第七十九話 謎の病原体
彼の安否を確認しながら、急いで体を起こして、顔を床に向けさせる。吐血をした時は、こうやっておかないと、血が喉に詰まって、窒息しかねない。
「私は薬師です! 落ち着いてください! 誰でもいいですから、元気な方は、倒れた人達のことを、この体制で支えてもらえませんか!!」
一人や二人じゃなく、数十人規模で一斉に倒れる異常事態に、慌てる参加者達の協力を仰いだ私は、サイラス君に視線を向ける。
「サイラス君は、イリス様をお願い! 私は、レージュ様を!」
「あ、ああ……わかった……!」
さすがのサイラス君とはいえ、自分の母親と親友が突然倒れて動揺していたが、私の指示通りに動いてくれた。
「一体何が起こったというの……!?」
極度の驚きと緊張で、爆発しそうなくらい鼓動する心臓を抑えながらレージュ様の元に向かうと、顔を真っ青にしてレージュ様の体を揺する、ミラの姿があった。
「あ……え……な、なんで……どうして……ね、ねえ? 起きてよ?」
「ミラ、しっかりして! 私がいるから、大丈夫!」
「ねえ……やだ……」
駄目だ、目の前でレージュ様が倒れたショックが大きすぎて、私の言葉が届いていない。
早く態勢を整えないと、取り返しがつかなくなってしまうのに、いくら引っ張っても、ミラが離れてくれない。一体どうすれば……。
「ミラ、しっかりしろ!」
「お父様!」
「や、やだ……! 離して! 離してよぉ!!」
「エリシア、今のうちに!」
「ありがとうございます、お父様!」
レージュ様と同じ様に、普段は感情を表にあまり出さないお父様が、焦りながら力任せにミラを引きはがしてくれたおかげで、なんとかレージュ様の態勢を整えることが出来た。
「一体何が……とにかく、早くここから運び出さないと! どなたか、病人を医療施設の整っている場所に運ぶように、手はずを整えてください! それと、この会場から誰も外に出さないでください!」
「なんだって!? こんなところに我々を閉じ込めるのか!?」
一人の貴族が起こりだすと、それに続いて続々と不安と怒りの声が上がる。
彼らがそう思うのも無理はない。でも、絶対に外に出すわけにはいかない理由がある。
「一人や二人ならまだしも、一気にこんなに倒れていることから、なにかしらの病原体による、集団感染の疑いがあります! 外に広めないためにも、皆さんの協力が必要なのです!」
「ふざけないで! 他の連中がどうなろうと、知ったことではありませんわ!」
貴族という人種は、自分のことしか考えていない人が多い傾向がある。この会場に集まった人達も、やはり自分のことしか考えていない人が多いようで……私の言葉なんて聞かず、一斉に出口から出ていこうとする。
しかし、一人の男性が出口の前に立ち塞がり、参加者を外に出さないようにしてくれていた。
「皆さん、俺達は薬師として、感染が広がる可能性がある行動を許容するわけにはいきません。どうしても出ていきたいというのなら……」
出口で立ち塞がる男性――サイラス君は、自慢の鉄拳を壁に思い切りめり込ませる。その圧倒的な力に、貴族の人達は一気に大人しくなった。
「この壁と同じことになりたくなければ、言うことを聞いてください。大丈夫、我がのギルドの名に懸けて、絶対に助けることを誓います」
「な、なにが誓うだ! 調子に乗った若造の分際で!」
「暴力ごときで従わせるような人間など、誰が信用できるか!」
「そうですわ! あなたがワタクシ達を絶対に助けられる保証は、どこにもありませんわ!」
「ぐっ……皆の者……静まれ……」
さらに混乱が加速する中、サイラス君と貴族の人達の間に割って入るように、司会をしていた男性に支えられた国王様が立った。
「狼狽えるな……安心しろ、皆必ず助かる……!」
「し、しかし……!」
「我々は、上に立つ者として……! 民を守る責務がある! それがなぜわからぬ!」
見るからにつらそうなのに、国のため、民のために自分の身を顧みない国王様の姿に、思わず目頭が熱くなった。
****
その後、かけつけた医療関係の人達に連れられて、私達は国が用意してくれた、臨時の医療施設に来た後、検査が行われた。
幸いにも、検査の結果、私やサイラス君は特に異常は見つからなかった。お父様やミラも同様で、今も特に体調の変化は起こってない。
それがわかってからすぐに、私とサイラス君は、検査をしてくれた人達に混ざって、倒れた人達の検査をした結果、ある事実が発覚した。
それは、やはり今回の事件を引き起きしたのは、細菌による感染症だった。症状としては、風邪に近いものではあるが、それに加えて吐血や体に強い痛みを引き起こすようだ。
とりあえず、今は解熱剤と鎮痛剤を飲ませているけど、このまま放置すれば、どうなるかわかったものじゃない。
そこで、多くの薬師ギルドが協力し、事態の収拾にあたることになった。
「みんな、これからの仕事は、謎の病原体の解明と製薬だ。一日でも早く、患者を完治させなければならない! だから、力を貸してほしい!」
私も、サイラス君に続いて頭を下げると、ギルドの皆は力強く頷いてくれた。
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