第五十話 最後の妨害
ついに迎えた約束の日。私はサイラス様と一緒に、事前に来た手紙で指示された場所に向かっていた。
その指示された場所というのは、マグナス様の家であるバラデュール家が管理をしている、大きなパーティー会場だった。
「どうしてこんな場所を指定したのかしら?」
「さあ……マグナスの考えていることは、全く理解できないからな」
それはそうね。人に嫌がらせをすることと、女性のことしか考えていない人なんて理解できないし、そもそも理解したくないわ。
「それにしても、大丈夫かしら……」
「俺達の薬は完璧だ。絶対にうまくいっている!」
「それもあるけど、ほら……円滑に進めるために、事前に準備をしたじゃない? あの時に、またマグナス様が卑怯なことをしていないかって思うとね」
「それは問題ないと思うよ。メアリー様が、今回の件に関わっていない薬師ギルドに協力してもらって、準備をしてもらったみたいだからね」
今回の勝負の結果は、その場ですぐに出すことは出来ない。病原体に直接薬を使う方はいいのだけど、生き物に投与してすぐに効果が出るわけじゃないからね。
「ほら、まだ到着まで時間があるし、のんびりと甘い時間を過ごそうじゃないか」
「もうっ、なによ甘い時間って……きゃあ!?」
なんとなくサイラス様の言いたいことがわかりながらも、恥ずかしさでプイっと顔を逸らした瞬間、突然馬車が止まった。
「大丈夫か、エリシア」
「え、ええ。ありがとう」
急停止したことでバランスを崩してしまったけど、咄嗟にサイラス様が私を抱きとめてくれたおかげで、どこかにぶつけたりせずにすんだ。
「一体何があったんだ?」
「わからない……外に確認しに行ってみましょう」
サイラス様と一緒に急いで外に出てみると、どう見ても悪者って感じの人達が、私達の行く手を阻むように、馬車をぐるっと囲んでいた。
「エリシア、俺の後ろに」
「ひっひっ……あんたら、サイラスのギルドだな?」
悪者の一人が、手に持っていたナイフを軽く舐めながら、気味の悪い笑みを浮かべている。
「サイラス? なんのことだ?」
「とぼけんじゃねえ! あんたらがここを通ることは、既にわかってたんだよ!」
「あなた達、一体何者なの!? 私達、急いでいるの!」
「約束の場所に行くため、だろう?」
この人達、私達の行く場所も目的もわかっているの? まさか……!
「気をつけて、この人達はマグナス様が差し向けた刺客だわ!」
「そんなところだろうな。お前らに恨みはないが、俺達は急いでいてね。手加減をする余裕はない」
「おー怖い怖い。グリムベアと戦って生き残ったバケモノが凄むと、迫力があるねぇ」
口では怖いとか言っておきながら、どうみても怖がっているようには見えない。むしろ、余裕たっぷりって感じだわ。
……もしかして、なにか私達を邪魔するための秘策が用意されている?
「オレ達は、バケモノと正面から戦うほど馬鹿じゃねえ。だから……こうしてやる!」
悪者の一人が、ポケットから何か取り出すと、それを地面に叩きつける。すると、辺り一帯が真っ白な煙に包まれた。
「なにこれ、煙幕!?」
「エリシア、そこから動くな! 大丈夫、俺が必ず守ってやる!」
煙の向こうから、サイラス様の頼もしい声が聞こえたのとほぼ同時に、何かが私の体をギュッと抱きしめてきた。
この煙の中でも、この体が誰かはわかる。伊達に何度も抱きつかれたわけじゃないのよ!
「ヒヒーン!!」
「きゃっ!? 今の声って……!」
「嫌な予感がする……少し荒っぽいが、仕方がない!」
サイラス様は、着ていた上着を脱ぐと、それを大きく振って煙を少しずつ飛ばしていく。煙が晴れると、馬車を引いてくれていた馬たちが、体のあちこちから血を出して倒れていた。
絶対に、今の煙幕の目的はこれだわ! この子達の足を止めてしまえば、私達は時間に絶対に間に合わないと踏んだのね!
「なんて卑怯な……早く行かないと! でも、この子達を放ってはおけないし……もうっ、悩んでる時間が勿体無い! サイラス様、急いで治療をするわよ!」
「任せろ!」
私とサイラス様は、念の為持ってきた治療道具を使って、二頭の馬の治療を行う。
見た目以上酷い怪我ではないけれど、これでは馬車を引っ張るのは無理だろう。
「この子達には、何の罪もないのに!」
「エリシア様、サイラス様、申し訳ございません。御者の私が、この子達を守らなければいけなかったのに……」
「自分を責めないでください。あなたは何も悪くありませんから」
とはいっても、これは非常に不味い状況になってしまった。約束の場所に行くには、まだ馬車で三十分はかかる。それを人の足で行こうとしたら……約束の時間に間に合わない。
間に合わなければ、勝負を放棄したとして、私達が強制的に負けになってしまう。そうなれば、必死になって作った薬を使ってもらえない可能性もある。
一応、マグナス様の作った薬が凄くて、無事にメアリー様のお父様は助かりましたってなればいいけど……あのマグナス様に期待するなんて、あまりにも悪手だろう。
「どうしよう……考えるのよ、私……!」
「考える必要なんてないさ。今は一秒でも惜しいからな」
「えっ……さ、サイラス様!?」
とても真剣で、格好良い雰囲気を醸し出しているサイラス様は、私のことをお姫様抱っこをすると、そのまま全速力で走りだした。
「まさか、走っていくつもりなの!? そんなの、どう考えたって無理に決まっているわ! どれだけ距離があると思っているの!?」
「そんなの、やってみないとわからないだろう! あそこでうだうだ考えるよりも、まずは動く! あそこで走ってれば間に合っていたのになんて、後悔はしたくないし、君にさせたくないしな!」
「サイラス様……!」
「わかったら、大人しくしててくれよ! あと、舌を噛まないようにな!」
「わ、わかったわ!」
私は、サイラス様に言われた通りに大人しくしながら、落ちないようにサイラス様の首に回す腕に力を入れる。すると、サイラス様は行くぜ! と大きな声で宣言をしてから、さらに走る速度を上げた。
――ああもう、本当にこの人は頼りになって、本当に格好良い。こんな姿を見せられたら、ますます好きになっちゃうじゃない。
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