因果応報
◆ ◆
平太たちが黒竜に乗って、遥か北の大地フリーギド大陸へ向かった頃。
ディエースリベル大陸の王都オリウルプスでは、平太がカリドス大陸で山を貫いて道を通した話がようやく王の耳に届いた。
「そ、それは、真実の話か?」
驚きのあまり、玉座から腰を浮かせて問う王に、家臣が恭しく首肯する。
「事実でございます。スキエマクシからフェリコルリスに向けていくつもの山が穿たれ、一直線に道が通っております」
道はまだ補強中ではあるが、通る事は可能である。すでに周辺の村からスキエマクシに、またはスキエマクシから各村に向けて数多くの人や荷が往来していた。
「居合わせた者の話によれば、穴は勇者と名乗る男が剣を振るって開けたそうです。そして、その人相などを聞くに、ほぼ間違いなく――」
「ドーラ=イェームンとその一味、というわけだな」
「左様でございます」
国王は、「うむ……」と唸ると、たるんで何重にもなった顎肉を指でつまんで考える。
次第に、その赤ん坊のような太短い指が震えだす。
どうしよう。
聖なる武具の徴集を断り、あまつさえ王たる自分に筆舌に尽くし難い無礼を働いた罰として、腹いせも兼ねて国内指名手配にして手配書を配布してしまった。
もしあれが本人たちの目に留まり、怒りの矛先を自分に向けたら――
あの日見た、人間を遥かに越えた戦闘力が、
今聞いた、耳を疑うような攻撃力が自分に、この国に向けられたらと考えると、
終わりだ。
いや、まだ間に合うかもしれない。
話によれば、彼らは今カリドス大陸にいる可能性が高い。だとすれば、手配書が出回る前に国外に出て、まだ自分たちが手配されているのを知らないかもしれない。
ならば、急がねばなるまい。
一刻も早くそれらを回収し、彼らにこちらが害意の無い事を示さなければ。
「直ちに全国に配布した手配書を取り下げろ! 一枚たりとも残してはならぬ! あと、この件は金輪際他言無用。あの者たちを手配していた事も口外してはならぬ!」
「は、ははあ!」
家臣が急いで王の命令を実行しようと立ち上がりかけたところを、慌てて王が止める。
「い、いや、待て! それだけでは不十分だ……。他にもっと、我らが彼らにとって有益な存在である事を主張せねば――」
そこで王は、はたと気づく。
そうだ。それよりもまずやらなければならない事があるではないか。
王は、これまでドーラたちと天秤にかけている人物がいたのを思い出した。もしドーラが伝説の武具を持っていなければ、すぐにでもそちらを優遇していた者。
大規模領主のトニトルスである。
だが天秤は、ドーラに大きく傾いた。
伝説の武具の武力は、トニトルスの持つ権力よりも遥かに魅力的だった。だから一時はドーラを取り込み、トニトルスを遠ざけるように画策していたのだが、そこで大きな誤算が出た。
勇者――名を何と言ったか……今となっては思い出せない――が事もあろうに王の誘いを断ったのだ。
そうして天秤は再び揺れ、最終的にはトニトルスに傾いて止まった。
かと思った矢先にこれである。
だが今度こそ、天秤は動かなくなった。どう考えても、たかが一領主ごときと比べるものではない。あれは、下手をすれば一国の、いや、この世界すべての軍事力にも勝るものだ。そんなものと争ってはならない。絶対にだ。
そうなると、自分が彼らとトニトルスを天秤にかけていた事を知られるのは拙い。ここは口封じを兼ねて、彼らに少しでも友好的に見られるためにも、消すしか――
待て。それではこちらも悪い印象を与えてしまう。それよりも、トニトルスはドーラに何やら因縁があるようだ。このまま放っておけば、奴はドーラたちにとって障害とまではいかなくとも、何かと迷惑な存在になるのは間違いない。
だったら、こちらが善意で彼らにとって都合の悪いものを排除してあげた、という体はどうだろう。そうすれば、上手くいけばドーラたちに恩を売れるかもしれない。
それはいい。
そうしよう。すぐにしよう。
王はトニトルスの処遇を決めると、更なる指示を待っていた家臣に告げる。
「トニトルスをここに呼べ」
家臣は短く返事をすると、今度こそ急いで玉座の間から出て行った。
間に合えばいいが。そこで国王は、自分がずっと中腰のままだったのに気づき、疲れたようなため息をついて玉座に深く座り直した。
☽
ウェントゥスは、魔王の城と呼ばれる建物の屋上に来ていた。いつものように空を眺めながら風を楽しむためだ。
城の建つフリーギドの大地は、一年を通じて気温が低く降雪量も多い。しかも冬の割合が一年の八割と、他の大陸よりも遥かに生き物が住むのに厳しい。
それでもウェントゥスは、この北の大地の空が好きだった。
冬の凍てつくほどの寒さが空気をぴんと張り詰めさせ、他の土地よりも空の色が鮮明に感じられるからだ。
夏は、空の下からてっぺんまで貫くほどの入道雲の中を飛ぶのも良い。
春の訪れを喜ぶ鳥たちと並んで飛ぶのも好きだ。
秋は、目に沁みるような夕焼けの中を飛ぶのも趣深いものがある。
結局、ウェントゥスはどんな時でも、空が好きなのであった。
だからこうして日課の如く屋上に来て、飽きもせず空を眺めているのである。
だが、四天王である彼には他にやるべきことが山のようにあった。特に魔王不在の今では、実質彼が実務的な事をほとんどこなしている。元より、こういった事は他の四天王には期待できなかったのもあるが。特にイグニス。
「そろそろ仕事に戻るか……」
名残惜しさを振りきって、ウェントゥスは城の中に戻ろうとした。
その時、ウェントゥスは風を感じた。
何かが、この城に向かって来る。
そんな風を感じた。
☽
城内に戻ったウェントゥスは、屋上での事をイグニスに話した。
「はあ? 何かって何だよ?」
広大な室内に、イグニスの頓狂な声が響いた。
いつもの会議室とは違う。今ウェントゥスたちがいる部屋は、人間たちで言う食堂に当たる。だが魔族には揃って食事をする習慣が無いので、この場所はただ無駄に広い部屋として認識されていた。
ウェントゥスは、この部屋で暇を持て余しているイグニスを見つけ、先ほど屋上で感じた風の話をしたのだ。
その第一声があれである。
「それは私にもわかりません。ですが、巨大で強大な何かが、こちらに向かっているのは確かです」
「どーいう根拠でだよ?」
「風が教えてくれました」
「ぶっ……!」
ウェントゥスが真剣な表情で言うと、イグニスは堪らず吹き出した。
「何がおかしいのですか?」
「風が教えたって、お前は渡り鳥か」
自分で言っておかしかったのか、イグニスはさらに激しく笑う。
が、傷が痛んだのかすぐに胸を押さえ、苦しげに呻いた。その様子を見て、文句を言おうと開きかけたウェントゥスの口が閉じる。
咳払いをひとつ。
「とにかく、私はこれから確認に行ってきます。後の――」
後の事は、と言いかけてやめる。不吉だとか縁起が悪い、という概念は彼らには無かったが、下手な事を言って目の前の血の気の多い奴が勝手をしないとも限らない。
「留守をお願いします」
そう言って席を立とうとしたウェントゥスに、「待てよ」とイグニスが声をかけた。
「お前、何か隠してんだろ?」
立ち上がろうとした体勢のまま、ウェントゥスが止まった。そのまま目だけを巡らせ、じっとイグニスの顔を見る。さっきまで痛がりながら笑っていた面影は欠片も無く、こちらを見透かすような鋭い視線を向けている。
ウェントゥスは内心でため息をつく。どうしてこいつはこういう時だけ異様に鋭いのか。普段は他人の顔などまったく見ていないくせに。
「はて。隠す、とはどういう事でしょう?」
「しらばっくれるなよ。ちょっと様子を見に行くくらいなら、俺に留守なんて頼まねーだろ。いや、そもそもどうしてお前が行くんだ? 偵察なら下っ端に行かせりゃいーだろ。下っ端程度じゃ行ったっきり帰って来れねーって踏んだから、お前が行くんだろ? つまり、そういうヤバそうなのが来てるってこった」
てっきり言葉尻をつかまれた程度だと思っていたが、まさかここまでイグニスが頭を使って理論的に考察できるとは思わなかった。
「イグニスさん……」
「あん?」
「ただの戦闘馬鹿じゃなかったんですね。これは一本取られましたよ」
「う、うるせえ! それよりさっさと教えろ。どれだけヤバそうなのが来てんだよ?」
それですか、とウェントゥスは思案するように腕を組む。
「おうよ。お前がわざわざ出張るくらいだ。相当なのが来てんだろ?」
わくわくしてるのを隠そうともしないイグニスに、ウェントゥスは平坦な声で告げる。
「わかりません」
「はあ?」
「ですから、わかりません。だから私が直接確認しに行くんじゃないですか」
「けど、お前、さっき風が教えてくれたって――」
「風が教えてくれたのは、先ほど言った程度の事ですよ。それ以上の事は、やはり直接見ない事にはわかりません」
「ンだよ、ったく紛らわしい……」
「漠然とした言い方をしたのは申し訳ありませんが、勘違いしたのはそちらの勝手ですよ」
「わーったよ、勘違いして悪かった。けどなあ、だったらなおさらお前一人で行くんじゃねーよ。何のために下っ端がいると思ってんだよ。数の力馬鹿にしてんじゃねーぞ」
まるでウェントゥスの身を案じているような言葉に驚く。だが、意外ではない。イグニスは物言いこそ乱暴だが、四天王の中では一二を争うくらい仲間思いなのだ。本人に言ったら照れて全力で否定するが。
「お心遣いは感謝します。が、やはりここは私一人で行きましょう」
「ああ? お前、せっかく人が親切に――」
少し苛ついたイグニスの言葉を、ウェントゥスが爬虫類じみた笑みと声で遮る。
「私だって、たまには歯ごたえのある敵とサシで戦いたいのですよ」
先が二股に分かれた長い舌を出して舌なめずりをすると、イグニスは少し驚いたような顔をして固まり、そしてすぐに共感して同じような笑みを返した。
「そうか。それじゃあしょうがねえな」
「そもそも、イグニスさんはまだ傷が完全に癒えてないでしょう。それはコンティネンスさんも同じです。だから私が出るのは必然なのですよ」
傷の事を言われ、イグニスは自分の胸を左手で押さえる。打撲はすでに完治したが、まだ胸骨のヒビは完全に治ったとは言えない。無理をすれば出陣できなくはないが、それでは実力の半分しか出せないだろう。
戦場に万全の状態で出られないのは当然で、それについて不満を言うつもりは微塵も無いのだが、ここぞという戦いは万全の状態で楽しみたいという気持ちが、イグニスの逸る気持ちを辛うじて抑えた。
「わーったよ。今回はお前に任せる。コンティネンスには、俺から言っておくよ」
「そうして戴けると助かります。では、私はこれからすぐにでも出ますので、」
後の事はよろしくお願いします。
そう言って、今度こそウェントゥスは席を立った。
イグニスの横を通り過ぎる。
彼は、自分が退室するまでずっと目で追ってきた。
☽
一方、黒竜の背に乗って魔王の城を目指している平太たちは、寒さに震えていた。
黒竜に乗って大空へ飛び立ったまでは良かったが、ぐんぐん上昇して雲を越えた辺りでドーラが異変に気がついた。
めちゃくちゃ寒いのである。
「そう言えば、高度が100メートル上がるごとに、気温が0・6度下がるんだっけか……」
平太の知識は地球のものだが、異世界でも太陽があって空気を温めている以上、それに近い物理法則が働いていると考えて良いだろう。
つまり、雲の上に出るほどの高度まで上昇した平太たちは、真冬並みの気温に曝されているのだ。
おまけに彼らが向かっているのは、一年のほとんどが冬という北の大地である。近づけばそれだけ気温が下がる。間抜けな事に、平太たちはそれらをすっかり失念し、調子に乗って雲の上まで上昇していた。
慌ててグラディーラに荷物の中から毛布やら防寒具を取り出してもらうが、黒竜の背中の上で火を炊くわけにもいかないので、平太たちはありったけの毛布に包まった。
それでも寒いので、シズが氷河期でも乗り越えられそうな毛玉モフモフの動物に変身した。みんな彼女に抱きつき、吹雪に耐えるペンギンのように身を寄せ合って寒さと戦った。
「なあ、わざわざ外に出てこんな寒い思いしなくても、グラディーラの空間にいればいいんじゃないのか?」
平太の提案に、ドーラたちは一も二もなく賛成した。
「本当だ。どうして今まで気がつかなかったんだろう」
「盲点だったな……。あまりにも寒くて頭がどうにかしてたぜ」
「わたしは、別にこのままでも……」
平太に抱きつかれた毛玉がぼそりとつぶやくが、当然そんなものは却下された。
「ダメよ。まだこの子を従えさせて日が経ってないんだから、今姿を見せなくなったらあっという間に野生に帰るわよ」
おまけにこれである。だがよく考えてみれば、アルマたちのように契約を交わしたわけでもなく、ただ単に殴り倒して言う事をきかせているだけなのだ。見張っていなければ逃げるのは、動物として当たり前であった。
「上位の竜って知能も高いんじゃなかったのかよ……」
「人間だって、単純な恐怖で支配できるでしょ。根源的な本能は、知性が高かろうがどうしようもないわよ」
そこまで言われては、平太にはもう反論のしようが無かった。仕方なく一同は、なるべく固まるようにしてシズに抱きつき、少しでも熱を逃さないように努めた。
☽
最初に限界がきたのは、案の定ドーラであった。彼女は暑い寒いなど、大抵のものに弱い。
「さ、寒い……寒いよ……」
「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」
歯をがちがち鳴らしながら震えているドーラの顔を、シャイナが叫びながら平手で叩く。
ドーラはみの虫の如く毛布に包まっているが、それでも寒さのあまり意識が朦朧として今にも気を失いそうになっている。
「おい、このままじゃ本当にやべーぞ! 一旦地上に降りるか、もっと低く飛べねーのか!?」
寒さで霜の張った毛布に包まったシャイナが、お仕着せの格好のままのアルマを怒鳴りつける。聖なる武具は寒さなど感じないのか、彼女を始めグラディーラやスクートは平気の平左といった感じだった。
「ダメよ~。雲よりも下を飛んだら、魔族に見つかるじゃない。この高さで飛んでるのは、ここまで来れる魔族がいないからなのよ」
「ンな事言っても魔王の城に着く前に凍え死んだら意味ねーだろ!」
「う~ん……」
シャイナの言う事も一理ある、とアルマが悩んでいると、
「ああ、光が……光が見える。あったかいなあ、ここはまるで天国だよ……」
ドーラが本当にヤバい幻覚を見始めた。
「仕方ないわね。少しの間だけ高度を下げるわよ」
さすがにこれは拙いと思ったのか、アルマは黒竜に高度を下げさせた。
この判断は、間違ってはいなかった。
ただ、運が悪かった。
☽
風が教えてくれたのは、城に迫ってくるものの質量や質感。
そして匂いと数。
ウェントゥスが知り得た情報は、竜が一匹こちらに向かって飛んで来るというもので、竜の大きさはわかっていたものの、それが黒竜だという事まではわかっていなかった。
だが、竜の匂いに混じって、複数の人間の匂い。
そして、人ならざる者の匂いがいくつか感じられた。
そこから推測すると、この未確認飛行物体の正体がイグニスやコンティネンスの言う連中である可能性が非常に高い。竜に乗っているという情報は無かったが、むしろ竜に乗ってわざわざこちらに向かってくる伝説の武具持ちの人間が他にいるのか、という単純な消去法で確定は容易だった。
ウェントゥスは、そこまで考えた上でイグニスに隠した。
話せば、あの戦闘狂は例え手足が無かろうとも喜び勇んで戦いに出るに決まっている。
コンティネンスも同様だ。スブメルススの仇とばかりに、まだ完全に身体が回復していないのに出陣するだろう。
まったく、どいつもこいつも人の気も知らないで。
今のイグニスやコンティネンスが戦ったところで、恐らく何の役にも立たないだろう。一度戦って手傷を負わされた相手に、完調でない彼らが敵うはずもない。
だが本調子になった二人が協力すれば、あるいは。
だから、自分の役目は二人が焦って出陣するのを防ぐのと、時間稼ぎである。もちろん勝つ気でいるのは当然だが、最悪の場合を考えての事である。
何より、すでに四天王の一人が殺られているのだ。
これ以上、仲間を失うわけにはいかない。
魔族にだって意地やプライド、
そして仲間を思う心があるのだ。
空を見上げる。
もしこの空の向こうから来るものが、自分の考えているものだとしたら、自分も無事では済まないかもしれない。
それでも。
ウェントゥスは様々な思いを胸に、屋上から飛び立った。
☽
黒竜が高度を下げていくと、徐々に寒さが和らいできた。するとドーラの青ざめた顔に血の気が戻っていき、辛うじて最後の一線を越えずに済んだ。
「う~ん、死ぬかと思ったよ……」
まだ紫がかった唇を震わせながらドーラが笑う。
「今のお前が言うと冗談に聞こえねーよ」
苦笑まじりでシャイナが頭を撫でると、ドーラははにかむように笑った。身体のほとんどがシズの変身したよくわからない動物の毛に埋まり、両脇をスィーネとシャイナに挟まれている。
ドーラの危機という事で、アルマは渋々黒竜に高度を下げさせたが、それでも雲の中までだった。一応気温は上がったが、雲の中なので湿気が酷い。あっという間に全員濡れねずみとなり、却って状況が悪化したような気がする。
「どうせならもっと高度を下げられないのか?」
「これ以上は本当にダメよ。雲から出たら、すぐにでも魔物に見つかっちゃう」
「いくら敵の本拠地だからって、そんなにすぐ見つかるか?」
実際、平太たちはこれまで魔物とはほとんど遭遇せずにここまでやってきた。それは単に幸運なだけだったり、別の大陸だから遭遇率が低かっただけなのだが、だとしても、フリーギド大陸に来ただけで魔物との遭遇率が劇的に上がるとはあまり思えなかった。
「そりゃフリーギド大陸だからって、魔物がうじゃうじゃいるわけじゃないわよ。そりゃあ他と比べて数が多いのは確かだけど」
平太の心を読んだように、アルマが説明を始める。
「魔王の城を守る魔物の中には、城に接近するものを察知する能力を持つのがいるのよ。だから、そいつの感知範囲外から近づかないと意味無いの」
「なるほど」
レーダー役みたいなのがいるのか、と平太はようやく納得する。それにしても、どうやって接近を感知するのだろう。コウモリみたいに音波でも飛ばしているのだろうか。
「それは――」
アルマが何か言いかけた時、突然黒竜が激しく身体を揺らした。足元が大きく傾き、平太たちは慌てて身体を投げ出し、黒竜の背中にへばりついた。
「いきなり何すんだ! 危ねえだろ!」
咄嗟にドーラを庇ったために、大股開きというとんでもない格好で仰向けに転がっているシャイナが、首だけ巡らせてアルマに怒鳴る。
「アルマ、何があった!?」
平太の問いに、アルマは混乱を隠せない声と表情で答える。
「わからないわよ。急にこの子が脅えだして――」
自分で言った言葉に、アルマの顔がさらに驚きに変わる。
竜を――それも黒竜を脅えさせる何かが近づいている。
拙い。見つかった。
そう思った時にはすでに遅く、
平太たちが見ている前で、
黒竜の首が飛んだ。
そして即死した黒竜はすべての動きを止め、真っ逆さまに地面に落下した。




