第五十一話 汚い手で触るな
■マグナス視点■
今日は、憎きエリシアとサイラスに復讐できる、待ちに待った日。指定した会場で優雅に待つ私は、愛する妻のヘレナと共に、約束の時間が来るのを待っていた。
周りには、私が事前に呼んだ貴族達が、楽しそうに会話をしながら過ごしている。
今日はパーティーというわけではないが、面白いものを見せるという話を広めたところ、興味を持った貴族が、こうして来ているのだ。
貴族というのは、他人の不幸を好む者が多い。それが何よりも簡単に、そして面白い娯楽だからだ。かくいう私も、人が不幸になるのを見るのは、楽しくて仕方がない。
「マグナス様、あいつら全然来ないですけど、どうしたのかしら?」
「さあな」
事情を知らないヘレナは、私に甘えるようにくっつきながら問いかけてきた。
ふん、あいつらは絶対に時間に間に合わない。なにせ、私が金で雇ったごろつき達に、妨害するように仕向けたのだからな。頑張って向かっても間に合わず、笑い者になるという寸法よ。
まあ、ここまでせずに、私のギルドが作った薬で完膚なきまで打ちのめせばいいのだが、情報によると、奴らも質の良い薬を作ったそうだ。
私が負けるなんてことは、天地がひっくり返ってもありえないが、万が一が無いとも言い切れない。確実に勝てる方法を選ぶのは、当然だろう?
「くくくっ……」
駄目だな、今日ここで復讐が出来ると思うと、笑いが抑えきれん。早くあの二人が、大衆の前で恥をかくところが、見たくて見たくて仕方がない!
……ふぅ、女でも見て心を落ち着かせようではないか。とはいっても、今回来た貴族の女共は、既に何度も会っているし、一夜を過ごした者もいて、新鮮味がない。
こういう時は、一緒に来ている使用人を見るのが一番良い。ああいう連中は、立場が弱いのもあって、簡単に言うことを聞かせられる。主人である貴族には、事前でも事後でもいいから、金を持って話を通せばいいだけだからな。
そんな連中と一夜を楽しむために、今のうちに品定めをしておかなければな。
「あの、あなた方が用意した薬は、本当に効くのですか?」
「当然だ。あと、依頼人だからといって、気軽に話しかけるな。弁えろ」
「失礼ですが、私は家族の身がかかっております。疑うのは当然です」
この小娘、何か知っていそうだが、相手をするのも面倒だ。適当にあしらって終わりだ。
まあ、別に構ってやってもいいのだけどな。なにせ、私は価値を確信している。このままいけば、あいつらは不戦敗……仕事を投げ出し、遅刻までするという話をばらまきまくって、評判をがた落ちさせてやろう!
――そう思っていたのだが……突然会場のドアが開いた。そこに立っていたのは、憎きエリシアとサイラスだった。
****
会場に入って早々に、私は懐中時計で時間を確認すると、時間はあと一分を指していた。どうやら、ギリギリ間に合ったみたいだわ。
「本当にありがとう、サイラス様。あとは私に任せて、何かあった時のために休んでおいて」
我ながら物騒なことを言っている自覚はある。しかし、相手がマグナス様なのだから、どんな手を使うかわからない。それがもし武力なら、サイラス様に頼るしかない。
「両者出揃いましたので、これより始めたいと思います」
司会を務めるメアリー様の言葉に、拍手の雨が降り注ぐ中、私はマグナス様を睨みつける。
散々私にしてきた酷いことや、今回の件で散々妨害したこと、グリムベアのこと……多くに怒りや憎しみを込めてね。
「今回、薬の効果を確認するために、無関係の薬師ギルドにお願いをして、お父様から血液と病気の原因である菌を採取し、このガラス板に付着させてあります。それと、このマウスは事前に菌を投与して感染させ、その後にいただいた薬を投与してあります。この二つの結果を元に、私の方でどちらが優れているかを判断させていただきます」
まだ幼いのに、ハキハキと喋るメアリー様の姿は、本当に立派なものだわ。
「ではまず、薬を直接投与した時の場合は……」
メアリー様に促された私は、ガラス板に薬を一滴垂らし、すぐに反応を協力してくれたギルドの人に見せた。
「すごい、さっきまで動いてた菌が、全然動きません!」
まだルーイン病の薬が無いのに、効果がとても高いという結果に、会場のお客さんである貴族達が、動揺の声を上げていてた。
……改めて冷静に考えると、ここにいる人は何をしに来たのかしら? ただの暇人?
「ば、馬鹿な……あれだけ高品質の薬を作るだなんて……だ、だが我々の薬だって!」
次に、マグナス様が用意した薬を、ガラス板に垂らしてから確認をされるが、あまり優れない表情だった。
「動きは鈍化しますけど、それだけですね。あれでは延命にしかならないかと……」
「ぐぐっ……そ、それならあいつらの薬だって、強すぎて副作用が出るに決まっている!」
かもしれない、じゃなくて、決まっているというなんて、よほど私達の薬に文句を言いたいのね。
そうやって、もっと頭を振り絞って、振り絞って……ほら、何か考えないと? また惨めな負けになっちゃいますよ? マグナス様?
「数日前に投与されたマウスなのです。ご覧ください」
事前に準備された二匹のマウスは、片方がとても元気で、もう片方は痩せてて元気がない。これはもう、勝利がどちらかは明白だわ。
「なっ……馬鹿な! 部下はちゃんと治るから大丈夫と言っていたのに!?」
「そうやって、他人に仕事を押し付けて、自分は豪勢に女と遊んで、足を引っ張ることだけは一人前。そんなあなたなんかに、負けるわけがないわ!」
「うぐっ……き、貴様ぁ……!」
「決まりですね。私、メアリーはこの勝負は、サイラスのギルドの勝利と判断します。これに同意のお客様は、盛大な拍手を!」
勝利宣言から間もなく、周りの人達は、拍手の雨を降らせてくれた。
……よかった、私達は勝ったんだ。あはは、今度こそ休んでもいいかな……?
「エリシア!」
体中から力が抜けて、立っていられなくなってしまったけど、サイラス様がしっかりと受け止めてくれた。
そんなことをしている間に、段々と拍手は止み……ヒソヒソと声が聞こえてきた。それは、マグナス様への嘲笑、そして憐れむものだった。
あの大手ギルドでの負けるのは恥ずかしいとか、女ばかり追いかけてるからとか、メンバーを大切にしないとか、製薬を丸投げにして遊び歩いているとか……まあマグナス様のことに関して、色々と出てきた。
ちなみに、この場にはいられなくなったのか、ヘレナ様は既に会場からいなくなっていた。
それでもめげずに残っていたマグナス様は、ブツブツと何か言いながら、先程の勝負に使った机の前に立った。
「馬鹿な……この私が、一度ならず二度までも……エリシア……サイラス……絶対に許さないからな!!
「あら、良い顔をするじゃないの。おかげで、私の気分が少し晴れたわ」
「私の所有物の分際で……! そうだ、こんなものがあるから……くそっ……くそっ! くそがぁぁぁぁぁぁ!!」
血走った目の先には、私達が作ってきた薬が入った瓶がある。このままでは、せっかく作ったの割られてしまう!
そう思ったのも束の間。サイラス様の手刀がマグナス様の首に刺さり、そのまま気絶させてしまった。
「エリシアやみんなの努力の結晶を、その汚らしい手で触るな」
さ、さすがは武術を学んでるだけあるわ……格好いい。
なんにせよ、私達は勝ったんだ。あの汚いことばかりをしているマグナス様に、今回も勝てたんだ!
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