第九十一話 無事に一段落
「落ち着いた?」
「うん。ありがとう、お姉様」
ひとしきり泣いて、目を真っ赤にしたミラは、私に心の底からの笑顔を見せてくれた。
いつも明るい、太陽のようなミラには、やっぱり笑顔が良く似合う。
「さてと、それじゃあ私はそろそろ行くわね」
「もう行っちゃうの? せっかくなんだし、もうちょっとお喋りしようよ」
「そうしたいのは山々だけど、仕事が沢山あるの。それに、私のようなおじゃま虫がいたら、レージュ様が目を覚ました時に邪魔でしょう?」
いたずらっぽく笑いながらウインクをした私は、レージュ様のことをミラに任せて、スタッフと一緒に部屋を後にした。
「ごめんなさい、無理やり外に連れ出してしまって」
「いえいえ。彼の容体は落ち着いていましたし、少しの間なら離れても問題はありませんよ。先程の女性は、彼の恋人なのですか?」
「その一歩手前って感じです。あの子、レージュ様が倒れてから、ずっと心配してたので、二人きりにしてあげたかったんです」
「そうだったのですね。それじゃあ、頃合いを見て戻らせてもらいます」
「ありがとうございます」
話の分かるスタッフに何度も感謝を伝えていると、別のスタッフの男性が、血相を変えてやってきた。
「ここにいた! あの、エリシアさん! 一緒に来てください!」
「は、はい。どうかしましたか?」
「サイラスさんが!」
「えっ……サイラス君が!?」
彼に連れられて、急いでサイラス君のいる病室に向かうと、そこには変わり果てたサイラス君――の姿は無く、代わりのサイラス君の周りに、無数のお皿が置かれていた。
「あむ、もぐもぐもぐ……がつがつ……ごくんっ。おかわり!」
「さ、サイラス君?」
「おお、エリシア! どうしたんだ、そんなに目を丸くさせて?」
人が心配して飛んできたというのに、当の本人はまるで病気なんて無かったかのように、けろっとした表情で豪快に食事をしている。
……う、うん。薬が効いたのはよくわかったけど、この料理の残骸である皿の山は一体??
「エリシアさん、あなたからも何か言ってください。食欲があるのは喜ばしいのですが、ここまで一度に食べると、体への負担が……」
先ほど私を呼びに来た男性は、困ったように頭を抱えている。
彼が困るのはもっともだ。いくら回復に向かっているとはいえ、食べれば良いというものじゃない。
「ねえサイラス君、どうしてそんなにごはんを食べているの?」
「もちろん、体力の回復のためさ。病に倒れて動けなかった間、体力が落ちてしまったからね。たくさん食べて、たくさん寝て、一日でも早く君とまた一緒に活躍できるようになってみせるよ!」
サイラス君の気持ちはとても嬉しいし、早く一緒にまた頑張りたいという気持ちもあるけど、だからといって、他の人に心配をかける手段を取るのは感心しない。
「サイラス君、あなたはまだ病人なの。スタッフの人達が止めるようなことを、やっちゃいけないわ」
「だから、その病人から普通に戻るために、こうして――」
「サ・イ・ラ・ス・く・ん?」
「は、はい……いうことを聞きます……」
「よろしい。素直なサイラス君は大好きよ」
怒られて落ち込んでいたというのに、大好きという言葉一つで、サイラス君はとても嬉しそうにしている。表情は緩みに緩み、変な笑い声が漏れている。
大げさだなと思う反面、きっと私が逆の立場だったら、同じ様に人に見せられない顔をしていると思う。
……なんだか、あれだけ切羽詰まって薬の作り方を模索してたのが嘘みたい。早くこんな日常を取り戻すためにも、薬をどんどん量産していかなきゃね。
****
あれから一ヶ月後。私達はたくさんの薬を作り、それを無償で病気に苦しむ人に投与する生活を続けた。
そのおかげで、病気に苦しむ人達はどんどんと減っていき、今では患者の数が、百分の一にまで減少したという報告を受けた。
ここまでくれば、もう安心。臨時のチームも解散して、日常に戻った。めでたしめでたし……なんて、口が裂けても言えない。
これは人為的に起こされた事件だ。ということは、事態を収束させないために、犯人がまた行動を取る可能性がある。
その可能性に対処できるように、今日も薬の量産と、薬の効果を高めるための研究を、サイラス君のギルドの製薬室でしている。
「エリシア、そろそろ休憩した方が良いよ。ほら、レージュから良い茶葉を貰ったんだ」
「サイラス君。実は、私もミラからクッキーを貰ったの。よければ一緒に食べましょ」
二人の意見は無事に一致したので、ギルド長の部屋でいただくことにした。相変わらず散らかってはいるけれど、一応許容範囲……ということにしておこう。
「はふぅ……この紅茶、とてもおいしいわね」
「クッキーも甘さが控えめで、いくらでも食べられそうだな」
揃って紅茶とクッキーに舌鼓を打っていると、そういえばさ……と、サイラス君が突然話を振ってきた。
「今回の薬って、どうやって作り方を覚えたんだ?」
「あれ、その辺りの話ってしてなかったかしら?」
「なにも聞いてないな」
私ったら、説明した気になっていただけだったのね。サイラス君のお師匠様が関係していることなんだから、ちゃんと説明をしないと。
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