第六十三話 強烈なビンタ
「おーいエリシアー、そろそろ起きないと遅刻するよー」
「…………」
ゆさゆさと体を揺らされている感覚があるけど、眠くて目が開けられてない。結局あの後、眠ったのは夜中だったから……。
「起きないなら、いたずらしちゃうぞー」
「んー……あと五年……」
「五年もずっと女神の寝顔を見られるのは魅力的だけど、起きてくれないと、遅刻しちゃうんだよなぁ。ほら、本当にいたずらしちゃうぞ」
……眠いけど、遅刻なんてしたらギルドのみんなに示しがつかないし、いたずらも……ちょっと興味あるけど、頑張って起きなきゃ。
「わかったわ、起き――」
なんとか目を少しだけ開けると、目の前にサイラス君の顔が迫ってきていた。そしてそのまま、軽く私にキスをした
「おはよう。今日も良い朝だよ」
「っ……! きゃあぁぁぁ!!」
「ふべらぁ!?」
いたずらがまさかキスだと思っていなかった私は、驚きすぎてサイラス君の頬に思い切り平手打ちをしてしまった。
その衝撃は想像を絶するものだったようで……サイラス君は、仰向けで伸びてしまった。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」
「い、いいビンタだ……君なら、きっと世界で最強の女神になれる……がくり」
「さ、サイラス君ー!!」
あれだけ強烈なビンタをされたというのに、何故かサイラス君は、とても満足げな表情で意識を手放した。
すぐに手当てをしたから、大事には至らなかったけど……私の悲鳴と、ビンタの甲高い音が響いてしまい、何事かと駆けつけた使用人達が、部屋になだれ込んできてしまったのは、ここだけの話ね……。
****
「……サイラスさん、そのほっぺ、どうしたんすか?」
「これは名誉ある負傷であり、愛の鞭だよ」
「は、はぁ……エリシアさんにちょっかい出すからそうなるんすよ」
無事に遅刻はせず、朝礼のためにラウンジに集まると、職員の男性がサイラス君の頬をジッと見つめていた。
手当てをしたとはいえ、サイラス君の頬は真っ赤になってしまった。手を振り抜くくらいの勢いでビンタをしてしまったのだから、当然といえば当然だろう。
「エリシアさん、一体どんなことをされたの?」
「また好きだって伝えて、怒らせたんじゃない?」
「サイラスさん、いつもエリシアさんにお熱だもんねぇ」
「その、大したことでは無いんですけど、私が寝ぼけてて力加減が出来なくて……あはは……」
首を傾げる女性の職員達に、それっぽい言い訳をしながら、笑って誤魔化す。
サイラス君には、既に数えきれないほどの前科があるから、彼女達がそう思うのも無理はないわね。
「今日は特に連絡事項は無い。急ぎの依頼も無いから、いつも通り仕事をしてほしい。ただ、最近はありがたいことに、うちのギルドの評判がかなり上がってきている。だから、思わぬ大きな仕事が来る時があるかもしれないから、その時は受ける前に俺に相談してくれ。以上、今日もよろしくな!」
朝礼の最後にするサイラス君の挨拶を終えた後、私はすぐにサイラス君に話しかけた。
「ほっぺ、大丈夫そう?」
「余裕余裕! これでも鍛えてるから、そこらの男より頑丈だからさ!」
「ほっぺは鍛えられるところなの? あ、そうだサイラス君。少し遅れていた素材が今日届くはずよ」
「そうか、やっと届くのか。ってことは、あの商人のばあちゃんの腰は良くなったのかな?」
「きっとそうだと思うわ。彼女が来たら、私が対応しておくわ」
「わかった、よろしくな!」
ギルドが開く前に、サイラス君とお仕事の話をしていると、なぜか周りの職員達から、ざわめきの声が聞こえてきた。
「え、あれって……聞き間違いじゃないわよね?」
「ないない! 確かにサイラス君って……!」
「あれだけ普通にしてるのに、その呼び方って……サイラスさん、どれだけ怒らせたんっすか!?」
「んんっ!? どうしてそういう方向に行っちゃうのかなぁ!?」
「自業自得なんじゃないかしら」
「し、辛辣だな……はは……」
ギルドにいる時にも、何度か本気でサイラス君の暴走を止めるために、君付けで呼んだことがある。
それが続いているから、今回はよほど怒らせてしまい、普通にこの呼び方をしてると勘違いしたのね。
「別にそういうのじゃありませんよ。ねっ、サイラス君」
「ああ! 俺が付き合い始めたんだから、昔みたいに対等な呼び方にしてくれってお願いしたんだ!」
「あっ……」
まだ私達が付き合い始めたことは、誰にも言っていない。そんな状態で今の爆弾発言が飛び出たら……。
「……………………」
驚くほどの無音。まるで、全員が帰った真夜中のギルドみたいに、一気に静かになった。
それから間もなく、ラウンジは多くの声で埋め尽くされた。
驚く声、信じられないといった旨の声、祝福の声、黄色い声。色々な声が入り乱れる中、あまりにも驚きすぎて、ひっくり返ってしまったり、泡を吹いて倒れている人までいる。
「そ、そこまで驚くことじゃないだろ!?」
「驚くっすよ! あれだけずっと好き好き攻撃して、全然まんざらでもない受けをしてたのに、付き合うことだけはしなかった二人が! ついに!! 交際を始めただなんて!!」
「最後のところ、わざわざ強調しなくていいですから! あぁ、恥ずかしい……」
「恥ずかしがることは無い! 俺達は何も悪いことはしていないのだからな! もし悪いと思う職員がいるなら、俺のところに来い! 徹底的に……こちょこちょ指導をしてやるからな!」
「もうっ! 怒られるよりも絶妙に嫌なことを言うのはやめなさい! あと、それを女性にもやるつもりなの!?」
「さすがにそれはな……うん、その時はエリシアに任せた!」
「私を巻き込まないでよ! もうっ!」
いつものようにプリプリ怒っていると、どこからか痴話喧嘩だという声が聞こえた。
「みんなでこれなんだから、レージュに伝えたらどうなるんだろうな?」
「素直に祝ってくれる気がするけど……」
基本的に、あの人は冷静な人だけど、とても優しい人だ。
だから、今回もきっと祝福してくれると思い、用があってこっちにきたレージュ様に、付き合い始めたことを言ったら……。
「…………」
「レージュ様??」
まるで彫刻の様に、綺麗に固まってしまった。叩いてもくすぐっても反応は無い。どうすれば……なんて思ってっていたら、急に意識が戻ってきた。
「大丈夫か?」
「うむ。君達が、これからはさらにイチャイチャするのを見せつけられるのかと思ったら、意識が冥界に旅立っていた」
「良く戻ってこられたわね……」
「まあそれは置いておくとして……ごほんっ。サイラス、エリシア様。おめでとうございます。結婚式は是非呼んでくださいね」
レージュ様のお願いに、深く頷いてみせる。散々お世話になっているのに、これで呼ばないなんて、悪魔の所業だわ。
「それにしても、目の前で幸せそうなカップルの軌跡を見てきたから、きっと君達からラブパワーを貰えてるだろう。それで、なんとか僕も素敵な女性に……!」
「なんか、最近女がどうこうっていうこと増えたな、お前……」
「べ、別に君達の仲の良さが羨ましいとか、自分とか思っているわけではないからな」
レージュ様、嘘が下手なんて次元じゃないですよ……もう答え合わせみたいなものじゃないですか。
うーん、レージュ様にはとても頼りにさせてもらったから、力になれることならなりたいけど……さすがに女性を紹介しろというのは、少し難しいかも……。
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