第五話 エリシア先生!!
「ちょっ、サイラス様!? いきなり抱きつかれたらビックリしてしまいますから!」
私は驚きとドキドキで体中を熱くさせながら、彼の背中をバシバシと叩く。しかし、彼には全く聞こえていないようで、私を離す気配が全く感じられなかった。
「エリシア先生、来てくれてありがとう! まさか、こんなに早く来てくれるだなんて、俺……俺……感激だよ!!」
「わ、わかったから! わかったから落ち着いてください!」
必死に何度もお願いをしてようやく解放してもらった私は、運動した後のように、ぜーぜーと息を切らせてしまった。
だというのに、私をこんなにした目の前の人は、嬉しそうにケラケラと笑っている。
この人こそ、私をここに呼んでくれた張本人である、サイラス・クラヴェル様。クラヴェル伯爵家の末っ子で、私より一つ年下の男性だ。
サイラス様と知り合ったのは、学園の全学年合同授業の時に、一緒の班になったことだ。
当時の私は、マグナス様のせいでずっと孤独だったのだけど、サイラス様も同じ様に孤独だったの。
でもそれは、誰かに邪魔をされたとかではなく、単純に人懐っこい性格が災いして、人との距離の詰め方が早すぎるのが原因だった。
まだそこまで仲良くなくても、グイグイ来られたら引いちゃうでしょう? それが学園でも社交界でも起こってしまい、サイラス様は一人ぼっちだった。
そんな彼は、社交界で会ったら挨拶をする程度の私にも、同じ様な距離の詰め方をしてきた。
当時の私は、そういう人もいるんだなと思うだけで、特に引いたり避けたりするわけでもなく、滞りなく授業は終わったわ。
それからというもの、サイラス様は私に声をかけてくるようになった。どうやら、他の人と違って普通に対応してくれるのが嬉しくて、たくさん話したかったそうだ。
私もずっと一人だったから、サイラス様が寂しいと思っている気持ちがよくわかるし、明るいサイラス様とお話していると、元気がもらえる感じがして好きだった。
しかも、サイラス様も薬師を目指していて、親近感がすごく湧いたの。
そんな彼は、とある目標を達成するために薬師を目指していて、同じ道を志す私に、勉強を教えてくれとお願いしてきたの。
断る理由もなかったし、誰かと勉強なんて学生らしいことをしてみたかったから、喜んで引き受けたわ。
そんな私を、当然マグナス様が見逃すはずが無かった。
彼はあの手この手で、サイラス様を私から引きはがそうとした。時には、サイラス様に二度と近づかないように、私に暴力を振るったこともあった。
でも、私もサイラス様も受け入れることは無かった。私は必死に耐えることで、サイラス様は己の強さを誇示することで、マグナス様の悪意を跳ねのけたの。
強さってどういうことかって? 実はサイラス様は、昔から武術を嗜んでいて、もの凄く強いのよ。私も何度か組み手をしているのを見せてもらったことがあるけど、迫力があり過ぎてビックリしたわ。
それを知ったマグナス様は、さすがに自分の身に危険が及ぶと思ったようで、それ以上手を出すことは無くなったというわけ。
卒業してからは、私がほぼ休みなく働き続けていたから、一度も会えていなかったのだけど……元気そうでよかったわ。
本当は、もっと早く会いたかったのだけど、仕事があまりにも忙しすぎて、会いに行く暇が全然無かったの。
サイラス様が同じ職場なら、いつでも会えるのにと、何度思ったことか……あっ、別に私はサイラス様が好きだけど、異性としてサイラス様が好きというわけではないのよ? 本当よ! そもそも、恋心とかよくわからないし!
「さ、サイラス様。再会を喜んでくれるのはとても嬉しいですが、いきなり女性に抱きつくのはよろしくありませんよ」
「大丈夫大丈夫、君以外にこんなことはしてないから!」
「もうっ! そういう問題ではありません!」
「それよりも、なんでそんなによそよそしいのさ!? 前みたいに、サイラス君って呼んでくれ! あと、話し方も!」
「あ、あれは私があなたに勉強を教えている時だけって約束したでしょう?」
「そうだったかなー? 俺、忘れちゃったなー? アハハー」
「もうっ、その棒読み止めなさい!」
「うわっ、急に先生っぽい感じに戻った。それでこそエリシア先生だな!」
学友とはいえ、サイラス様の家は私の家よりも爵位が高い。だから、ミラと話す時みたいな楽な話し方も、気さくな呼び方も出来ない。
でも、当時はサイラス様の強い希望で、勉強を教えている時だけは爵位など関係なく接するように約束をしたの。
それが今も根付いているのか、サイラス様はどんな時でも私を先生と呼ぶようになってしまった。
「あなたこそ、私のことを先生と呼ぶのはおやめください。私はもう、あなたの先生ではないのですよ?」
「嫌だ! 君が前の話し方をしないのなら、俺だって止めない!」
相変わらず子供みたいなことを言って……普段はとても気さくで明るい人だけど、たまにこうやって子供みたいになるのは、学生時代から変わらないわね。
とはいっても、人が本当に嫌がることは絶対にしないのは、同じ様にワガママなマグナス様とは、明確に違うところね。
「…………わかりました。それじゃあ、話し方は楽にさせてもらうわ」
「ありがとう! ついでに呼び方も、変えてくれないか?」
「それは駄目よ。あなたは伯爵家のご子息。これでも、相当譲歩しているのよ」
「…………」
「そんな捨てられた子犬みたいな目をしても、駄目なものは駄目よ」
「……わかったよ、エリシア先生……じゃなかった、エリシア」
まだ不満げではあったけど、受け入れてくれたみたいでよかったわ。これで話が進められる。
「とりあえず、中に入ってくれ」
「ええ、おじゃまします」
サイラス様が出てきた部屋の中は、綺麗に整頓されていたのだけど、机の上が書類の山で埋め尽くされているのが異様に目立つ。
「サイラス様、随分と仕事が溜まっているようだけど、大丈夫なの?」
「ああ、あれ? 大丈夫大丈夫。君と話せるなら、休み時間も寝る時間も返上する覚悟だからね」
「休息はちゃんと取らないと体を壊しちゃうわよ。ところで……ギルド長ってどういうこと?」
「実は、去年ここのギルド長をしていた俺の師匠が、現役を引退してさ。その後釜として俺が任命されたんだ」
「まあ、そうだったのね。凄いじゃない!」
どういう選定基準なのかはわからないけど、知り合いがそんな凄い役に抜擢されたというのは、とても嬉しいわ。
「これも全て、エリシアが先生になって色々教えてくれたおかげさ」
「そんなことはないわ。サイラス様が頑張った結果よ」
「そう言われると照れるなぁ……って、本題を忘れてた!」
「あっ……そうだったわね。今日は急に呼び出してどうしたの?」
今日呼び出された理由を聞くと、笑ったりすねたり忙しくしていたサイラス様の顔が、とても真面目なものに変わった。
「うちの薬師ギルドで働いてくれないか?」
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