第四十八話 一緒にいたい……
翌日から、私は以前モール病の時にお世話になっていた図書館だけでなく、近くの村や町にある図書館を周り、再び色々な製薬方法を探し始めた。
サイラス様とレージュ様、そしてギルドのみんなに無理を言って、一日中図書館に籠り、今回思いついた方法で作れそうな薬の中で、ルーイン病に効きそうなものがあれば、片っ端からノートに記録しているのだけど……いつの間にか、ノートが凄い数になってきているわ。
「ふむふむ、こんな組み合わせがあるのね……これは応用が効きそうだわ。これは……さすがに今から素材を集めていたら、間に合わなさそうね……」
「ああ、いたいた。エリシア、調子はどうだい?」
「サイラス様?」
声をかけられて顔を上げると、そこには控えめな声量で話すサイラス様の姿があった。
「どうかしたの?」
「エリシアが調べてくれた製薬方法で使う素材が、さっき届いたことを伝えにきたんだ」
「まあ、本当に? わざわざありがとう。それじゃあ、そろそろ製薬を始めないといけないわね」
約束の期限まで、既に半分の月日が経ってしまっている。本当はもう少し色々と調べたいのだけど、間に合わなければ意味が無い。
それに、もしかしたら患者の容体が急に悪くなってしまう可能性もあるから、動くのは早いに越したことはない。
「まさか、それだけを伝えに来るために、仕事を放り投げてきたの?」
「そ、そそ、そんなことをしたら、レージュに怒鳴られてしまうじゃないか。えーっと……そう、仕事の帰りだ! 決して、最近エリシアと過ごす時間が減って寂しいとか、少しでも時間を共有したいとか思っているわけじゃないからな?」
……サイラス様、さすがにそれは嘘が下手すぎない? 目があちこちに泳いでるし、思い切りどもってるし……。
でも……悪い気はしない。だって、仕事に集中しなきゃって自分に言い聞かせて、一緒に過ごしたい気持ちを押し殺していたから。
「それじゃあ、少しだけ待っててもらえるかしら? 最後にこの本に書かれていることを、ノートに書いておきたいの」
「ああ、わかったよ」
サイラス様は、快く了承してくれた後、私の対面に腰を下ろした。
さて、サイラス様を待たせているし、早くギルドに戻って製薬を始めたいから、さっさと終わらせちゃいましょう。
「これは前に書いたものと同じね……こっちはルーイン病とは性質が違いそうだから、使えなさそう……」
「……ふふっ……」
「…………」
ブツブツと独り言を話しながら、ノートにペンを走らせている私の姿を、サイラス様はとても楽しそうに、ニコニコしながら黙って見つめている。
そんなにジッと見られると、やりにくいというか……恥ずかしいというか……私、顔が赤くなってないかしら……。
「よし、終わったわ。ごめんなさい、待たせてしまって」
「いやいや、むしろご褒美だったから問題ないよ」
「……何がどうご褒美だったのかは、聞かないでおくわ」
「えー? 別に聞いてくれても良いんだけど?」
「も――ごほん。いいから、早く帰るわよ」
危うく、いつものように、大きな声でもうっ! って言いそうになったけど、ここが図書館だということを思い出して、ギリギリのところで踏みとどまった。
「あら、わざわざ馬車で迎えに来てくれたの?」
「当たり前だろう? 君に会いに来たのだから……じゃなくて、仕事の帰りだからな。仕事で馬車に乗って遠出するなんて、普通じゃないか」
「ええ、そうね」
サイラス様の嘘はバレバレだけど、それを言及することはせず、サイラス様の手を借りて馬車に乗りこむと、ギルドに向かってゆっくりと動き始めた。
「さっきから、ずっとニコニコしているわね」
「学生の時と比べて、こうして一緒にいられるのって中々ないだろう? 一緒に住んでいるのに、ほとんど屋敷でも一緒に過ごせないしさ」
「そうね……私もあなたも仕事があるから、片方がゆとりがあっても、もう片方が寝に帰るだけってこともあるし、サイラス様は誰よりも朝早くにギルドについて、色々しているものね」
「そうそう。俺にとっての一番はエリシアだけど、それと同じくらい、ギルドや仲間たちも大切だからさ」
「あら、仮にも私が一番なら、もっと私に時間を割いてほしいわ。そうじゃないと、寂しいもの」
これは、いつも攻められてドキドキさせられっぱなしな私が、久しぶりにこっちから攻められる。そう思い、いつもは言わないようなことを言ったら、サイラス様は完全に止まってしまった。
ピクリとも動かず、瞬きもしていない。もしかして、今の言葉で昇天してしまったのかもしれない。
そんなの、普通ならありえないけど、サイラス様なら全然あり得る。
「さ、サイラス様? 大丈夫?」
「…………」
サイラス様は、ずぶ濡れになった可哀想な子犬のように、とても弱々しい雰囲気を醸し出しながら、私の手をギュッと握ってきた。
「ごめん。本当にごめん。俺の一番は君だとか言っておきながら、俺は君に寂しい思いをさせてしまっていたんだね。俺はなんて情けない……! こんなの、末代までの恥ではないか!」
「そ、そこまで思いつめなくてもいいじゃない! それにほら、今のは冗談だから!」
「冗談……? それじゃあ、俺と一緒の時間はいらないということか……」
よく考えもせず、咄嗟に言い訳をしたのが良くなかった。サイラス様は更に落ち込んでいき、今にもへにゃへにゃになってしまいそうだ。
「じょ、冗談だけど、冗談じゃないというか……ただの照れ隠しというか……! と、とにかく私が悪かったわ! ちょっとだけ、いつも言われっぱなしなのは悔しいから、私の方からドキドキさせてみたいと思っただけなの!」
「……あはは、そうだったのか! エリシアは可愛いなぁ! 可愛すぎて、この感動を抑えきれない!」
「ふにゃん!?」
さっきまでのへにゃへにゃはどこへやら。サイラス様はいつもの太陽のような笑顔を浮かべながら、私のことを抱きしめた。
「ちょ、ちょっと……!」
「こうすると、エリシアの温もり、命の鼓動、ここにエリシアがいるって感じられる」
「サイラス様……」
「それに、エリシアの髪の匂いも、華奢な体の奥にある確かな女性らしい柔らかさが最高だ! いくらでも抱っこできる……! 一回でいいから、俺の抱き枕になってくれないか!?」
「数秒前のセリフとの落差が酷すぎるわよ! もうっ!」
少ししんみりとした時間を過ごしてしまったけど、結局いつもの調子に戻った私達は、なんだかんだ言っても最後まで手を離さないまま、ギルドに戻っていった。
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