エピローグ
無事にマグナスを捕まえた後、秘密の研究所を見つけたり、そこにあった資料から、菌の開発についての更なる情報を見つけたりと、色々済ませた私は、疲れすぎてベッドに頭から飛び込んでしまった。
「仕事で忙しかった時と比べたら、そんなに動いていないはずなんだけどなぁ……」
きっと、やっと全てが終わったから、気が抜けて疲れがどっと押し寄せてきたのかもしれないわね。今も眠くて仕方がない。
「それにしても、復讐のためにあんな研究をしていただなんて」
マグナスの資料の中には、恐ろしいものがあった。それは、何度も失敗を重ねた人体実験の記録だった。
あの薬を開発するにあたって、マグナスは身寄りのない子供を買い取り、実験に使っていた。記録を見る限りでは、何十人もの子供が巻き込まれている。
その子供達は、同じ様に隠された地下牢に入れられていたそうだ。私はそこに行っていないけど、中に入った騎士団の人曰く、生存者は一人もいなくて、地獄のような光景だったとのことだ。
変わり果てた子供達は、国が責任をもって弔うと言っていた。私も落ち着いたら、彼らのお墓参りに行こうと思っている。
「おや、先に帰ってきていたんだね」
「おかえりなさい、サイラス君。結果はどうだった?」
「想定通りだったよ。ギルドの解体、爵位の剥奪、そして処刑だってさ」
今日はマグナスの裁判が行われる日で、サイラス君はその裁判を傍聴しに行ってくれたの。
とはいっても、既に結果は見えていたから、あくまで確認のためという側面が大きい。
「やっぱりそうなるわよね。妥当すぎて、特に言うことも無いわ」
「そうだね。俺も同意見だ」
「ところで、随分と帰るのが遅かったけど、何かあったの?」
「とある人と話をしにいっててね。明日、会う約束をしたんだ」
明日って、私達はお休みの日じゃないの。せっかく久しぶりに二人の休日が重なったから、デートでも行こうと思ってたのね……残念。
「だから、明日は予定をあけておいてくれ」
「私も一緒に行くの?」
「君がいないと始まらないよ。なにせ、結婚式用のドレスを仕立ててもらうのだから」
「……へ?」
結婚式? 結婚式って、あの結婚式のことよね? 私が変な早とちりをしているわけじゃないわよね?
「ほら、結婚は二人が落ち着いたら挙げようって、付き合い始めた日に決めただろう?」
「そ、そうね」
「今回の一件も含めて、色々なことに決着がついたし、国王様のおかげで、そろそろ仕事も落ち着きそうだろう?」
実は、国王様が今回の一件の褒美として、たくさんの援助をしてくれた。そのおかげで、支部を増やしたり、人員を更に沢山増やせる目途が立った。
人が増えれば、当然個人の負担は減る。その影響で、私達の仕事の負担はかなり減り、自分の時間を取る余裕が出来そうなの。
「だから、いいタイミングかなって。それで、うちと古くから付き合いがある仕立て屋さんと、会う約束をしてきたんだ」
そうだったのね。突然すぎて、実感がわかないけど……サイラス君の言う通り、良いタイミングかもしれない。
「そういうわけだから、明日は予定をあけておいてくれ。それが終わった後は、のんびりとデートを楽しもう」
「あ、私が先にデートに行こうというつもりだったのに。もうっ……ふふっ」
愛する人とついに結婚できると思うと、顔のにやけが抑えられない。胸もドキドキしていて、体中が燃えるように熱い。
こんな状態で、眠れるかしら? 大切な日だというのに、寝不足で台無しになんてなったら、笑うに笑えないわ。
****
翌日。私の嫌な予感は的中して、寝不足になってしまいながらも、なんとか約束通りの時間に仕立て屋さんに行き、採寸やドレスの見た目の話し合いをしてきた。
私はそこまで希望は無かったのだけど、サイラス君が色々と注文をした結果、完成は随分と時間がかかってしまいそうだ。
個人的には、結婚式は早く挙げたいけど、まだ完全に落ち着いたわけじゃないから、今のうちに出来そうなことを片付けられそうで、ホッとしている。
あと、今のうちに心の準備も出来そうだわ。これで、急に来週結婚式ですとか言われてたら、緊張しすぎて倒れていたでしょうね。
「さてと、一番の目的は達成したし、どうしようか」
「…………」
「エリシア?」
「……平和ね」
「ああ、そうだな」
休憩で立ち寄った公園のベンチに座り、賑わう町をボーっと見つめながら、ボソッと呟く。
これは聞いた話だけど、あの病気が流行している時は、外を歩いているのは、発症してしまい、なんとか診てもらうために助けを求める人や、忙しそうに走り回る医療関係者しかいなかったそうだ。
そんな誰も望まない未来を変えて、再び穏やかな日常を取り戻せて、本当によかった。
「ごめんなさい、ちょっと感傷に浸っちゃったわ。次に行く所だけど……一つ提案というか、お願いがあるの」
「お願い? なんだい?」
「今回の結婚の件を、報告しにいきたいの。最近忙しくて、会いに行けなかったのもあるし……」
「ああ、なるほど。それじゃあ、そこの花屋に寄ってからいこうか」
「ありがとう、サイラス君」
私はサイラス君と一緒に、お花屋さんで素敵な花束を購入してから、馬車に乗ってとある場所へと向かった。
その場所とは、実家の敷地内にある、お母様のお墓だ。
「お母様、最近全然来れなくてごめんなさい。お仕事の方で、色々あって」
今日も綺麗なお母様にお花を供えてから、静かに両手を合わせて報告をする。
結婚の報告だけでなく、前回帰ってきた時に、お付き合いの報告をお父様にしたのに、ミラの件で頭がいっぱいになって報告に来れなかったから、そのことも伝えた。それだけじゃなく、今回起こったことも伝えたわ。
「ふう……」
「もういいのかい?」
「ええ、大丈夫。待たせてごめんなさい」
まだまだ報告しようと思えば、余裕で出来ると思うけど、お母様が疲れちゃうだろうし、サイラス君にこれ以上待ってもらうのは、申し訳ないからね。
「俺は全然平気だよ。報告をする君の綺麗な横顔を、独り占めできるんだからね」
「もうっ、そういう恥ずかしいことは言わなくていいの!」
お母様の前でも、いつもと変わらないように褒められて、いつもと変わらない反応を返す。
恥ずかしいけど、私は今は幸せなんだってことを、お母様に見せられて、なんだか嬉しい。
「あははっ、照れるエリシアも可愛いな。ところでエリシア、聞きたいことがあるんだが」
「なにかしら?」
「これから君は、どうするんだ?」
「……??」
「ほら、薬師になって叶えたい目標があっただろう? その大半は、既に叶ったじゃないか」
確かに私は、確かに目標だった復讐は果たした。ギルドを世界一の薬師ギルドにすることも叶えた。そして、世界中に蔓延しそうだった菌を根絶することで、苦しむ人達を助けることもできた。
しかし、これでは苦しむ人達を助けるという、大きな目標を完全に叶えたとは言えない。ううん、こればっかりはどれだけ頑張っても、完璧な形で叶えられるものではないのかもしれない。
「私は、これからもあなたと一緒に薬師を続けるわ」
「そうか! 俺も旦那として、ずっと君の目標を叶える手助けをするよ! だから……これからもよろしくな!」
とても頼もしい言葉をかけてくれたサイラス君に、私は深く頷いてから、その愛を確かめ合うかのように、唇を重ねた。
サイラス君……ありがとう。私も妻として、あなたをずっと支えさせてね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
読んでいただいた方々に、お願いがございます。5秒もかからないので、ぜひ⭐︎による評価、ブックマークをよろしくお願いします!!!!
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!




