第四十七話 別の考え方
「えぇ!? お、おおおお、おちゅきあいだなんてぇ!?」
突然すぎる質問に、完全に混乱してしまい、もはや何を喋っているのかわからないような、何とも情けない態度を取ってしまった。
「だって、お二人の仲の良さを、強く感じましたもの」
「そんなつもりはないのですが……」
「そうだったのですか? 仲の良さもそうですが、互いの信頼感が凄いと思ったんですよ!」
信頼か……それは誰にも負けない自信はある。伊達に学生生活で唯一の友達であり、マグナス様の邪魔に屈さずに一緒にいた相手だもの。そこら相手の人とは、年季が違うのよ。えっへん!
「それで、お付き合いとか、結婚とかは?」
「……したい、のは……山々なのですが……この関係が壊れるのが怖いんです。だから、もう少し勇気を得るのに時間がいりそうです」
「…………なるほど、理解しました。私には、結婚秒読みに見えたのですが、人には人の恋路がありますし、変に詮索するのはやめます!」
「お待たせ! 写してきたぜ!」
「お、おかえりなさい。早かったわね」
ドヤ顔で持ってきた写しは、まあ……なんとか読めないところはないかなってくらいのクオリティだ。
「学生時代の、みみずが這ってるような文字から、ちゃんと読める文字になってるだろう!?」
「ええ、なっているわね。たくさん頑張ったおかげで、思わぬところでご褒美が来たわね」
「やったぜ!」
正直に言うと、まだ下手な部類なのは変わらないけど、ミミズ文字から進化したと考えると、だいぶ良くなったのではないかしら?
「では、私はそろそろ失礼しますね。お二人とおしゃべりしたい気持ちは山々ですが、仕事に支障が出たら、意味がありませんもの」
「では、玄関までお見送りさせていただきますよ!」
「よろしいのですか? とても嬉しいです」
マグナス様のような、卑怯で身勝手な人間が多すぎる家族において、このメアリー様の屈託のない笑顔は、本当に美しくて尊い。願わくは、これからもその純粋な気持ちを忘れずに、素晴らしい大人になってほしいわね。
「さてと、私はこの薬を一応試してみるわ。もしかしたら、なにか薬のヒントになるかもしれないし」
「わかった。それじゃあよろしく頼むよ」
サイラス様はそう言いながら、私の頭をボンボンと撫でた。
「も、もうっ。急に触られたらビックリするじゃない」
「俺に心配をかけたんだから、これくらいはいいだろう?」
「それを言われると強く言えないけど、私を触る口実にしていないかしら?」
「うぐっ……さ、さーて! 俺も仕事しなきゃ!」
明らかに動揺を隠せていない……というより、隠すつもりが全く感じさせず、逃げるように去っていった。
もうっ、本当にサイラス様は……そんな理由なんて無理に探さなくても、いつでも触っていいのに……。
あ、でも私のことだから、触られたらまた照れて突き放すようなことを言っちゃいそう……はあ、本当にどうして素直になれないんだろう。
「……しっかりしなきゃ。よし、仕事をしよう!」
自己嫌悪のループに入ってしまう前に、なんとか切り替えて製薬室に向かい、先程の資料を基に薬を作ってみた。
作り方自体は、素材をすりつぶしたり煮だしたりと、そこまで変なものではない。変わっている部分は、相性が悪い素材を組み合わせていることだ。
素材によっては、混ぜることで薬効が弱くなったり、混ぜることで素材の性質が変化し、猛毒になってしまうことがある。使い方を間違えれば、毒にも薬にもなるということね。
今回のパターンは、薬効が弱くなってしまうものだけど……これで本当にうまくいくのかしら? 全く信じられないわ。
「潰した薬草を沸騰するまで煮て、それをこして……こっちの鉱石を砕いて水と混ぜたのをこした液体と混ぜて……また火にかけて……」
ブツブツと作り方を口にしながら作業を進めていき、無事に薬は完成した。最初は緑色だった薬は、他の素材と混ぜることで、驚く程透明になっていて、凄く綺麗だわ。
「この薬を、菌に直接垂らしてみましょう」
マウスから採取した血液が入っているガラスの中に、薬を入れて少し待った後、その菌がどうなったか、顕微鏡で確認をすると、確かに効果はあった。
「……うーん、数は減っているし、動きが鈍化しているのは確認できるわね……即効性があるのはいいけど、この程度の反応じゃ……」
これでは、ルーイン病の圧倒的な増殖の早さに、薬が追い付かないだろう。一応マウスにも投与してみて、数日ほど経過を観察してみましょう。
****
「やっぱり、あまり効果がないわね」
数日後、薬を投与したマウスから新たに血液を採取して、菌がどうなっているか確認をしたのだけど、大きな変化は見られなかった。
「効果を引いているんだから、こうなるのは当たり前よね。これを改良する手もあるけど、元がこれでは期待は出来ないわね……ただでさえ時間は少ないというのに……」
口では偉そうに、一から自分で作る方が効率がいいみたいなことを言っているが、じゃあどうするのとなると……今の私の知識では、良い方法が思い浮かばなかった。
何年もかけて沢山勉強をして、望む形ではないにしろ、嫌というほど経験を積んできたのに……何も出来ないのが歯がゆくて、それ以上に自分が情けなかった。
そんな私の元に、サイラス様とレージュ様が様子を見に来てくれた。
「エリシア、まだやってたのか? もうそろそろギルドを施錠しないといけない時間だよ」
「あっ……もうそんな時間なの!?」
時計を見ると、既に時刻は二十二時を回っていた。これ以上残っているのは、ギルドに迷惑をかけてしまう。
「今日はもう帰って、俺と一緒に愛を語らいながら、夕食を食べようじゃないか!」
「きゅ、急に何を言っているのよ、もうっ!」
「……前から思っていたが、よくそんなに遠慮なく好意をぶつけられるな。恥ずかしくならないのか?」
レージュ様のもっともな質問に対して、サイラス様はキョトンとした表情を浮かべながら、小首を傾げた。
「いや、全然? 本音を伝えることに、恥ずかしいなんてことは無いさ! それに、言わないで後悔するなんて、馬鹿らしいだろ?」
「言いたいことはわかるが……こういうのは、押すばかりじゃなくて引くことも大切だと、書物で読んだことがあるのだが?」
「俺は常に押せ押せ押せ押せ一択だからな!」
「押せの多さに、お前らしさが詰まっているな」
「ていうか、お前がそんな本を読んでたのは意外だな」
「う、うるさい! これは、その……た、たまたま読む機会があっただけだ!」
いつもはサイラス様が言われる立場なのに、今日はいつもとは逆になっているのがちょっとだけ面白くて、クスクスと笑いながらやり取りを見ていると、とあることが頭に浮かんだ。
「……引いてみる……そうだ、ルーイン病に対しての薬効が高まっても、毒性が上がる組み合わせがあるけど……その毒性を、更に他の素材を合わせることで、引く……つまり消してしまえば……? それで強い薬効だけ残れば、とてつもない増殖力を持つルーイン病にも勝てるんじゃ……?」
薬効を引く……これは、マグナス様の資料にもあった方法だけど、こんなの意味が無いと決めつけてしまっていた。
でも、改めて冷静に考えると……この方法ならいけるかもしれない!
「そうと決まれば、もっと資料を集めて、試せるだけ試さなきゃ!」
「え、エリシア? やる気があるのは結構だけど、今日は一緒に帰って休もう。最近、あまり寝ていないだろう?」
「ちゃんと寝ているわよ? 私よりも、あなたの方が寝ていないでしょう?」
「な、なんでそれを……ごほんっ! ほら、俺が添い寝してあげるからさ! これなら互いに休めるだろう?」
「添い寝!? も、もうっ! なにを言ってるのよ!」
サイラス様と一緒のベッドで寝る……初めてクラヴェル家に行った日に、何もしなければ一緒に寝ることになっていたのよね。
……今だったら、少しくらいは良いかも……な、なんて……はっ!?
「わ、私ったらなんてことを考えて……と、とにかく! そういうのは、今日は結構よ!」
「今日じゃなければいいのか!? それじゃあ明日とか明後日にでも!」
「あっ……も、もうっ! もうっ! そういう意味じゃないわよー!」
良いかもなんて思ったせいで、つい浮ついた気持ちが言葉として出てしまった自分が、何とも情けないわ……。
「あれで、なんで結婚しないんだ……? どちらかが動けば、すぐに結ばれるだろうに……僕には全然理解出来そうもない……」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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