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右大臣の視線

「大丈夫っ?!逃げなさい。こっちに出れるとこがあるわ。」

私はがんばって真剣そうな顔を作ると用意していた出口を指示した。ヴェイは重いドレスから動きやすいネグリジェに着替えて走ってくる。たぶん、気づいてない。私が確固たる歩調で走っていることを。

「私は王様を。」

殺すわ。


さようなら。もう会うことも無い、娘と息子よ。


私は中流貴族に生まれた。大した出でもなかったのに『右大臣の妻』という称号を貰えたのはこの顔のお蔭だと思っている。あぁ。あと頭も良かったかも。けど目はある事故からほとんど見えなくなっていた。しかしを国外から来た医者に『こんてくと』を作ってもらって見えるようになっていたけど。

夫は元・右大臣のお父さんを持ち、元々・右大臣のお祖父さんを持ち・・・。みたいな人だった。

けど一緒にいると楽しくて。いい夫に巡り合えたと思った。

夫は病弱だった。夫が倒れている時は私も右大臣職を手伝った。王様はとっても幼い人で。心が、だけど。

自分の頭の良さを生かせるのがとても嬉しかった。変な貴族の所に嫁いでいたら腐っていただろう。


だから。死ぬなんて、夢にも思わなかったの。


夫の死に際の言葉。馬鹿みたい。


「今の国の王はダメだ。・・・お前が王になって、帝国を守りなさい。」


死ぬ直前までこの国の事を考えていたのですか?夫よ。血筋でできているこの帝国で?


夫が死ぬ前。確か、2ヵ月前かしら?妊娠していることが分かった。まだ元気だった夫と喜び合ったのよ。

あなたの名前をもじって『ローラン』にしましょう。そこまで決めたのよ。なのに、2ヵ月後。あなたは逝ってしまった。私と、顔も見れなかった『ローラン』を置いて。

夫が逝ってすぐ王様に呼び出された。次の右大臣を発表する、との事だった。血筋で継がれてきた、右大臣。どうせ弟が成るでしょう。私は妻としてお情けで呼ばれたとしか思えなかった。家の者は亭主を失った私を完全に見捨てた。


王の声が響き渡る。幼き馬鹿の声が。

「次の右大臣はべスティーユ・ダンカンとする。」

何て、何て馬鹿なの?後ろ盾の居ない私が。子連れの私が。右大臣ですって?

「王よ!彼女はダンカンを名乗っているが、右大臣家の血筋ではない!」

ほら、すぐ反撃が来るんだから。

「まず、ダンカンの性を名乗っている者しか右大臣になってはいけないという法則は無い。それに、目は青いしな。あと、それ以上【王】に反論するか?」


口だけ発達しちゃった幼く馬鹿な王様の馬鹿な行動はコレだけでは止まりませんでした。


「べスティーユ・ダンカンを公認愛人とする。」

バカな王様。私は子供の安全を保障すると言われ公認愛人になりました。いや、ちょっと愛情は芽生えてったかも。

子供に付けた名前は『ローラン・ド・ダンカン』この国は男には『ド』を付ける風習があるのです。眼が弱い子供だった。まさか、私の目の弱さが継がれちゃうなんて。私は家でずっと命を取られかけました。私が居なくなれば、次の右大臣は弟になるからでしょう。私の子供がいなくなれば、せめて弟の子供を右大臣にして【ダンカン】家の誇りは守れるでしょう。・・・よく分かります。けど、夫のためにも死ぬわけにはいけないのです。


私が王にならねば。この国が滅びちゃう。夫の忘れ形見の子供も守らなくちゃ。


数日後。子供は何者かの手によって誘拐されました。私はもちろん王様に『どういう事!?』と、問いただしました。けど王様は曖昧に答えるだけで何の進展もありません。子供は見つかりません。ローランは見つかりません。ロラーンはもう自己紹介ができるようになってました。『何歳?』と聞くと『2』と言いながら指を2本建てることだって、出来たのです。


もっと見ていたかった。見ていたかった。見ていたかった。見ていたかった。見ていたかった。


ローランが戻ることはありませんでした。


喪に服したいと思って髪を黒に染め上げました。


喪に服したいと思って目を黒にするという『こんてくと』に変えました。


その黒はまるで民でした。貴族からは『汚らわしい』とか何とか言われました。けど。民にはとても人気ですごく有名になりました。


別に望んていたわけでは無かったけど。革命軍のリーダーとも会えました。革命軍のための内通者。つまりは、裏切者になりました。


バンッ

「おお!べス!助けに来てくれたのか!?」

「ええ。王様。貴男をこの世から助け出して上げましょう。」

深々と刺さるナイフ。その返り血は私から放されることは無い。


私は妊娠しました。もちろん、王様の子です。ローランが居なくなってから1年も経っていませんでした。軽薄なのかしら。子供を失った隙間を愛人で埋めることは。

私は妊娠が発覚してから1週間後。王様に謁見を頼みました。

「私はこの子を育てる自信がありません。」

私は王様の驚いた表情を無視して語りました。

「また居なくなるかも知れません。そんな恐怖味わいたくないのです。王様。どうか第2后に育たせて下さい。この子にも【愛人の子】ではなく【第2后の姫様】でいて欲しいのです。我儘をお許し下さい。」

王様は無言でうなずきました。

影ながら見守るのは楽しかった。影ながら成長を見つめていられる。

幸せだった。


これ以上幸せな時は無かった。

「それ、以、上、近づ、いたら、撃つ、ぞ」

ローランだった。2歳の時とはそんなに似ていなかったけど。私と夫の子だ。そう確信できた。私は楽しそうにローランに話しかけた。

「そんなゼーゼー言いながら脅されてもね。おいで。君だって好きで殺しをしてる訳じゃないんだろう?私のカワイイ部下を殺した落とし前、つけなさい?」

部下を殺されたのは本当だった。私は王に隠れて革命軍とこまめにコンタクトをとっていたのだった。その時殺された2人の部下。前科があったのだろうか?一見一市民の私は撃たれなかった。

私が名乗るとボソッと答えた。

「レローラン。小母さんが付けた名前だけど、俺は気にってない。ローランって呼んでくれ。」

やっぱり『ローラン』は死んだ。変わりに来た『レローラン』。私は知っていた。教会で育てられたものは元の名前に(在るとすればだけど)『レ』を付ける習わしを。

私は敬愛を込めて『レロー』と呼ぶことにした。『レローラン』はかなり渋ってたけど。


2人を逢わしたらどうなるかしら?私の娘と、息子。


全ては偶然。そして、その偶然は必然だったのだ。


私が今王様の死体片手に嗤っていることも。


『私を殺して。』秘めたメッセージ。

ローラン。ヴェイエール。貴方達の手で私を殺して。


殺して・・・・。お願い。王の血で濡れた私の躰を浄めてよ。


沸き起こる拍手の中、私は力限り叫ぶ。

「この国は民主主義国になったーっ!もう貴方達は年々大きくなる税に怯えることも無いーっ!そして私は【大統領べスティーユ・ダンカン】だッ!」

「大統領万歳!」「大統領万歳!」「大統領万歳!」「大統領万歳!」「大統領万歳!」

ごめんなさい。夫よ。貴方の遺言守れそうにないわ。


私は【王】には成れなかった。代わりに【大統領】になったよ。それで許して、私の愛おしい夫よ。


「大統領。客人です。なんだか子供だとか何とか言ってますけど。追いかえして宜しいでしょうか?」

「・・・だめ。連れてきなさい。」


深々と刺さるナイフ。


これが私の望んだ人生?


答えは誰にも分からない。

読んで下さり、ありがとうございました。

ちなみに。王族に名字は在りません。だから『王族・ヴェイエール』て事になるわけですね。ま、私が考えるの面倒になっただけなんですが。


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