第三十四話 私は彼を愛している
久しぶりの休日、私は実家に帰ってきて、とある人物と一緒に、使用人のエレーヌが淹れてくれた紅茶を、バルコニーでゆっくりと飲んでいた。
「手紙、読ませてもらったよ~。それで、お姉様の恋の悩みについての相談だっけ?」
実は、少し前に手紙を出していて、相談したいことは伝えてあるの。
「ええ。その前に……実は、前にイリス様に恋心について色々言われてて――」
私は、以前イリス様から聞いた話や、自分の身に起こったことを、なるべく分かりやすくミラに伝えた。
「あれ、これってあたしの言葉いらなくない? イリス様が、ほとんど喋ってくれてるよ!?」
「やっぱりあなたもそうなの?」
「そうだね~。言い方はちょっと違うかもだけど……彼氏とは一緒にいたいし、おしゃべりしたいし、笑い合いたいし、泣き合いたいし。なんていうのかな、その人と一生を生きて、そんなことを一緒にしたいって思える人には、恋心があるって認めていいと思うよ」
イリス様の言葉、ミラの言葉。どれもが私に刺さってきて……こんなの、認めざるを得ないじゃないの……。
「お姉様の最近の話を聞く感じだと、むしろこれで恋心じゃないってなったら、なんの冗談? って言いたくなるくらいだよ~」
「そうね、あなたの言葉……全て当てはまるわ。サイラス様と、未来を生きたい……死が私達を分かつまで、ずっと……ずっと」
「その気持ちって、学生の時から、でしょ?」
「きっとそうだと思う。自覚が無かっただけで、サイラス様に対して、この気持ちは持っていた。もしかしたら、それをマグナス様は知っていて、引きはがそうとしたのかもしれないわ」
「まあ、失敗に終わったんでしょ? あははっ、ざまーみろってね!」
「こーら、そんな汚い言葉は使ってはいけないのよ」
「ごめんなさい、お姉様。反省として、くっついてお姉様を癒してあげるよ」
それ、ミラがただ単にくっつきたいだけじゃないの、もうっ。魂胆がバレバレ過ぎよ。
でも……こうやって今でも懐いてくれて、話も聞いてくれるミラには、感謝しかないわ。
「ミラ、ありがとうね」
「お姉様……へへっ、どういたしましてっ!」
ミラの頭を撫でてあげたら、嬉しそうに私の胸に顔をうずめ、すりすりと顔を擦りつけてきた。
私の貧相な胸に顔をうずめたって、楽しいことなんて無いでしょうに……まあ、ミラがこれで喜んでいるなら、それでいいんだけどね。
「そうだ、この後お買い物に付き合ってよ!」
「ええ、いいわよ。今日は仕事がお休みだから、いくらでも付き合えるわ」
「やったー! お姉様大好きー!」
「はいはい、あんまりくっつかないの。せっかくセットしてもらった髪やお化粧が崩れちゃうわよ」
「はーい!」
こうやって、私がなにかしてあげたりすると、大喜びしながら抱きついてくる癖は、いまだに治っていないのね。
****
屋敷の近くにある大きな町にやってきた私とミアは、馬車から降りてお店巡りをしようとしていた。
「それで、なにを買いに来たの? それともウィンドウショッピング?」
「今日は買いたいものがあってきたの。それでね、お姉様の意見も聞きたくて」
「私の? ああ、もしかして彼氏へのサプライズプレゼントとか?」
「お姉様凄い、大正解! ご褒美のぎゅー!」
周りに人がたくさん歩いているというのに、そんなのお構いなしに抱きつかれた。とはいっても、いつものことだから、もう慣れてしまっている。
「それで、私にプレゼントを選んでほしいの? そういうのは、あなたが選んでこそ価値があるでしょう?」
「うん。だから、アドバイスが欲しいの! これはいい、これはちょっと、みたいな感じで、深く考えずに直感でいいから!」
うーん、まあそれくらいなら私でも出来るかしら。あまり自信はないけど、私のために時間を割いてくれたのだから、ちゃんとお返しをしないとね。
「まずこれ! このキラキラな宝石がついた指輪! 凄く綺麗だと思わない?」
「そうね。ただ、彼氏の指のサイズはわかる? それに、こういうのは結婚をする時の方が良いんじゃない?」
「あ、それもそうだね。ならあっちのお店にある、レースのハンカチは?」
「あら、とっても素敵なハンカチね。でもいいの? 確かハンカチって、別れの意味があった気がするのだけど」
「うっそ~! そんなのヤダヤダ!」
――こんな調子で、ミラと一緒にお店を周り続けること一時間。彼氏へのプレゼントは、澄み渡る青空の様に綺麗な、ブローチに決まった。
「えへへぇ、とっても素敵なプレゼントが買えたよ。ありがとう、お姉様!」
「いいのよ。相談に乗ってもらったお礼だもの」
「あたしとお姉様の仲なんだから、そんなの気にしなくてもいいのに~。あ、そうだ! お姉様も、サイラス様に何かプレゼントを買ったらどう? あたしが同じ様に、アドバイスをしてあげるよ!」
「まあ、それは素敵ね。でも……なにがいいのかしら?」
サイラス様にのことだから、なにをプレゼントしても喜んでくれて、そのまま抱きしめてきそうな気しかしない。
これでも、サイラス様とはそれなりに付き合いが長いから、なにが好みかはわかっているつもりだけど……だからこそ、悩むというか……目移りしてしまうというか……一つに絞り切れない。
お金に余裕があれば、全部買いたいくらいだけど、さすがにそんなことは出来ない。どうすれば良いのかしら……?
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