第八十二話 恐ろしい地へ
世界には、まだまだ未知の素材が色々な場所に眠っている。私はそれを求めて、この辺りでは危険で、立ち入り禁止の看板がたてられている、漆黒の森と呼ばれる場所へとやってきた。
ここは未開の地ということもあり、見つかっていない素材が沢山あると言われている。だが、欲にまみれて森に入った者は、誰も帰ってこないという噂もある。
どうしてこんな場所に一人で来たのか――それは、新種の素材を手に入れ、難航している状況を何とか打破するために、素材を求めてこの場所へとやってきた。
本当なら、何かあっても対処できるように、腕に自信のある人と一緒に来た方が良いのかもしれない。
でも、ここに解決の糸口が絶対にあるわけじゃないのに、他人を危険に晒すなんて、私には出来なかった。
「……噂なんかでビビってたら、私の大切な人達は誰も救えないわ! 大丈夫、私ならやれる! 今までだって、何度も危険な場所に一人で来たじゃない!」
マグナス様のギルドにいた時は、危険な動物が住む場所はもちろん、とてつもない環境の場所に行ったことだってある。
暑さや寒さが普通じゃなかったり、毒ガスが充満している洞窟。断崖絶壁の場所を命綱無しで通ったこともあったわね。
命の危険を感じたことだって、一度や二度じゃない。今回だって、その一つになるだけよ。
「みんな、待ってて。必ず病気を治す薬の素材を手に入れるから!」
私は意を決して、森の中に入っていく。漆黒の森というだけあって、昼間なのに森の中は非常に薄暗いけど、普通に歩けるというだけでも、恵まれている方ね。
……しかし、その考えは直ぐに打ち砕かれることとなる。
「……なにあれ……」
シュルシュルと、何かこすれるような音が聞こえて身を隠すと、すぐ近くで植物の根のようなものが、大柄な鳥を掴んで、そのまま地面の中に引きずり込む光景が広がっていた。
動物の肉を食べる植物がいるのは聞いたことがあるけど、あんな生物は聞いたことがない。あれに捕まったら、恐らく地面の中にいる本体に、骨までバリバリと食べられてしまう。
そう考えると、恐怖で身がすくんでしまった。同時に、私はとんでもない場所に来てしまったのだと、改めて痛感した。
引き返すなら、今しかない……なんて弱気な考えが脳裏に過ぎったけど、患者たちは今も苦しんで、刻一刻と迫りくる死に恐怖してい。なのに、私だけ安全を求めて逃げるなんて!
「逃げちゃ駄目。立ち向かっていかなきゃ」
この先に行くには、あの植物を通り抜けないといけない。回り道する手もあるけど、あまり時間をかけたくない。
きっと突破の糸口はあるはず。そう思った私は、極度の緊張でバクバクと高鳴る胸を抑えながら、植物の観察を始める。
「あれ、あの植物……地面にいる動物にしか反応していない?」
少し観察していて気づいたことなのだけど、あの植物は、地面にいる動物に対して、音速といっても過言ではないくらいの速度で根っこを伸ばし、捕食している。
もしかして、音で反応しているのかも? それか、熱か匂いか……振動の可能性もある。
「わからないなら、全部試すしかないわね」
素材を入れるために持ってきた袋に、手当たり次第に大小様々な石と、近くで息を引き取っていたネズミを詰め込んだ。
静かに眠っているのにごめんね……あなたの力を貸して頂戴。
「よっと!」
いつものように、軽々と木の上に上がると、そこから袋に詰め込んだものを順番に地面に落とすと、触手ご根っこを伸ばした。
その対象は、一番大きな石……ということは、振動か重さで獲物かどうかを判別しているってことね!
「そうとわかれば、即行動ね!」
私は、持てる限りの大きな石たちを袋にパンパンに詰めて、地面に感覚をあけながら落として、根っこの誘導をする。
その間に、私は木の上から無事に根っこ地帯を脱出し、無事に奥へと進むことができた。
「ふふっ、作戦勝ちね! サイラス君、どうだったか、しら……」
いつもの様に、サイラス君に声をかけてしまった自分が、情けなくて、哀れで、とても面白かった。面白いと思わないと、惨めな現実に押しつぶされちゃうかもしれなかったから。
「……うまくいったのに、落ち込んでじゃ駄目じゃない! さあ、何が待ち受けているかわからないんだから、元気よく進まなきゃ!」
私は木の上を軽々と飛び移り、なるべく地面に落ちないようにする。
またあの植物がいたら、たまったものじゃないからね。木の上にいるのが最善なの。
「この調子なら、なんとか進めそうね」
……私は根っこを何とかできて油断してしまっていたのかもしれない。
太い木の枝が、樹液か何かで滑りやすくなっているのに気が付かず、そこに手をついてしまい……手が滑って、落ちてしまった。
「いったぁ……!」
体の痛みも気になるけど、それよりもあの植物だ。ここも彼らのテリトリーだったら、私は飛んで火にいる夏の虫になってしまう。
……でも、いくら警戒していても、彼らが来ることはなかった。
「よかった、今のうちに……いたっ!」
一難去ってまた一難。先程の事故で、足をくじいてしまっていた。骨は折れていなさそうだけど、かなり赤くなっている。
私としたことが、こんなドジをしてしまうだなんて。さっきはうまくいったからって、気が緩んでいたんだわ。
「もう片方の足は大丈夫だし、歩くことは出来そうね」
このまま休んでいる時間なんてない私は、持ってきていた包帯で捻挫した足を固定してから、更に奥に進んで歩いて行く。
その道中で、見たことのない素材を手に入れたり、規格外の動物や植物に襲われそうになったけど、今のところは順調といっても差し支えないだろう。
「あ、この木の実も見たことがないわ。こっちの鉱石は……あれ、この木の新芽が赤い? 普通の個体なら、黄色のはずなのに」
持っている薬の素材の知識をふんだんに活かして、次々と未知の素材を手に入れていく。気づいた時には、持ってきた袋は、素材でパンパンになっていた。
本当なら、もっと色々なものを沢山手に入れて試薬作りに活かしたいところだけど、持っていける量には限度がある。適度に切り上げて帰らないと。
「そろそろ帰りましょ……ふぅ……」
帰ると決めたのだから、こんな危険な場所から離れた方が良いのだけど、さすがに疲労が蓄積されてきている。この状態で動くのは、少々危険ね。
「少し休憩しましょう」
なるべく安全な場所を探すと、大きな崖を見つけることが出来た。落石の可能性もあるけど、ここなら警戒が必要な方向がかなり減らせるわ。
「この茂みに隠れようかしら」
崖のすぐ近くにあった茂みの中で座り、持ってきていた水筒に入っている水で喉を潤す。精神的には全然休める状況じゃないけど、肉体的には効果はあるわ。
「……さっきよりも腫れてるわね……」
さっき怪我をした足を確認すると、確実に腫れが酷くなっている。痛みも増してきているし、思った以上に酷い怪我なのかもしれない。
こういう時に、使い慣れている薬の素材があれば、ぱぱっとその場で薬を作れるのに……今手元にあるのは、使ったことがないどころか、知識さえない未知の素材。試薬も作れない以上、一か八かで使うのは、あまりにもリスクがある。
「こんなことなら、欲張らないで薬も持ってくればよかったわね」
今の手持ちは、その場で試薬を試せるように、持ち運びがしやすい製薬の道具と水筒、コンパス、素材を沢山入れるための袋だけだ。
いつもなら、何かあっても対応できるように薬も持ってくるのに、薬で荷物を圧迫するのをきらって置いてきたのが、完全に仇となっている。
「ん? これって?」
茂みから、ひょっこり出ている太い何かが目に入ってきた。
なにかの動物の尻尾かしら? 変に刺激しないようにしないと……あら、引っ込んじゃったわ。
――なんてのんきなことを考えていたら、その尻尾の主……真っ白な大蛇が、私に向かって襲い掛かってきた。
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