第五十七話 少しは休んだ方が……
無事に大仕事が終わり、平常営業に戻る――と思いきや、そんなことはなかった。
ルーイン病を治す薬を作った功績は、メアリー様やそのお父様、そして見学に来ていた貴族達から瞬く間に広まり、ギルドは大忙しになってしまったの。
その忙しさは、うちを選んでくれた依頼人の方に、お断りをしないといけないくらいまでなってしまった。
さすがにこのままではいけないと思ったサイラス様は、少し離れた場所にギルドの支部を作り、人員も一気に増やした。そのおかげで、仕事は随分と余裕ができるようになったわ。
予算に関しては、ありがたいことに、最近の売り上げがとても好調なおかげで、なんとかなった。
人員に関しても、メアリー様のお父様の紹介だったり、うちの評判を聞いて優秀な人が来てくれたのもあって、なんとかなった。
とはいっても、一つだけ問題があった。それは、支部の長を誰にするかというものだ。
いくらサイラス様が仕事熱心で、体力もあるとはいえ、まだギルド長としての経験は浅い。そんな彼に、本部と支部の二つを管理するのは、さすがに厳しい。
なので、ギルドの人が全員参加の会議を開き、レージュ様に支部長を任せることが決まったの。開いた製薬室の主任の席は、私がつくことになった。
私はもちろん快く引き受けたし、レージュ様も同じ様に快く引き受けてくれた。ギルドの人達も、誰も反対する人はいなかったわ。
新体制になった最初の頃は、勝手がわからなくて色々と大変だったけど、今ではとても安定している。
唯一まだ慣れないのが、レージュ様と一緒の場所で仕事をしていないってことね。あの人、いつも冷静で頼りになる人だったから、一緒にいないとたまに不安になる。
「……駄目、今は私が主任なのだから、しっかりしなきゃ」
上に立つ私が不安になっていたら、一緒に働いている人に、その気持ちが移ってしまう。もっとしっかりして、気持ちよく働いてもらわないと。
「……あ、そうだわ。サイラス様からサインを貰わないといけない書類があったのを忘れてた! ごめんなさい、少し席を外すわ」
「うっす、ごゆっくり~」
製薬班の人に声をかけてから、ギルド長室に行くと、サイラス様の他に、思わぬ人の姿があった。
「あれ、レージュ様? どうしてこっちに?」
「エリシア様、ちょうど良いところに。これをご覧ください」
私の質問に答えるように、レージュ様が私に見せてくれたのは、今うちのギルドで抱えている仕事のリストだった。
びっしりと書かれているように見えるけど、今では沢山の人員がいるおかげで、これだけの量でも特に問題無く捌けるわ。
「見ての通り、今の我々なら、何とかできる仕事量なので、今のうちに休めとサイラスに言いに来たのですが……」
「ああ……俺なら大丈夫だ! みたいなことを言って、聞かないのでしょう?」
「お察しの通りです」
私の読みは、ズバリ的中していたのはいいのだけど……いつもなら、こんなことを言い当てたら、俺のことを理解してくれて感動だ! とか言いそうなのに、仕事に集中して、全然聞いていないみたいだ。
「人間というのは、自分では疲れてないと思っていても、本当は疲れていることもありますからね。今だって、集中しているように見えますけど、疲れて聞こえていない可能性もありますからね」
「なるほど、サイラス様のことを心配して来てくれたのですね」
「いや、それは……ごほんっ、僕はただサイラスに直接渡したい書類があったから、わざわざ来てやったにすぎません」
レージュ様は、ほんのりと頬を赤くしながら、プイッとそっぽを向いた。
こういう素直になれないところ、私と似ているわね。親近感が湧くけど、自分もこんな感じなんだと思うと、恥ずかしく思う。
「エリシア様、なんとか言ってサイラスを休ませてくれませんか? あなたが言えば、きっと聞いてくれると思うのです」
「わかりました」
私としても、サイラス様にはしっかり休んでほしいとはいえ、なんて言えば休んでくれるかしら? 普通に休んでといっても、多分大丈夫と言われるのが関の山だろう。
絶対に断られずに、仕事を休ませられる方法……そうだわ!
「サイラス様」
「ん? エリシア、いつの間に? 何か用かい?」
「一緒にデートをしましょ」
「っ……!?」
顔だけ上げたサイラス様が、まるで稲妻に打たれたかのように固まり、手に持っていたペンを落とした。
サイラス様なら、こう言えば素直に乗ってくれると思ったし、その……こんなことを言うのはあれだけど、サイラス様とデートがしたかったの。
で、でもほら! これならサイラス様も仕事を休めるし、私もデートが出来るし、一石二鳥でしょ!? そうよね、うん!
「そ、それで、どうかしら?」
「もちろん良いに決まってる! だが、仕事が……」
「それなら問題無い。急ぎの仕事は無いし、お前が一日休んで体調を万全にしてもらった方が、ギルドの効率も良くなる」
私とレージュ様の言葉を聞いたサイラス様は、少し考えるような素振りを見せてから、コクンと頷いた。
「それじゃあ、今度の日曜日に一緒に出掛けよう! ああ、今から楽しみで一睡もできなさそうだなぁ!」
「ちゃんと寝ないと、当日までに倒れちゃうでしょ! もうっ!」
「そんなヘマはしない! 楽しみパワーがあれば、睡眠なんて些細なことだからな!」
「そんな未知のパワーでどうにかなるわけないでしょ!? いいから、夜はちゃんと寝ないと、デートは無しだからね!」
「そ、そんな……だが、楽しみすぎて目が冴えてしまう……そうだ、エリシアが添い寝をしてくれればきっと――」
「サ・イ・ラ・ス・く・ん?」
「ひぃ!? すみませんちゃんと寝ます!」
伝家の宝刀、君付け呼びと笑顔の組み合わせに完全敗北したサイラス様は、涙目になりながら、首を取れちゃうんじゃなかって勢いで、何度も縦に振った。
これで、とりあえずは次の日曜日は休ませられそうだ。せっかくのデートなのだし、サイラス様に沢山楽しんでもらえるプランを用意しなきゃね。
「……あの圧をかけるのを最初からしていれば、デートが無くても休ませられたのでは……? まったく、エリシア様も素直ではないな……いい加減、本当に結婚すれば良いものを……はぁ、僕もあんな素敵な女性と知り合いたい……」
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