第七十六話 パーティーに向けて
同日の夕方、いつもより早めにギルドを後にした私とサイラス君は、一度クラヴェル家の屋敷に戻ってきて、パーティーに参加するための準備をしていた。
「さすがお姉様、今日も凄く綺麗だね!」
「ありがとう。ミラもとても似合っているわよ」
――どうしてここにミラがいるのか。その理由は、レージュ様だ。
パーティーに参加する以上、正装をする必要があるのだけど、レージュ様はそのような場に出たことがないため、正装を持っていない。
だから、以前ギルドで行われたパーティーで着ていた服を再度着るため、一緒にクラヴェル家の屋敷にやってきたというわけだ。
そのことを事前に知っていたミラは、少しでも一緒にレージュ様と過ごしたい! ということで、ミラもクラヴェル家の屋敷に来て、一緒に身支度の準備をしてもらっている。
「えへへ、レージュ君の正装、今から楽しみだなぁ。きっとカッコいいんだろうなぁ」
「とても良く似合ってたわよ。今から楽しみにしておくといいわ」
「そんなことを言われたら、待ちきれないよ~! ねえねえ、チャンスがあったら、レージュ君に抱きついちゃってもいいかな!?」
「それは、やめておいた方が良いかも……多分、刺激が強すぎて倒れちゃいかもしれないわ。ただでさえ、今日は慣れない社交場だし、ミラの格好もいつも以上に綺麗だしね」
「そっかぁ……残念。それじゃあ、今度二人っきりの時にしよっと!」
「それと、いまだに凄く緊張しているみたい。ミスをして、ミラに恥をかかせたらどうしようって、心配していたわ」
「そんなの、気にしなくていいのに……でも、あたしのことを考えてくれてるの、すっごく嬉しいなぁ! えへへ、お礼に沢山サポートしてあげなくちゃ!」
今のミラを見ていると、落ち込んでいた時とは、比べ物にならないくらい、元気になっている。これこそ、私の知っている、太陽のように明るいミラの姿だわ。
そんなことを思っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ったく、お前が律義に服を返さなければ、わざわざこっちに来る必要はなかったのにな? あれ、あげたつもりだったんだぞ?」
「あんな高そうな服を、やすやすと受け取れるわけがないだろう!」
「そうなのか? 喜んで持って帰った職員も普通にいたぞ? お前が気にしすぎじゃないか?」
「……それは、受け取った人間のメンタルが、強すぎるだけな気がするのだが……」
声は廊下から聞こえてくる。その声の主は、サイラス君とレージュ様のようだ。
それはミラもわかったようで、ニコニコしながら、身だしなみを再度整えていた。
ふふっ、ミラったら……そんなに嬉しそうにしちゃって。鏡に映っている、幸せそうなあなたの顔を見てると、こっちまで嬉しくなっちゃうわよ。よっぽどレージュ様と一緒にパーティーに行けるのが楽しみなのね。
「サイラスだ。入っていいかい?」
「どうぞ」
部屋の中に入ってきたサイラス君とレージュ様は、パーティー用の燕尾服に身を包んでいる。
サイラス君はいつも通り堂々としているけど、レージュ様は落ち着かない様子だ。ギルドの宴の時は堂々と着こなしていたのに……ミラの前で緊張しちゃっているのね。
「きゃぁぁぁ~~!! レージュ君、カッコいい!! これはあたしの記憶に永久保存確定だよ~!!」
「あ、ありがとうございます……」
「なに照れてるんだ。ほら、ちゃんと見て感想を伝えるんだよ!」
「うおっ!?」
カッコいいと言われてモジモジしているレージュ様の背中を、サイラス君が強く押す。それに続くように、私もミラの背中を優しく押してあげた。
「どうかな? 似合ってる?」
「か、かか、可愛い……」
「可愛い!? どうしよう、レージュ君があたしのことを可愛いって言ってくれた! お姉様も聞いててくれたよね!? どうしようどうしよう、嬉しすぎて、今日死んじゃっても良いかも!?」
「褒めてもらえてよかったわね、ミラ。でも、せっかく褒めてもらえたのに死んじゃったら、勿体ないでしょ?」
「それは確かに! あたし、頑張って耐えるよ!」
こうしてミラの反応を見ていると、まるでサイラス君を見ているかのようだ。一方で、レージュ様を見ていると、照れている自分を見ているようだ。
「……サイラス。ようやく僕も理解した。お前が感じていた感情は、これだったのだな」
「ふっ、レージュもようやく俺と同じステージに上がってきたようだな!」
何かに納得したレージュ様は、サイラス君と固い握手を交わす。その意味が分からない私達姉妹は、首を傾げながら見守っていた。
「お姉様、あれってなんなのかな?」
「さあ……私達にはわからない、男同士の何かがあるんじゃないかしら?」
「な、なるほど~……?」
よくわからないけど、本人達は満足そうな感じだから、私達がどうこう言う必要は無いわね。
「それじゃあ、あたし達も姉妹じゃなきゃわからない何かをしよう! というわけで……ぎゅー!」
きゃあっ! もう、せっかく綺麗にセットしてもらった髪とドレスが、崩れちゃうじゃないの。ミラったら、仕方がない子ね。
「とにかく、全員準備が出来たみたいだから、少し早いけど、出発しましょうか」
「そうだな」
サイラス君は、いつもの様に私の手を取って歩きだす。それを見ていたミラは、期待の眼差しをレージュ様に向けた。
「ちらっ、ちらっ……」
「あ、えと……あ……こ、こうでいいのだろうか」
「うんっ!」
レージュ様は平民の出だから、貴族ではよくある女性をリードするというのは、やったことがないだろう。だから、ミラの意図は直ぐに察したものの、どうしていいかわからず、目を泳がせていた。
しかし、ミラを何とか喜ばせようと、サイラス君のやり方を見よう見まねで実践し、ミラの手を取ることが出来た。
緊張しているレージュ様は、耳まで真っ赤にしている。きっと私の時も、他人から見たらこんな感じだったのね。
そんなことを考えながら、四人で外に出ると、二台の馬車が準備されていた。
「俺達はこっちの馬車で行くから、レージュ達はそっちの馬車で行ってくれ」
「い、一緒ではないのか?」
「当たり前だろ! なんだ、俺とエリシアの二人きりの時間を邪魔するのか! かぁ~、いつからそんな薄情になっちまったんだ!」
「もうっ、レージュ様は慣れないことばかりしていて大変なんだから、意地悪言わないの!」
「冗談だって! ほら、お前も彼女と一緒の方が良いだろう?」
「それは………………まあ……」
そこで違うと言わない辺り、最初の頃の私よりも素直だわ。この調子なら、正式にお付き合いするのも、時間の問題だろう。
……まあ、私のような例があるから、絶対とは言えないけどね……。
「えーっと……こういう時は、僕が先に乗って女性をリードするべきなのか? でも、客人である僕がよそ様の馬車に先に乗るのは、失礼にあたるのでは……?」
「そんなに考え込まなくても大丈夫だよ!」
「しかし……」
「それなら、間を取って一緒に乗ろうよ! ほらほら!」
ミラに押し切られる形で、レージュ様とミラは、揃って馬車に乗りこんでいく。
レージュ様は性格上、色々と考えて動くタイプだから、たまに変に考え込んでしまうこともある。それを、ミラが良い感じに引っ張ってくれている。私の想像以上に、二人の相性はいいかもしれないわね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
読んでいただいた方々に、お願いがございます。5秒もかからないので、ぜひ⭐︎による評価、ブックマークをよろしくお願いします!!!!
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!




