予想外の敵
前回の続きです。
◆ ◆
翌朝。まだ日も昇らぬうちからシャイナは目を覚まし、まだ眠っている平太の頭を蹴飛ばして起こした。
文句を言いながら平太が身を起こすと、すでにシズが朝食の準備をしていた。
「おはようございます。今日も一日がんばりましょう」
朝の挨拶と朝食。そして日中の活動と労働。異世界に来てから、これまで縁遠かった「ごく普通の当たり前の生活」を過ごしていることに、今さらながら平太は驚く。
「おはよう。今日もがんばろう」
「はい!」
食後のお茶を飲みながら、シャイナが今日の予定を平太たちに伝える。
今日はついに平太も狩りに加わる。しかし素人かつ初めての狩りなので、慣れるまで平太は弱ったグランパグルにトドメを刺すとか、明らかに小さくて弱そうな雑魚の相手をすることに決まった。
平太も意地を張ることなく受け入れる。さすがにこれは遊びではなく、下手をすれば手足どころか命を失う危険があるというのは昨日の一戦で厭というほど感じた。
「ま、最初のうちは端っこで大人しくしてろ。今はスィーネがいないからな。万が一足でもちょん切られたらくっつかないぞ」
冗談めかしてシャイナが平太の肩を叩いて言うが、一ミリたりとも笑えなかった。
これはゲームではない。ゲームの知識が役立つことはあっても、実際に動かすのは自分の手足。つまり、最後に頼れるのは自分の体力と気力だ。
しかし、それはあくまで最後である。
“最初のうちは”ということは、いずれ活躍を期待しているということだ。つまり、シャイナは平太を仲間として、少なくとも戦力の一つとして見ているのではなかろうか。
これはゲームではない。
だが、仲間と協力して試練を超えるのは現実でも同じだ。
最後に頼れるのは自分だが、
仲間は最初から頼っていいのだ。
「さあて、行くか」
カップに残ったお茶を焚き火にかけて消火し、シャイナがハンマーを手に取る。
「おう!」
「はい!」
平太は自分のハンマーを手に、シズは昨日と同じ大きな背負い袋を背に応える。
二日目の狩りが始まった。
ねぐらから出て獲物を探し始めてから一時間後。ようやく朝日が昇り始めた頃、今日最初の獲物を見つけた。
「まずいな……」
シャイナが苦々しくつぶやく。早々と獲物を見つけ、大きさも申し分ない。何がまずいのか。
「五匹も集まってやがる」
そう。運がいいのか悪いのか、昨日のより一回りは大きいグランパグルが五匹集まって砂をほじくっているのだ。
一匹ずつなら楽勝なのだが、さすがに五匹同時となると分が悪い。今はまだ距離が遠いため気づかれていないが、もし一斉にこちらに向かわれたらシャイナだけでは太刀打ちできるかどうか。
ゆっくり経験を重ねていければと思っていたが、甘かったようだ。初戦が乱戦になりそうな予感に、平太は握っているハンマーの柄が汗で滑るのを感じた。
もし乱戦になったら、シャイナは恐らく非戦闘員のシズを守ることを優先するだろう。それは正しい判断だ。自分だってそうする。
だったら、自分の身は自分で守るしかない。そう平太が静かに覚悟を決めたとき、
「仕方ない、引くぞ」
シャイナが撤退を宣言した。
「え?」
「え? じゃねーよ。無茶してケガしたらどーすんだよ。狩りにきれいも汚えもねーんだ。楽に勝てると思ったら行けばいいが、そうでなきゃ行かなきゃいい。大事なのはヤバいと思ったら素直に引く。これができねーと戦場だろうがどこだろうがあっさり死ぬぞ」
どうしようもないくらいの正論に、血の気が引いた。
この期に及んで、平太はまだ自分が現実の世界で生きてることを失念していた。狩りという非日常の行為が、自分を現実から一歩離れたバーチャルな世界に置いていた。またゲームと現実を混同していた。
現実は、ケガをしたらすぐには治らないし、死んだ人間は生き返りはしない。攻撃をすれば必ず当たるわけではないし、同じ種類の敵が同じ攻撃をする決まりもない。
そんな危険だらけの中で狩りをするなら、臆病過ぎるくらいがちょうど良い。卑怯上等。この世界では、生き残った奴が偉いのだ。
「わかった……引こう」
「よし、気づかれないようにゆっくりと下がれ……」
視線をグランパグルから外さず、前を向いたままゆっくりと後退する。
昨日シャイナが戦ったときのデータから、グランパグルの索敵範囲はそう広くなかった。せいぜい10メートルかそこらといったところか。
今平太たちと五匹のグランパグルとの距離は、およそ30メートル。まず気づかれることはない――そう思ってじりじり後退っていると、
「きゃあっ!」
突然シズが悲鳴を上げた。
「どうした!?」
シャイナと平太が、一番後ろにいたシズを振り返る。
すると、ちょうどシズが通り過ぎたばかりの浅瀬から、一匹のグランパグルが現れるところだった。
「しまった! 地面に潜ってる奴がいやがった!」
グランパグルはその巨体から信じられないほどの速度で砂から這い出ると、目の前で驚きのあまり動けないシズに襲いかかった。
まずい。突然のあまり、平太も咄嗟に動けなかった。グランパグルの巨大なハサミが、シズの細い胴体を真っ二つにせんと唸る。
「オラァッ!!」
だが間一髪、グランパグルはシャイナのハンマーの一撃を受け、恐怖のあまり身をすくめることしかできなかったシズの横を抜けて豪快に水面を転がる。
さすが戦士。突発的な状況でも即座に動けたのは彼女だけだった。もし彼女がいなければ、今頃シズは上半身と下半身が分離していただろう。
しかし安堵している暇はない。
今の騒ぎで遥か前方にいる五匹のグランパグルがこちらに気づいた。もの凄い速度でこちらに向かって来る。
挟まれた。
前方から迫る五匹。後方に一匹。これを迎え撃つには、どうしても戦力を二分するしかない。
どうする――平太はようやく状況を判断できるようになった脳ミソをフル回転させて、この状況を打破するべく考えを巡らす。
「ここは俺に任せて五匹の方を頼む!」
平太が大声で指示を出すと、シャイナは一瞬「マジかコイツ」みたいな顔でこちらを見る。
だが瞬時に彼女もそれが最も確実にこの場を切り抜けられる作戦だと判断したのか、可能な限り距離を取るためにすぐさま五匹に向かって全力で駆け出した。
これで一匹と五匹に前後を挟まれる最悪の状況は回避できた。
後はこの一匹を何とかするだけだ。
いや、一秒でも早くこいつを片付けて、シャイナの援護に駆けつけなくてはならない。
「やれやれ……いきなりPTバトルかよ。しかも回復役抜きの上にチュートリアルもなし。なんてクソゲーだ」
ハンマーを握り直す。シャイナにぶっ飛ばされた一匹は、ひっくり返った状態から身体を激しく振って元の体勢に戻ろうとしている。さすがにあの状況では弱点の腹を狙えなかったらしく、固い甲殻には傷一つなくピンピンしている。
「シズ、下がってろ」
「は、はいっ!」
シズが平太の背後に隠れる。これで自分が逃げたり倒れたりしたら、今度こそシズが危ない。つまり、
「やるしかねえ」
逆立ちしていたグランパグルが元の体勢に戻る。そういうふうにプログラムでもされているかのように、すぐさま平太とその背後にいるシズに向かって走り出した。
向こうもやる気だ。
殺るしかない。
生まれて初めての実戦に足が震える。落ち着け落ち着けと頭の中で百回高速で唱える。効果なんかない。そんなことよりもう目の前までカニが迫っている。
さあ今だハンマーを振れ。何してる振れよ振らなきゃ当たらないし当たらないと殺せないだろ。
身体が動かない。
「危ない!」
後ろからシズがタックルをかますようにぶつかった。
二人でもんどり打って横に転がる。すぐ近くをカニが唸りを上げて通り過ぎて行った。
危なかった。もしシズがぶつかってなければカニと衝突して、ハサミでどてっ腹に風穴開けられていたところだ。
怖えぇ。
超怖えぇ。
「なにボーっとしてるんですか!! ダメじゃないですか死にたいんですか!?」
「お、おう、スマン……」
シズが覆いかぶさった体勢のまま、平太の首を締めつつガクガク揺さぶる。本気で怒られた。こちらも怖い。
だがおかげで少しばかり喝が入った。
立ち上がる。
足の震えは――止まっている。
落ち着け。考えろ。身体を動かせ。
さもないと死ぬぞ。
通り過ぎて行ったグランパグルがUターンして戻って来る。
今度は身体が動く。平太はハンマーの握りを確認するように何度も握り締め、タイミングを計るように上体を揺する。
来る。落ち着け。相手は馬鹿みたいに単調だ。真っ直ぐ突っ込むことしかできない所詮はカニだ。
振りかぶる。
「せーの……っ!」
左足を踏み込んで、ハンマーを思い切り叩き込む。
がいん、と固い音がしてグランパグルが吹っ飛んだ。
「当たった!」
手の痺れを感じながら、平太は宙を舞うグランパグルを目で追う。
手応えはあった。だが固い。ハサミに当たって急所の腹に届かなかった。
失敗だ。
グランパグルは水しぶきを二回上げて着地すると、すぐさま起き上がってこちらに向かって来た。
「ノーダメージかよ」
やはり仕留めるには腹をぶっ叩くしかない。
だが何故今のは失敗した。どうして防がれた。シャイナの時とどこが違う。何が間違っている。
考えろ考えろ考えろ。
考えて動かないと今度こそ死ぬぞ。
思い出せ。あのときのシャイナとカニの動きを最初から全部。
あのときシャイナは、
自分からカニに向かって全力疾走した。
「そうか!」
こちらがタイミングを計っているように、カニだって同じようにハサミでぶった斬ってやろうとタイミングを計って走っているのだ。
だったら、それをずらしてやればいい。
カニがハサミを構える前の地点で、ハンマーでぶっ叩いてやればいいのだ。
つまり、あと必要なのは、自ら危険の前に踏み込む勇気。
そして覚悟。
「そんなもん、とっくに完了しとるわ!!」
駆け出す。
背後に立つシズを置いてけぼりにするほどのダッシュで平太は駆ける。
頭の中で、昨日のシャイナの動きを正確に再生。そして可能な限り精密に再現。
グランパグルが迫る。こちらも全力で近づいているので、さっきよりも速く感じる。
左足を踏み出し、浅瀬を滑走する。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
吠える。
全速力で走る速度と、ハンマーの先端の重量とヘッドスピードが合わさって攻撃力となり、そこにさらに相手がこちらに向かって来た速度とその重量が加算される。
つまり、破壊力。
平太の渾身の一撃が腹部に叩き込まれ、ぐしゃり、という音とともにグランパグルが吹っ飛んだ。
「ナイスショット」
昨日の光景を忠実に再現。つぶやきまで同じ。
違うのは、カニを仕留めたのが自分だという点だ。
必殺の手応えが示す通り、グランパグルはもう動かなかった。平太の初めての戦闘は、どうにか勝利で終わった。
いや、まだ終わってない。
視線を遥か先に向けると、シャイナがまだ五匹のグランパグルを相手に苦戦している。
さすがにシャイナでも五匹同時に相手するのは苦しいようだ。激しく動き回る五匹の動きはバラバラで捉えにくく、それに合わせてシャイナも全力で動き続けている。むしろ止まったら狙い打ちだ。動くしかない。それゆえにこちらのタイミングに持っていけず、ハンマーを振るってもハサミで防御されてしまう。
今はまだシャイナが攻めているが、巨大なハンマーを振るうだけでも相当体力を使う。遅かれ早かれ体力が尽き、動けなくなった時点で一斉に襲いかかられてなぶり殺しにされるだろう。
が、そうはさせない。
一匹倒して自信と経験を得た今の平太なら、シャイナの援護ができるはずだ。
いや、やる。
ちらりとシズに目を向ける。
彼女も平太の意図に気づいたのか、ここはもう大丈夫という顔で肯く。
周囲に新たなカニの出現する気配も見えない。ならばここはもう安全だ。
だったら、
平太はハンマーを握り直して走り出す。
不利な戦いを買って出てくれた仲間の元に。
さあ、ここから反撃だ。
平太が加勢と同時に一匹のグランパグルを屠ると、そこから勢いは一気に逆転した。
流れが変わってしまえば、所詮相手は下級の魔物。シャイナも自分のリズムを取り戻すと、次々とカニを宙に舞わせた。
そこからはあっという間だった。五匹のグランパグルが全滅するまで、ざっと十分もかからなかった。
「いや~大漁でしたね~」
一気に六匹の獲物が獲れてご機嫌なのか、危機が去った直後のわりにシズの口調はやたら軽かった。
彼女は手際よく六匹のグランパグルから甲羅を剥ぎ取り、中身を海水で洗っては砂浜に広げた布の上に置いて日干しにしている。
「昼飯にするのにわざわざ干すのか?」
平太が尋ねると、シズは笑顔で首を横に振る。
「同じ素材が続くと飽きてしまうので、お昼は違うものします。けどナマモノはすぐに傷んでしまうので、とりあえず日干しにするんです。こうやって干しておけば日持ちもするし、味もぐっと濃くなるんですよ」
「なるほど。料理も奥が深いな」
シャイナは言わずもがなだが、平太も彼女を笑えるほど料理スキルがあるわけでもない。せいぜい自分のエサが作れる程度だ。
なのでシズの存在は何とも頼もしい限りだが、さすがに六匹もカニを一度にさばくと大量のカニの体液が流出し、彼女の周囲だけ海水の色が変わってしまっている。
まあ天然由来の成分なので汚染や環境破壊に繋がるとは思えないし、これだけ広大な海岸ならすぐに散ってしまうだろう。
「意外に早く集まったな」
砂浜にずらりと並ぶグランパグルの甲羅を眺めて、シャイナが一仕事終えたような口ぶりで言う。
たしかに、始める前はどれだけ時間がかかるかと思っていたが、フタを開けてしまえば初日に一匹、二日目早朝に六匹と順調過ぎる狩りだった。
「これだけあれば、鎧の一つや二つ作ってもお釣りが出るだろ」
甲羅は平太の鎧一つ分あれば十分なのだが、余った素材で何か他の物が作れるかもしれない。けれどその「何か」のためにこれ以上ここの留まる必要はない。シャイナはそう判断を下したのか、
「さて、帰るか」
驚くほどあっさりと撤収命令を出した。とはいえ平太もシズもグランパグルが数多く出て来られると十分な脅威になることは身に沁みてわかっている。
「そうだな。さっさと帰ろう」
「ですね。ドーラさんたちも待っているでしょうし」
「待ってるのはシズだけだろう。どうせあいつらロクなもん食ってないだろうし」
「そんなまさか~。皆さんのこともちゃんと待ってますって~」
「だといいがなあ」
目的達成の高揚感からか、みな一様にテンションが高かった。普段よりも明るく、わいわい冗談などを飛び交わせながら帰り支度をしていた矢先、
「ん……?」
平太は足元が微妙に揺れているのを感じた。
「地震? グラディアースにも地震なんてあるのか?」
腰を落として揺れに備えていると、近くにいるシャイナもシズも揺れに気づいたのか、地面に両手をついて神妙な顔をしていた。
揺れは徐々に激しさを増し、ついには立っていることもままならなくなる。
しかし平太を始め誰もが気づく。これは地震ではないと。
何故なら足元から感じるからだ。
揺れがどんどん近づいて来るのを。
「気をつけろ。下から何か来るぞ!!」
叫んだのはシャイナだった。
平太もただ事ではないと感じ、いつでも動けるようにハンマーを手に身構える。
三人から少し離れたところの地面が、こんもりと盛り上がったかと思うと、冗談かと思うほど巨大なカニの目が顔を出した。
「な……っ!?」
誰ともなく声を漏らす。そうしている間に地面から人間の背丈ほど大きさのハサミが突き出て、砂と海水を撒き散らす。
数秒と経たずに全身が姿を現すと、それは体長が5メートル以上ある巨大なグランパグルであった。
「でけぇっ!!」
驚きのあまり、見たまんまの言葉しか出なかった。巨大ガニ――レクスグランパグルは、平太たち三人の姿をその飛び出た二本の目で捉えると、威嚇するようにハサミをガチガチ打ち鳴らした。
「何だコイツ……怒ってるのか?」
カニに感情があるのかわからないが、平太は何となくそんな気がした。
「おい、」
目の前のレクスグランパグルを刺激しないように、シャイナが小声で平太に言う。
「逃げられそうか?」
平太は静かに首を横に振る。
「確かに図体がデカい分、身体が重そうだが、」
そこでちらりとシズの方を見る。
「すいませぇん……腰が抜けて走れそうにないですぅ……」
シズはぺたりと海水の中に腰を落とし、涙目になって平太の足にしがみつきながら震える声で言う。尻が海水に浸されていてわからないが、もしかしたら失禁しているかもしれない。
グランパグルの親玉みたいなのが突然地面から現れたら、誰だって腰ぐらい抜かすだろう。非戦闘員のシズならなおさらである。平太はシズが女の子であることやら諸々加味した上で、意識して彼女を見ることなくずっとレクスグランパグルを見ていた。
「となると、やるしかねえか……」
逃げるという選択肢が消えると、必然それしかなくなる。当然、諦めるという選択肢は最初から無い。
「おい、」
再びシャイナが平太が話しかける。
「あたしが囮になるから、お前はその間にシズを安全な場所まで逃がせ」
「囮ってお前、カニ五匹相手にするのとはワケが違うだろ」
「わかってる。だがこれが一番確実で、助かる人数が多い作戦なんだよわかれよな」
わかってる。仮に平太が囮になって、シャイナがシズを連れて逃げるとしよう。だが戦闘経験の少ない平太はすぐに殺されて囮の役目を果たせず、次にレクスグランパグルはシャイナとシズに襲いかかる。シズという足手まといのいるシャイナは全力を出せず、やがて全滅。
その点シャイナなら、平太とシズが安全な場所に逃げおおせるまで十分囮の役目を果たせるだろう。ただし、シャイナの生命は失われる。
つまり、一人を犠牲にすることによって、残り二人を助ける。それ以外は全滅シナリオ。0を取るか2を取るか、単純な計算である。
「馬鹿野郎、そんなこと……」
できるわけねえだろ、そう言おうとした平太の手からハンマーを素早く奪い取ると、
「じゃあな。ドーラたちによろしくな」
シャイナはレクスグランパグルに向かって駆け出した。
「おいっ!!」
止める間もなかった――というのは言い訳になるだろう。心のどこかで、シャイナの決死の行動を無駄にしないがために、あるいは自分たちが助かるために、彼女を止めるのが一瞬遅れた可能性を平太は否定できない。
シャイナは平太から掠め取ったハンマーを、レクスグランパグルに投げつける。
「オラオラ、お前の相手はこっちだ!」
挑発するように両手を広げ飛び跳ね、シャイナはレクスグランパグルの注意を自分に引きつける。
その狙いはいとも簡単に成功し、巨大ガニは怒りの矛先をシャイナに向ける。
「かかった!」
狙いが自分に向いたと見るや、シャイナは脇目もふらずに走り出した。
目の前で動く物を追いかけるのが本能なのか、それともこの中で最も多く同胞を殺したのが彼女だと知っているのか、走るシャイナを追ってレクスグランパグルが巨体を唸らせて動く。
その隙に平太はまだ足が思い通りに動かせないシズに肩を貸して、この場から急いで離れた。




