砂の村サンドヴィレッジ
――中央都市リエステール。そこは中央都市の名に恥じず、
その大きさは南側の街の中では最大規模と言えよう。
武器屋、道具屋、能力(魔法を示す)の店に酒場、大規模な屋敷も有り、
聖アルティア教会聖堂、住居区など。
そこには、箒やボードで空を飛び交う者たちが多く居た。
また、自警団も数多く駐屯し、平和な街である。
そんな中、魔物の討伐依頼を頼まれたあるギルドに所属する者達が旅立つ準備をしていた――
「燃焼薬と石化薬、それとスライム破裂薬をください」
ある店の前で、弓と矢筒を肩にかけてある少女が買い物していた。
「まったく、やっと旅立てるのか。雑魚相手にそんな準備するこたぁねえだろうによ」
後ろからひょこっと現れた、腰に剣を差してある男がいった。
「射手は矢がいるから必然的に依頼前は買い物が必要なの!」
少女は、会計を済ましながら後ろの男に反論をいった。
「ふ~ん」
男は関心なさげに他の店を見ながら返答を返した。
視線の先には、黄の髪に赤い瞳、ゴスロリの服の美人が居た。
「まったく、これだから男は……」
男を白眼で睨みながらぼそっと呟いた。
「ほら、いくよ!」
男の服をつかみ、道に沿ってズンズンと歩いていった。
「離せよ! 自分で歩くからよ!」
男がそう言うと、少女はその手を離した。
「歩いていくと時間かかるし飛ぶ?」
「あぁ。そのほうがずっと楽だろ」
少女は男の承諾を得ると、右手首に装着してあるブレスレットの宝石部分を地面に向けた。
それに続くように、男もだ。
「エアロボード!」「エアロブルーム!」
二人は名称が違う言葉を言うと、ブレスレットからは光が放たれ、
どこからともなくボードと箒が現れた。
二人はそれぞれ自分の飛行道具をつかんだ。男はボードを。少女は箒を。
そして二人はそれに乗ると、上空へとものすごいスピードで飛び立った。
元居た場所には砂埃が舞い、そこにいた人達は目を押さえながら咳をしていた。
"ビュン"
「おい! 何でお前の箒はそんなにはぇんだよ!」
「へっへ~ん、あんたのボードと違って安物じゃなヘブッ!」
「ざまぁみろ! 俺はお前と違って安物の箒じゃねえから、小回りが利くんだよ」
男は、樹に激突した少女に向かって言った。
「なんですってぇ!」
後ろから追いついた箒乗りの少女は、弓を構えていた。
「お、おい! 落ちつけぇ!」
必死に男は止めたが、時は遅く、数本の矢が放たれていた。
「なんでよけるのよ!」
少女は、頬を膨らませて言った。
「はん、ボードは小回りが利くんだよ!」
「きぃ~!」
少女は、猿のような奇声を上げて男を抜き、どんどん先に行った。
「あっ、おい!」
男は必死においつこうとしたが、箒の速度にはおいつけず……。
「やっと止まったか!」
ある村の上で、少女は止まっていた。
「遅い遅い! ここだよここ!」
すっかり機嫌を直し、いつも通り元気に振舞っていた。
二人は迷惑をかけないようゆっくりと地上に降りた。
「ここか、砂の村『サンドヴィレッジ』は」
二人はそれぞれの飛行道具に指輪を向け、
光が発せられると飛行道具は吸い込まれるように消えていった。
「さて、どうす――」
「よくぞいらしてくれました」
男の声を遮り、後ろから老いたおじさんが話しかけてきた。
「ここの長老ですぞ。そんな警戒しなくてもよろしい」
長老が言ったとおり、二人は弓と刀に手を当てていた。
二人は、安心したようで手を離したが、多少警戒している。
「詠唱発動準備なぞせんでよいぞ。そこまで疑われていると、笑うしかないの。ホォッホォッホォッ」
「……よく分かったねおじさん!」
「ところで、君たちの名前はなんというのじゃ?」
おじさんは二人の目を数秒ずつみて聞いた。
「あっ、あたしの名前はヴェロニカ・ビリアッツィ。通称ベリー!」
「俺はクローディア・プレスコット。通称いるのか? 通称はクロゥだ」
二人は普通どおり名乗ったが、長老は目を大きくして固まっていた。
「き…君たちは……あのギルドの……?」
「うん、あたしたち|Pantheon of phantom《幻の神々》に所属してるの」
「ああ、俺たち|Pantheon of phantom《幻の神々》に所属している」
二人の声がはもった。
「おぉ……それなら安心して頼めるわい」
長老は、自慢の髭を撫でながら言った。
「気をつけていってくるんじゃぞ」
「もちろん!」「あぁ」
そう言って二人は踵を返して反対方向へと歩き出した。