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ニートの俺が勇者に間違われて異世界に  作者: 五月雨拳人
第二章
34/127

師の心弟子知らず

     ◆     ◆


 ドーラたちがカリドス大陸に上陸して、一夜が明けた。


 牢屋の固くて汚くて臭い床で一晩寝た身体は、全身の筋肉が硬直していた。ドーラたちはすっかり凝り固まった身体をほぐしながら、アナスケーパ号の快適な寝台を懐かしんだ。


 朝食は、罪人ではないので規定の飯が出ず、係りの者に金をいくらか払って港内の店から適当に見繕って買ってきてもらった。


「いつまでここに足止めされるんでしょう?」


「さあ? ハートリーさんの話だと、そう長くはかからないみたいだけど、まあこういうのは往々にしてお役所仕事だからねえ……」


「話半分と言うか、予想の倍はかかると見た方がいいか」


 平太の言葉に、ドーラも「そうだねえ、それくらい覚悟した方がいいかもね」と、焼き魚をパンで挟んだものをモグモグ食べる。見た目のわりに、食べてみたら意外と美味かった。



 朝食が終わると、特にすることもないのでとりあえず今後の予定を立て直すことにした。


 魔王の本拠地のある北のフリーギド大陸を目指して旅だったはずが、いきなり騙されて海賊の船に乗るというアクシデントに見舞われた上、二週間以上海を漂流。挙句流れ着いた先が南西のカリドス大陸。おまけに現在勾留中。お世辞にも幸先の良いスタートとは言えなかった。


「もう笑うしかないね」


 あはは、とドーラは笑うが、他の誰も笑わなかったのですぐにその笑い声は小さくなって消えた。


「とにかく、こうなってしまったものは仕方ありません。問題はこれからどう軌道修正するか、ですが――」


 スィーネが空いた皿を床に並べ、大雑把な地図を作る。


 皿は四人分で四つ。それぞれが各大陸を表している。中央に、この世界の中心とも言えるディエースリベル大陸。平太が召喚され、ドーラたちと共に旅立った始まりの大陸だ。


 その下、南に位置する場所にはパクス大陸。その左、南西に当たる場所にカリドス大陸。現在地である。


 最後に、ディエースリベル大陸の上、北に位置する場所にフリーギド大陸。旅の目的地であり、魔王の本拠地がある大陸だ。


「わたしたちが今いるのがここ、カリドス大陸の北東。スキエマクシの港町です」


 スィーネの細く長い指が、カリドス大陸に見立てた皿の右上の当たりを指す。


「……完全に逆方向だね」


「そりゃああんだけ流されりゃあな」


 目標のフリーギド大陸は北東。現在地は南西。見事に真逆である。


「ま、まあ急ぐ旅でもなし、寄り道や道に迷うのはご愛嬌だよ」


 お前が言うな、という言葉を皆が飲み込む気配に、ドーラが「あははは~……」と乾いた笑いを漏らす。


「ずいぶんと大きな寄り道になったものですね」


 鋭い刃物のようなスィーネのひと言に、ドーラの笑いがぴたりと止まる。


「だ、大丈夫だよ。今度こそ、ちゃんとフリーギド大陸に直行する船に乗れば、このくらいの遅れ――」


「いや、そいつは無理だ」


 ドーラの話を遮ったのは、一同から少し離れた壁にもたれて座っていたシャイナだった。


「無理って、どうして?」


「カリドスからフリーギドに直接行く船は出てねえんだよ。パクスかディエースリベルのどちらかに寄るんだ」


 シャイナの話では、北からのルートはディエースリベルの西側のモンスオースか、北側のカレムシルワに寄るのが通常だ。


 逆に南側のルートはシャイナの言った通り、パクス大陸南側のアルトゥスティアか、北東側のウィルトースラに寄り、ディエースリベルではオブリートゥスやデウスポルタに寄って補給や積み荷を降ろしたり新たに積んだりする。


 要は、北のフリーギド大陸は海の終着駅のようなもので、船は途中数カ所の港に寄って人や積み荷を仕入れたり降ろしたりして運賃や収益を得るのが主な目的なのだ。


 もちろんフリーギドにも名産や工芸品などはあるが、はっきり言ってそれだけを目的に船を出すほど旨味があるものではない。特に南のパクスから北のフリーギドへどこの港にも寄らず直接行く船など、探したところであるはずもないのだ。


「寒い土地だと聞いていましたが、交通手段もお寒いですね……」


 スィーネが身も蓋もないことを言うが、収益あってこその輸送である。儲けもないのに船を出せるほど海は優しくないし、海の男はもっと優しくない。


「そもそもフリーギドは魔王の城がある呪われた大地だからな。今は魔王も魔物も動きがないから普通に船が航行してるが、何かあったら真っ先に孤立する大陸だ。そんな危ない土地、誰が好き好んで行くかよ」


「そう言えば、魔王って何で何もしないんだろうねえ」


「知るかよ」


「だよねー」


 ともあれ、カリドスから一気にフリーギドに行く船など無いという結論に至ったドーラたちは、次にどの航路や経由でフリーギドを目指すかという議論になった。


「何だか南の航路はバツがついちゃったね……」


 みんな優しいので、誰がつけたんだよ、というツッコミは入らなかった。


 となると、残るは北からのルートになり、問題になるのはモンスオースかカレムシルワのどちらの港に寄る航路を使うかである。


「モンスオースだとここから近く、カレムシルワだとフリーギドに近いですね」


「北の航路は中継地点が両極端なんだよなあ。ちょうどいい所に港がねえから、最初か最後に一気に補給することになる」


 一同がう~んと唸る。つい最近漂流した身としては、あまり港と港が離れている海路は避けたいところだった。


「……やっぱり南ルートにしとくか」


「そう……だね」


 南からのルートだと、パクス大陸とディエースリベル大陸の二つの大陸に寄り道をするが、その分港から港への距離が短くなるので万が一のことがあっても対処がしやすい。


 手痛い失敗の記憶がまだ新しいドーラたちは、もしものことを考えて南からのルートを選んだ。


「お前ら出ろ。取り調べだ」


 そうこうしているうちに、警備隊の者たちがやって来た。ドーラたちは一人ずつ個別に調べられるかと思いきや、そのまま囲まれるようにして移動しだしたので当惑した。


 連れて行かれたのは、会議室のような部屋だった。室内には大きなテーブルと十人以上座れる粗末な木の椅子。そしてハートリーの姿があった。ちなみに姿は相変わらず黒ずくめの覆面姿で、いつもその格好なんだと少し呆れた。


「おう、待たせたのう。まあ座れや」


 椅子を勧められ、ドーラたちは彼と向き合うようにして横一列に座る。


 ハートリーは船の調査記録と思しき皮紙の束をペラペラめくって軽く目を通すと、


「あんな場所に押し込んですまんかったのう。昨夜はよう眠れたか?」


 ドーラたちが「いやあ、まあ……」と苦笑いとともに言葉を濁すと、ハートリーは「だろうのう」と同じく苦笑した。


「何せ大きい船だったからな。ざっと調べるだけでも一晩かかってしもうた」


 徹夜で船を調査し、その記録をまとめていたのだろう。なのにハートリーには微塵も疲れた様子は見えない。むしろ牢の中とは言え何もせずに一晩明かしただけの自分たちの方が気遣われ、申し訳ない気分になった。


「結論から言うと、ありゃどう見てもおんしらの船じゃあないわな。残ってる水や食料、それに設備や船そのものの大きさからして、少なくとも二三十人の船乗りが必要だわ」


 仮にドーラたちに船乗りの心得があるとしても、たった五人では帆もろくに張れまい。


「じゃあ、ボクらが海賊だという容疑は晴れたってこと?」


「ま、そうだな。だが船とおんしらの荷物以外の物は没収するが、悪く思わんでくれよ」


「いいよ、別に。あんなデカい船持っててもしょうがねえし、欲しけりゃやるよ」


 自分の物でもないのに、シャイナは勝手に船をハートリーに譲ってしまった。とはいえ、シャイナの言う通り、誰も扱えない船など持っていても旅の邪魔になるだけである。


 それからドーラたちは押収品のリストから自分たちの装備や荷物を選び、サインをして返却された。


 ようやく自分たちの荷物を取り戻し、装備を確認していると、


「おんしら、これからどうするつもりぞ?」


 ハートリーが尋ねてきた。ドーラたちは互いに顔を見合わせ、魔王討伐の話をどこまでしたら良いものかと答えに窮する。


「一応、あてのある旅なんでね。ただでさえ漂流して無駄な時間を食っちまったからな、これ以上長居はしてられねえ。荷物も返してもらったことだし、こんな所さっさとおさらばさせてもらうぜ」


「だがおんしら、あの娘はどうする? あれはしばらく動かさんほうが良かぞ」


 シャイナが上手くはぐらかしたが、シズのことを持ち出されて、無理に先を急ぐことができなくなってしまった。


「あてがあると言ったが、どうせもう遅れた旅だろ。今さら三日や四日遅れが増えたところで、そう変わるもんでもあるまい。仲間の身体を思うなら、完治するまでここにおるんが最善と俺は思うぞ」


 さらに追い打ちをかけるような正論に、一同は黙り込む。


「そこでひとつ提案なんだが、その娘が良くなるまで、うちの仕事を手伝わんか?」


 すっかりしんみりとしてしまい、自分が手厳しく言い負かしてしまったと思ったのか、ハートリーは慌てて明るい声を出した。


「もちろんその分の給金は出すし、寝床も提供しよう。ああ、寝床と言っても牢屋ではないから安心しろ」


 再びドーラたちは互いに顔を見合わす。恐らく本心で心配してくれているだろうというのは、少ない時間ではあるがこの男を見てきてだいたいわかった。


 ただ、シャイナの知り合いというだけでここまで良くしてもらうのは、少々心苦しい。それに横目でシャイナを見れば、この男にだけは借りを作りたくないというような顔と雰囲気で、とてもその提案を手放しで喜べなかった。


「お気持ちはありがたいのですが……」


 一行の空気を敏感に読み取り、スィーネが丁寧に断りを入れようとするが、


「いや。その話、受けよう」


 まさかの承諾に、全員がええっという声を上げてシャイナを見る。


「そいつの言う通り、シズが動かせないのは事実だ。だったら問題はその期間をどう有効活用するか、になる。使える物は犬のクソでも使えってのがうちの信条だからな。あたしの個人的感情はさて置き、みんなにとって美味しい提案なら、断る理由がねえよ」


「俺は犬のクソか……。だがその性格、相変わらずだな」


 犬のクソ扱いされながらも、ハートリーの顔はどこか嬉しそうだった。


「そうと決まれば、仕事や給金などの詳しい話はまた後で詰めるとしよう。今はこっちもあの船の処理が残っとるからのう。おんしらも今日のところは、あの娘の見舞いにでも行くなりスキエマクシを見物するなり好きにするが良か」


 そう言うとハートリーは皮紙の束の中から数枚引き抜いてこちらに滑らせた。


 テーブルを滑ってきた皮紙を見ると、スキエマクシの地図、それにハートリーのサイン入りの警備詰め所の立ち入り許可証にシズが入院している診療所の地図だった。


「フン、相変わらず手回しがいいな」


「歳を食うと、物の先というのがそれなりに見えてくるようになるんだよ」


「見える? そうなるように仕向ける悪知恵がついただけだろ?」


 シャイナが皮肉るが、ハートリーは覆面の奥で含みのある笑みを浮かべる。


「かも知れん。だがそれを含めて年の功というもんよ。長く生きればそれだけ知識も経験も増える。年長者には敬意を払うように」


「はいはい。年寄りの話は長くなるからな。若者の時間は貴重なんで、そろそろ退散させてもらうぜ」


 そう言うとシャイナは皮紙を引っつかみ、「行こうぜ」と皆に声をかけるとさっさと部屋から出て行ってしまった。


 ドーラがシャイナの出て行った扉を見、それからハートリーの顔を見ると、


「構わん。話はもう終わっとる。気にせず行け」


 苦笑とともに手をひらひらと振るハートリーに向けてドーラは軽く一礼すると、急ぎ足でシャイナの後を追った。平太たちも彼女に倣い、会釈してから部屋を出た。



 それから一行はハートリーにもらった地図を頼りに、シズの入院している診療所に向かった。


 診療所は海上警備隊の詰め所からほど近く、歩いて十分もかからない距離だった。だが近くにいるというのは安心できるし、会おうと思えばすぐ会いに行ける距離なのはありがたい。


 これもハートリーの心遣いかと思ったが、

警備隊の者もケガや病気になるとこの診療所に来るので、半分御用達みたいな感じになっているのだと後で知り、真相はうやむやになった。


 診療所は、この世界の一般的な教会が地域社会への奉仕活動の一環として医療行為をしている施設ではなく、平太の世界の病院に近い平屋の建物だった。


 この世界に来てからというもの、平太が見てきた医療行為というのは、スィーネの使うような治療魔法による治癒であったが、この診療所はどうやら魔法よりも医術による治療の割合が大きいらしい。


 平太がドーラに尋ねると、やはり魔法よりも医術の割合が多い治療施設は珍しいそうだ。


 ドーラ曰く、


「魔法というのは――ボクら魔術師が使う一般的な魔法と、スィーネが使う治癒魔法を面倒だから同じものとここでは定義するけど――この世界のことわりに干渉できる、ある種の才能のようなものを持つ者だけが使える、言わば特殊技能のようなものなんだ」


 つまり、ドーラのように空から星を落としたり、スィーネのように神の奇跡をその身で代行するのは、生まれながらに才能を持った者だけができる、超能力のようなものらしい。


「じゃあ、できない奴は一生できないのか?」


「ごくまれに、訓練の末そういう能力が開花する人もいるけど、基本的には無理だね。馬をいくら訓練しても、空を飛ぶようにならないだろ?」


 異世界なのに夢のない話に、平太のテンションが目に見えて下がる。


「逆に、医術というのはぶっちゃけて言えば技術だからね。技術ってのは誰でも伝えられて、誰にでも使えるってことだ。伝播性は高いけれど、希少性みたいなのは低いから、どうしても軽く見られがちになるんだよね」


「技術に伝播性があるのは良いことのように思うんだがな……」


「希少性がないから付加価値がつかないんだよ。同じ技術職でも、職人技ともなるとそれだけで価値がつくだろ? それと同じように、誰でも治療できるとなると、その医療行為自体の価値が低くなるんだよ」


「それだと医術を学ぼうとする奴は少なくなるだろ。この世界の医学水準ってもしかして相当低いんじゃないのか?」


「そこは専門じゃないからよく知らないけど、少なくともキミの世界の水準には遠く及ばないだろうね」


 ドーラの言葉に、平太はシズのことが不安になる。そんな医療レベルの施設にシズを預けて大丈夫なのだろうか。


 平太の不安そうな顔を見て、ドーラが明るい声で言う。


「シズが一命を取りとめたのは、もちろんスィーネの神聖魔法のおかげだけど、彼女の身体を快復させるには、もう魔法では用をなさないよ。そう考えると、ここの診療所に入院するのは正しいのかもしれないね」


 まず魔法ありき、という異世界らしい様式に、平太は言いようもない不安を感じる。


 しかしそれは、地球人日比野平太の主観である。ここはグラディアースで、自分が住んでいた地球の日本ではないのだ。そう頭ではわかっているのだが、染み付いた固定観念に平太は得も言えぬ違和感と、この世界に危うさのようなものを憶える。


 診療所の中に入るとすぐに受付のような場所があり、そこで担当の女性と話をしてシズの病室を教えてもらった。


 連れ立って廊下を歩く。診療所の中は意外と広く、また部屋の数も多い。その中でも間仕切りのない集団部屋のような部屋が多く、通りすがりに横目で中を覗いてみると、骨折でもしたのか手や足を吊りながら寝ている患者がちらほら見えた。


 それを越えてさらに歩くと、扉と壁で仕切られた個室になった。どうやらシズは個室に入っているようだ。


 教えてもらった病室の前に来た。扉の名札には、確かにシズの名前があった。


 ドーラがノックをすると、中からシズの声がした。ドアを開けると、シズが寝台から身体を起こしていた。


「みなさん……」


 平太たちの姿を見ると、シズの顔が安心したようにほころんだ。


「お、なかなかいい部屋じゃねえか」


 シャイナが身を屈めながら部屋に入る。


 室内は質素ながらも、診療所らしく清潔な感じがした。シズが寝ている寝台にかけられたシーツも真っ白で清々しく、ともすれば陰鬱になりがちな室内の空気を明るしてくれる。


「はい。とても良くしてもらって、何だか申し訳ないです」


 そう言って笑うシズの顔は、昨日よりも遥かに顔色が良くなっていた。大部屋でなく個室だったことでストレスがなかったのが、回復に一役買っているのかもしれない。


「けどこれだけ厚遇だと、費用も結構かかるんじゃねえのか?」


 費用と聞いて一行の財布を預かるドーラのネコ耳がぴくりと動くが、


「いえ、それが、」とシズが話すには、彼女を個室に入れるように取り計らったのはハートリーだった。


「あと、費用も警備隊の経費で落とすとか何とかで、とにかく余計な心配はしなくていいと仰ってました」


「経費で落ちる……何と素晴らしい言葉だろう」


 一人胸を撫で下ろすドーラは無視して、平太たちはハートリーの気遣いの細かさに驚く。


「ってことは、あの人一度ここに来たってことか」


「はい。昨夜、皆さんとは別にこの診療所に運ばれた後、顔を見に来てくださいました」


 平太の問いに、シズは昨夜の状況を話す。


 診療所に運ばれて最初の診察を受けた後、夕食を食べ終わって消灯時間まであと少しという時間にハートリーが訪ねてきた。


 彼はシズに身体の調子はどうだとか部屋は狭くないだとかメシは不味くなかったかとか色々一方的にシズに尋ねると、自分はまだ仕事が残っているからとやはり一方的に言って帰って行った。


「ただ、帰る前に、シャイナのさんのことを聞いてきましたよ」


「あたしの? 何だって?」


 唐突に名前が挙がり、シャイナが眉間に深い皺を刻む。そのあまりに厭そうな顔に、シズは慌てて誤解を解こうとする。


「あ、別に大したことじゃないんですよ? 元気にしてたかとか、どこに住んでいたんだとか、本当にそれだけで。でもわたし、シャイナさんとは最近知り合ったので上手く答えられなくて――」


 あ、でも、とシズは一度言葉を止め、


「ドーラさんやスィーネさんは、シャイナさんと本当に仲が良いですよって言ったら、凄く嬉しそうに『そうか』って喜んでました」


 それからハートリーは帰り際に、シャイナのことをよろしく頼むと言って、この部屋から出て行ったそうだ。


 沈黙が流れる。


 師匠が弟子を案じる心に、平太たちは我がことのように胸が熱くなるのを感じた。ドーラが「いい話だねえ……」としみじみ言う。


 シャイナは口をへの字に曲げながら、少しだけ照れているようだった。



 それから一行は面会時間が終わるまでシズを見舞った。


 シズはあと三四日もすれば退院できるそうで、思ったよりも早い回復に皆安堵した。


 診療所を後にすると、次にスキエマクシの町を見物することにした。


「しばらく滞在するからね。少しくらい地形を頭に入れておかないと」


「美味しいお店とかも調べておきましょう」


「オブリトゥースじゃ呑みそびれたからな。いい酒場も探そうぜ」


「……観光に来たんじゃないんだぞ」


 それぞれ思い思いの要求を口にしながら、ドーラたちは夕闇迫るスキエマクシの町へと消えていった。

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