第六話 一緒に暮らそう!
私が離婚をして、ギルドを追放されたこのタイミングでの呼び出しだったから、もしかしたら勧誘するつもりなのかも? とは思っていた。
でも、サイラス様はただの一職員という認識で、そんなことをする権限は無いと考えてたから、さすがに考えすぎかと思っていたのだけど……まさか的中するとはね。
「詳しい事情はわからないけど、マグナスと離婚したり、ギルドをやめたって聞いて、居ても立っても居られなくなって、連絡したんだ。ずっとエリシアと一緒にいたいって思ってたからさ!」
「その気持ちは嬉しいけど、本当に良いの?」
「もちろん!」
サイラス様の勧誘は、私にとってとてもありがたいものだった。
いくら貴族とはいえ、働きもせずにずっと家にいるわけにはいかなかったし、引き続き困ってる人を助けられるし、サイラス様とまた一緒にいられる。まさに良いことづくめだ。
それに……これは誰にも言えないけど、サイラス様のギルドで働いてお客様がたくさん増えれば、マグナス様のギルドからお客様を減らせるかもしれない。
些細な復讐だけど、こういうところから少しずつ仕返しをしてやるわ。
「あっ、ここから君の家は結構遠くて通うのが大変だろうから、君が良ければうちで生活してもいいからね」
「いやいや、さすがにそこまでしてもらうのは申し訳ないわ。家の人にもご迷惑をかけてしまうわ」
「家族には既に了承済みだから、心配しないでくれ」
「根回しが早い!?」
別に、サイラス様の家で生活することが嫌なわけではない。サイラス様のご家族とは何度もお会いしているし、とてもしてもらってる。
だからこそ、突然転がり込むのは申し訳ないというか……住む家がないわけでもないし……。
「往復で数時間もかかるのは、どう考えても大変だろう?」
「それはそうだけど……ほら、どこかで部屋を借りれば済むことだし……」
「それだと余計なお金がかかってしまうし、私生活でも色々としないといけなくなるじゃないか。俺、君と一緒に過ごしたいというのもあるけど、少しでも恩返しがしたいんだよ。だから、こうして君をここに呼んで話をしているんだ」
「サイラス様……」
「もちろん、君がどうしても嫌だと言うなら、無理にとは言わない」
嫌なわけがない。ずっと酷い扱いをされてきた私にとって、優しくしてもらえるのは本当に嬉しいもの。
それに……私も、サイラス様とまた一緒に過ごしたいと思っている。あっ、もちろん学友としてよ! 学友として!
「わかったわ。あなたの目標である、世界一の薬師ギルドにするために、私も協力させてもらうわね!」
「いいのか!? ありがとう! って……俺の目標を覚えていてくれたのか!?」
「ええ、もちろん。お師匠様のような、立派な薬師になって、お師匠様のギルドを世界一のギルドにしたいって、何度も言ってたじゃない。卒業してからここに入ったのも、そのためでしょう?」
サイラス様から昔聞いたのだけど、まだ子供の頃に重い病気になった時に、サイラス様を助けたのが、このギルドの長をしていた男性なの。
その男性に救ってもらい、感銘を受けたサイラス様は、過去にあった出来事も重なり、彼に弟子入りを志願した。
自分もお師匠様のような薬師になってたくさんの人を救いたい、このギルドに入って、ギルドを世界一にして、たくさん人を助けたい……誰にも、自分と同じふうになってほしくないからと言って、お願いしたそうだ。
それと、その出来事がきっかけで、もっと体を強くするために、お師匠様から武術を習い始めたとも言っていたわね。
「……誰にも自分と同じ様な悲しみを背負わせたくないのでしょう?」
「エリシア……! そこまで覚えていてくれていたなんて、俺は、俺は君の優しさに感動したっ!」
「きゃあ!? も、もうっ! わかったから! わかったから抱きつかないで~!!」
ああもう、どうしてサイラス様は、こうも感情表現が豊かなのかしら!? い、嫌というわけではないけど……もう少し、こっちの気持ちも考えてほしいわ!
****
一度実家に帰ってきた私は、サイラス様から聞いた話をお父様に報告した。
これで、もしかしたらお父様が許可をしないと仰ったら、残念だけど諦めるしかないのだけど……。
「わかった。サイラスのところなら安心して行かせられる」
……まさかの二つ返事で了承を貰っちゃった。てっきりもう少し悩むと思っていたのだけど……それほどサイラス様を信頼しているのね。
これも、学生時代にサイラス様の話をお父様に沢山していたおかげかもしれない。
「お姉様と一緒に過ごせないのは残念だけど……サイラス様なら仕方ないかなぁ。お姉様、初恋の人と一緒に過ごせるなんて、凄く幸運だね」
「は、はは、はつこっ……!?」
「だって、サイラス様のことを話す時のお姉様、恋する乙女の顔だったよ? 今だって、必死に嬉しそうな顔をするのを堪えてるって感じだし」
「そ、そんなことは……」
ない、とは強く言えないのが悲しいところだわ……で、でも! あくまでサイラス様は私の元教え子であり、大切な学友だから! 決して恋とかじゃないから! 多分……!
「いつかお姉様も、サイラス様への恋心が自分でもわかる日が来るよ~」
「恋心って……そう言われても、よくわからないわ……」
「ごほんっ。向こうで許可は既に出ているとはいえ、こちらからちゃんと挨拶はさせてもらわなければな。エリシア、数日程はここで過ごして、挨拶が終わったら向こうに行きなさい」
「わかりました。お仕事で忙しいのに、申し訳ありません」
「なに、久しぶりに親らしいことが出来るのだ。ここでやらなければ、それこそ親失格になってしまう」
ほんの少しだけニッコリと笑ったお父様は、書き物を始めた。邪魔をするわけにはいかないから、ミラと一緒に部屋を出よう。
「さてさて、お姉様! なにをする?」
「そうね。せっかく帰ってきたのに、次はまたいつ来られるかわからないから……挨拶がしたいわ」
「そうだね。きっと喜んでくれるよ! 行こうっ!」
私はミラに手を引かれて、屋敷の敷地内の端っこにある、大きな墓石の前へとやってきた。周りは色とりどりの花が咲き乱れていて、とても美しい場所だ。
「お母様……お久しぶりです。ずっと帰ってこれなくて、心配かけて、本当に申し訳ありませんでした」
この墓標には、お母様が眠っているの。ミラが生まれて間もなく、サイラス様と同じ病気にかかってしまって……病気に気づいた時にはかなり進行していて、もう手の施しようがなかった。
今思い出しても、胸が苦しくなる。全身に激しい痛みが巡っているのに、お母様は私達をずっと気づかい、最後の最後まで可愛がってくれたわ。
そんなお母様は、自分の死期をわかってたのだろう。亡くなる前日に、ありがとうという最後の言葉を残して、天国に旅立った。
その時に思ったの。目の前で、大切な人が苦しんでるのに何も出来ず、失ってしまう悲しみや無力感を味合うのは、私だけでいい。こんな思いをさせないために、私は苦しんでる人を救える人間になると。
……つまり、奇しくも私とサイラス様が薬師を目指した理由や目標は、とても似ていたというわけだ。運命の巡り合わせというのは、小説なんかよりも不思議なものね。
「お母様は、空から見守ってくださってるので、ご存じかもしれませんが……私、サイラス様の屋敷で生活することになりました。だから、次はいつ会えるかわからないけど……今度の所は素敵なところだから、きっとたくさん素敵なことがあると思う! だからね、近いうちに帰って来たら、お母様に沢山土産話をしてあげますね」
墓標にダラダラ長く喋っても、返事なんて帰っては来ない。でも、きっと私の声はお母様に届いている。私は、そう信じているんだ。
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