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ニートの俺が勇者に間違われて異世界に  作者: 五月雨拳人
第一章
24/127

謀ったつもりが謀られて

     ◆     ◆


 その日、トニトルスが下から二番目に金のかかった邸宅の執務室で、皮紙に書かれた膨大な量の徴税の記録をまとめていると、聞き慣れたリズムでドアをノックする音が聞こえた。


「入れ」


 仕事の手を止めずに入室を許す。どうせ相手は執事だ。茶でも淹れに来たのだろう。


「失礼します」


 だが予想に反して、執事は手ぶらだった。


「旦那様――」


 老齢の執事は足音を立てることなくトニトルスの下まで歩み寄ると、誰が聞いているわけでもないのに用心をするように耳打ちした。


「なに……?」


 そこでようやく皮紙に羽根ペンを走らせていたトニトルスの手が止まる。書類をまとめているときの苦虫を噛み潰したような顔から一転し、いかにも何か悪いことを企んでいるような不穏な笑みを浮かべる。


「その話、間違いないか?」


 トニトルスの問いに、執事は神妙に肯く。


「身命に賭しまして」


 じきにくたばりそうな老いぼれた身で何が身命か、とトニトルスは鼻で笑うが、そこまで言うのなら間違いないのだろう。


「して、旦那様、いかがなさいましょう?」


「そうだな……」


 トニトルスは机の上に羽ペンを置き、思考を策略に集中させる。美食の結晶とも言うべき三重顎を赤ん坊のようなむくんだ指でつまみ、


「よし、」


 と一度肯く。


 今度は逆にトニトルスが執事に耳打ちすると、執事は「御意」と恭しく一礼し、すぐさま主の命令を果たすべく動き出した。


 執事が入室したときと同様、音もなく扉へと動き、静かに退室すると室内は静寂に包まれた。


 トニトルスはしばらくの間仕事に戻ることをせず、じっと目を閉じて考えていた。


 そして急ににやりと笑うと、堪え切れずに声を立てて大笑いした。


 ついに掴んだ。


 あの生意気な亜人の弱みを。


 広い屋敷に、トニトルスの笑い声がいつまでも響いていた。



 それから数日後。


 ドーラはいつものように宮廷にて、他の宮廷魔術師がやらないような雑務をこなしていた。


 と言えば聞こえは良いが、ただ単に他の魔術師たちからこき使われているだけである。彼女も自分が末席であることを自覚しているので逆らいはしないが、内心ではたかが書類を取りに行くのですら億劫がっているような連中に腹を立てていた。


 その日も、地下の倉庫から過去の書類を山のように抱えて廊下をよたよた歩いていると、


「ドーラ=イェームン」


 不意に呼び止められた。


「はい、なんでしょう?」


 抱えた書類の山の横からひょっこり顔を覗かせる。どうせまた雑用の追加だと思っていたが、呼び止めたと思しき魔術師の他に数人の魔術師がこちらを見てニヤニヤと笑っている。


 悪い予感しかしない。


「貴君に話がある」


「……なんでしょうか?」


「それはここでは何とも。こちらに参られい」


 そう言うと魔術師たちはドーラの返事も聞かず、無駄に高そうな生地を使ったマントを翻して歩き出した。


 ドーラが連れて行かれたのは、


 なんと王との謁見の間だった。


 左右に並んだ騎士たちが剣を交差させて守る大きな扉をくぐると、そこからさらに世界が広がる。家が丸ごと入りそうな高い天井に、いくつもぶら下がるきらびやかなシャンデリアたち。足元には毛足の長い豪華な絨毯が敷き詰められ、一直線に王の座る玉座へと伸びている。その両端には全身を見事な鎧で固めた勇猛な騎士たちがずらりと並び、文官、宮廷魔術師たちもそこに並ぶ。


 かつて一度だけ、宮廷魔術師の任命を受けたときに見た光景だが、何度見てもこの豪華絢爛を絵に描いたような景色は彼女の目と心を奪う。


「うわあ……」


 王都に初めて足を踏み入れたお上りさんのように口をぽかんと開けていると、後ろを同行してた宮廷魔術師が咳払いをした。


 慌てて玉座へと歩み寄り、形式張った動作で跪いた。そのとき、被っていたフードを外してネコ耳が出ると場が一瞬騒然となり、ドーラはまたか、と苦々しい気分になった。


 思えば、亜人である彼女が末席とはいえ宮廷魔術師に名を連ねているのは異例中の異例である。本来なら、亜人である彼女が公職に就くのは不可能であった。


 しかし時代は変わりつつあるのか、あくまで一部ではあるが、この世界でもじょじょに女性や亜人の差別撤廃が叫ばれつつあった。


 オリウルプスの現王は、この変わりつつある世論にいち早く目をつけ、公職に女性や亜人を採用することで人心を掌握しようと試みていた。いわゆる政治的なパフォーマンスである。


 そのおかげで宮廷魔術師にはドーラの他に人間の女性が一人存在し、女性でも優秀であれば公職に就けるのだと世の女性の希望の星となっている。


 ただドーラに関しては、やはりまだまだ亜人への差別と偏見は根が深いようで、未だに彼女の異形の姿を目にするだけで露骨に厭な顔をする者が宮廷には多い。


 そんなこんなでドーラが玉座の前に跪いていると、


「――ドーラ=イェームン。おもてを上げい」


 朗々たる声で王の隣に立つ次官が告げた。


「ははっ」


 ドーラは顔を上げ、まっすぐに王を見つめる。久方ぶりに間近で見る王の姿は、記憶にある姿と少しも変わっていなかった。

 

 締まりのない顔、締まりのない身体。長い泰平の間にすっかり平和ボケし、考えることも戦うこともやめてしまった王の姿がそこにあった。


 王とは、かつてその国における最強最高の戦士であった。だが時は流れ、最強最高の戦士もやがて老いさらばえる。そしてその子孫たちが国と王位を引き継ぐのだが、この世襲制というのはとても厄介だ。


 何しろ、そこに生まれただけでどんな阿呆でも王になってしまうのである。


 もちろん王家に生まれたからには、王になるべく様々な教育や訓練を受けることだろう。だが、優れた王が優れた王子を生むとは限らず、王の一族は劣化コピーと血生臭い王位継承権を巡っての暗殺などを繰り返し、かつては魔王と切り結んだとされる伝説の一族の末裔も、いまでは国民の支持率と税収しか気にしないただのタヌキじじいになっていた。


「貴君は以前より魔王の危険性を重視し、早急な討伐が必要であると主張していたようだが、これに間違いはないか?」


 何だか審問のような空気だが、王の前だけに異論や不要な私語が憚られ、ドーラは素直に「はい」とだけ答えた。


「しかし、現在の魔王に脅威は無しという穏健派に、貴君の主張は却下された。――これに間違いはないか?」


「……はい」


「ではそれら踏まえて改めて貴君に問おう。ならば何故、勇者を召喚したのか」


 次官の言葉に、謁見の間がざわめく。


 ついにバレたか。ドーラは覚悟を決める。


 勇者召喚――魔王を倒すべく異世界より勇者を召喚する。この大魔法は優れた魔術師にしか使えない上に、その代償は大きく術者が一生に一度しか使えないことは魔術師であれば誰でも知っていることだ。


 それゆえに個人による不用意な使用は控えられ、有事の際に王の勅命などが発動しない限り、おいそれとは使えない風潮がある。


 つまり、国家の一大事のために温存しておけ、という暗黙の了解がある魔法なのだ。


 これはその暗黙の了解を破った自分を審問する謁見なのか――とドーラは思ったが、


「よい。此度はそのことをとやかく責めるために呼び立てたのではない」


 王が初めて口を開いた。


「そちがそこまでして魔王を討伐したいと言うのなら、そのようにしてやろうというのだ」


 王の提案に、再び室内が騒然となる。


「つまり、今日より貴君は宮廷魔術師の任を解かれ、魔王討伐の遊撃隊としての任を受けるのだ」


 王の言葉を補完するように、次官が言う。


「よって明日より登城せず、この世界を巡って魔物を討伐し、果ては魔王を倒すまでその任を解かれることはない。ただし、あくまで王命による任務。給金はこれまで同様支払われるので、路銀の心配もないであろう。なお、現在居住している屋敷は返却を求めるが、王都への帰還を禁じるものではないものとする」


 何か質問は――という次官の声に、ドーラは「いいえ」と小さく答える。これでようやく納得できた。要は、厄介払いだ。


 それから次官は、出発の期限やら給金の受け渡し方法やら細々とした条件を告げた。それらを聞きながらドーラは、この謁見の間に満ち満ちている「ようやく邪魔なものが排除できた」という空気にうんざりしていた。



 その夜、夕飯の席でドーラが今日の出来事を皆に話すと、


「何だよそれ!? それじゃあ体のいい厄介払いじゃねーか!」


 口に入った肉を飛び散らせながら、シャイナが我が事のように怒りを露わにする。


「まあそうだねえ」


 しかし当の本人はしれっとしたもので、それがどうしたと言わんばかりだ。


「思ったより早く知られましたね」


「別に隠してなかったからねえ」


 思えば、平太が異世界人であるということに関しては、別段隠していない。他言無用というわけではないので、知ってる人は知ってるし、知らない人は知らない。ちなみにデギースは知ってる。


「ヘイタの存在がそのまま勇者召喚の証拠みたいなものだから、遅かれ早かれバレただろうさ」


「だったらどうして隠さなかったんだよ!? お陰で住む所を追い出されるハメになっちまったじゃねーか!」


「人の口に戸は立てられないよ。それに、いずれはそれとなく情報を流すつもりでいたから、向こうから厄介払いしてくれるなら好都合さ」


「は? 意味わからねーよ。ってかお前追い出されて悔しくねーのかよ?」


「そりゃ悔しいけど、落ち着いて考えてみなよ。彼らを黙らせるために魔王を倒しに行くにしても、こっそり倒したところでお金にならないよ」


 いやらしい話だけどね、とドーラはつけ加える。


「けど向こうから倒して来いってお願いしてきた上に、何と給料までくれるって言うじゃないか。こりゃ願ったり叶ったりだと思わない?」


 離乳食なみに噛み砕いて説明してやると、ようやくシャイナの眉間の皺が消えた。


「あ! じゃあお前、わざとこうなるように仕向けたのか!?」


 驚くシャイナの態度がよほど面白いのか、ドーラはイタズラが成功した子供のような笑顔で「にへへへ」と笑う。


「ここまで上手く行くとは思ってなかったけどね。まあ概ね計画通りさ」


「ったく、それならそうと早く言えよ……。驚かせやがって、」


 心底呆れたというふうに、シャイナはテーブルに片肘をつき、もう片方の手で顔を覆う。


「で? いったいどこからがお前の計画なんだよ?」


「どこからもナニも、勇者召喚がバレて宮廷を追い出されるのは最初っから予定済みだよ」


「そこからかよ!?」


「本当は亜人差別主義の宮廷魔術師の誰かが、王様か次官あたりに持ちかけると踏んでたんだけど、」


「だけど?」とシャイナ。


「エーンの村の領主――トニトルスって名前なんだけど、彼がまたどえらい大規模領主でね。つっついてやればすぐにでも王宮内に裏から手を回してボクを排除しようとするだろうと思ったから、利用させてもらったのさ」


「相手が直接的な行動に出たらどうするつもりだったのですか? あまり迂闊な行動はやめてくださいね」


 スィーネの苦言に、ドーラは「そうだね、ゴメンね」と申し訳無さそうにネコ耳を寝かせる。


「けれど、このタイミングでボクの身に何かあったら、怪しまれるのは彼なんだよ。それに彼はボクがまだ何か切り札を隠し持っているのではないかと疑心暗鬼だ。だから手荒な真似をする可能性はとても低かったし、彼の性格や地位なら問題をお金で解決する方が安全で確実だしね」


 つまり直接的な行動を取れないトニトルスは、金をバラ撒いて他の宮廷魔術師たちを買収し、魔王討伐という適当な理由を与えてドーラたちを王都から退場させるくらいしか方法が無かった。そうして危険な城壁の外で魔物に殺されるか、野盗に襲われるか、結果的に自分が直接手を汚さずこの世から消えるのを神に祈るしかない。


 一見すれば消極的な妨害工作に見えるが、悪いことばかりではない。ドーラたちの視点から見れば、「毎月決まったお金をあげるから、しばらく王都から離れてください」という打診になる。妨害と買収の二枚重ねの策なのだ。


「ずいぶんとまあ、他力本願ですね……」


 半ば同情すら感じられるシズの言葉に、ドーラは「でも面白いのはそれだけじゃないよ」とにんまり笑う。


「魔王討伐に消極的なこのご時世、誰が好き好んで遊撃隊なんかに予算を割くと思う?」


 突然出されたクイズに、一同が首をひねる。


「そりゃあ王様だろ」とシャイナ。


 不正解。


「教会……は、出しませんよねえ」とスィーネ。


 不正解。


「そうか、トニトルスか」


 平太の答えに、ドーラは「大正解!」と拍手喝采する。


 軍費節約が叫ばれる昨今、魔王討伐などという無駄極まりないものに割く予算は銅貨一枚たりとも無い。なのでトニトルスはドーラを遊撃隊にでっち上げるには、身銭を切るしかなかったのだ。


「ボクらが邪魔で仕方ないトニトルス本人が、ボクらのスポンサーなんだよ。これが笑わずにいられるかい?」


 堪え切れなくなったのか、ドーラはゲラゲラと腹を抱えて大笑いする。テーブルの下では両足をぶんぶん振り回し、相当にご機嫌なようだ。


「食事中にはしたないですよ」


 スィーネに注意され、ようやくドーラは笑うのをやめる。が、まだおかしいのか呼吸が荒く笛のように喉を鳴らしている。


「あ~……ゴメン、いや、本当に、涙が出てくるよ……」


 そう言って目元を拭うが、涙は後から後から流れてきた。明らかに、笑い過ぎて涙が溢れているのとは様子が違う。


「ドーラ……」


 彼女の様子がおかしいことに気づいたスィーネとシャイナが、慌てて席を立つ。シャイナは背後に立ってドーラの頭を撫で、スィーネは隣に立ってドーラの頭を優しく抱きかかえる。


「~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


 そのままドーラはスィーネの胸に顔をうずめて泣きだした。やはり自分で計画し、覚悟していたとは言え、宮廷から追い出されたのが相当堪えたのだろう。


 誰一人として味方のいない職場で孤軍奮闘していたが、退職を迎えて我慢しなくてよくなり、今まで抑えに抑えてきたものがとうとう決壊した。ドーラはこれまで流せなかった涙を出し尽くすかのように、スィーネの胸に顔を押しつけて大声で泣いた。シャイナは何も言わずずっと彼女の頭を撫で続け、スィーネはじっとドーラの頭を抱き続けた。


 そうしてひと塊となった三人を、平太とシズは離れたところから見守ることしかできなかった。また、そうすることしかできないのが悔しく寂しかった。


 あの三人の絆は並大抵のものではなく、自分などはまだ間に入れるものではないのは十分承知している。けれど、仲間が本気で悲しんでいるときに手を差し出せないのは、こちらも泣きたいくらい悲しかった。


 気がつくと、いつの間にかシズが平太の手を握っていた。


 平太も彼女の手を握り返す。一日も早く、彼女たちと本当の仲間になろう。そういう願いが篭っていた。



 どれほど三人はそうしていただろう。


 どれほど三人を見つめていただろう。


 やがてドーラはすべてを吐き出しきったのか、スィーネの胸から顔を引き剥がし、生まれたての赤ん坊のように大きく息を吸い込んだ。


 そしてゆっくりと息を吐き出すと、袖で乱暴に目をこする。涙はもう止まっていたが、泣き腫らして腫れぼったいまぶたと、真っ赤に充血した目が痛々しい。


 けれど表情はとても清々しく、憑き物が落ちたようだった。泣くだけ泣いて吹っ切れたのだろう。


 ドーラはずびびっと盛大な音を立てて鼻をすすると、


「みんな、ごめん」


 いきなり謝った。てっきり年甲斐もなく大泣きしたことについての謝罪だと思い、スィーネやシャイナがいえいえそんなお気になさらずに、そーだぞ泣きたいときは泣いたほーが身体にいーんだぞーなどと笑って水に流していると、


「……いや、そうじゃなくてね、一応この家って官舎なんだ。でもボクもう宮廷魔術師じゃないから、立ち退かなきゃいけないんだよね……」


 最後に小さく「ごめんね」とつけ足すと、


「あ……」


 ドーラ以外の全員が言葉を失った。


「立ち退きって、具体的に期限はいつまでですか?」


「……十日以内」


 スィーネの問いに、目を逸らしながら言うドーラ。


「マジかよ!? どうしてもっと早く言わねえんだ!」


「そうですよ。第一、こうなることも計画の内だったのでしょう? だったらもっと早く相談してくだされば良かったのに」


「いや~、家のことはうっかり忘れてて、今気がついたんだよね……」


 思い出したように襲い来るドーラのうっかりに、スィーネはどっと疲れが押し寄せたのか目の間を指でつまみ、シャイナは掌で顔を覆ってのけぞるように天を仰ぐ。


「……まあ、今さら言っても仕方ないじゃないか。こうなったら十日以内に立ち退けるよう、明日から頑張ろう」


 いきなり暗くなった空気を明るくするよう、平太が努めて明るく言うと、


「そ、そうですよ。過ぎたことを悔やんでも始まらないし、ここは気持ちを切り替えて未来に向けてできることをやりましょう」


 シズが両手を叩いて賛同してきた。家事能力に定評のあるシズの励ましに、スィーネとシャイナもどうにか立ち直る。


「そうですね……決まったことはどうしようもありませんし、いまは我々にできることを精一杯するしかありませんね」


「ったく、また根無し草に逆戻りか……。短い安住の生活だったぜ」


「でもほら、これで晴れてお墨付きがもらえたわけじゃない。お給金はこれまで通りちゃんと出る上に今までより上がるから、公金で世界中を旅行してるようなもんだよ」


 さっきまで号泣していたとは思えない前向きなドーラに、平太は彼女の芯の強さを見た気がする。


 とにかく、これで本格的に魔王討伐の旅が始まるのだ。ようやく勇者としての第一歩を踏み出すことに、平太の気持ちが高ぶる。


 が、今はとにかく目の前の立ち退きだ。


「家具とかどうしましょう? 明日にでも業者を呼んで引き取ってもらいますか?」


「バカ、そしたら出発までどうやって暮らしゃいいんだよ。そういうのはギリギリでいいんだよ」


「それよりボクの部屋の本なんだけど、あれ集めるのに凄い苦労したんだよね。だから売らずにどこか倉庫を借りて、そこに預けるってのはどうかな?」


「知らねえよ!」


「知りません!」


「あう……」


 どうやら旅立つ前にひと波乱ありそうだ。


「あの……本当に大丈夫ですよね」


 心配そうにシズが声をかけてくるが、平太は何ひとつ心配していなかった。


「ああ、ぜんぜん大丈夫さ」


 この三人、いや、自分とシズを入れてこの五人なら、相手が魔王だろうがカミサマだろうが何とかなる。たとえ今はしがないひよっこパーティでも、いずれは世界中にその名を知らぬ者はいないような、伝説の勇者の一行になるだろう。


 平太は特に何の根拠もなく、そう思っていた。


 そしていつか、本当に魔王を倒した暁には、ドーラたちの念願通りこの世界から亜人や性の差別や身分階級制度がなくなるだろう。


 いや、さすがにそれは都合が良すぎるか、と平太は自分で自分にツッコミを入れた。


 ただ希望は持ちたいと思った。

次回から第二章に入ります。

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