裂く。


 だが平太は踏み込んだ右足を軸にして、即座に左回転。その勢いを剣を振る力に乗せる。中段の払い斬り。


「ちっ……」


 鈍重そうな見た目を裏切る、完全に予想外の素早い連続攻撃に、イグニスは回避が遅れて思わず自分の剣を抜いた。イグニスの剣は幅広の蛮刀で、刀身に炎の紋様を刻み、そして実際に炎を纏っていた。


 炎の剣が大剣を受け、硬い金属音と火花を生む。イグニスは平太の剣の勢いに押され、地面に足で溝を掘りながら後退る。


「野郎、何て力だ……」


 四天王であり、魔族一の武闘派を誇るイグニスを剣のひと振りで押し戻すとは。これに匹敵する怪力は、彼の知る限りだと同じ四天王で剛力無双のコンティネンスくらいである。


 これもあのグラディーラの力か。イグニスは一瞬そう考えたが、いくら聖剣の加護とはいえ実際に剣を振るのはあの人間である。だとしたら、この怪力も恐らくあの人間が。


 虫けら同然だと思っていた人間に力で押され、イグニスのプライドにきずが入る。


「気に入らねえ! たかが人間風情が!!」


 怒りが魔力を噴出させ、イグニスの剣に纏っていた炎の火力が上がる。赤かった炎が青へと変わり、そして白になる。


 触れるだけで焼き切れるほど熱くなった刀身を構え、今度はこちらから仕掛ける。


 ――が、彼のターンは回って来なかった。


 攻撃体勢に入るより先に、平太の大剣が襲いかかってきたからである。


 得物の圧倒的なリーチさの差が、ここでの勝敗を分けた。


 平太がイグニスを斬り払ったのは、炎を嫌っただけではない。


 向こうの剣は届かず、だがこちらの剣は届く“ちょうどいい距離”にまで相手を押しやったのだ。


 平太は一撃目を見せ技にし、二撃目の払い斬りをわざと防御させてイグニスを弾き飛ばすと、すぐさまもう一歩踏み出して回転の勢いを殺さず、さらに加速を上乗せして剣を横に振るった。


 連続払い斬り。


 オンラインゲーム「グランディールオンライン」の中では、最初の払い斬りで相手を弾き飛ばし、防御による硬直時間の隙を突いて本命の二撃目を入れる、平太の得意技であった。


「喰らえ!!」


 渾身の力を込め、大剣を振るう。


 相手の防御は、間に合わない。


 イグニスの胸に、大剣が吸い込まれる。


「ぐはぁっ!?」


 強烈な一撃を胸に受け、イグニスはもの凄い勢いでぶっ飛ばされた。その姿は、あたかも射出されたミサイルの如く。


 こうして平太のフルスイングは、イグニスを空の彼方まで打ち飛ばした。ここが球場なら、文句なしの場外ホームランだろう。


「ふう……」


 イグニスが空に吸い込まれて消えるのを見送り、ようやく平太の身体から力が吐息とともに抜ける。


 安心したせいか気が抜けて、手から大剣が落ちる。剣は地面に刺さり、その重みで倒れる前に光を放ち、グラディーラが人の姿へと変わった。顔の火傷が痛々しい。


 だがグラディーラは傷を気にした風もなく、地面にへたり込んでいる平太へと歩み寄ると、右手を差し出す。


「見事だ」


 平太は彼女の手を取ると、引き上げられて立ち上がる。


「それほどでもないよ。それよりありがとう、おかげで助かったよ」


「あのような剣になったのは初めてだが、なかなか悪くないな」


 グラディーラは先の戦闘を思い返し、大剣ならではの戦い方に感心する。が、すぐに表情を引き締め、


「だが最後の一撃。あれは――」


「わかってる」


 わかってる。平太はもう一度、悔しさを噛みしめるように言った。


「そうか……ならいい」


 グラディーラは、最後の一撃をどうして胸にしたのかと問い質したかったのだろう。胸ではなく、首にしておけばそこで確実に殺せたものを。


 だが平太とて、わざと首を外したわけではない。レクスグランパグルの大剣と聖剣では勝手が違うという点を差し引いても、あそこまで狙いを大きく外す事はなかった。なのに首ではなく胸に当たったという事は、無意識で避けてしまったのだろう。


 相手が、人の形をしていたから。


 魔物だと頭ではわかっていたはずなのに。


 自分はまだ、そこを超えられないのか。


 平太は自分がぶつかっている壁を改めて認識する。きっとここが分水嶺なのだろう。ここを超えられるかどうかで、これからの旅――特に戦闘が変わる。


 そしてここを超えないと、いけない時が必ず来る。


 そう確信にも似た予感を感じつつ、その時が来たら本当に超えられるのかどうか未だに確信が持てない自分が情けなくなっていると、


「ヘイタ様!」


「一体何があったんだい?」


 爆風で意識を失っていたシズたちが目を覚まし、こちらに駆け寄ってきた。どうやら降って来たのがイグニスだというのは知らないようだ。


「説明は後だ。とりあえずスィーネ、まずは彼女の火傷の治癒を頼む」


「わかりました」


 そう言うとスィーネはグラディーラへと駆け寄り、彼女の顔に両手をかざして祈りの言葉を唱える。


 するとスィーネの手に淡い光が灯り、光が当たった箇所の火傷がじんわりと薄らいでいく。


 スィーネがグラディーラの治癒をしている間に平太が説明すると、ドーラたちは今さらのように青ざめた。


「魔王配下の四天王の一人、イグニスが……。本当だとしたら、よくボクたち生きてたね」


「知ってるのか?」


「おとぎ話程度にはね。魔王と勇者の話には、勇者の仲間と同様に彼ら四天王の話は不可欠だからね」


「桃太郎の鬼みたいなものか」


 日本のおとぎ話を例えに出され、ドーラは意味がわからず小首を傾げる。平太は「何でもない。続けてくれ」と先を促した。


「でもボクの知るおとぎ話じゃ四天王はどれも魔王の前に勇者たちに倒されていたはずなんだけど……」


「あたしの知ってるのもそうだ」


「わたしもです」


 そこで一同の視線が、すっかり火傷の消えたグラディーラに集まる。ここはおとぎ話ではなく、実際に戦った本人に話を聞くのが一番早い。


 が、グラディーラもイグニスが生きていたことには驚きだったという。


「わたしも、奴が何故生きていたのかまったくわからん」


「倒したのは確かなんだよね?」


 ドーラの問いに、グラディーラはうむ、と自信をもってはっきりと答える。


「奴を倒したのは間違いない。頭の先から縦に一刀両断し、さらに念を入れてなます切りにしてやったからな。魔物とはいえ、あれで生きてるとは到底思えん」


「はあ……」


 平太は何となく、どうしてイグニスがグラディーラをあれほど目の敵にしているのかわかったような気がした。


 やり過ぎだろという視線を複数受け、グラディーラは慌てて弁解する。


「あ、あいつはそれまでに大勢の村や街を滅ぼし、数えきれないほどの人を殺してきたのだ。それくらいやられても当然というものだろう」


「はあ…………」


「そんな事より、これからの事を考えねばならぬだろう!」


「あ、そうか」


 ごまかされた感は否めないが、グラディーラの言う事ももっともである。


「イグニスを仕留め損なった今、奴はいずれまたわたしたちの前に現れるだろう。その時、まっ先に命を狙われるのはお前だ」


「え、俺?」


 そんな馬鹿な、という顔をして自分を指す平太に向けて、グラディーラは呆れ顔で言う。


「今しがた自分で奴の怒りを買ったばかりではないか。恐らくあれで奴の殺したい順位が更新されて、わたしよりもお前の方が順位が上がったと思うぞ」


「マジか……、って言うか何だよその厭なランキング」


「案ずるな。わたしがいる限り、イグニスなぞ何度来ても返り討ちよ。それよりも、問題となるのはお前の方だ。わたしがいくら強くても、お前がわたしを使いこなせなければ意味がないからな」


「それって……」


 期待を込める平太の言葉に、グラディーラは仕方ないという顔で頷く。


「この場所も奴に知られてしまったからな。これ以上隠れるのは無理だろう。不本意だが、お前らに同行してやろう」


「え~……ついて来るんですかあ?」


 心底厭そうな声と、びっくりするくらいブサイクな顔でシズが不平を垂れる。


「同行するって急に言われても、馬とかどうするんですか? 確か、貴方めちゃくちゃ重たいじゃないですか? そんなんで馬に乗れるんですか? 馬がかわいそうじゃないですか」


 普段温厚なシズとは打って変わって、今日はやけに辛辣である。彼女の言う事も正論ではあるのだが、口調や表情がやけに悪どいのは気のせいだろうか。


「馬か。確かに馬ではわたしを運ぶのは無理かもしれん。だがそれには及ばん。同行とは言ったが、わたしは普段別の空間にいる。用がある時だけ呼んでくれればいい」


「呼んでくれって、さっきみたいに呼ぶだけで来てくれるのか?」


「お前がわたしと契約すればな。そうすれば距離など関係なく一瞬でお前の元に現れよう」


「そいつは凄いな。で、契約ってどうするんだ? 書類にサインでもするのか?」


 平太がわくわくしながら言うと、グラディーラは「動くなよ」と平太の首に腕を絡ませ、


 平太の唇に自分の唇を重ね――


 ようとしたところを、


「何しようとしてるんですかあっ!!」


 間一髪のところでシズに邪魔された。他の誰も、戦士のシャイナでさえ呆気にとられて咄嗟に動けなかったのを、シズだけが恐るべき反応速度でグラディーラと平太の唇の間に自分の掌を挟み込んだ。


「何って、この男の魂の情報を取り入れるのだ。そうすれば、お互いどこにいても魂で通じ合い、呼べばどこであろうとわかる」


「何ですか、その魂の情報って!? それって、唇を重ねないといけないものなんですか!?」


 もの凄い剣幕のシズとは対照的に、グラディーラはそれもそうだな、と冷静な反応を見せる。


「別に唾液でなくても、体液なら何でもいいぞ」


「だったら血液にしてください! ホラ、シャイナさんもボーっとしてないで、ヘイタ様の指でも首でもちゃちゃっと切って、血を流してください!」


「お、おう……」


 言われるがままに剣を抜くシャイナに、平太がツッコミを入れる。


「おい待て。首を切ったら死んじゃうだろ」


「そ、そうだな。じゃあ指を軽く、」


 言ってなければ首を切りそうな危うさだった。動揺した今のシャイナだと指ごと切り落としかねないので、平太は彼女から短剣を借りて自分で指を切った。


「ほら、これでいいだろ」


「うむ」


 血の玉が浮かんだ指を突きつけると、グラディーラは表情を変えずに平太の指を口に含んだ。


「あふん」


 指にからまる舌と唾液のぬるりとした感触と、口の中の温かさに思わず変な声が出た。


「なに変な声出してるんですか!」


「いや、その、つい……」


 噛みつきそうな目で睨むシズに平太が弁解していると、ちゅぽんと音を立ててグラディーラが平太の指から口を離す。


「これでお前とわたしの魂はつながった。お前が呼べばいつでもすぐにわたしは現れるし、お前がどこにいてもわたしの声が届くだろう。何より、これでお前はわたしの本来の力を使えるようになった」


「本来の力って?」


「わたしの持つ能力のすべて、と言ったところか。仮にも聖剣を名乗る以上、ただ斬ったり突いたりしかできぬのでは、そこらの剣と変わらぬからな」


「具体的に何ができるんだ?」


「そうだな……前の勇者はその気になれば山ひとつくらい吹っ飛ばせたな」


「マジか!?」


 あまりのスケールの大きさに、平太のテンションが最高に上がる。何しろいきなり最強の剣を手に入れたばかりか、剣と契約して最終奥義のような技を使えるようになったのだ。しかもその伝説の聖剣の正体が銀髪の美女である。ネットゲーマーとオタク両方のツボを刺激され、これで興奮しない方がどうかしてる。


「当たり前だが、今のお前では到底無理だぞ。まあわたしを振れるだけでも人間にしては大したものだが、それだけでわたしを使いこなしたつもりになられても困るがな」


「貶したいのか褒めたいのかどっちだよ……」


「とにかく、イグニスを撃退できたのは運が良かっただけだ。もう一度戦ったら殺されるのはお前かもしれんぞ。だからそうならないために、もっと強くなってわたしを使いこなせ」


 剣に説教されるという前代未聞の経験はさておき、そんな事は言われるまでもない。自分の弱さは自分が一番よく知っているつもりだ。


「ああ、どこまでやれるかわからないが、もっと強くなって聖剣の使い手にふさわしい男になるよ」


 力強く答える平太の言葉に、グラディーラは満足そうに頷く。


「うむ。それでこそ勇者を目指す男だ。そうでなくては、もう二度と戦わないという決意を曲げた意味がないからな」


「静かに暮らしたいという願いを台無しにしてすまない。だが、俺としてはきみが仲間になってくれて嬉しいよ。これからもよろしく」


 そう言って平太が右手を差し出すが、グラディーラはフン、と軽く鼻を鳴らすと、


「せいぜい精進し、わたしを持つにふさわしい男になれ」


 呪文を唱えて姿を消してしまった。恐らく空間魔法で別の次元か位相空間にでも行ったのだろう。


「やれやれ……。ずいぶん跳ねっ返りな聖剣もいたもんだ」


 成り行きとはいえ聖剣と契約を交わしたが、今からこれでは先が思いやられる。だがそれも自分がもっと強くなり、聖剣を使いこなせるようになれば良いだけの話だ。


「早くも聖剣ゲットか。幸先のいいスタートだぜ」


 この分だと、もしかすると他の武具も仲間になってくれるかもしれない。シズや他の仲間たちの微妙に厭そうな表情にも気づかず、平太だけが伝説の勇者の武具集めに新たな闘志を燃やしていた。


「おい」


 すると、さっき消えたはずのグラディーラが再び姿を現していた。


「あれ? まだ何か用か?」


「言い忘れていたが、飯の時間になったら呼んでくれ。あと今日は昼飯に鳥肉を食べたから、晩飯は別のもの――できれば魚にしてくれるとありがたい。では」


 そう言い残すと再び消えた。どうやらグラディーラは食べる事にかなり重きを置いているようだった。


「戦闘以外にメシのたびに出てくるのかよ……」


「って言うか、ご飯がメインみたいな感じでしたよね……」


「食費のかかる武器って、なんだかなあ……」


「ヘイタ様、やっぱり今からでも遅くありませんから、契約を破棄して別の剣を捜しません?」


「う~ん……」


 ドーラの迷惑そうな顔とシズの声に、平太は少し考えてしまった。

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