第九十五話 犯人の名は
沢山の貴族達で賑わう会場のステージに、司会者の男性が立つ。彼は前回のパーティーでも、司会を務めていた人だ。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。では初めに、国王陛下からご挨拶がございます」
「うむ。皆の者、今日は集まってくれたこと、誠に感謝する」
すっかり回復した国王様は、以前と同じように、堂々とした振る舞いをしている。
そんな彼の言葉に、近くにいた貴族の中から、無理やり参加させたくせに……なんて、不敬な言葉が聞こえてきた。
「今日集まってもらったのは他でもない。つい先日、この国が崩壊してもおかしくないくらい、大規模な感染病が流行した。しかし、我々はその病を乗り越えることが出来た。それを祝して、この宴を開かせてもらった」
国王様が挨拶をしている間に、参加者の中からマグナス様の姿を探す。すると、さほど苦労することなく、その姿を見つけることが出来た。
私の知っているマグナス様とは別人なんじゃないかと思うくらい、頬は痩せこけて、血色も悪くなっている。
自分が犯人だと悟られないように、堂々としてはいるものの、目がいつもよりも泳いでいるし、私が見ていることにも気が付いていない。
そんな状態になるくらいなら、来なければいいのにと思う人もいるかもしれないけど、このタイミングで参加しなければ、参加したくない理由がある……つまり、自分が犯人だと遠回しに伝えることになるかもしれないから、参加せざるを得なかったのでしょうね。
もちろん、そう思わせるのは、こちらの目論見通りだけど。
「しかし、呑気に祝っている余裕も無いのが現状である。なにせ、今回の感染病は、人の手によって作られたものなのだ」
病の正体を知らなかった貴族達から、動揺の声があがった。その中で、マグナス様が一番動揺しているように見えた。
「その感染病について、特効薬を開発したエリシア・チュレヌスから、皆の者に発表がある。エリシア、ここに」
「はい」
私は国王様に呼ばれて、彼のところに行こうとすると、サイラス君に優しく肩を叩かれた。振り向くと、とても凛々しい表情で頷いていたから、私も頷き返して、改めて気合を入れた。
こういうのは、国王様の口から発表した方が良いのかもしれないけど、一応薬を作ったのは私だから、私が発表した方が説得力が増すだろうと国王様が仰っていたから、私が話すこととなったの。
「今回の事件を起こした菌ですが、感染した動物から血液を採取し、それを薬として利用する……つまり、血清を用いて解決することが出来ました。同時に、私達はこの事件の首謀者の情報も手に入れました」
更に動揺が広がる中、私はそれを気にせずに、チラリと出入り口の方に目をやる。
これからマグナス様を断罪するというのに、逃げられてしまっては元も子もない。だから、アリ一匹すら通さないように、警備をするようにお願いをしている。今したのは、その確認だ。
「この事件の首謀者の名は……マグナス・バラデュールです!!」
沢山の参加者の中にいるマグナス様のことを、ビシッと指差しながら高らかに宣言すると、周りの視線が一斉に集まった。
その渦中にいるマグナス様は、顔を青ざめさせながら、うろたえているのが見て取れた。
「あのお方、確か最大手の薬師ギルドの長ですわよね? 最近は、見るに堪えないくらいボロボロと伺いましたが」
「それだけじゃなくて、以前彼女に製薬勝負をしかけて、惨敗して恥ずかしい思いをしておりましたぞ!」
「まさか、落ちぶれたからってこんなことをしたのか! ふざけるな、人殺し!!」
動揺の声、怒りの声が会場を支配する中、国王様の静粛に! という一言で、会場は静寂に包まれた。
「ふ、ふざけるな! 私がそんな馬鹿げたことをするわけがない!!」
「証拠ならあります。ミラ!」
「はーい!!」
会場を一望できる上の階に待機をしていたミラは、お城に仕える人達と協力をして、沢山の書類をばらまいた。
この書類達は、ヘレナ様から貰った書類を、予め書き写したものだ。これを参加者達に見てもらって、マグナス様が犯した悪事を知ってもらうという魂胆だ。
「馬鹿な、どうしてこの情報が……!? 私の近くに、スパイでもいたのか!?」
疑うのはいいけど、その対象をヘレナ様にしない辺り、なんだかんだで今も愛しているのね。それか、ヘレナ様が上手くマグナス様を手駒にしていた可能性もある。
まあ、マグナス様が誰を疑おうと、誰を信じようと、この先の展開は変わることは無いから、どうでもいいのだけど。
「あなたの犯した罪は、全てわかっているわ! 菌のことも、秘密の研究所のことも、自分の手を汚さないように、罪も無い人を巻き込んだことも!」
「ぐっ……ぐぐっ……! くそっ、退け! ぶっ殺すぞ!!」
なりふり構わずに、必死にこの場から逃げようと、参加者達を押しのけるが、出入り口は完全に固められている。
それに、会場の外には、国王様が用意してくださった騎士団が配備されている。万が一にもこの会場から出られたとしても、戦士でもないマグナス様が捕まらない可能性は、限りなくゼロだ。
しかし、万が一ということもある。確実に捕まえるために、妥協は一切しないわ。
「こんなところで、終わってたまるか……なっ!?」
逃げようとするマグナス様の足元に、とある薬品が入った瓶が投げられた。その瓶は甲高い音を響かせながら割れ、中の液体がマグナス様の足元にかかった。
すると、その液体は一瞬で泡の様にもこもこと膨れ上がり、マグナス様の足を覆いながら、石の様に固まった。
「どうです? 僕が特注で作った足止め用の薬の味は」
「レージュ君、さっすがー!」
薬を作り、投げ込んだ張本人であるレージュ様が、眼鏡をクイっと上げながら、何とか逃れようと暴れるマグナス様を見下ろしていた。
その隣では、いつの間にか降りてきたミラが、レージュ様の腕に抱きついていた。
「こいつ、散々あたしのレージュ君やお姉様を苦しめて! 絶対に許さない! 手始めに、体中をひっかいて、思い切り噛みついてやるっ!」
「我々がこれ以上何もしなくても、彼には正義の鉄槌が下される」
ここからだと、なにを話しているのかわからないけど、気にしていても仕方がない。早く目的を果たさないとね。
「マグナス様! いや……マグナス! あなたはもう逃げられない!」
「くそっ! こうなったら、貴様ら全員道連れにしてやる!!」
マグナスは、懐から透明な液体が入った瓶を取り出した。
「こいつは、さらに改良を加えた菌だ! こいつに感染すれば、貴様ら全員一瞬であの世行きだ!」
まさに狂気という表現がしっくりくるような、君の悪い笑みを浮かべながら、マグナスは瓶を叩き割った――
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