第八十一話 無差別攻撃
「な、なんですって!?」
嘘でしょ!? 今までは会場で倒れた人だけが感染者だと思っていたのに、他にも感染者が出てしまったというの!?
感染者から被害が拡大しないように、患者は隔離して、消毒もしっかりしていたのに……まさか、罹ってない人が罹っていて、知らずに外を出歩いている間に、外部の人達が感染した!?
「検査をしても、問題は無かったのに……とにかく、早く薬を作らないと、マズいことになるぞ!」
「……で、でも……どうやって……? 私達の方では、有効な薬は作れていませんし、情報班からも有益な情報は……」
製薬班の女性が、弱々しい声で答える。
今までなら、なんとか一日中監視を続けて、症状の変化があったら対処は出来たから、気持ち的に少しは余裕があったけど、今はこの国中に病が拡大してしまっている。さらに広がるのは、時間の問題だろう。
――私達には、もう無理だ。頑張っても、またあの子のように拒絶されるに決まっている。だから、諦めよう。
「っ……!?」
疲弊して弱った心を折るかのように、脳裏に考えたくもない言葉がよぎる。
ははっ……諦めるですって? 冗談じゃないわ! 私は苦しんでいる人を助けるために、ずっと勉強をして薬師になって、大変な仕事も耐えて頑張ってきた! つらいこともあったけと、立ち上がって、ここにいるのよ!
今こそ、その努力の成果を発揮しないといけないのに、なにを弱気になっているの!
「みなさん、顔を上げてください! 私達が諦めてしまったら、とてつもない数の犠牲者が出てしまうのです!」
「で、でも……エリシアさん、このままのペースじゃ、絶対に間に合わないっす……」
彼の言いたいことは理解できる。根性論なんかで、状況は決して良くならない。
でも、こんな時だからこそ、根性で落ち込んだ気持ちと体を奮い立たせないといけないのよ!
「その絶対は、誰が決めたのですか! 神様が決めたとでも!? いいわ、神様が決めたのなら、勝手にしなさい! 元々薬師なんて、本当は神様によって死ぬ運命だった人を治し、死という運命を捻じ曲げ、患者になかったはずの人生と選択を与える存在よ!」
「エリシア……君は……」
「だから、神様の決めたことなんて、全部……全部! 根性でぶっ壊しましょう! 私達には、その力と資格がある!」
「ああ、その通りだ! 俺達薬師が、死の運命を変えて、国を救うんだ! 大丈夫、俺達なら出来る!」
「……そ、そうっす! みんなでなら、やれるっす!」
「やってやるわよ! 命を懸けてでも、この病に勝ってみせるわ!」
『うおぉぉぉぉぉぉ!!!!』
ここは医療施設の一室だというのに、みんなの雄たけびが部屋中に広がっていった。
これで、落ち込んだ雰囲気はなんとかなった。あとは、有益な情報を手に入れて、薬の製作に入りたい。
「みんなやる気が出たようだ。これもエリシアのおかげだな」
「私一人の力じゃないわよ。サイラス君がみんなを励ましてくれたおかげよ」
私だけだったら、もっとみんなの説得に時間がかかっていたかもしれない。それどころか、ただ一人で喚いて終わっただけかもしれない。
それでも私の気持ちが届いたのは、みんなのトップに立つサイラス君が私の言葉の後押しをしてくれたから……そう思ったの。
「それに、あの言葉はサイラス君がいなかったら、絶対に出てこなかったわ」
「ははっ、口下手なりに一生懸命伝えた甲斐があったな!」
「本当にありがとう、サイラス君。ところで、どうしてそんなに汗をかいているの?」
「ああ、これか? ちょっと暑くてね。エリシアの素晴らしい言葉に感動して、もう興奮しっぱなしなんだよ!」
「こ、興奮って……相変わらず大げさというか、なんというか……それにしたって、ちょっと酷くない?」
サイラス君のおでこに手を当ててみると、かなりの熱を持っている。明らかに、健康な人の体温ではない。
いくら興奮したからといって、こんなに急激に体温が上がるはずがない。
「やっぱりおかしいわ……サイラス君、ちゃんと検査してもらった方が良いわよ」
「大丈夫だって! 実際に、俺には症状が出ていないだろう?」
「そんなのわからないじゃない! 私、サイラス君が心配なの……」
「エリシアが心配してくれるって……俺は、俺は感動――」
「茶化さないで!!」
ぴしゃりと言い放った言葉が、想像以上に言葉尻が強くなってしまった。でも、それくらいサイラス君の体調が心配なの。
私の恋人だからというのもあるけれど、サイラス君はギルド長として、みんなの支えになることも仕事の一つだ。こんな緊急事態で自己管理を疎かにして倒れてしまったら、笑い話にもならないわ。
――そう思った瞬間に、突然サイラス君は、その場で急に大きな咳と共に、真っ赤な鮮血を出しながら、力なく倒れた――
****
そこから先のことは、よく覚えていない。気づいた時には、眠るサイラス君を見つめながら、彼の名前を呼び続けていた。
「エリシア……」
「サイラス君!?」」
別室に運び込まれてから、どれだけの時間が経っただろうか。サイラス君は、無事に目を覚ましてくれた。
しかし、彼の症状は、例の病気によるものだと言うのは、火を見るよりも明らかだった。
「無事でよかった……もう目を覚まさなかったら、どうしようって……」
「俺は、君を残して死ぬつもりはないからさ。それよりも、ちょっと思いついた仮説があるんだ」
「仮説?」
「あの料理には、即効性の遅効性の、二種類の細菌を仕込んだんじゃないか? 俺が食べたのは、恐らく遅い方に分けられた。後者の菌は、症状が出るまで検査に引っかからないように、改良されてるんだろう」
「どうしてそんなことを……そうか、即効性の患者を隔離して安心しきったところに、遅効性の患者が呑気に動き回って、病気を更に拡散したのね!」
こんな大規模な話になってしまうだなんて……。一体何が目的なの? お金? 地位?
この際、なんでもいいわ。犯罪者の気持ちなんて興味も無いし、知りたくもない。私がするべきことは、とにかく薬を作りだして、あちこちに広がってしまった患者を治さないと!
「くっ……ごほっ! 俺も、まだ動けるさ」
「今は冗談を言うタイミングじゃないでしょ! 良いから寝てなさい!」
「しかし!」
「これ以上広がったらどうするの! いいから、病人はゆっくり寝る! その方が、私としても安心なの! 丁度良い休暇だと思って、ゆっくり療養しなさい!」
私はサイラス君に釘を刺してから、部屋を後にする。
正直に言うと、私の胸のうちは穏やかではない。だって、ずっと心の支えだったサイラス君が、もしかしたら死んでしまうのではないかとか、心の支えが無くなった自分に出来るのかとか、情けない弱音がとめどなく溢れている。
しかし、これではなにも成すことが出来ない。そう思った私は、両手でほっぺをバチンッと叩いて、改めて気合を入れ直す。
少なくとも、今のやり方だと特効薬は作れない。それなら、別のやり方を試すか……新種の素材を使うしかない。
「もしかしたら、あそこなら……危険だけど、行ってみる価値はある! 早速行動だわ!」
私は、他の人達に症状を抑える薬をお願いしてから、施設から飛び出した――
ここまで読んでいただきありがとうございました。
読んでいただいた方々に、お願いがございます。5秒もかからないので、ぜひ⭐︎による評価、ブックマークをよろしくお願いします!!!!
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!




