もう一人の異世界人
◆ ◆
翌日から平太は、海上警備隊の仕事を手伝いだした。
とは言え、彼にできることなど雑用ぐらいしかなく、また隊でもそれ以上のことは求めていないので、平太が彼らと船に乗って海に出ることはなかった。
それに彼らの方でも平太を始め、ドーラたちの存在を疎ましく思っている空気が感じられた。恐らく組織の長たるハートリーの知り合いだからと仕事の上では黙認しているが、感情の面ではやはり呑み込めないところがあるのだろう。
ちなみに平太たちの寝床には、港の倉庫に空き家があったのでそこを使わせてもらった。
倉庫と言っても、四人が寝起きするくらいの空間は十分あるので、数日なら特に不便はない。野宿するのに比べたら、屋根があって雨風がしのげるだけでかなりマシなのだ。
ドーラやスィーネは読み書きができるので、機密に触れない程度の資料や記録の整理をする仕事が与えられた。
シャイナは何故か食堂に配属され、初日どころかわずか一時間でクビになるという最短解雇記録を打ち立てた。
雑用と言っても朝から晩までかかりきるほどの量があるわけでもなく、午後を少し過ぎると平太はその日の仕事を終えてしまった。
すっかり暇と身体を持て余した平太は、することもないのでとりあえず剣の素振りでもしようと詰め所の裏手にやって来た。
手に持つ大剣を見て、大きく息を吐く。
また拒否反応が出るかと思ったが、大剣は思ったよりすんなり持てた。まだ革の覆いを外すことはできないが、振るくらいなら問題ないだろう。
周囲を見回し、大剣を振り回しても問題ないことを確認する。
軽く準備運動をしてから、平太は大剣の素振りを始めた。
しばらくシャイナから習った基本の上段の振り下ろしをしてから、野球のバットを振るような横薙ぎの振りに変える。
そこからさらに、単調な素振りから複数の軌道を描く複雑な攻撃の練習に入る。
剣を振って止めるのではなく、振った勢いを殺さず流れの向きを変えてやることによって、あたかも連続攻撃のような斬撃になる。
傍から見れば大剣に振り回されているかのような素振りを、平太は息が切れるまで続けた。
荒い息を整えるため、少し休憩していると、
「珍しいもん振っとるのう」
いつの間にか、背後でハートリーがウンコ座りしながら見物していた。
ハートリーは「よっこらしょっと」とおっさん臭いかけ声をかけて立ち上がると、平太に歩み寄ってきた。
「おんし、なかなか良い動きをしとるのう。誰に習った?」
「え? ……いや、これは、別に……」
ゲームで覚えた、と言っても理解できないだろうし、慣れない人物との会話はやはり苦手なのでどうしてもぞんざいな話し方になってしまう。
「おんしの得物、ちょっと見せてもらっても良いかのう?」
「あ、……ああ、どうぞ」
平太が大剣を渡すと、ハートリーはいきなりバトンのようにくるくる回し始めた。
「おっほう、意外と軽いのう」
楽しそうに笑いながら数歩下がって平太から距離を取ると、今度は平太の素振りとまったく同じ動きを始める。
「どうだ。上手いもんだろう」
平太は言葉を失う。上手いどころの話ではない。ハートリーは一度見ただけの平太の素振りを、寸分違わず再現していた。
「ふむ、だいたい慣れてきたな。ちょっと速度を上げるぞ」
言うなり、ハートリーの剣を振るう速度が加速した。
それだけではない。今やその動きは平太の真似を飛び越え、ハートリーオリジナルの剣舞と言っても差し支えない境地にまで達している。
そのとき、平太はかつてこれと似たような光景を見たことを思い出した。
あれは確か、シャイナが平太に合った武器を模索していたとき、彼女がお遊びで木剣を二刀流で振るっていたあのシーンだ。
実際は一人で剣を振って動き回っているだけなのに、平太の目には彼女が複数の敵と剣を交えているように見える。それほど見事な剣技だった。
そして今目の前に、明らかに彼女と同じ流れを組む、いや、恐らく彼女の源泉となった動きがある。
だがハートリーの動きはシャイナよりもさらに洗練されていて、彼女のときは大まかに「複数の敵と戦っている」ように見えた剣舞であったが、彼の動きからは敵の持つ武器、斬りかかる表情や息遣いまでも感じられるようなリアリティがあった。
ハートリーが立ち止まり、大剣を棒術のように左右交互に振り回す。平太の目には、一斉に射掛けられた矢を払い落としている映像がはっきりと見えた。
「すげえ……」
思わず声が漏れる。奇しくもシャイナのときと同じセリフだった。
けれど感嘆の重みが違う。シャイナの剣舞が大道芸だとしたら、ハートリーのは名人芸だ。
それにしても、シャイナの剣舞が大道芸に見えてしまうとは。さすが師匠、のひと言で片付けられないものがあった。
何しろ、あの、シャイナなのだ。世が世なら、または彼女がもし男だったら近衛騎士どころか一国の将軍になっていてもおかしくない剣豪である。
それを超えるこの男――やはり、強い。平太は直感でそう思った。
「ふう。とまあ、ざっとこんなものよ」
仮想敵をすべて片付けたのか、ハートリーが見得を切るように大剣を止め、ゆっくりと肩に担ぐ。はっきり言って、持ち主の平太よりも様になっていた。
でも不思議と悔しいとか嫉妬のような感情は湧かなかった。レベルが違い過ぎると、そういう気すら起こらないのだろう。
「いやいや、良い運動になった。すまんかったのう」
そう言ってハートリーは平太に大剣を返した。
「それにしても変わった剣だのう。素材は何ぞ?」
「あの……、レクスグランパグルっていう大きなカニです」
「カニ!? そいはまことかい?」
「え、ええ……。あとこの鎧も同じ素材だけど、鉄や鋼よりも軽くて固いし、結構カニも馬鹿にできないですよ」
平太がしどろもどろに説明すると、ハートリーは「ほほ~、カニを剣や鎧にねえ……。世の中には面白いことを考える奴がおるのう」と本気で感心しているようだった。
「しかし硬いのは結構だが、如何せん軽すぎる。これじゃあ人は斬れんぞい」
人という言葉に、平太の身体がぴくりと震える。
「どうした?」
「いえ……、以前にも似たようなことを言われたんで、」
ただでさえどんよりした平太の顔と声がさらに落ち込み、ハートリーは「ふむ……」と覆面の上から顎を指でつまむ。
「持ってみい。重いから気をつけろ」
背中の剣を鞘ごと外すなり、ずいっと平太の前に突き出す。
「はあ……」
見た目には、ただの細身の直刀だった。柄には光沢が出るほど使い込まれた革紐が巻かれ、鞘は漆黒と言う言葉がぴったりくるほど真っ黒である。鞘の両端につけられた背負うための紐が、ゴツい鎖だったのが印象的だった。
だが平太が剣を手に持った瞬間、
「え……?」
重いと言ってもたかが剣一本と完璧に油断していた平太は、もの凄い重量に耐え切れず剣を取り落とした。
肩が抜けるかと思った。見た目からはまったく想像もつかなかったが、百キロくらいあるんじゃないかと思う。咄嗟に手を離さなければ地面に挟まれ、剣の重みで手が潰れるところだったかもしれない。
「あ~……だから重いと言うたろうに」
「す、すみません……」
別段怒った様子もなく、ハートリーは地面に落ちた剣を軽々と拾い上げる。そのあまりの何気なさに、平太はさっきの重量は錯覚か何かだったのだろうかと不思議に思う。
「ほい。今度は落とすなよ」
今度は慎重に、相応の覚悟を持って平太はハートリーから剣を受け取る。今度はハートリーも平太が完全に剣を掴むまで手を離さなかった。
錯覚ではなかった。
再び予想の範疇外の重量が腕に伝わり、瞬間的に平太は足を踏ん張る。が、とても耐え切れる重量ではなく、両手はあっという間に地面に向かって急降下する。
あわや地面に激突――というところで、突如剣が重力に逆らうように軽くなる。
ハートリーが助けてくれたのだと気づくころには、剣は平太の手から離れて持ち主の元に帰っていた。
「これが剣ぞ」
重い。剣とかそういう部類ではなく、単純に物質として重い。ここが地球の常識が通用しない異世界だとわかっていても、こんな物を人間が軽々と扱えるわけがないと思ってしまう。
『重さは威力だよ』
かつてデギースが平太に言った言葉が思い出される。確かにこの剣なら、切れ味など関係なくその重さだけで人間くらい簡単に真っ二つにできるであろう。
それにもしこの重量を扱えるのだとしたら、単純計算で重量×速度から導き出される破壊力は相当なものになる。
硬度が同じで軽い物と重い物が同じ速度でぶつかったら、当然重い物の方が勝つ。単純にして明快な、世界の理。
『だから戦士は己の身体を極限まで鍛え、可能な限り重い武器を持つんだ』
とは言え、ハートリーは際立って巨漢でも筋骨隆々でもない。全身黒ずくめの野暮ったい服装ではあるが、体格は平太とそう大差はないように見える。
なのにこれだけの重量を枝木のように扱えるのはどういうことか。
それに疑問はハートリーだけに留まらない。
この剣の重さは異常だ。一体何をどうしたらこんな並外れた重さになるのか。
呆然と平太が剣に視線を注いでいると、その疑問を見透かしたように、ハートリーは剣を鞘から引き抜きながら笑う。
「こいつは超重鋼っちゅう特殊な金属を鍛えた剣ぞ」
「超重鋼……?」
「読んで字の如し、鋼の数十倍重い金属ぞ。しかもただ重いだけじゃなく硬度も鋼の数十倍だから、こうして剣にすればその威力は絶大よ」
「たしかに……」
重さは威力である。
「ただあまりに重く硬すぎて、こいつを鍛えるのに鍛冶屋が十人がかりでのう。こいつ一振りで並みの剣百本分は金がかかってしもうたわい」
がはは、ハートリーは笑う。
だが平太は笑えない。
やはり普通の剣ではなかった。これで疑問は一つ解消された。
と同時に、驚愕の事実が明らかになる。
思い起こせばバートリーは、ずっとこの剣を背負っている。それだけでも信じられないことだが、今の問題はそこじゃない。
恐るべきことに、帆柱から海賊船に飛び移ったあの時も、彼はこの剣を背負っていたのだ。
あの超重量の剣を背負ったまま、高さ15メートルはある帆柱の頂上から甲板まで無傷で飛び降りた。
あの時は黒装束も相まって忍者かよ、と思ったが訂正する。忍者でもこんな芸当無理だ。人間技じゃない。
そこで忘れてはならないのが、グラディアースは異世界であるということだ。この世界に住むのは人間だけではない。
そう、亜人である。
亜人ならば、人間とは比較にならない身体能力を持っていても何ら不思議ではない。むしろそうでないと説明がつかない。単純な論理である。
「言っとくが、俺は亜人じゃなくれっきとした人間ぞ」
思わず「嘘つくな」とツッコミを入れたくなるのを堪える。するとハートリはそんな平太の表情を見てまたがははと笑う。
「おんしは頭ん中みんな顔に出て面白かね。けどそんなんじゃ、いざって時考えを読まれて命取りになるぞ」
いざという時とは、考えるまでもない。だが表情や思考を読み取るレベルの戦闘となると、恐らく魔物や魔獣相手の話ではないだろう。
先ほどからハートリーは、ごく自然に人を斬る話をしている。剣を持つからには避けられぬことだろうと頭では理解しているが、やはり平太はにはまだ呑み込めないものがあった。
「おんし……童貞か?」
「なっ……!?」
いきなり突かれたくないところを突かれ、平太は噴き出してむせる。その様子が答えだとばかりに、ハートリーは「ははあん……」とすべてこれで合点がいったような顔をする。
「こんなオモチャみたいな軽い剣振り回しとるからもしやと思ったが、やっぱりおんしまだ人を斬ったことなかね」
今度は触れて欲しくないところにいきなり触れられ、見苦しいほど取り乱していた平太の動きがぴたりと止まる。
「斬ったことは……あり、ます」
言葉にするだけでも、抵抗があった。
斬ったことはある。だが、腕一本落としただけだ。そしてその後、吐いて気絶した。
「殺したか?」
「……………………………………いえ」
「そいでは斬ったと言えん。女で言えば乳を揉んだ程度ぞ」
程度ぞ、と言われてもその程度の経験もない平太には、自分がどのランクにいるのか判断がつかない。
「剣を持つというのは、剣で斬り殺されるのと剣で斬り殺すことを覚悟した証ぞ。こんな軽い剣でいたずらに傷つけるのは、剣に対する冒涜ぞ」
覚悟。
冒涜。
そんなもの知らない。
そんなものいらなかった。
だって自分は、この世界の人間じゃないから。
「覚悟とか冒涜って何ですか?」
「ん?」
つぶやくような平太の声は、感情が高まるのに比例して次第に大きくなっていく。
「剣なんて、どんなに綺麗事を重ねても所詮人殺しの道具じゃないか。何だよ覚悟とか冒涜って。自分の中の哲学や美学を人に押しつけるなよ。同じことそこらのチンピラに言ってみろよ鼻で笑われるぞって言うか剣って何だよいつの時代だよせめて銃使えよどんだけ時代遅れなんだよこの世界は! そもそも剣と魔法のファンタジーって言えば聞こえはいいがトイレに紙はないし娯楽は何もないし料理は味が単調だしいいとこなんて自然が多くて空気や水が美味いくらいじゃないか後は不便極まる生活だよ移動手段は徒歩か馬だし機械どころか歯車もないしいつになったら産業革命が起こるんだよいい加減にしろよ死ぬまで剣振って畑耕してるだけで満足なのかよそれでいいのか人類ってのは進歩や発展してこそだろうがこの野郎悔しかったら何かメカっぽいもの生産してみろよ!! っつか何で俺がこの世界の心配しなくちゃならないんだよ元はと言えば俺は間違いで連れて来られただけなんだよ人違いなんだよ勘違いなんだよ俺はただのクソニートで剣なんてゲームの中以外じゃ一度も使ったことなんかねーし逆立ちしたって勇者になんかなれないんだよこんチクショー!!」
肺の中の空気をすべて絞り出しきり、大きく息を吸い込むが絶望的に酸素が足りず、肩を上下させて喘ぐように息をする。
息が整ってくると今度はぶり返しのように冷静さが襲ってきて、何の縁もゆかりもない赤の他人の前でいきなり積もり積もった鬱憤を爆発させてしまった恥ずかしさに走ってこの場から逃げ出したくなる。
恐る恐るハートリーの方に視線を向ける。怒るか呆れるかしていると思った。が、予想に反してどちらもなかった。彼は「むむ……」と眉間に深い皺を刻みつつ、腕を組んで思案にふけっていたかと思うと、急に「おおっ」と何かの答えに行き着いたように右の拳の底で左の掌を打つ。
「確かに、剣なぞ所詮人斬り包丁よ。それの使い方をいくら極めようと、誰に誇れるものでもない。むしろ包丁なら料理を極めた方がよほど役に立つわな」
そこでハートリーは軽く曲げた膝の上に両手を乗せ、深々と頭を下げる。
「俺の勝手な思い込みを押しつけてすまんかった!」
まさか謝られるとは思ってなかったので、平太はさらに狼狽して支離滅裂になる。
「あ、いえ、その……すいません、なんか取り乱しちゃって……」
「謝らんでよか。先に色々難癖つけたんは俺だしのう」
そこでハートリーは「そうかそうか」と一人で勝手に納得したように平太をジロジロ見ながら何度も頷く。
「しかし、なーんかおかしいと思っとったら、おんしもアレか。ここの人間じゃなかか」
「へ?」
もの凄くあっさりと言ったので、一瞬意味がわからなかった。
「よその世界から来たんなら仕方なかね。どうりで……はーん、なるほどなるほど、」
「あの……」
「ん?」
「驚いたりしないんですか?」
「何に?」とハートリーは本気で平太の言っている意味がわからないという顔を擦る。
「いや、その……、ほら、俺が他の世界から来た、とか。それに、も、って……」
「別に驚かんぞ。なんせつい最近同じようなのに会ったからな。よその世界のもんに会うんはおんしで二人目ぞ」
「ええっ!?」
「なかなか別嬪な女子だったぞ。この世界は魔法だの魔物だのとでたらめにもほどがあると言うとったが、俺に言わせれば魔法も魔物もない世界の方がよっぽどでたらめだわい」
「はあ……」
ハートリーが言うには、その少女は平太と同じ科学文明の発達した世界から来たようである。
「最初はぶちぶち文句言うとったが、自分が魔法を使えるようになるとコロっと宗旨替えしよっての。『異世界サイコー』とか何とか言いながらどっか飛んで行きおったわ」
色々と突っ込んで聞きたいことは多々あったが、今はそれよりも自分以外にもこの世界に召喚された、しかも自分と同じ世界から来たかもしれない少女がいることに、平太は衝撃を受けた。
「あの、その人の名前とかわかりますか!?」
「ん? ああ、何だっけかのう……え~と、」
ハートリーは腕を組んで、頭の中から記憶を絞り出すように唸る。
「会った、っと言っても三月くらい前に半刻ほど話をしたくらいだしのう……。何と言ったかな、」
しばらくハートリーは「あー」とか「うー」とか爺さんが熱い風呂に浸かったときのような唸り声をあげていたが、
「タチワナ……だったかタチヤナ? 何とかという名前だったような……。とにかく髪が茶色くてくねくね曲がった奇妙な頭をしとったわ」
ロシア系だろうか。もしかしたら自分と同じ日本人かもしれないという淡い期待は潰えてしまったが、自分以外にも同じような境遇の者がいるという安心感のようなものは、ささくれだった平太の心を少しばかり癒やした。
癒やされたことによって冷静さを取り戻すと、今度はとんでもないことが気になった。
「あの、そのタチワナさんだかタチヤナさんって、本当に俺みたいな異世界の人だったんですか?」
「おお。本人がそう言っておったから間違いなか」
「でも、さっき魔法が使えるようになったって言いませんでした?」
「言うたぞ。何がおかしい?」
ドーラの話では、魔法が使えるかどうかは先天的な素質の有無がすべてであって、才能が無い者はいくら訓練をしても使えるようになる可能性は限りなく低い。
平太がその話をすると、ハートリーは、がははと笑う。
「素質がなければいくら努力しても無駄だろうが、素質があるのなら話は別だろう。そもそも、これまで魔法の無い世界にいたんだ。自分に魔法の素質があるかどうかなんて、どうしてわかる? この世界に来てから素質の有無が判明したのなら、そこから努力すればいくらでも開花するだろう」
その発想はなかった。確かにハートリーの言う通りである。となると、その少女は元から魔法の素質があったのだろう。
「じゃ、じゃあ俺にも魔法の素質があるかもしれないってことですよね!?」
思わぬ展開に平太は興奮を抑えられない。
だが、ハートリーの答えは、
「いや~どうだろうのう。あの女子が特別ってことあるかもしれんから、あまり期待せんほうがええぞ」
「そんな……」
いきなり希望を打ち砕くようなことを言われ、平太のテンションが急降下する。
「ああ、いやいや、何事もやってみなけりゃわからんぞ。何しろ可能性は未知数だからのう」
あまりの平太の落ち込みように、ハートリーは慌ててフォローを入れる。
咳払いをひとつ、
「仕方なか。これも何かの縁ぞ。おんしに魔法の才能があるかどうか、俺が見極めてやろう」
「マジで!?」
それまでこの世の終わりのような顔でうなだれていた平太の頭が、もの凄い勢いで跳ね上がる。
「お、おう……」
その期待に満ち満ちた目に、ハートリーは少しだけ後退った。




