第八十四話 未知の素材を求めて
翌朝、私は借りているベッドから起きると、外で洗顔と軽い運動を済ませた。
足の調子は、まあそれなりって感じね。完治はしていないから、無理はしちゃいけないのだけど……もっとこの一帯の素材がほしい。
「…………」
「あ、あれって?」
どうしたものかと考えていると、突然真っ白な狼が、のっしのっしと音を立てながら、私のところにやってきた。
「…………」
「…………」
とても優しい目をしている。襲ってくるようには見えないけど、野生動物を相手にして、油断なんてしたら、命を捨てるようなものだ。
「おう、起きてたか。おはようさん」
「お、おはようございます」
「なんだ、朝から面白い顔しやがって。あ、こいつにビビってんのか? 安心しな、こいつはこの辺りに住んでてよ。ほとんどワシの家族みたいなものよ。頭もいいから、何か困ったらこいつに頼むといい」
通りかかったお師匠様は、焚火に使う沢山の木を、なんと片手で運んでいた。
………やっぱり、人間じゃなくて、筋肉の化身なんじゃ無いかしら……? それに、いかにも肉体労働が得意そうな人が、薬師ギルドの前任者っていうのも、イマイチ信じられないわね。
「何か失礼なこと考えてねーか?」
「そんなことありませんよ」
「どーだかな。ワシは忙しいから、好きに過ごしてくれ。んじゃ」
「はい。狼さん、薬の素材を採りに行ってくるわ。ご飯までには帰ってくるつもりだから」
「…………」
私の言葉を聞いた狼は、その場で膝をたたんで丸まった。モフモフで可愛いのはいいのだけど、急にどうしたのかしら?
「がうっ」
「え? もしかして、乗れって?」
「がうっ!」
しきり自分の背中を示すように顔を動かしていたから、そうなんじゃないかとは思ったけど……まさか、協力してくれるなんてね。
「私、ちょっと重いかもだけど……よろしくね、狼さん」
おそるおそる狼の背中に乗ると、フワフワな毛並みの感触を感じると同時に、狼はゆっくりと動き出した。
うわぁ、凄い! 狼の背中の上って、モフモフで気持ちいけど、それ以上に迫力があるわ!
「こ、興奮してる場合じゃないわね。この辺りでしか見ない、果実とかお花とか鉱石の場所ってわかるかしら?」
「くぅ~……がうっ」
少し立ち止まってから、どこかに向かって歩き出す狼。その先には、まだ採取したことがない果実がたくさん実っていた。
「すごい! 見た目はイチゴやリンゴだけど、色が全然違う! これも、もしかしたら製薬の決め手になるかもしれないし、採取しないと! それと……」
私は、採取したリンゴを持って、狼のところにやってくると、ニッコリと笑いながら口を開いた。
「私のお手伝いをしてくれるお礼。よかったら、食べてほしいな」
「…………」
私が餌をくれると思っていなかったのかしら? キョトンとした顔で、こちらを見つめてくる。
でも、すぐに意図に気づいてくれた狼は、シャクシャクと気持ちのいい音を立てながら、リンゴを食べ始めた。
さて、今のうちに市薬品を作ってみよう。今あるのは……蛇に捕まる前のものと、今さっき手に入れたもの。これで薬を作って、持ってきた病原体に薬効があるかのチェックをするのだけど……。
「やっぱりダメ……」
いくつかの方法を試して、持ってきた血液に試してみたのだけど、結果は振るわない。
でも、製薬が一発で上手くいくわけないのだから、くよくよしても仕方がないわよね! 次こそは薬効がある薬を作るわ!
「狼さん、そろそろ別のところに案内してもらえるかしら?」
「がうっ」
再び狼の背中に乗せてもらい、素材のある場所へと連れて来てもらい、試薬を作るの繰り返しをしたが、なかなか成果が出ない。
そんなことをしているうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。暗いのは危ない、だから家に帰る。それを理解しているのか、狼は私を小屋まで案内してくれた。
「今日はありがとう。またお願いするかもしれないから、その時はお願いね。もちろんお礼はするわ」
「がうがうっ」
お利口な狼は、返事を返してから、森の中へと帰っていった。
あの子が協力してくれたおかげで、未知の素材が沢山手に入った。きっとこの中に、解決の糸口があると信じて、前に進むしかないわ。
「おう、帰ったか。悪いけど、飯の準備をしてくれや」
「えぇ? 私、一応客人ですよね? それに、軽症とはいえ怪我人ですよね?」
「そうだな」
「そうだなって……客人に食事の用意をさせるなんて、聞いたこともありません」
「これもワシの優しさなんだぞ? まあお前さんがそう言うなら仕方がない。今日の飯は、さっき取ってきた魚と木の実をそのまま食うしかないな」
「せめて焼くぐらいのことはしてください! ああもうっ、私がやりますから!」
まさか、こんなところでサイラス君に怒る時の台詞みたいなことを言わされるだなんて、思ってもなかったわ!
サイラス君に似た人だとは、少し思ってたけど、こんなところまで似なくていいのに!
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