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アルとラジャの生活

 …砂漠の向こう、地上の天国、我らが偉大なるラージャ大王の統べる国、シャルキーヤ、おいしい食べ物、綺麗なお姫様、立派な宮殿、何でもそろう…さあ、ごらん、世にも珍しい見世物だ、いままで見たこともない世界へ~…

 太鼓や笛の音に合わせて、歌い手が踊りながらさまざまな品物を取って客に見せていた。一段高い場所にいる彼を見ようと観衆は首を伸ばして顎を突き出している。客たちの目玉はショーにくぎ付け、あふれる首と頭で手元足元は蓋がされたように誰からも見えない。するすると蛇が足元を這っていようが、毒蜘蛛が腰にのぼってこようがこの観客たちは、なぜ自分が自分が死んだのかもわかりはしないのだ。

 蛇や毒蜘蛛の代わりに這い寄るのはすりの少女だった。小柄な彼女はまさしく蛇や蜘蛛のようにそれと知られずに、腰に巻きつき目当てのものを探りとる。収穫を服のなかにしまい、身軽に彼女は人混みを離れた。


 彼女はスラムの奥の小さいが一軒の家を持っていた。石を積み、ぼろ布のカーテンで仕切った立派な家だった。家族は子猫のラジャがいる。彼女が家に帰ると、留守番係のラジャは床を蹴って飛びついてきた。

「ラジャ!さびしかった?ごめんね、えらいわ。でも、今日はいっぱいとれたのよ。だから、今日はごちそうよ!ラジャ」

「ミャー」

 彼女はラジャを抱き上げて片手に乗せると、腰に巻いていた荷物入れをすっかりほどいた。ごろごろとリンゴやメロンが転がり出て、あとに紙に包まれた肉や魚が落ちてきた。

「ひさしぶりのお肉よ。買うのが大変だったわ、お金持ちのふりをしたの。想像できる?ラジャ」

「ミャー…ナーウ」

「そうよね、おかしいわよね。笑わないよう必死だったのよ」

 ラジャは彼女の足元に降りて、小さなリンゴを加えて彼女に押し寄せた。

「今日は我慢しないでいっぱい食べるのよ。これからもっともっと大きくなるんだから」

 彼女が腰に手を当ててラジャの顔を覗き込むと、ラジャは体を縮めてミャーと小さく鳴いた。

 

「ラジャ、あれ、きれいね。鏡よ、王女さまが使うみたいに立派なものね。ああ、一度でいいから王女さまみたいに豪華に暮らしてみたいな…」

 彼女の目についたのは、左右に隙間なく並ぶ露天商の一つの装飾品を売る店だった。そこには金や銀のアクセサリーや宝石の指輪が所狭しと台の上に載せられていた。とりわけ美しい輝きを放っていたのが彼女の見つけた銀とガーネットの縁飾りつきの手鏡だった。それは縦長の楕円形で、縁に銀色のトラが鏡の後ろから抱き付くような格好になっており、鋭い爪のついた両手が左右から鏡をつかみ、上部にトラの顔がのぞいている。トラの瞳と大きく開いた口の中に見える牙に赤いガーネットがはめ込まれていた。

 ラジャはぴんとした顔を彼女に見せ、まあ任せておけと言わんばかりに駈け出して、宝石の載ったテーブルに飛び乗った。

「ラジャ!」

 ラジャはパールのネックレスをくわえて屋根に飛び移ったり、商品をぶちまけたり、店主をかんかんに怒らせた。

(ラジャ…もしかしてすきをつくってくれたの?あの手鏡を盗むために…)

 彼女はすぐにそばへ寄って、騒ぎにはわれ関せずといった表情をつくりながら、落ちた商品の中からあの手鏡を拾いあげ、口笛を吹いた。

 ラジャは気づき、屋根を上って店主をまいてしまった。

 少女がその場をはなれしばらく走っていると、ラジャが降りてきた。両手でキャッチしてやると、機嫌よくナーゴと鳴いた。

「すごいわ、ラジャ!おまえって天才よ!夢みたい!」

 鏡をさっそく腰の荷物入れからだしてのぞいてみて、あっと彼女は短い悲鳴をあげた。突然口をふさがれ、両手をひねりあげられる。

「だれよ、あんたたち!」

 首だけ振り向くと、そこにいたの紫色のベストを着た大柄な男たちだった。

「お嬢ちゃん、動物を使うならもっとうまく使わなきゃ。じゃないと、簡単にあとをつけられちゃうよ?どろぼうは罪だ。悪いことをした手は罰として切り落とさないといけないんだよ…」

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