暴君の視線
深々と刺さるナイフ。
俺、は、愛、する、人、を、瞳、に、映、し、て、堕、ち、た。
俺は王様だ。第104王だ。俺のお父様第103王は、3人の子供に恵まれた。
次の王になる資格を持った第1子は
俺じゃない。
俺には4歳離れた兄がいた。頭が良くてスポーツもほどほどにできた。けど、俺は頭は中の下から上がったことも下がったことも無いし、運動神経も悪かった。末っ子の妹は何もかも無難にできて良い所へと嫁いでいった。
俺は家の中で一番出来が悪かった。
だから、何て言わないけど俺は不良品として『出来損ない』として生きてきた。誰に期待されることも無く。自分自身に期待することも無く。遊び、遊んだ。家の中では出来損ないの自分が外では『王子』として威張れる。それが快感で仕方なかった。
王族一番の遊び人として中2の時にはもう広まっていた。
「オラスィオン様!お兄様が・・・。」
兄が体調を崩したのは俺が15歳の時だった。俺はその時仮面舞踏会に出ていて、ある女を口説こうとしていた時。
「オラスィオンだと?俺の名前を呼ぶな。兄がどうした?またなんか言ってきたか?」
「違います。オラス・・・『王子』様。危篤です。風邪だと言っていましたでしょう。それが、悪化したのです。」
女は怪訝な顔をしてこちらを見ている。仮面舞踏会の嫌なところは、これだ。俺が『王子』だという事に気づかない。取りあえず、兄のためにも行かなくちゃ。さすがに。
「すまないな。ええと。名前は『べス』だったか?用事があってな。」
女『べス』は美しい顔で笑って「いいの」と消え入るような声で言った。
兄は死んだ。風邪だと思っていたのは「インフル怨嗟」とかいう、恐ろしい病気だったのだ。この国は長いこと鎖国していたので医学に疎いのだ。だからたまに外から医者が来ると目が飛び出るような病気だったりすることがよくあるのだ。
兄の葬儀の日。俺は初めて兄の笑ってる顔を見ました。いつも遊んでいる俺に口を酸っぱくして怒っていた、兄。こんな笑い方も出来るんだ。俺があの顔にさせていたのか。兄は怒りたかった訳じゃない。
いつか、自分が継げなくなった時のことを考え、俺を『普通』にしようとしてくれたのだ。
なのに。
兄の葬儀の次の日。父にその病気が移っていることが判明した。医者はもう祖国に帰っていた。
父は死んだ。これは『王』が死んだことになる。俺はたった3ヶ月の間に『第2王子』から『王』になった。
アタマガツイテイカナカッタ。
僕は『遊んで』良い存在だった。ダッタ、ダッタ、ダッタ、ダッタ、ダッタ、ダッタ、ダッタ。
過去形。
今、は、『遊んで』、は、いけない、存在。
俺は王様になった。
そこから『暴君が治める帝国』と呼ばれる王権が続いた。
右大臣は俺に口うるさく注意するから、じわりじわりと効く薬で殺してやった。
そして死んだ右大臣の妻で、次の右大臣を愛人とした。あの時の女。
妻は3人。愛人は1人。
愛人を作り。愛人を右大臣にして。愛人との間に子を作り。その子をさも正式な姫のように扱い。賭博場の常連と呼ばれ。重税を1ヶ月単位で引き上げた。
ただ、ただ、ただ、ただ、ただ。
あそびたかっただけなんだよ?なんでおこるの?ぼく、なにかした?なんで?なんでないているの?
なんでそんなめでぼくをみるの?ぼくは、ぼくは。
アソビタカッタ。
ただそれだけなのに。
なんでおこっているの?
突然鳴り響いた轟音と、燃え堕ちる王宮と。
バンッ
開いた扉。視界に飛び込んでくる黒髪。
「おお!べス!助けに来てくれたのか!?」
「ええ。王様。貴方をこの世から助け出して上げましょう。」
しかし、べスが出したのは救いの手などではなく。
ナイフでした。
「べス!好きだ!だから、そのナイフは下してくれないかな?」
愛人はあの時と同じように笑って、あの時と同じ消え入るような声で言った。
「私も好きよ・・・オラスィオン。私は、王である貴方を愛したわけじゃないの。」
そして言い淀むと涙を浮かべながら愛人は言いました。
「オラスィオン。貴方自身を愛してたの。だから、私が殺そうとしているのは『王』。」
そしてナイフを閃かせ突進してきながら叫びました。
「死ね!!!王よ!!!」
その時王様の頭に浮かんだ気持ちは。
悔しさでも、
反省でも、
恨みでも、
ありませんでした。
ただ一つ。
【喜び】でした。
ぼくをあいしてくれるの?
オラスィオンをあいしてくれるの?
じゃあ。ぼくはいのるね。
コノクニノヘイワヲ。
オラスィオンね・・・。
ボクガコワシチャッタ、クニノヘイワヲ。
「ベラ――――――――――――――――――――――――――――――ッ」
「眠りなさい、王。」
オラスィオンね・・・。
ヘイワヲ。
何回も出てきているので分かると思われますが、「オラスィオン」は祈りです。
あ、スペイン語です。ついでに他の人の名前の由来も。
べスティーユ・フランス革命の際、真っ先に落とされたバスティーユ監獄をもじって。
ローラン・フランス革命で活躍した、レローラン・ド・ギッシュから。
ヴェイエール・フランス語、もしくはスペイン語の何か。
・・・ヴェイエール覚えてない。すんません。