思惑
祇園と聞いて何を思い浮かべるだろう?
花は祇園の街を歩きながら、久しぶりの休日を謳歌していた。
芸妓と呼ばれる女たちが近頃はびこるこの祇園町には、様々な土産屋が並んでいる。
「かんざしは、しない方がいいよ」
さっきから黙っていた黒澤修二が、花がかんざしを吟味していると茶々を入れてきた。
花は、それには答えず、さらにかんざしを見ていると、「素直じゃないなぁ」と、黒澤が言った。
「はっかをお食べよ」と、黒澤が言う。
花は、目の前の金平糖を見た。けっこうお高い。
「何なら買おうか?」
「要らぬ」
花は答えた。
この真夏の京都に、黒いコートを着ている黒澤を、奇特な思いで花は見ていたが、黒澤のおかげで休日を得たものの、彼の「ちゃちゃ」には辟易する。
「喉が渇いた」
八坂まで来た時に黒澤が言った。
「ほら、あそこに自動販売機がある」
黒澤が自動販売機の方に行くのを、花はほくそ笑むように見ていた。
「やけに高いのぅ」
戻って来た黒澤の手には、ペットボトルの水があった。
花は肩透かしをくらったが、「ただの水じゃけん」と言った。
「でも、冷えてる」
花は、ペットボトルの水を受け取る。
「開けようか?」
黒澤が先回りして言う。
「要らぬ」
花がペットボトルのフタを開けるのを黒澤はしばし見ていたが、無事に一口水を飲むのを見ると、「コーヒー飲みたくない?」と、花に聞いた。
(コーヒー・・・)
花は先ほどの店で香っていたいい匂いを思い出す。
なかなかここ祇園には来れないのだが、黒澤は祇園に顔がきいた。
「ケーキ付なら」と、花は答えた。
「花は、贅沢やのぉ」
大阪の黒澤修二は、河原町のパトロンとなるべく動いていた。
黒澤にとって花は、十五の小娘ではなく、まるで、十分成熟した女に見えた。
今日は着物ではなく、ワンピースに身を包む。
(脱がしたらどうだろう)
この高慢ちきな女、花を、かしずかせるほど男の醍醐味はないだろう。
「やっぱり買おうか?」
ふと思い立った黒澤は、先ほどのかんざしの店の方を指さした。
花が、それには答えず再び水を一口飲んでいる。
(男の気持ちも知らんで)
黒澤は、喉まででかかった言葉を飲み込んだ。
気温はかなり高いが、今日の湿度は京都らしからぬ。
先ほどの金色のかんざしが花を誘っていたが、逡巡したあげく花は答えた。
「黒澤様をなんとお呼びすればいいじゃろ?」
履きなれぬサンダルは、靴下を履いている花の足には不安定だ。
「修二」
「なら、かんざしは勘弁してくれまっしゃろ」
狐火が立つ。
「散歩は夜がいいのぅ」
黒澤はそう言ってから、「サンダルは裸足がよかろう」と花の腰を引き寄せた。




