うなぎ
「これでどんな敵がきても大丈夫だ」
体力が回復したクロゥは立ち上がった。
"ミシミシミシ"
何かが音を立てると同時に、足元が膨れ上がった。
「な……なんだ!?」
「離れて!」
エミィが慌てて二人に退くように言うと、二人は即座に反応して退き、今もなお膨れ続けている地面を黙視していた。
"ドッ"
地面の膨れ上がりは、弾けて当たりには地面の破片が飛びかった。
「吹き過ぐ風よ 精霊達よ 我が手に集いて力となれ! ウインドブリット!」
杖の先端からは何かが放たれると同時に、こちらに向かってきた破片が崩れた。『衝撃波』だ。
ひと段落ついた三人は、地面が膨れ上がったところを黙視した。
「白い…うなぎ……?」
沈黙を破って第一声を発したのは、ベリーだった。
「これが依頼にあったエル・ドラグーンか……?」
「敵の名前なんかどうでもいい!」
ベリーはそう言って矢を構え、エル目掛けて矢を放った。
"ヌルッ"
放たれた矢はエルに当たったが、何故か矢は刺さらなかった。
「そんな!?」「なにっ!?」
『エル・ドラグーン……鱗は無く、全身がぬるぬるした粘液で覆われている手足や翼の無いウナギのような竜。エルの体に纏わりついているヌルヌルする液体は、矢や刃などの鋭利な攻撃を無効化する……』
ベリーとクロゥがパニックになって焦っている中、エミィだけは冷静に相手のモンスターの把握をしていた。
『粘液の下の皮膚の色は砂上墓所などの涼しい場所では青白い色になり、昼の暑い砂漠では赤色に変わるという不思議な性質を持ち死ぬと真っ白になる。この竜が放つブレスも皮膚と同じ様に場所によって変わり、涼しい場所では冷気を帯びた光線を、暑い砂漠では焼けつくような熱線を放つ。だとしたらここでは冷気を帯びた光線を扱う……』
エミィの把握を聞いていたかのように先ほどまでじっとしていたエルが、把握が終わると同時にエミィ目掛けて流れるように滑走してきた。
「俺たちを無視してエミィを狙うなんて、100年はえーよ!!」
喋りながらエミィの前方に出たクロゥは、刀を構えて攻撃を防ごうとしていた。
エルはクロゥの目の前までくると、鋭い牙で食らいつこうとしたが、体の内部には当然ぬるぬるはなく、牙はなんなく防げた。
"ヒュオオオオ"
「な、なんだ? 急に寒くなってきたぞ……?」
「冷気を帯びた光線、ネイチャーブレスを放つ気だ! 離れて!」
即座に気づいたエミィが注意を促したが、クロゥの頭では理解できていないご様子……。
「我が前に立ちふさがる愚かなる者に、我が内面の世界で無限の地獄を見せん! イリュージョン!」
エミィが魔法を発動したが、魔方陣は展開されず……。
「今のうちに離れて!」
二度目の注意で、クロゥは反応して即座に飛びのいた。
「おい、何をしたんだ? 突然動きが止まったが…」
「精神に直接働きかける魔術によって、今のあいつには幻の茨が絡みついとるように見えて、それを本物と認識しとるのじゃ。今のうちに作戦を立てるのじゃ! いくぞ!」
エルから三人は距離をとるために走った。
「先にいっておけ! 幻術を突破されたときのことも考えて壁を作っておくから!」
命令を聞いた残りの二人は、そのまま走っていった。
「母なる大地よ 我が前に出で 万槍を弾く盾となれ! アーシーウォール!」
エミィの少し前の足元には魔方陣が現れ、とたんに土が膨れ上がり、土の壁となった。
土壁の造形が終わると、二人においつくべくエミィは走った。
「体力的にはあやつらのほうが高いから、追いつけないわね……」