第五十五話 いつもとのギャップ
パーティーが始まってから、早くも一時間は経った。みんな思い思いに食べたり飲んだり、好きな人と話したりしていて、とても楽しそうだ。
その中でも、一番このパーティーを楽しんでいるのは、きっと彼だろう。
「あはははっ! おい、もうギブアップかぁ!? なっさけないなぁ~!」
「まだまだっすよ~!」
少し離れた場所で、泥酔したレージュ様が、男性の職員と一緒に、お酒の飲み比べをしている。
前回もだったけど、いつでもお酒を飲むと、レージュ様はあんな感じになるのね。
……驚いたり、引いたりしないのかって? 別に酔っぱらってるだけなのだし、目くじらを立てる必要は無いでしょう? せっかく楽しんでいるのだしね。
「ふふっ、みんなとても楽しそうね」
「イリス様? 今回は来てくれたのですね!」
「しーっ……」
椅子に座ってみんなが楽しんでいる姿を眺めていると、イリス様が私の隣に腰を下ろす。そして、とても優しい笑みを浮かべながら、私の唇を細くて綺麗な細い指で、そっと押さえた。
「ギルドの方々の話は、サイラスから聞いていたけど、実際に交流している姿はどんな感じなのか気になって、こっそり見に来たの。邪魔をしたくないから、すぐに屋敷に戻るわ」
「そんな、邪魔だなんて……」
「ふふ、あなたならそう言うと思っていたわ」
私達の視線の先では、サイラス様が一人一人に声をかけ、その都度楽しそうに笑っていた。時には肩を組んだり、拳を合わせたりと、本当に楽しそうだ。
なんていうか、上司というよりも、みんなを対等な仲間として見ている感じがする。これは、サイラス様の素敵な長所だわ。
「ここだけの話、あの子にギルドの長なんて出来るのかって、心配だったの。人の上に立つのって、本当に大変だから」
普通に聞いていると、ただ親が子供の心配をしているだけだ。
でも、イリス様は旦那様を亡くしてから、ずっと家長として人の上に立ち、その大変さを知っているからこそ、より言葉の重みを感じられた。
「これもきっと、あなたがあの子を支えてくれたおかげね」
「そんな、私は何もしていません。全て、サイラス様が頑張った結果です」
「あら、そんなことはないわよ? 前にも話したけど、最近のあの子は良い顔をするようになったわ。それも、毎日!」
そうなのだろうか……もしそうなら、これほど嬉しいことはない。
「それじゃあ、私はそろそろ戻るわね。この後、ちょっとしたサプライズも用意しているから、楽しみにしててね」
パチンっとウインクをするイリス様に、サプライズって? と聞こうとしたが、その前にイリス様は屋敷へと帰っていってしまった。
すでに十分なほどにしてもらったのに、これ以上してもらうのは、嬉しいと同時に、少々申し訳なさも感じてしまう。
そんな私の元に、耳まで真っ赤にさせたレージュ様が、上機嫌な様子でやってきた。
「エリシアさまぁ、グラスがあいてるじゃないですかぁ! ほらほら、どんどん飲みましょ~よ~!」
「ありがとうございます。いただきます」
手に持っていたグラスにシャンパンを注いでもらい、それを一気に飲み干した。
面倒な絡み方をされていると思う人もいると思うけど、せっかく楽しい席でお小言を言うのは、あまりしたくない。限度を超えたと判断した時に注意しましょう。
「素直に飲んでくれるなんて……本当にエリシアさまは素晴らしい女性だ! うんうん、サイラスの気持ちもよーくわかりますよぉ! 女性がみんな……あなたのように心が広ければ……きっと、きっと僕も今頃素敵な女性と……ぐすん……」
えぇ……笑い上戸なのかと思っていたら、泣き上戸でもあったのね。いつも冷静に周りのことを考えてくれているぶん、お酒が入ると素直な気持ちが出てきちゃうのかしら?
「おいレージュ! 俺のエリシアにちょっかいかけんな!」
「なにぃ~!? 誰がお前のものだと決めたんだぁ! どこかに名前でも書いてるのかぁ! 僕だって、僕だって……女性とゆっくり会話がしたいんだよぉ~!」
会話なら、いつも仕事の時にしていると思うのだけど……それでは駄目なのかしら……?
「はいはい、レージュさん。あっちで一緒に飲むっすよ。愚痴ならそこで聞いてあげるっすから」
「うぅ……ぼ、僕は本当に良い仲間に巡り合えた……あいつとは大違いだ……」
レージュ様は、憎まれ口を叩きながら、男性の職員に連れていかれた。
いつもたくさん頑張ってくれているのだから、今日くらいは羽目を外すのに付き合っても良かったのだけどね。
それにしても……飲み過ぎたかしら? 結構酔っちゃった……それに、なんだか眠くなってきちゃったわ。
「レージュ様、はしゃぎ過ぎちゃったんですね〜」
「メアリー様? ええ、まったくあいつは……酒癖が悪いんだから、飲まない方が良いと、事前に言っていたんだけど……事情を知らない誰かに飲まされたのか?」
「どうなのかしら。ところで、サイラス様は大丈夫なの? 見てた感じだと、挨拶回りをしていた時に、結構飲んでたみたいだけど」
「今のところは大丈夫だな。エリシアは酔ってないか?」
「今のところ大丈夫よ。多分……」
「結構飲んでたように見えたけど……ふむ。メアリー様、彼女を借りて行っても?」
「どうぞどうぞ〜!」
サイラス様は、何か考え込むような素振りを見せた後、私の手を引っ張って会場を後にすると、同じ建物のバルコニーへと連れて来てくれた。
……急にどうしたのかしら? 二人きりになるのはいいけど、唐突だったから少し驚いちゃった。
「急にどうしたの?」
「エリシアが少し休憩したそうな雰囲気だったからさ。二人きりになれる方が、休めるかと思って」
「そっか……実は、お酒か疲れかはわからないけど、少し眠くなっちゃってて……よくわかったわね」
「そりゃエリシアのことなんて、頭の先からつま先まで、全てお見通しさ!」
「もうっ! それじゃあただの変態みたいじゃない!」
サイラス様は、ニヤリと笑いながら、手をワキワキさせる。それに対して、私はジトーッとした顔で、体を守るように少し縮こまった。
とはいっても、不快感は全く無い。ただこの場の空気に合わせて行動しただけだ。
「ふふ……あははははっ! ふぅ……今日は本当に楽しいな。こんな楽しい日々を迎えられたのも、ギルドのみんな、レージュ、そして君がいてくれたおかげだ」
「サイラス様……」
満天の星空を見上げるサイラス様の横顔は、驚く程綺麗で……私の視線を釘付けにするには、あまりにも十分すぎた。
「夜のバルコニーは少し冷えるな。そろそろ戻ろうか」
「いえ、もう少しだけいたいわ。それに、寒さならこうすればいいから」
私は静かにサイラス様の腕にぴったりとくっついた。こうすれば寒くないどころか、ドキドキして暑いくらいだ。
「え、エリシアから俺に……!? あ、落ち着け……ごほんっ! あ、ああ! 名案だな。それじゃあ、もう少しこうしていようか!」
私がくっつかれて、驚きはしていたが、サイラス様はそっと抱き寄せてくれた。そのおかげで、私はさらにサイラス様に体を密着させた。
……私には勿体ないくらい、素敵な男性。いつも一生懸命で、正義感に溢れていて、私のことを大切にしてくれて。ちょっぴり暴走しちゃったり、過度なスキンシップをすることがあるけど、そういうところも……全てが好き。
ああ、私……自分で思っているよりも、ずっとずっとサイラス様が好きになってしまったのね。この気持ち……止められそうもない。
「サイラス様……」
「エリシア……?」
私の声に反応して、爽やか笑顔をこちらに向けてくれた。
その表情が、その目がとてもキラキラと輝いていて……愛おしくて。私は自然と、自分の顔をサイラス様の顔に、ゆっくりと近づけていった。
あと少し顔を近づければ、私はサイラス様と……告白もまだしていないのに、もうこの気持ちと体を抑えることが、出来そうもない……。
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