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姫の視線

私は姫。生まれながらにしてどんどん遠くが見えなくなるという奇病を背負っている。その私の青い目は一見お父様と同じ世に光り輝きながら1メートル先だって確かに映して下さらないのです。

お父様にも言われた。『お前には守り役が必要だ。』と。

彼との出会いの部分だけはお父様に感謝しているかもしれない。


私が8歳の時の事でした。

「オレ、じゃなかった。僕はローランと言います?」

「私はヴェイエールよ。宜しくローラン。」

私は服こそ良いものを着ているが髪はバサバサで可愛らしい顔を隠しているローランに手を差し出しました。ローランはぴくっと固まって隣にいる右大臣を助けを乞うように見つめました。見つめられた右大臣は膝をつき私の手を取って口づけをしました。

「すみません、姫。ローランは少し不作法で。私に免じてお許しください。」

「いいのよ!ティーユ。あなたに口づけされるなんて嬉しいわ。」

にっこり笑った右大臣はとても美しい女性でした。そして王様の公認愛人でもあり、中級貴族からのし上がってきたエリートでもありました。

「あとはお二人で。姫の安全は任せましたよ。ローラン。」

右大臣は暖かくどこまでも暖かく微笑みました。


あれから3年。ローランは前髪をピンでオールバックにした14歳の青年になっていました。オールバックをしたことで見えた可愛らしい顔についている眼は青い・・・近くの見れない眼でした。

「ヴェイ。お茶が入りましたよ。」

「ありがとう。」

ドォォンッ!

その時。鳴り響いた音は確実に私の運命を変えていったのでした。

「何これ?ロー。何なの?怖い。」

「大丈夫だよ。ヴェイ。僕が守る。」

ローランは組み立て式のライフルを取り出し順調に組み立てていく。

「何で?ロー。火事なんだよね?なんでライフルの準備するの。」

「・・・これは火事じゃないよ。革命なんだよ。ヴェイ・・・。」

私は『革命』という意味が分かんなかったけど、ローの悲しげな顔とライフルを握りしめる手の震え方でだいたい分かったつもりだった。・・・その思いは後で裏切られる。

ドォォンッ!

「僕についてきて・・・ね。」

ドォォンッ!

爆発は近かったのであろう。絢爛豪華な扉がうち崩れる様を私は見た。煙が肺に入ってくるのを感じる。

怖い。私の日常が崩れていく。私は、ここで、生まれて、ここで育って。

あぁ、今、気づい、た。私は、ここから、出た、こと、が、ない。けど、それ、を・・・嫌、だと、思ったこと、もな、い、と。

「大丈夫っ?!逃げなさい。こっちに出れるとこがあるわ。」

私の恐怖を止めてくれたのは右大臣だった。すすけた顔をして誘導する。しかしもう出れるという所まで来ると私たちを先に行かせ呟いた。

「私は王様を。」

私達は頷き合って離れた。・・・あぁ。この時。右大臣を一人にしなければ。

私達の運命は変わっていたかもしれないね。ロー。


燃え盛る私の家。崩れ落ちる私の家。誰かは王宮は権力の象徴だと言うけれども。そこは私の家(・・・)でもあるのよ?権力関係無しに私の思い出の詰まった家なのよ。

けど、私の目では。もう堕ちてゆく家の姿も見つめられない。見えない。見られない。ぼやけてぼやけぼやけてぼやけてぼやけてぼやけてぼやけて・・・見えない。

「ロー!家は?家は?どうなってるの?あなたなら見えるでしょ?私と違う目なんだから。」

「今、最後の柱が堕ちました。ヴェイ。お願いだから自分の目を責めるのは止めてください。普通の人間ならもう見えなくても普通です。」

煙と怒涛と火の粉と流れ弾と私の存在に気付いた人間と。全てを排除しながら私を引っ張るローは。


自分の目を責めていた。


私達がたどり着いたのはある民家だった。フラフラと当てもなく歩いていたら急に呼びかけられたのだ。

「そこの二人、えらく汚いねェ?革命現場の近くにいたのかィ?」

「そうなんですよ。ちなみに追われてるんです。金ならあるのでかくまってくれません?」

ローが言ったことは信じられなかった。いきなり起こったことなので金目なものなど持っているはずなどないのに。

「汚いねぇ、僕。いいよ。入りなさい。どうせ、その眼だったら追われるさ。」


朝起きたら。薄暗かった。背中を含め節々が痛かった。寒かった。汚かった。ローが微笑んで『お茶が入りましたよ』と言ってくれなかった。朝ご飯がおにぎり一個だった。

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら『どっか行ったよ。』と言われた。

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら『え・・・。お前、さっき』と言われた。

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら『お前さん大丈夫か?』と言われた

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら『こりゃ、ヤバいな。』と言われた。

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら無視された。

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら同情の目を向けられた。

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら『ごめん。』と言われた。

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら『私の存在じゃ・・・。』と言われた。

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら『お前を助けられないようだね。』と言われた。

ローが居なかったので、おばさんに聞いてみたら・・・

ローが来た。ローが来た。ローが返ってきた。

「ロー!おはよう!」

「おはよう。ヴェイ。目が覚めたんだね。」

その時、やっと気づいた。ローの髪が無くなっている。凄く短くなっている。前髪は顔より長かったのに。後ろ髪は肩チョイ下だったのに。

「髪が・・・。」

「大丈夫です。お金に換えてきただけですから。はい、おばさん。」

「ん。そこに置いときなァ。」

初めて知った。髪はお金になるのか。私は。自分の長い金髪に触れた。


次の日。私たちは王宮に・・・元・王宮に行った。酷い有様でがれきの山だった。

「ダレモイナイジャナイ。だれもいないじゃない。誰も居ないじゃない。誰も・・・誰も・・・居ないわ。」

私は元・王宮を踏みつけて呟いた。誰も、誰もいやしない。それもそうだ。ここは爆破されたのだ。

「ヴェイ。戻りましょう。ココにいたら怪しまれます。」

「けど。ここに行ったらお父さんに会えるかなと思ったのよ。右大臣も。」


その時。


私はその後必ず忘れられない声を聴いた。


《国民の皆さんこんにちは。ゴホッ。私はべスティーユです。王、ゴホッ、を殺した人として有名ですが。ゴホッ殺人鬼という訳では無く。人が、ゴホッしぬのは普通に怖くゴホッて・・・ゴホゴホッゲフッ・・・ゴホッゴホッ。済みません。もう一度いいですか?》

「この声、右大臣、だ。そうじゃなくても右大臣の名前は・・・べスティーユ!」

「かなり弱ってますね。」

《先ほどは失礼、さて、王様を殺したわけですが。私は次の王権を握りたい訳じゃありません。私は民主主義国にしたいだけなのです。そして、まぁ私は大統領じゃなくてもいいです。けど、大統領を付けて民主主義国として・・・この国を有益なものへとしませんか?反発等がある方は近くの役所に行って異議だてをして下さると光栄です。聞いて頂き、ありがとうございました。》

「右大臣は。アイツは。殺しに行ったのよ!『私は王様を』とか言って、殺しに行ったのよ!」

「叫ぶなんて、良くないですよ。ヴェイ。目立ちます。それにしても、何で2回目は饒舌だったのでしょうか?」

「なんで・・・っ何で、そんなに冷静なのよ!殺して弱ってるっていうアピールがしたかったんでしょ?!私は姫だったのよ。アイツに下されたのよ。私の道はどうなるの?アイツに折られた道を進むはずだった私はどうすればいいの?」

そこで静かに目を伏せたローを私は睨みつけました。けど、私はローを怒りたいわけでは無いのです。

「ヴェイ。僕と一緒に道を作りませんか?」



これが私達が旅に出ることになった理由です。

あら、長々と書きすぎたようだわ。


けど、まだ終わらない。書かなくちゃならないもの。私達が右大臣が殺すとこまで。


その死に様まで。


こんな長いのに次もあるとか言ったら怒られそうですが。姫の視点は終幕ですです。次は傍らに立つ少年の視点になるか、と思いますのでお楽しみくださいまし。

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