第九十話 解決への第一歩
あれほど酷かったサイラス君が、今ではピクリとも動かないくらい大人しくなってしまっている。それに、段々と体が冷たくなっていく。
これはつまり……私は、間に合わなかった。それどころか、この手でサイラス君を殺めてしまった……。
「うそ、うそよ……サイラス君が、私を置いて死んじゃうわけがない……これは、悪い夢だわ……」
思い切り、顔に両手の爪を食い込ませてみるが、無情にも強い痛みが襲ってくる。これは夢じゃない……と。
「夢じゃ、ない……私が、私がサイラス君を殺したんだ……あ、あはは……あははははははははははは」
椅子に座ってがっくりと項垂れながら、この場には全く似合わない高笑いをする。
「私が殺したの!! 多くの人を救いたいとか言っていた私が!! 私が落ち込んでた時に慰めてくれた彼を!! 最愛の人を、この手で作った薬で!! ころし、た……あ、あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
なんとか誤魔化していたが、ついに我慢が出来なくなった私は、動かなくなったサイラス君にすがりつきながら、子供のように泣いた。
「……あれ、今……瞼が動いたような気がしたんすけど……」
「えっ……サイラス君?」
ゆっくりと顔を上げて確かめてみると、確かにサイラス君の瞼が、ピクッと動いていた。それから間もなく、ゆっくりと目が開いた。
「……エリシア……」
「サイラス君!? 目を覚ましたのね!」
「ああ……黒に塗りつぶされた場所で、君の声が聞こえて、急いで戻ってきたんだ」
「うぅ……サイラスくぅん……!」
先程とは違い、悲しみではなくて嬉しさで涙が溢れてきた私は、再びサイラス君にすがりつきながら泣いた。
その間、サイラス君はずっと私の背中に手を置き、なだめるように優しくさすってくれた。
****
人前で散々泣き続けて恥ずかしい思いをしてしまったけど、なんとか落ち着きを取り戻した後、サイラス君をスタッフに任せて、別の部屋へとやってきた。
訪れた場所と言うのは、レージュ様が眠っている部屋だ。かなり早い段階で倒れてしまったが、病状自体はそこまで酷いものではなく、今も少し苦しそうではあるが、静かに眠っている。
そんな彼に、持ってきた薬を投与すると、サイラス君と同じ様に激しく苦しんだ後、驚くほど病状が落ち着いた。
「病気に効く薬を作ってきたとはいえ、ここまで効くとは想定外だったわね……」
これはあくまで私の予想だけど、この病気を引き起こす菌は、人為的に作られたものだから、自然界を生き抜いてきた菌と違い、自分への害になるものへの耐性が無いのかもしれないわ。
「薬を投与すると患者が苦しむのは、菌が最後の抵抗を見せているということね。ここまでわかれば、もうどうということはないわ! すみません、皆さんにこの紙に書かれている薬を作るように、伝えてくれませんか?」
私は、レージュ様の病室にいた人達全員に、薬の作り方について書かれた紙を見せると、我先にとその紙を確認してくれた。
「この薬があれば、私達は病気に勝てます! お願いします、皆さんの力が必要なんです!」
「そんなの、もちろん協力するに決まってますよ!」
「はい、全員でこの非常事態を終わらせましょう!」
「ありがとうございます!」
何度も何度も頭を下げてから、病室を後にして持ってきた薬を、患者達に投与していく。
本当なら、片っ端から治していきたいけど、持ってきた薬の数には限度がある。だから、今回の事態の収束で心強い味方になってくれそうな人達……イリス様や国王様、それに比較的協力してくれそうな貴族に、残った薬を全て使った。
「これでよしっと……さて、私も製薬の方に戻らないと……あっ」
順調に薬を投与で来た安心感で気が緩んでしまったのか、廊下でバランスを崩してしまい、壁に寄りかかってしまった。
お師匠様のところを出る前に、まとめて休息を取っていたとはいえ、積み重なった疲労は、そう簡単には消えはしない。現にこうしてフラフラしてしまっている。
「でも……負けてたまるものですか」
ここまできて倒れるだなんて、私の薬師としてのプライドが許さない。
全ての菌を根絶して、このふざけた騒ぎを起こした犯人を捕まえて、ぎゃふんと言わせるまでは、呑気に寝てなんかいられない!
「そうだ、製薬に入る前に、みんなの容体を見に行ってみよう」
どうせ通り道だし、少し様子を見るだけなら時間を浪費しないだろう。そう思い、近くの部屋から様子を見に行く。
最初に訪れたのは、イリス様がいる病室だ。どうやら症状は落ち着いているようで、今はすやすやと寝息を立てていたので、すぐに退散した。
その後に、何人かの貴族の様子を見たけど、全員が回復に向かっている。この調子なら、なんとかなりそう……そう思いながら、レージュ様の病室へと戻ってきた。
「失礼します。容体はどうですか?」
「見違えるほど落ち着いていますよ」
「そうですか、よかった……」
部屋の中にいた彼の言葉を信じていないわけではないが、念のために自分の目で確認しようと思い、レージュ様の枕元に立った瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「はぁ……はぁ……れ、レージュ君……!」
扉の前にいたのは、息を切らせたミラだった。顔はリンゴのように真っ赤になり、汗も滝のように流れている。
「あっ……お、お姉様! 無事で本当によかった……! もう、心配したんだよ!」
「心配かけてごめんね、ミラ。私は大丈夫よ」
「と、とりあえずお姉様が何をしてたか後で聞くとして……レージュ君のことを聞いて、飛んできたんだけど! レージュ君は……レージュ君は!?」
「彼も大丈夫。私の作った薬で、体の中で悪さをしてた菌を、みんなやっつけたから。今は眠っているけど、じきに目を覚ますわ」
にっこりと笑いながら答えると、ミラは声を震わせながら、その場に座り込んでしまった。それから間もなく、大粒の涙が頬を伝った。
レージュ様が倒れてから、ミラはずっと心配をしていたから、やっと緊張の意図が解れたのだろう。そんなミラを抱きしめてあげると、さっきの私の様に、子供のように泣きじゃくった。
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