第四話 伯爵家からのお誘い
「クラヴェル家って……サイラス様ですか?」
クラヴェル家というのは、伯爵の爵位を持つ家だ。
そこの末っ子であるサイラスという男性は、私が学園生活で唯一関わりがあった男性なの。ちょっとしたきっかけがあって、よく勉強を教えていたのよ。
今はここから少し離れた場所にある、小さな薬師ギルドで働いているそうだ。
そんな彼から連絡だなんて、どうしたのだろう?
「うむ。いつでもいいから、一度会いたいらしい。彼のことだ。きっと今回の一件が耳に入って、お前のことを心配して、会いたいと思っているのだろう」
私もお父様も、彼がとても優しくて誠実な人だということを知っている。だから、こうやって優しくしてもらうと、素直にその気持ちを受け入れられるし、胸が暖かくなる。
「わかりました。ではすぐに――」
体に力を入れた瞬間、お腹の虫が盛大に自分の主張をアピールし始めた。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「すぐに行かなくても、彼なら怒ったりはしないだろう。先に食事を済ませてきなさい」
「そうですね。そうさせていただきます。では、失礼いたします」
私は私室を後にして、一旦自分の部屋に戻ってくると、ミラが私を盛大に出迎えてくれた。
「おかえりお姉様! ごはん我慢できなくて、ここに運んでもらっちゃった! いいよね?」
「もうっ、今日だけよ?」
「やった~!」
喜ぶミラを尻目に、並べられた料理を見ると、疲れているであろう私が食べやすいように、栄養が豊富なスープやサラダをメインにしているみたい。
こんなところでも、気遣いの心があるだなんて、本当に心身共に染み渡るわ。
「ほらお姉様、食べよ!」
「ええ。いただきます」
スープもサラダも、家を出る前となんら変わらない味。でもそれに、懐かしさというスパイスが加わって、とてもおいしく感じられました。
同時に、私の目からは、一筋の涙が零れ落ちました。
「え、ええっ……どうしたの、お姉様? 苦しいの? それとも、何か食べられないものでも?」
「ううん、大丈夫。家に帰ってこられたんだって改めて思ったら、ホッとしちゃって」
「お姉様……」
ミラは私をそっと抱きしめると、優しく頭を撫で始めた。
「あんなバカのせいで、ずっと大変な思いをしてたんだよね。あたしも、事情は聞いてるよ。本当に、大変だったよね。ここにはあいつはいないんだから、今くらいは泣いてもいいんじゃないかな」
「でも、私は姉として……あなたの前でこれ以上弱いところを見せるわけには……」
「お姉様だって、泣きたい時はあるでしょ? あたし達、家族なんだから、隠しごとなんて無し無し!」
「……うう……うううぅぅぅぅ……!!」
いい大人が声を上げて泣くだなんて、みっともないことは出来ない。でも、今の私にはこの涙を止める術を持ち合わせていなかった……。
「頑張ったお姉様には、ご褒美をあげなきゃね! はい、あーん!」
「もぐもぐ……ぐすんっ……お、おいひぃ……」
――結局その後、私はずっと泣いたまま、ミラにたくさんご飯を食べさせて貰った。
ずっとミラは甘えん坊だと思っていた。なんなら、今もそうだと思っている。
でも、それ以上に、ミラは人として誰かを支えるくらい、強くなったのね。嬉しくもあり、ちょっぴり寂しい。
「さて、食事も済んだし、出かけてくるわ」
「お父様から聞いたよ! サイラス様からお呼ばれしてるんだよね? あの人は優しいから、きっと大丈夫だよね!」
「ええ、そうね」
性格が悪い人間が多い社交界だが、サイラス様をはじめとしたクラヴェル家の方々は、とても温厚で意地悪とはかけ離れた存在だ。そんな家なら、行っても心配は無い。
「それじゃあ、行ってきます」
私はミラやお父様、それに多くの使用人達に見送られて、家を出発する。
ただ知り合いの家に行くだけなのに、これだけお見送りをされるというのは、なんだかくすぐったく感じてしまう。昔は普通と思っていたから、何も感じなかったのだけどね。
それにしても、またサイラス様に会えるのか……元気にしていると良いんだけど……。
「……やだ、勝手に顔がニヤニヤしちゃうわ」
寂しい学園生活の中で、唯一親しくしていた人と久しぶりの再会。そんな人と再会となると、やっぱり嬉しくなってしまうわ。
何を話そうか、格好は変じゃないだろうか――そんなことを思っているうちに、長い時間が経っていたようで、無事に目的地に到着していた。
「ここのギルドに来るのは初めてね」
時間帯的に仕事をしているはずだから、屋敷ではなくて勤め先へとやってきた。
小さな町に居を構えるギルドは、私が勤めていたギルドに比べると、建物の規模はかなり小さい。出入りする人も少ないところをみるに、双方の規模の差が如実に出ている感じね。
「あの。私はエリシアと申します。サイラス様にお会いしたいのですが」
「あっ、エリシアさんですね! お話は聞いてますよ! すぐにギルド長の所にご案内します!」
「ギルド長……?」
見張りをしていた若い男性に声をかけると、とても爽やかで元気な返事を返してから、私を中に案内してくれた。
中はやはり賑わっているとはいえないけど、落ち着きがあって凄く雰囲気が良い。対応している受付嬢も、余裕たっぷりな感じで見ていて気持ちがいい。
私がいたところは、常に多くの依頼人と職員で溢れているせいで、余裕があるとはいえない。風邪とか変な病気が流行りだすと、更に凄いことになるのよね……。
「ギルド長はこちらです。失礼します、エリシアさんがお見えになられました!」
男性がノックをしてから一秒も経たないうちに、扉が壊れるんじゃないかと錯覚するくらい、勢いよく開いた。
すると、そこに立っていたのは、私よりも頭一個分くらい背が大きく、短い赤髪が特徴的な男性が、透き通った青い目をキラキラと輝かせながら立っていた。
「エリシア先生!!!!」
彼は私の名前を大声で呼ぶと、そのまま私のことを強く抱きしめた――
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