第五十九話 楽しいデート
「へえ……これはいいな……」
「見てこの薬研。凄く軽いし、動きが滑らかだわ!」
「本当だ、うちで使ってるのとは比較にならないじゃないか!」
目的地である道具屋さんにやってきた私達は、新商品だけではなく、他の道具を見ながら、あーだこーだと感想を言い合っていた。
デートで製薬の道具を見に来るなんて、あまり華があるとは言えないけど、私達の最初の繋がりである薬に関してのことなら、どんなことでも楽しめる。
「この乳鉢とか、エリシアに似合うんじゃないか? ほら、ピンク色でハートもいっぱいあって、可愛いエリシアにピッタリだ!」
「こんな派手なのを職場で使えるわけないでしょ、もう……」
小さな子が使うなら、可愛いわね~で済むかもしれないけど、既に成人している女性が使ったら、痛い人に見られかねないわ……。
「似合うと思ったんだけどなぁ。そうだ、派手に見られるということは、それだけ目立つということだ。それなら、みんなの道具をこれと似たような感じすればいいじゃないか!」
「もうっ! そんなことをしたら、せっかく増えた人員が減るかもしれないでしょ! 職権乱用はやめなさい!」
「そうか……」
「……けど、まあ……家で製薬をすることも一応あるし……私物としてなら、うん……」
「……! そうかそうか! それなら俺がプレゼントしてあげるよ! 店主さん、これを一つください!」
残念そうに眉尻を下げていたが、一瞬でパッと明るい表情になったサイラス様は、軽やかな足取りで会計をしにいく。
もし彼に犬の尻尾でもあったら、凄い勢いで揺れているだろう。
……まあ、それは私も人のことは言えないかもしれない。だって、見た目はどうあれ、好きな人が私のために品を選び、プレゼントしてくれるのよ? 嬉しいに決まっているじゃない。
「お待たせ。はい、どうぞ!」
「ありがとう。何かお礼を……」
「いやいや、いらないって!」
「でも……」
せっかくプレゼントしてくれたのだから、何かお礼がしたい。それは私の本意でもあり、礼儀でもあると思うの。
「ほら、前に花をプレゼントしてくれたじゃないか。それのお返しってことで!」
「……そういうことなら」
私はあのプレゼントに、見返りは求めていない。ただ、私の気持ちを少しでもサイラス様に伝えたかっただけだ。
だから、それのお返しと言われると、ちょっとだけうーん……となるけど、サイラス様が言っていることも理解できるから、強くは言えない。
「まあ、本当はお返しとか関係無しに、エリシアにプレゼントをしたかっただけなんだけどさ! だから、欲しいものがあったら何でも言ってくれよ! ギルドのお金がたんまりあるからさ!」
「ギルドのお金を、そんなことに使っちゃ駄目でしょ、もうっ!」
「あはは! そうやって元気な方が、エリシアに似合ってるよ!」
「サイラス様……そうね、元気が一番よね」
薬師という立場上、基本的に仕事相手は調子が悪い人が多い。中には、酷く苦しんでいる人もいる。
そういう境遇だから、健康で元気なことが一番大切だと、身に染みてわかっている。
「それじゃあ、次は素材屋に行ってみるとしようか」
「ええ」
サイラス様と繋ぐ手とは反対の手で、プレゼントが入った包みを大事に抱える。包みは冷たいはずなのに、サイラス様の気持ちがこもっているからなのか、ほのかに暖かく感じた。
「へえ……ここは生きた虫も扱っているのか」
「素材は新鮮な方が効果が高いものもあるからね。こっちのはちゃんと乾燥させてあるわ」
素材屋さんに到着し、売られているものを順番に見ていると、小さな虫かごに入っている、白い芋虫のようなものが目に入った。
「いらっしゃい……嬢ちゃん、虫が平気なんて、変わっているねぇ」
「普段から、薬を作るのに使ってますから、慣れてるんです」
店番をしていたおばあさんに声をかけられ、端的に答える。
そうよね、普通の女性なら、虫が苦手って人は多いわよね。私はだいぶ異質な感性の持ち主だと思う。
「確かこの虫は、乾燥させるほうが薬効が上がるんだったな」
「その通りよ。ただ、生きている時と乾燥させた時だと、微妙に薬効が変わるから、こうして生きたまま売られるのも必要ね。特に――」
「ははっ、そうやって俺に解説をしてくれる姿を見ると、昔を思い出すな」
昔というのは、学生時代のことを指しているのだろう。確かに当時は、サイラス様の先生として、事あるごとに色々と教えて気がする。
それが今ではサイラス様はギルド長になり、私は室長として仕事をしたり、仲間に色々と教える日々を送っている。これを昔の私達に言っても、信じてもらえないでしょうね。
「そうだわ! さっきのお礼として、ここの素材で薬膳茶と薬膳クッキーを作ってあげるわ!」
「え、えぇ!? いやぁ……それは、エリシアの気持ちだけでいいかなぁ、なんて……」
「私の料理、食べたくない……?」
「そんなことはない! ないん、だが……」
こんなに頭を悩ませるサイラス様、初めてみたわ……よほど私の料理って酷いのかしら……?
「サイラス様、今度は絶対においしいクッキーを焼いてみせるから。だから、楽しみにしてて!」
「そ、そっかー……タノシミダナー……アハハ……」
なんだか変なところで火が付いたわ! いつになるかはわからないけど、絶対に、おいしくて体にいい薬膳クッキーを作って、サイラス様にプレゼントするんだから!
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