第三十三話 どれだけ私に……
今の言葉、完全に聞かれてしまったわよね? どうしよう、こんな汚い言葉と感情を漏らしていたところを見られたら、サイラス様に嫌われてしまう。
「ど、どうしてここに……?」
「用事が終わって部屋に戻る途中で、たまたまエリシアを見かけてさ。なんだか思いつめたような顔をしてたから、何かあったのかと思って追いかけてきたんだ」
「……そう……えっと……今のは違くて……」
「別に違くはないだろう? 君がマグナスのことを恨んでいるのは、既に知っているよ」
ど、どういうこと? 私がなにをされていたかは伝えているけど、私がマグナス様にどう思っているかは、一度も話したことがないはずなのに。
「どうして知っているの? って顔だな。君のことなら、なんでもお見通しだ。なにせ、俺の世界一大切な人だからね」
「……その世界一大切な人が、こんなところで恨み言を言っているなんて、がっかりしたでしょ」
「いや、全然? むしろ、君が受けてきたことを考えたら、許せるほうがおかしいだろうさ。だから、俺の前だからって、自分の気持ちを隠さなくていいんだ」
サイラス様はそう言いながら、私の頭を優しく撫でてくれた。
……この人は、どれだけ私に優しくすれば気が済むのだろう? どれだけ私をドキドキさせれば気が済むのだろう? どれだけ私に……この暖かい気持ちをくれるのだろう?
「現に、俺だってマグナスをボコボコに殴りたくて仕方がないんだよな」
「ぼ、暴力は駄目よ!」
「ははっ、わかっているよ」
も、もうっ……本当にわかっているのかしら……? 森でマグナス様と会った時、かなり本気で暴れようとしていたと思うのだけど……?
「さて、そろそろ戻って仕事の続きをしないとな。サボってるのがどっかの眼鏡にバレたら、復帰早々に怒鳴られそうだしな!」
楽しそうに笑いながら、私に背中を向けたサイラス様の大きな背中に、ギュッと抱きついた。
「……ありがとう、サイラス様。こんな私と一緒にいてくれて。本当に心強くて、嬉しいわ」
「…………」
いつも突然抱きしめられて、ドキドキさせられる立場だから、急にこんなことをされた時の気持ちは、誰よりも知っている。
それでも、この感謝と暖かい気持ちを伝えるには、こうするのが一番手っ取り早いと思ったの。いつもしてるのだから、私よりも耐性はあるだろうしね。
「……サイラス様?」
……なにか言葉が返ってくると思っていたのに、返ってきたのは沈黙。それどころか、サイラス様の体が、小刻みに揺れている。
「あばばばば……え、エリシアが自分から俺に抱きついて……う、嬉しすぎて死ぬ……」
「ちょ、サイラス様!?」
よくわからない擬音を発するサイラス様は、抱きついている私を巻き込んで、そのままバタンッと倒れてしまった。
幸いにも、ギルドの裏の地面は土だから、石畳の上に倒れるよりかは、幾分か衝撃が吸収出来ている……と思う。
「サイラス様、だい……じょ……っ!?」
ゆっくりと目を開けると、そこには大の字で伸びているサイラス様の姿があった。私はその上を陣取り、互いの顔が目と鼻の先にある状態になっている。
このまま顔をちょっと動かすだけで、サイラス様と……き、キスを……そもそも、これって私がサイラス様を襲っているようにしか見えないような……。
お願い神様、どうか誰にも見られないうちに、サイラス様が目を覚ましますように――そうお願いしたはずなのだけど、それは叶えられることは無かった。
「あっ……」
「……あー……本当にすみません! お邪魔だったっすね! ど、どうぞ、ごゆっくりっす!!」
「ま、待って! 誤解だから! 何もしてないから! 」
ちょうど建物の二階の窓からこちらを見ていた、薬師の男性が、バツが悪そうにそそくさと窓から消えていった。
まずいまずいまずい! これじゃあ私がサイラス様を襲ったみたいに思われちゃう!
あれ、いや……待って。別に誤解されても良いんじゃないかって思っている自分がいる……!? 私の心はどうなっているのよ! 自分のことなのに、全然理解出来ないわー!
****
いつも以上に、ギルドの仲間から暖かい目で見られ、きゃーきゃーと楽しそうに騒ぐ女子がいる中、今日も無事に仕事を終わらせられたわ。
あとは帰って、倒れたサイラス様の様子を見に行かなくちゃ。頭とか、怪我をしてなければいいのだけど……。
「ただいま。サイラス様、具合は……」
サイラス様の自室に入ってみると、サイラス様はキングサイズのベッドの真ん中で、膝を抱えて座り込んでいた。
随分と思い詰めた顔をしているけど……どうしたのかしら? 私でよければ、話を聞くけど……。
「ねえ、どうして膝を抱えて丸くなっているの……?」
「ああ、おかえり……俺は……俺は、自分の弱さが憎い! せっかくエリシアが俺にギューってしてくれたのに! 嬉しすぎて耐えきれなくなるとか、あまりにも情けない! だから、落ち込んでいた!」
そ、それは仕方がないんじゃないかしら? 私も、あなたに突然抱きしめられたら、凄く驚いてドキドキしちゃうし……。
「俺の心がもっと強く、もっと愛を受け入れられる強い心があれば、もっとエリシアの感触を堪能できたというのに!」
「そういう誤解されそうな事を、大声で言わないでよ! もうっ!」
「誤解? 別に俺は本心で言っているだけだから、何も問題は無いな!」
「問題だらけよ! 結婚もしていない男女がそんなことをしているなんて、ありえないわ!」
「よし、ならすぐに結婚しよう! 式場は良い所をすでに見繕っていてね。ああ、新婚旅行はどこがいい?」
「思い切りが良すぎるし、既に準備がぬかりない!? あ~もうっ! 今日は一日大人しく寝てて!」
私は半分やけくそになりながらも、サイラス様を再びベッドに寝かせることに成功した。
「こうやって、無理やり寝かされるのも悪くないな……」
「……?」
「ちょっ、なにも言わないで笑うの怖いから! 嘘です冗談です!」
「わかればいいのよ、サイラス君。念の為、検査をしておくわね」
サイラス様の頭を中心に、あのタイミングで怪我しそうな部分をあらかた見たけど、特に怪我はしていなかったみたい。サイラス様の頑丈さが活躍したのね。
「なあエリシア」
「なぁに?」
「俺さ、いっつもおちゃらけているように見えるかもしれないけどさ、エリシアへの気持ち、本気だから。抱きつかれて嬉しかったのも本気だし、結婚の話も本気だから」
「っ……!」
そんなことは、ちゃんとわかっている。でも、改めてそんな真剣な眼差しで見つめられたら、またドキドキして、顔がリンゴみたいに真っ赤になってしまう。
「う、嬉しいけど……まだ心の準備というか、自分の心がわからないというか……と、とにかく嫌じゃないけど! けど……う、うぅ~……ま、また明日! おやすみなさい!」
「うん、おやすみ。愛しているよ」
超が三つくらいは付きそうなくらい、ストレートな愛の言葉から、逃げるように私は部屋を出て、自室に戻ってくると……そのまま頭から布団をかぶった。
ああもうっ! もうっ! もうっ!! あんなのずるいわよ! いつもだって、頻繁にドキドキさせられているし、格好良いって思うこともあるのに、あんな不意打ちはズルよ!
「うう、体中が熱くて眠れないわ……ずっとドキドキしっぱなしだし、考えることはサイラス様のことだけだし……」
これが恋心なの? 自分の考えるのも恥ずかしいけど、きっとそうなのだと思う。
でも、やはりまだ断定が出来ないのが不安で。気づいたら、とある人物に手紙を書き始めていた――
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