第四十話 素直で素敵な人
パーティーは無事に始まり、メインのダンスが始まろうとする中、開かない表情を浮かべるサイラス様は、深いため息を漏らした。
「ダンス、ほとんどしたことが無いんだよな……」
「大丈夫、私がリードしてあげるわ」
ダンスと言っても、社交ダンスだから、そこまで激しい動きは取り入れられていない。好きな人とペアを作って、それで一緒に踊るだけよ。
一説によると、知らない人を誘って踊り、それで親密になって、部屋に連れ込む……なんてことがあったと聞いたことがある。
「こっちの手で腰を支えて、もう片方の手は握って」
「こ、こうか?」
サイラス様は、たどたどしい動きで、基本の構えを取る。
一応私がリードするつもりだけど、きちんと踊れなければいけないというルールはない。強いて言うなら、他の貴族に馬鹿にされるぐらいかしら?
「良い感じよ。あとは音楽に合わせて、ゆっくり動くの。私の動きに合わせればいいわ」
「そ、そう言われてもな……」
「難しく考える必要は無いの。大丈夫、あなたなら出来るわ」
「エリシア……わかった。任せろ! エリシアと踊れる機会なんて、そうそう無いもんな! 目いっぱい楽しもう!」
「ふふっ……ええ、喜んで」
少し不安そうだった表情が、いつもの自信たっぷりのものに変わった。これならきっと大丈夫だろう。
「始まったわよ。いち、に、いち、に……」
「うおっ……い、いち……に、にー……」
流れ始めたゆったりとした音楽に合わせて、ステップを踏んでいく私の真似をして、サイラス様もステップを踏むが、お世辞にも上手いとは言えないものだ。
足はバラバラだし、ターンする時なんて体がブレブレだし、すぐに基本の構えも崩れてしまう。
現に、周りの貴族達からはクスクスと笑われ、中には馬鹿にするような言葉も聞こえてくる。
それでも、私とダンスを楽しむために必死についてきているサイラス様の姿は、とても格好よくて、愛おしいものだった。
「ご、ごめん。俺、全然うまくできてないな……」
「もうっ、どうして謝るの? 私、とても楽しいわ」
「エリシア……」
他人がどうこう言おうと、なにを考えようとも、私はサイラス様と踊れて楽しい。それが一番大切なことだと思うの。
「ちょっと他のペアに近づきすぎちゃったわね。サイラス様、少し移動するわよ。リズムに合わせながら、私についてきて」
「わ、わかった!」
ダンスに慣れていれば、他のペアとぶつかるなんてことは無いのだけど、サイラス様のように慣れていない人が、他のペアにぶつかることは、結構あることだ。
だから、そうならないように周りが気を使って離れてあげるのが普通なのだけど……そんな不確定要素なんかに頼るより、私が誘導した方が早い。
「こっちよ」
上手く他のペアの隙間をすり抜け、人があまりいないところに移動出来たと思ったら、突然死角から出てきたペアにぶつかってしまった。
ただぶつかっただけならまだしも、背中から遠慮なしにぶつかられたせいで、踏ん張りが効かず、サイラス様の胸の中に頭から突っ込んでしまった。
このままでは、サイラス様を巻き込んで倒れてしまう。下手したら、打ちどころが悪くて怪我をしてしまう。
しかし、そこはさすが体を鍛えているサイラス様だ。一切びくともせず、私のことを受け止めてくれた。
「大丈夫か、エリシア」
「え、ええ……」
やはり何度抱きしめられても、ドキドキが抑えきれない。それに加えて、今回は助けてもらった形だからか、いつも以上にドキドキしてしまっている。
って、そんなことよりも、まずはぶつかっちゃった人に謝罪をしないと。
「ごめんなさ――」
「エリシア、謝る必要は無い」
謝る必要が無いって、どういうことかを聞く前に、その言葉の意味が分かった。
なぜなら、ぶつかってきた相手とは、マグナス様とヘレナ様だったのだから。それも、意地悪な笑みを浮かべている。
「あらごめんなさい。愛する夫とのダンスが楽しくて、ゴミが目に入っていなかったわ」
「このっ……明らかにそっちからぶつかってきたじゃないか! 俺のエリシアを、一度ならず二度までも傷つけようとするなんて……!」
「サイラス様、気にすることはないわ。こんな子供の仕返しみたいなことしか出来ない、哀れな人達なのだから」
私は今、サイラス様とのダンスを楽しんでいるのだから、一秒でもこんな人達と会話なんてしたくない。だから、適当にあしらってその場を離れた。
そのおかげで、マグナス様とヘレナ様は、忌々しそうな表情で、こちらを睨みつけている。そして、そんな二人が面白いのか、周りの貴族達に嘲笑されていた。
ふんっ、私達の邪魔をするから、そうやって恥をかくのよ。いい気味だわ。
「エリシア、本当にあんな対応でよかったのか?」
「いいのよ。ヘレナ様は知らないけど、マグナス様は無駄にプライドが高いから、恥をかいて、凄く嫌な思いをしたはずよ」
「それは、そうかもしれないけどさ……」
「それよりも、私はあなたとのダンスの方が忙しいの。ほら、ステップも構えも乱れているわよ」
「……君は強いな。それに比べて、俺は幼稚だな」
再びダンスを始めながら、ぽつりと呟く。その表情は、自分自身を嘲笑しているようなものだった。
「幼稚じゃなくて、自分の気持ちに素直ってことじゃないかしら?」
「それ、褒めてないだろう?」
「褒めてるわよ。守りたいものを守りたいって素直に思って、それを実行に移せるなんて、素敵だと思うもの」
これはお世辞とか慰めではない。だって、サイラス様は本当に素敵な人だから。
私のためだったり、ギルドのためだったり、カロ君のためだったり……彼は素直な心を持っていて、守りたい、助けたいと思ったものを全力で助ける。それって、とても素敵なことじゃない?
「それに、そういうところ……好きよ」
「えっ!? そ、それって……!」
「あっ、違うの! 今のは告白とか、そういうのじゃなくて……! あなたの考え方が好きってつもりで――きゃっ!」
なんとか言い訳を探そうとしていたら、完璧にテンポもステップも乱れてしまい、無関係のペアにぶつかってしまった。
でも、その人達はとても良い人で、謝ったらすぐに許してくれたわ。
……はぁ、私って本当に素直になれないわ。あの場面で、素直に好意を伝えられていれば……いやまって、こんなところで告白をちゃんとしていたら、貴族の格好の獲物にされてたわ。
なら、あの行動は正解だったのね! ああよかった!
……こんな言い訳をして、誤魔化して逃げようとしても無駄ね。いつかは向き合わなきゃいけないのよ、私。
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