炎降臨
◆ ◆
山小屋を出た平太たちは、グラディーラとともに脇道へとやってきた。そこには小一時間前まで強固な結界が張っていたのだが、今はドーラに解かれていた。グラディーラは再び結界を張り直すためにここまで着いてきたのだ。
「これからどうするのだ?」
グラディーラの問いに、平太は「そうだな……」と少し考える。
「取りあえず、このまま勇者の足跡を辿ってみるか。上手くすりゃ、他の武具の情報が手に入るかもしれないし」
「そうか……」
グラディーラはわずかに申し訳なさそうな顔をした。それから何かを言おうと口を開いたが、結局は何も言わずに口を閉じた。
「そっちこそ、これからどうするんだ?」
「今までと何も変わらん。このままずっと、この山で静かに暮らしていくだけだ」
「ずっと気になっていたんだが、こんな殺風景な山でメシとかどうしてるんだ?」
「麓に降りれば売店など店があるし、必要なら街に足を伸ばすこともある。別に永遠にこの小屋に篭っているわけじゃないぞ」
「あ、結界を張っても出入りはするんだ……」
思った以上に普通で当たり前な返答に、平太は出来損ないの苦笑いをする。
ともあれ、思ったより悲壮感はなさそうだ。心残りが無いと言えば嘘になるが、それよりもグラディーラの意志を尊重したいと平太は思った。
剣など、他にいくらでもある。
『剣は所詮道具ぞ』
ハートリーの言葉を思い出す。そうだ。剣など使う者次第ではないか。それならむしろ、自分が使った剣が後の勇者の剣となるように精進すれば良いだけの話だ。魔王を倒せば、道端の石ころでも伝説の武器になる。
「いや、石はないな……」
魔王殺しの石はともかく、聖剣かそうでないかは、後の人々が決める事だ。そんな先の事で思い悩むより、すぐ先の現実に目を向けよう。
「ところで、他の勇者の武具について、何か心当たりはないか?」
「すまない。他の者の事は、わたしもよく知らないんだ」
「いや、知らないなら別にいいんだ。それより……」
グラディーラの口ぶりから、平太はある事に気がつく。
「もしかして、他の武具もあんたみたいに擬人化――じゃなくて人の姿になるのか?」
「ん? そうだが」
そこで平太は右手で小さくガッツポーズを取りかけてやめる。
「それって、全員女の子……?」
「ああ」
その一言を聞いた瞬間、平太は万感の思いを込めて右手を力強く握り込む。無言でありながら、熱い、魂のこもったガッツポーズだった。この時ほど彼は、異世界に来て良かったと思った事はないだろう。
「あ~、なんかろくでもない事考えてる予感がするよ……」
「いつもながらコイツの脳ミソがどうなってるのかわからん」
「絶叫するよりも無言の方が気持ち悪いというのも不思議な話ですね」
「一つのものにしか変身できないのにどこがいいんでしょうか……」
「そこ、うるさい!」
相変わらず酷い言われようだ。
そこでふと、ドーラが「う~ん」と唸る。
突然隣で唸り声を上げたドーラに、シャイナが「どうした?」と尋ねる。ドーラはシャイナの顔を見上げ、困ったような顔で言う。
「あ、うん。これで話が繋がったって思ったんだ。先代勇者の少ない情報の中に、かつて勇者の仲間は女性ばかりだったというのがあったでしょ?」
「いや、憶えてねえ」
「……あったんだよ。で、ボクは最初、偶然だと考えていたんだけど、グラディーラの話を聞いて、それが偶然でも何でもない事に気がついたんだ」
「へえ。で、何に?」
「いいかい、伝説の武具は全員女性に変身できるんだ。それを踏まえて考えれば、答えは自ずと出てくる」
「もったいぶらずに早く答えを言えよ」
どうも話をする相手が悪かったようだ。とことん興味の無いシャイナにしてみれば、伝説の武具がどうだろうとハナクソほどの価値もない。それよりも今日の晩メシのおかずの方がよほど大事な話だ。
それでもドーラはめげず、「つまり、」とさも物凄い事を発見したように前振りを入れる。
「勇者の仲間とは、全員女性に変身した武具だったのだ」
「ふ~ん」
予想はしていた。話の途中までのシャイナの態度から、結論を言ってもこういう反応をするだろうという覚悟もできていた。
だが、これが本筋ではなく話の枕であるとはいえ、ここまで軽く流されると精神的に辛いものがある。
膝から崩れ落ちて地面に両手を着いてしまいたい衝動に駆られるドーラを救ったのは、その話を近くで聞いていたシズだった。
「それじゃあ、結局先代の勇者は独りで戦っていたってことですか?」
「フル装備の状態だと、そうなるだろうね。けどグラディーラの例を見れば、人型の状態でも魔法を使ったり何かしら戦闘での役割はあったと思うんだ」
「魔法、ですか……」
何か思うところがあるのか、シズは憎々しげに歯を食いしばる。
「それで結局何が言いたいんだよお前は?」
短気なシャイナに結論を求められ、ドーラは言いにくそうに口ごもるが、それは一瞬の逡巡だった。
「このままヘイタが伝説の武具を集めていくと、このメンツに女が増えるって事だよ」
シャイナは再び「ふ~ん」とまったく興味も関心もない声を上げる。
が、数秒してはっと気づくと慌てて言った。
「おい、ちょっと待てよ。それって何だかよくわからんが拙くないか?」
「そうだよ。何だかよくわからないけど拙いことだよ」
ようやく話が本題に入った嬉しさよりも、話の釈然としなさにドーラはむすっと答える。その隣ではシズが「はわわわ……」とこの世の終わりのような顔をしておののいている。
「心配するのは早いでしょう。他の武具の方々が仲間になるとは限りませんし、むしろ彼女のように仲間にならない可能性の方が大きいのでは?」
この中で唯一冷静なスィーネの発言に、他の女どもが一斉に彼女の方を見る。
「そうか。そうだよね」
「確かに。よくよく考えてみりゃ、伝説の武具ともあろう者があんな冴えない奴の仲間に好き好んでなるわきゃねえか」
「心配して損しました~……」
「お前ら、全部聞こえてるぞ!」
口々に好き放題言う女性陣に、平太がツッコミを入れる。そしてグラディーラがトドメを刺すように言った。
「確かに、他の武具たちはわたしと違って変わり者だからな。もし出会えたとしても、まず話になるかどうか。仮になったとしてもたぶん仲間にはならないだろう」
「え~……マジかよ……」
げんなりする平太をよそに、他の連中は「お前も十分変わり者だよ」と心の中でツッコミを入れていた。
「それより、早くここから立ち去ってくれ。お前たちが出て行かないと結界が張り直せない」
直球で早く帰れと促されては、これ以上ここにとどまるのは難しい。平太はこれで完全にグラディーラを仲間にするのを諦めることにした。
「わかった。それじゃあこれでお別れだな」
「うむ。わたしは何の役にも立てなかったが、お前らの旅の安全くらいはここで祈っててやろう」
「ありがとう。聖剣に祈ってもらえるなら心強いよ」
平太が右手を差し出すと、グラディーラはその手を一度見て、一拍の間を置いてから握った。グラディーラの手は、柔らかかった。
どちらからともなく握手を解く。
「さよなら」
元気でね、と言うのも変だと思ったので、そこで言葉を切った。
「うむ」
そして平太は踵を返し、歩き出す。
これでもう彼女と会うことはないだろう。平太はまだ引きずりかける心を振り払い、次なる武具へと気持ちを切り替えようとしたその時、
空から火の玉が落ちてきた。
「ヒィヤッホぉおおおおおおおおおっっっ!!」
火の玉は平太とグラディーラの間に落ち、爆発が起こった。平太たちは轟音に驚く間もなく、熱風と爆発によって地面から撃ち出された石つぶての洗礼を受ける。
「うわっ……!?」
焼けた空気と石の弾丸を浴びせられ、近くにいた平太はあまりの威力に後方に吹っ飛んだ。
少し離れたシャイナの鎧にも、いくつかの石が当たって金属音が鳴る。体重の軽いドーラは風圧で地面を転がったが、逆にそのおかげで石の被害は無かった。
しかし灼熱の爆風の影響は全員に及び、その場で立っている者は誰一人いなかった。
「う……何だ? 何が起こったんだ?」
鎧のおかげで重大なケガを免れた平太であったが、爆風に焼かれたダメージは大きく、今は辛うじて頭を動かして何かが落ちてきた方を見るのがやっとだった。
どうにか顔を上げて見たその先では、地面を焦がす煙がゆっくりと晴れていき、
その中から、地面に跪いている真っ赤な鎧を着た男が現れた。
隕石が落ちたのかと思ったら、まさか空から人が降ってきたのか。
いや、人に見えるがあれは違う。
目は掠れ頭は呆然としていたが、本能で感じるものがあった。あれは、決してヒトなどではない。もっと禍々しく強大な何かだ。
平太が根源的な恐怖を感じていると、下を向いて静かに跪いていた男が、
「くっ、くくっ……」
喉の奥で笑った。
「だあああはっはああああああっ!! ついに見つけたぜクソアマぁっ!!」
赤い鎧の男はいきなり立ち上がって大声を張り上げると、まだ地面に倒れ伏しているグラディーラの方に向かって歩き出した。
ゆっくりと歩く男の足元から、煙が立ち上る。まだ熱が残っているのか、それとも男自身から高熱が発せられているのか。一歩歩くごとに足跡のように地面が焦げ、近づくごとに熱がじりじりと寄って来る。
落下地点に一番近かったグラディーラは、意識を失っていた。ただでさえ一番近い距離で被害を受けた上に、着ているものはただの平服のため誰よりも被害が大きかった。
ぴくりとも動かなかったグラディーラだったが、近づいてくる高熱に当てられ強引に覚醒させられる。
「う……うぅ……」
熱が肌を焼く痛みに目を覚まさせられると、ぼんやりとした視界にかつて倒したはずの赤い鎧が映った。
「あれは……、ま、さか、」
驚いたもののろくに声が出ず、呻くことしかできなかった。そうしている間に男はグラディーラの目前までたどり着く。彼の足元からは、一際大きな煙が立ち上る。
「いいザマだなクソアマぁ」
男はその場にしゃがみ込み、まだ動けないグラディーラの顔を楽しそうに覗き込む。
「貴様はイグニス……。まさか、生きていたのか?」
何故ここに、とグラディーラは内心歯噛みする。かつて勇者と自分の手によって倒した相手が生きていた事に驚くと同時に、長い平和に油断して結界を長時間解きすぎていた自分の失態を悔いた。
「いいや、死んださ。お前が斬り殺したんだろ? 忘れるなよ、寂しいだろ。けどな、何故だかわかんねえがこうして生き返った。たぶん魔王様が復活したからじゃねえかな? ま、どーでもいーけど」
赤い鎧の男――イグニスは長い舌をだらりと垂らし、おどけるような口調で答える。
「それよりお前、なんだよそのザマは? せっかく見つけてぶっ殺してやろうと思ったのに、近づいただけでそれはねえだろ?」
そこでイグニスははっと気付き、
「ああ、お前その格好じゃてんで弱っちいんだったな。やっぱ剣は人に使われてナンボってか?」
イグニスは立ち上がって困ったように腕を組む。
「参ったな……。これじゃ弱いモンいじめじゃねえか……」
「く……」
弱者と言われ、苦痛と屈辱に歯ぎしりするグラディーラの姿に、イグニスはにたりと笑うと、
「ヒャハハハハハッ!! 弱いモンいじめ上等! 俺大好きだぜぇっ!!」
大笑いしながらグラディーラの顔面を足で踏みつけた。
高熱の足裏を横顔に押し付けられ、じゅうという不快な音と肉の焼ける匂いが煙とともに上がる。
「があああああああああああああああああああああっ!!」
あまりの痛みにグラディーラが叫び、痛みで動けなかった傷だらけの身体が弾かれたように跳ねる。
「いい声だ! その声が聞きたかったぜ!」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
絶叫するグラディーラの姿にイグニスが興奮すると、それに比例して足を押し付ける力と熱がさらに増す。
「五百年前に殺られた恨みがようやく晴らせるんだ。こんな気分のいい事はねえぜ!!」
気分が最高潮に達したイグニスは、そのままグラディーラの顔面を踏み潰そうと力を込める。
みりっと頭蓋が軋む音に、グラディーラがここまでか、と覚悟を決めかけた時、
「やめろおっ!!」
平太が立ち上がった。
「あん? ンだてめえ、どっから湧いた?」
いきなり邪魔が現れて興を削がれたイグニスは、苛立った顔を平太に向ける。その口ぶりから、彼には最初から平太たちは見えていなかったようだ。
「グラディーラから足を離せ」
「てめえ、誰に向かって口きいてんだ。たかが人間風情が」
「お前こそ、魔物風情が聖剣を足蹴にしてんじゃねえよ」
「あぁ?」
平太の言葉で、周囲の空気が一変した。
殺意が肌で感じられるとしたら、今この感覚なのだろう。全身を剃刀の刃で撫で付けられるようなうそ寒い感覚に、平太は一瞬で相手が自分では到底勝てない相手だと悟る。
「やめろ……こいつはただの魔物ではない。魔王の配下でも四天王と呼ばれる上位の魔物だ。今のお前らが束になろうと絶対に勝てん。逃げろ……」
「うるせえよ」
「があああああっ……!!」
イグニスは平太に目を向けたまま、グラディーラの顔面を踏む力と熱を強める。再び顔から煙が吹き上がり、グラディーラは苦痛の悲鳴を上げる。
「やめろって言ってるだろ!!」
平太は腰から剣を抜いて構えた。が、相手が魔物の四天王だと聞いて、今の状況の絶望さ加減に目の前が真っ暗になる。
それでも、平太の頭に逃げ出すという選択肢はなかった。それは今さら逃げ出してもどうせ殺されるという現実的な考えもあるが、それよりもグラディーラを足蹴にして、女の顔面を焼いて悦に浸っている目の前の下衆には決して背中を見せたくないという意地だった。
明らかに分不相応な意地である。何しろ相手は四天王。ゲームで言うなら中ボスかそれ以上である。今の自分の実力から考えて、勝てる要素は一つも無い。正直、こうして向かい合ってるだけでも殺気で精神がおかしくなりそうだし、それよりも早く熱気で身体が丸焦げになりそうだ。
なのに震える剣先を向けて虚勢を張るのは、自分が自称とはいえ勇者だからとか、ちっぽけな男の面子とか、持ってたことすら忘れていた正義感とかそういうもののせいではない。
単純に、頭にきたからだ。
こいつマジむかつく――そのシンプル過ぎる感情だけが、平太の震える足を踏ん張らせていた。
普段なら、特に元の世界の平太だったら、イグニスのような見ただけで武闘派とわかるケンカっ早そうなチンピラには、嫌悪感を抱きはすれど正面切ってタンカを切ったりしなかっただろう。
勝てないケンカはしないどころか、身体を張ったケンカなど一度もした事はない。むしろ一方的に絡まれ殴られ、その腹いせにネットで暴れたり誹謗中傷を書き込むのが彼の人生だった。
そんなクズ丸出しの人生に嫌気が差し、異世界に召喚されたのを契機に変わろうと決意してからこの方、幸か不幸か試練と戦闘には事欠かなかった。
巨大蟹レクスグランパグルのハサミに挟まれたり、激情に駆られて海賊の腕を斬り落としてトラウマになったり、火竜に追いかけられて軽く失禁したり、ゲームでは絶対に経験できない本当の戦闘を、命のやり取りを経験した。
ニートを何百年やっても絶対に得られない経験をし、場数を踏んだ今の平太だからこそ、この単純な感情で動くことができた。
腹が立つ相手に立ち向かう。
その相手が、自分よりも遥かに強い相手でも。
自分が正しいと思った事を貫くために。
人はこれを、勇気と呼ぶのではないだろうか。
「だああああああああっ!!」
腹の底に力を込め、踏み出す。上段の構え。避けられるのは前提で、とにかくイグニスの足をグラディーラから離させるのを目的に斬りかかる。
だが、
「うざいんだよ虫けらが」
面倒臭そうにイグニスが右手で軽くデコピンの仕草をすると、たったそれだけの動作なのに平太は熱風を叩きつけられて吹き飛んだ。
「なにっ……!?」
これが四天王と呼ばれる上位の魔物の実力なのか。よもや近づく事すらできないとは。これでは奴をグラディーラから引き離せない。
何か良い手は、と考える時間が惜しい。こうしている間にも、イグニスの足は彼女の頭を踏み潰そうとし、その熱は彼女の顔を焼いている。
地面を無様に転がるが、再び立ち上がる。どうにか離さなかった剣を握り直し、いつの間にか震えが収まっていた足に力を込める。
どうせ考えたところで時間の無駄だ。今の自分にやれる事など一つしかない。
平太は突風の中を突き進むイメージで駆け出した。
「何度来ても無駄だっつーの」
イグニスが再び右手の中指で空気を弾き、熱風が平太を襲う。
だが一度受けた攻撃には覚悟も準備もできているし、何より平太には剛身術がある。
「同じ技が二度も通用するか!」
踏み締めた足が地面を深くえぐり、平太の身体を爆発的に前に押し進める。その推進力は熱風を突き抜けるほど強く、速度は一瞬でイグニスとの距離を詰めるほど速い。
一歩で剣が届く間合いまで詰めると、次に平太は剛身術を腕と剣に切り替える。
「せいやあっ!」
気合とともに、まだデコピンの状態のままのイグニスに斬りかかる。狙いは左の肩を袈裟斬りに。
が、
「ほう」
イグニスは面白いものを見たというふうににやりと笑うと、突き出していた腕の人差し指と中指を立て、
その二本の指だけで平太の剣を挟んで受け止めた。
「な……っ!?」
驚く間もなく金属音が鳴り、平太の剣が呆気ないくらい簡単に折られた。
「そんななまくらじゃ、俺にかすり傷一つつけられねーよ。だからこいつも逃げろって忠告したじゃねえか」
ま、逃がさねえけどな、とイグニスは凶悪な笑みを浮かべる。そして剣を折った手を手刀の形に変え、まだ空中にいる平太の胸へと狙いを定める。
「とりあえずお前から死ね」
イグニスが突きを放つのを、平太は走馬灯のようにゆっくりと見ていた。やばい、かわせない。このままじゃ死ぬ。もう何度そう思ったかわからないが、今度こそ本当に死んだと思った。
だがその突きは平太には当たらなかった。
「ぐおおおおおおおおおおおっ!!」
イグニスが突きを放った瞬間、火傷が広がるのも構わずグラディーラが無理矢理頭を捻って自分の顔面を踏みつけるイグニスの足を払い、バランスを崩させたのだ。
「チッ、まだそんな元気があったのか」
不意に体勢を崩され、咄嗟にイグニスの足はグラディーラの顔から離れ地面に降りる。
その隙を逃さず、グラディーラは叫んだ。
恐らくチャンスはここしかない。
そして、この場を切り抜ける方法はこれしかない。
「魔と戦う勇気ある者よ! こいつに勝ちたいのなら、汝の望む剣を思い描きながらわたしの名を呼べ!!」
その言葉に、平太は頭が理解する前に右腕を高く掲げ、最強の剣を頭に思い浮かべながら、あらん限りの声で叫んだ。
「来い! グラディーラ!!」
その瞬間、グラディーラの身体がまばゆく輝き、周囲を光で埋め尽くす。
「おわっ」
堪らずイグニスは腕で顔を覆う。
そして光で眩んだ目が回復した彼が見たのは、
「なにぃ!?」
これまで見た事もない形状で、
冗談かと思うほど巨大な剣を抱えた平太の姿だった。




