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ニートの俺が勇者に間違われて異世界に  作者: 五月雨拳人
第六章
111/127

ウルスィスの群れ

          ◆     ◆


 平太たちがフリーギド大陸に上陸して十日が過ぎた。

 来る日も来る日も同じような未開の地平線を進む日々に、平太たちは本当に人の住む集落がこの方角にあるのか、と疑念と焦りを感じ始めていた。

 その疑念は言葉にこそ出ていないが、雰囲気のようなものを醸し出し、言い出しっぺのドーラに目に見えない重圧を与えていた。


「うう……なんかお腹いたい……」

 プレッシャーでドーラが学校に行きたくない子供みたいな腹痛を起こして寝込んでいると、

「何だありゃ?」

 御者席にいたシャイナが、異常を報せる声を上げた。


「どうした?」

 小高い丘の上で馬車が止まると同時に、平太たちは幌から顔を出す。

「うわあ……」

 平太たちが見たのは、広大な平原に散らばる数えきれないほどの獣の群れだった。

「何だありゃ?」

 平太もシャイナと同じセリフを言う。

 それもそのはず。眼下の景色いっぱいに広がる無限とも言えるような草っ原には、見たこともない生き物がうじゃうじゃいる。それは形容するなら、平太の世界の熊と羊を足したような、巨大で茶色い毛がもこもこした獣だった。

 獣は見た目や大きさに反し、せっせと地面の草を食べている。どうやら草食のようだ。


「ドーラ、あれは何ていう生き物なんだ?」

「いや、ボクも初めて見たよ」

「ドーラも知らないのか」

 さすがに北の大地ともなると、ドーラでも知らない動物がいるのか。などと平太が感心していると、突然幌の木枠に矢が突き立った。

「おわっ!?」

「何だあ、敵か!?」

 矢に驚いて暴れる馬たちを制しながら、シャイナは矢の飛んできた方向に視線を向ける。


 その先には、弓を構えた十歳くらいの少年がいた。少年はすでに次の矢をつがえ、こちらに狙いを定めている。

 少年が弓を放つのと、シャイナが御者席から飛び出すのはほぼ同時だった。シャイナはまだ馬たちが暴れている最中なのに、手綱を放り出して馬車から飛び降りる。平太は慌てて手綱に飛びつき、馬たちがこれ以上暴れないように懸命に手綱を引いた。


 少年は、こちらが矢を向けているにも関わらず向かって来たシャイナに驚き、あっという声を上げた。恐らく、脅すつもりで当てる気も無く放った矢が、シャイナに向かって飛んで行ったからだろう。

 だがシャイナは自分に向けて飛んで来る矢に一切怯まず、腰の剣を手が柄に触れると同時に抜き放った。

 きん、と硬い音がした時には、矢は矢尻から矢筈やはずにかけて綺麗に真っ二つに切断されて草の上に落ちていた。

「すげえ……」

 そのあまりに見事な一閃に、平太が感嘆の声を上げる。少年も、平太と同じような顔をして見とれていた。

 それが致命的な隙となり、少年が我に返った頃には時すでに遅し。猛然と駆けて来たシャイナにあっという間に地面に倒され、うつ伏せの背中を足で踏まれて取り押さえられた。


「テメーいきなり矢なんか射ってきやがってどういうつもりだこの野郎。人に向けて射つなって親に教わらなかったのかよ」

 首筋に剣を突きつけ、シャイナがドスの利いた声で脅しをかける。

「うるせー! 泥棒が偉そうに説教すんな!」

「泥棒?」

「お前らウルスィスを盗みに来たんだろ!? 盗人は死刑だってとーちゃん言ってたからな!」

「ウルスィス? 何言ってんだお前」

 話がよく見えない。どうやら何か誤解しているのは間違いないが、少年は興奮していて話が通じそうにない。かと言って手荒な事はしたくないしどうしたものか、とシャイナは困り果てた


「参ったな……」

 シャイナが少年の取り扱いに困っていると、平太たちが「何だ何だ」と駆け寄ってきた。平太は少年を足で踏みつけているシャイナの姿を見てぎょっとする。

「おいおい、子供に乱暴はやめろよ」

「けどよお、コイツが先に射ってきやがったんだぜ」

 シャイナが剣を鞘に収めると、少年が「ガキ扱いすんじゃねー!」と威勢よく喚く。だが相変わらずシャイナに踏まれたままなので、まったく格好がつかなかった。


「とりあえずその足をどけてやれ。さすがに子供相手にそれはやり過ぎだろ」

「しゃーねーなー……」

 舌打ちをしながらもシャイナが足をどけてやると、少年は転がるようにして二人から離れた。弓矢を構えるまではいかなかったが、態度から見るにまだ相当警戒しているようだ。野良猫みたいにシャーシャー言ってる。

「子供がいるって事は、この近くに村か街があるんじゃないかな?」とドーラ。

「でしたら、この子に訊いてみましょうか」

 そうスィーネは言うものの、どう見ても訊いたところでまともな答えが返ってきそうにない。まずはどうにかして少年の警戒心を解くのが先であった。


「……えっと、キミ、名前は?」

 とりあえず誤解を解こうと平太が少年に向かってゆっくりと近づく。武器や敵意が無い事を見せるために、両手を開いて万歳をしながら歩く姿は、何だか人質を取って立て籠もっている銀行強盗に相対する刑事の気分だった。

「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのがスジってもんだろ」

 うわ、殴りたい。こめかみに青筋が浮かぶが、平太は何とか我慢した。ただ笑顔がひきつって歪み、さらに少年の警戒心を煽った。


「俺は日比野平太」

「変な名前」

「く……。ほら、名乗ったぞ。名前を教えてくれよ」

「泥棒に名乗る名前なんてねーよバーカ。だいたい、お前みたいな死んだ魚のような目をしたヤツが信用できるか」

「このクソガキ……」

 反射的に殴りそうになる平太を、シズが腰にしがみつくようにして止めた。

「ヘイタ様落ち着いてください。相手はまだ小さな子供ですよ」

「しかしなあ、こうも態度が挑発的だと話にならんぞ」

「ここはわたしに任せてください」

 シズが自信満々に大きな胸を叩く。確かに、男の自分よりは女性のほうが子供も警戒心が和らぐかもしれない。

「わかった。頼むぞシズ」

「はい」


 選手交代。今度はシズが少年へと歩み寄り、しゃがんで目線の高さを合わせた。

「わたしはシズ。あなたのお名前を教えてくれませんか?」

 完璧だ。子供相手でありながら相手を必要以上に子供扱いしない言葉遣い。おまけにシズの笑顔とくれば、これで落ちない子供はいないに違いない。

 それを裏付けるように、少年もさっきまで剥き出しだった不審感が消え、シズに対して興味を持ったような表情になっている。だが気のせいだろうか。何だか少年の視線がシズのある一点に集中しているような気がする。


「お、」

「お?」

 シズが小首をかしげた次の瞬間、少年の両手がシズの胸をわし掴みにする。

「おっぱいでけーっ!!」

 少年は叫びながら、嬉々としてシズの胸を高速で揉みしだき始めた。

「なんだこれ超でけー、こんなの初めて見た! うっひょーやーらけー!!」

「きゃあああああああああああああああっ!!」

 ヒャッホーとノリノリの少年の声と、シズの悲鳴が重なる。

 シズの悲鳴が平野に長々と響き、草を食んでいた獣たちが驚いてこちらを見た。やがて悲鳴がか細くなって地平線に消えていくと、獣たちも興味を失って再び草を食み始めた。


「わたし、あの子嫌いです~……」

 完全にベソをかきながら、シズがすごすごと戻って来た。両手で胸を押さえて力なく歩く姿はとても痛々しく、平太の胸に倒れ込むように顔を埋めるとさめざめと泣き崩れた。平太はかける言葉が見つけられず、ただただ彼女の頭を撫でて慰める事しかできなかった。


「参ったな。とんでもないガキだぞあいつ」

「こうなったら大人との力の差ってのを見せつけるしか――」

「待て、さすがにそれは拙い」

 いくら生意気なクソガキでも、鉄拳制裁はよろしくなかろう。とはいえこのままでは少年から情報を得られない。平太たちがほとほと困り果てていると、スィーネがついに妙案を思いついた。

「子供には子供、というのはどうでしょう?」

「子供――てえとスクートか」

「はい。見たところあの少年、なかなかの好色漢。きっとスクートには心を開くに違いありません」

「まあ、確かにスクートは可愛いけど、あいつガキのくせにドスケベだぞ。さっき――」


 そこで平太は、すっかり泣き疲れて寝息を立てているシズを見る。スクートにはシズのように揉みしだく胸は無いけれど、大人の予想を遥かに越えて何かしでかすのが子供という生き物なので、不安しかない。

「――みたいな事をやらかしたら、今度こそシャイナがやっちまうぞ」

 アルマに引けを取らないくらいスクートを猫可愛がりしているシャイナの事だ。スクートがスカートめくりでもされようものなら、相手が子供であろうと容赦しないに決まってる。


「それに関しては大丈夫ですよ」

 悪い予感しかしない平太に、スィーネは妙に自信ありげに言い切る。表情ではよくわからないが、言葉の端から滲み出る確信めいたものに、平太は賭けてみる事にした。

「わかった。スィーネを信じよう」

 とは言ったものの、スクートと契約をしているのはシャイナなので、シャイナにスクートを呼び出してもらおうとしたのだが、

「やだよ。あのクソガキ絶対スクートにちょっかい出すに決まってるし」

 案の定駄々をこねた。


 しかしそれくらいは予想の範囲内だ。そもそも、何も直接スクートと連絡を取らなくても他の者に中継してもらい、スクートを呼び出す事だってできるのだ。よってこの状況下において、シャイナの意見は却下である。

『あーアルマ、聞こえる?』

『聞こえてるわよ~。あと、そっちの状況もだいたいわかってるし』

『そいつは話が早い』

 こうして平太は無事アルマ経由でスクートを馬車の中に呼び出す事に成功した。


「おにーちゃん、呼んだー?」

 スクートが幌の中からひょっこり顔を出す。傍目には、今までずっと馬車の中にいたスクートが顔を出したように見えて自然だ。

「あ、テメー勝手にスクート呼んでんじゃねーよ!」

 怒るシャイナを平太は「いいからいいから」、と適当にあしらう。

「スクートにちょっと頼みたい事があるんだ」

「なーにー?」

 平太が耳打ちすると、スクートは元気良く「わかったー」と返事をし、すぐさま平太の指令を実行すべく、とてとてと少年の元へと歩いて行った。

          ☽

「おいコラ泥棒ども! どーしたもうかかってこねーのかよ? ビビってんじゃねーぞオラオラ!」

 シズを泣かせて絶好調な少年は、今や敵なしの状態であった。大きな岩の上にあぐらをかき、まさにお山の大将気取りである。

 今の勢いなら最初に自分を取り押さえた赤毛の大女にも勝てる――そんな万能感を感じていると、

「おーい」

 向こうから知らない少女がこちらに駆け寄ってきた。


 見かけは自分より少し幼いくらいだろうか。桃色のふわふわとした長い髪は、幼い顔立ちによく似合っている。

 少女は一直線にこちらに向かって来る。まさか、あいつらの仲間か――再び少年の中で警戒心が頭をもたげるが、どんどん近づいて来る事によって明確になる少女の姿が、少年の警戒心を溶解させた。要するに、可愛いかったのだ。


 そうこうしている間に、少女は少年の座っている岩のところまでやって来た。

「お前誰だ?」

「スクートだよ」

「お前もあいつらの仲間か?」

「そーだよ」

「じゃあお前も泥棒か?」

「ちがうよ」

 そう言うと少女――スクートはよいしょと岩の上によじ登り、少年の隣に座った。

「お、おい、勝手に座るなよ」


 スクートは少年の文句など一切受け付けず、楽しそうに両足をぶらぶらさせていると、突然平原のほうを指差す。

「ねえ、あれなあに?」

 指の先を目で追うと、草を食べている獣に行き当たる。

「あれ? ああ、あれはウルスィスってゆーんだよ」

「へー、へんなのー」

「ウルスィス知らねーのかよ?」

「うん」

「お前、どっから来たんだ?」

「んっとねー、あっち」

 そう言って、今度は南のほうを指差す。

「あっちって、あっちは海だぞ」

「うん。海の向こうの、ずーっと遠くから来たの」

 コイツまだ小さいからよくわかってねーんんだな、と少年はスクートの言う事を聞き流した。


「それじゃあさ、そんな遠くから何しにここまで来たんだよ?」

「んとねー、これをね、売ってまわってるの」

 スクートはポケットから平太に渡されたナイフとフォークを取り出し、少年に見せる。

「何だこれ?」

「ナイフとフォークだよ。こーやって、ごはんを食べるの」

 そう言うとスクートは手に持ったナイフとフォークで食べ物を切って口に運ぶ真似をする。

「これをつかうとね、あったかいごはんが食べられるんだよ」

「マジか」

 スクートは「うん」とにっこり頷くと、持っていたナイフとフォークを少年に手渡した。

「あげる」

「え? い、いいのか?」

「いいよ。そのかわりね――」

          ☽

「あのさあ、あれって一応商品なんだから、タダじゃないんだよ?」

 馬車の陰に隠れてスクートたちを覗き見――もとい見守っていた平太たちに向けて、ドーラがぼやく。

「まあまあ、ナイフとフォークの一本くらいで身分が証明できて、おまけに情報が手に入るなら安いもんじゃないか」

「それより、スクートもなかなかやりますね。あの少年の心を完全に掴んでますよ」

「ちげーよスクートはただ純真なだけだっつーの。打算まみれのお前と一緒にすんな」

「貴方のように力づくでしか物事を解決できないよりはマシでしょう」

「ンだとコラ」

「お前らケンカすんな――っと、戻って来たぞ」

 少年とスクートがこちらに向かって歩いてきたので、平太たちは急いで馬車の中に入る。


 馬車の中で息を潜めていると、スクートの「おしえてくれるってー!」と叫ぶ声が聞こえた。平太は作戦の成功に、にやりとシャイナを見ると、シャイナは舌打ちしてそっぽを向いてしまった。

 ともあれ、作戦通りスクートが少年と仲良くなってくれたのだ。後はうまく信頼を回復できれば少年から色々と有用な情報を聞き出せるかもしれない。

 平太たちが馬車から出ると、スクートと少年が立っていた。二人の手が繋がれているのを見て、一瞬シャイナがシャレにならない殺気を放出させて遥か遠くで草を食んでいる獣――ウルスィスだったか――を驚かせたが、平太が咳払いとともに肘で脇腹を突いてやると、どうにか凶々しい気配は彼女の奥に引っ込んだ。


「で、何が聞きたいんだ?」

 相変わらずスクート以外には態度がデカい少年であったが、話を聞いてくれる程度には信頼が回復したようだ。

「俺たちがその、ナイフとフォークの行商だってのは、」

「うん、聞いた」

 平太はスクートに、少年には勇者や魔王という話はせずに、自分たちは旅の行商人だという事にしておくようにと説明しておいたのだ。

「ならさ、この辺りに村か街があると思うんだけど、知ってたら教えてくれないかな?」

 少年は再び訝しむような顔になり、しばらく平太たちをじっと観察する。そうしてもう一度信用するかしないかふるいにかけるように見回すと、最後に視線がスクートの所で止まった。少年の表情がほぐれる。


「いいよ。オイラの村に案内してやるよ」

「いいの? ありがとう」

「言っとくが、変な真似するなよ? ちょっとでもおかしな真似したら、すぐにウルスィスをけしかけるからな」

「わかってるよ。ところで、そのウルスィスって何だ?」

「なんだよ、お前も知らないのかよ? どこの田舎者だ?」

「ははは……ごめんね~……」

 みしり、と平太は奥歯がめり込むほど噛みしめる。少年は大きなため息をひとつ。

「ウルスィスってのは、あっちで草食ってるやつだよ」

「ああ、あれがウルスィスっていうのか」

 少年が言うには、ウルスィスというのはこのフリーギド大陸に古くから生息する生き物で、毛や皮が取れて衣料になるだけでなく、肉も美味でおまけに人間によく懐く至れり尽くせりな家畜なのだそうだ。


「大人しい上に頭がいいから、オイラ一人でもこれだけの量のウルスィスを放牧できるんだ」

「なるほど。勝手に逃げたりどこかに行ったりしないんだな」

 少年が合図をすると、群れの中で一番大きい、そこのボスのようなウルスィスがこっちにやってきた。巨体が近づいて圧倒される平太をよそに、少年は何の警戒も無くウルスィスに抱きつく。

「こいつ、ピコってんだ。オイラの一番の友達さ」

「へえ……」と腰が引ける平太。

「そうビビるなよ。身体はでっかいけど、中身は子犬みたいに可愛いもんだぜ」

 そう言うと少年はピコの胸元を両手でわしわしと撫でる。するとピコは気持ちよさそうに目を細め、彼の手に身を任せるように地面にごろりと腹を見せて寝転んだ。


「ほら、もっとこっち来て触ってみろよ」

「お、おう……」

 平太が恐る恐る手を差し伸べると、ピコはその手の匂いを嗅いだ後、大きな舌でぺろぺろと舐め始めた。

「か、可愛い……」

 身体が大きいから舌も何もかもが大きいが、仕草や中身はまるで子犬のようだ。次に平太が撫でようと手を顎の下から差し入れると、茶色い毛の中に手がずっぽりと埋まった。

「やわらか~い……」

 ウルスィスの毛は、見た目よりも遥かに柔らかくふかふかだった。ずっと触っていたい感触に、平太は身も心もウルスィスにめろめろになる。


「けど絶対に怒らせるなよ? ああ見えて、いざとなったらそこらの魔物なんか一発で片付けちまうくらい強ぇんだぞ」

「ああ見えてって、見たまんまだろ……」

 ウルスィスは、四つん這いで草を食んでいるとそう大きくは見えないが、後ろ足で立ち上がるとゆうに平太の倍は身長がある。それによく見れば、丸太みたいな手足の先には平太の親指よりも太い爪がぎらりと生えている。そんな体躯の獣が本気を出したら、グランパグルなど下級の魔物はひとたまりもないだろう。


 しかし、いくら大陸が違うとはいえ、こんな生き物初めて見た。平太が知らないのは当然としても、この世界の住人で狩人のシャイナや知識に貪欲な魔術師のドーラが知らないとは珍しい。

「んじゃ、そろそろ戻るから、オイラに着いて来いよ」

「ん? ああ、よろしく頼む」

 少年が出発を促したので、平太の思考は中断された。

 少年が指笛を吹くと、それまで思い思いに散らばって草を食べていたウルスィスたちが、のそのそと集まってくる。


「さあみんな、帰るぞ!」

 先頭に立って少年が歩き出すと、ウルスィスはみな彼の後を着いて歩き出した。その統率された行動に、平太たちは思わず見とれてしまう。

「すごいねえ。賢いねえ」

「本当に。犬も使わなくていいなんて」

 ドーラとスィーネが幌から顔を出し、ウルスィスの群れを眺める。

「何だか、ずっと見ていられますね」

 シズの言う通り、川の流れのようにいつまでも眺めていられる光景だが、さすがにそういうわけにもいかない。


「俺たちも行くか」

 平太がそう言うと、御者席のシャイナが「おう」と手綱を振るった。馬が小さくいななき、歩き出す。

 行進するウルスィスの最後尾を、平太たちの馬車がゆっくりと着いて歩く。地平線に向かって、長い列がずっと続いた。

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