眠り続ける姉さんの話
二作目ですね。読んでやっていただけると幸いです。
「あれ、まだ寝ないの?」
時刻は夜二時を回っている。
「うん。コーヒーが効いてるみたいでまだ眠くないんだよね」
姉は僕に対してそう答えた。
あからさまな嘘。聞く側も悲しくなってくる。さっきからずっとあくびばっかしてるの、分かってるんだよ?
姉は一度眠ると長い間目覚めない。医者が言うには睡眠障害の一種なのだそうだ。その時々で眠っている長さはまちまちだが、短い時でも一日は寝続ける。
「寝たくなくても、寝なきゃだめだよ。姉さん、体弱いほうなんだから」
「……」
沈黙が重い。障害を持たない僕が姉さんのためを思って話しても、彼女にはそうとらえられてないかもしれない。そう考えると、沈黙が痛い。
「父さんの時のこと、覚えてる?」
唐突に姉さんはそう話した。
昔、父さんは病気を患って死んだ。心筋梗塞で、ほとんど処置の施しようがなかった。
その時、父さんが死んだ時、姉さんは眠っていた。
父さんが死んで二日後、目を覚ました姉さんがショックで声が出せなくなったことは、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。
「あのとき以来ね、私、寝るのが怖いの。目が覚めたら誰かがいなくなっちゃうんじゃないか、何か大きな変化があって私だけ取り残されちゃうんじゃないかって、それだけで頭がいっぱいなの」
その時の姉さんの心は、すき間がなかったんだと思う。これ以上沢山のことを心に抱かないように、すき間を埋めてしまったんだと思う。
僕はこの時、こんな言葉をかけていた。
「姉さん、自分にしかできないことをしようよ。寝て起きて、異世界みたいな世界に変わってしまったとしても、その世界を楽しんでやればいいんだよ。大きな変化として世界をとらえられるのは、姉さんだけなんだよ?」
「そうだね。そう……考えてみようかな」
そう言って微笑んで、姉さんは自分の部屋に行き、ベッドにもぐりこんた。
………………
姉さんが眠ってから、三ヶ月が経った。
あの時の僕の言葉は、姉さんの心にすき間を作れただろうか。心を少しでも軽くしてあげられただろうか。
三ヶ月、短いようで、とても長い。
姉さん、早く起きてくれよ、僕の前に現れてくれよ……
僕の脳裏には、あの、姉さんの微笑みが未だに焼き付いている。
少し時間が経ってしまったけど、一つ気付いたことがある。
たぶん姉さんは、もう目を覚まして、障害にさいなまれることなく、次なる世界を楽しんでいるんじゃ……ないかな。
今なら、姉さんと同じあの笑顔で、心のすき間にその考えを埋め込むことができる。
他作品も読んでやっていただけると幸いです。
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