第二十八話 これも全てみんなのおかげ
朝食を済ませた後、私は今日も来てくれたレージュ様にお礼を伝え、今日は出勤するのが遅れることも伝えてから、カロ君の家へとやってきた。
「あ、エリシアお姉ちゃん! おはよう! 来てくれたんだ!」
「おはよう、カロ君。おじいちゃんの調子はどう?」
「あの眼鏡のお兄ちゃん……レージュっていったっけ? あの人が薬を持ってきてくれたんだ!」
カロ君の明るい表情を見るに、おじいちゃんの容体は良さそうだ。
でも、薬師として勝手に決めつけて帰るなんてことは出来ないから、ちゃんとこの目で確かめないと。
「おじいちゃんのその後の経過を見たいのだけど、いいかしら?」
「うんっ! どうぞどうぞ!」
カロ君に手を引かれて家の中に入り、まだ眠ったままのおじいちゃんの容体を確認する。
熱は下がっているし、特徴的なアザもほとんど消えている。モール病は恐ろしい病だけど、サリューから作る薬があれば、これほど劇的に回復するのが特徴なのよ。
「うん、問題は無さそうね。あと数日したら、目を覚ますと思うわ。その時は、きっとお腹がすいているだろうから、ご飯を食べさせてあげて。そうね、おかゆみたいなお腹に優しいものがいいわ」
「わかった! おじいちゃんのために、頑張って作るよ! あ、そうだ……レージュお兄ちゃんから聞いたんだけど、エリシアお姉ちゃん、最近具合が悪いって聞いたんだ……大丈夫なの?」
もう、レージュ様ったら……そんなことを言ったら、カロ君が心配しちゃう――いや、自分が何者で、誰の代わりに来たとか、諸々の説明をするのに必要だったのだろう。
「ええ、大丈夫よ。薬の材料を採りに行って、疲れちゃったから休んでたの。そのかわりに、あのお兄ちゃんが来てくれたのよ」
「そうなんだ! レージュお兄ちゃんって、やっぱり優しい人だったんだね! 僕がお腹すいてたらね、おいしいごはんを作ってくれたんだ! それもね、凄く早くてビックリしたの!」
「ごはん、おいしかった?」
「うんっ!」
ギルドの薬師として、依頼人の家族に食事なんて作る必要は全くないのだけど、この子のことが放っておけなかったのね。レージュ様らしいわ。
「今日は大丈夫なの? お姉ちゃんが何か作ってあげようか?」
「今日はね、森で採ってきたキノコを食べたから大丈夫!」
「き、キノコ? それ、大丈夫?」
「大丈夫だよ? おじいちゃんがね、いつも色々教えてくれるんだ。その中に、キノコのこともあったの」
確か、おじいちゃんは元々商人だったって、例の商人が言っていたわね。きっと取り扱う商品の中にキノコがあって、そこから得た知識をカロ君に教えたのだろう。
一瞬、キノコなんて素人には見分けがつかないようなものを食べて大丈夫かと思ったけど、杞憂だったわ。
「なら大丈夫ね。それじゃあ、お姉ちゃんはギルドに帰るわ。おじいちゃんが起きたら、連絡してくれると助かるわ」
「任せて! 全速力で教えに行くから!」
「まあ、とっても頼もしいわ。それと、最後に……カロ君、今まで一人でおじいちゃんの面倒をみてあげて、とっても偉かったわ。よく頑張ったわね」
「エリシアお姉ちゃん……えへへ、僕……頑張れたかな?」
「とっても。花丸をあげるわ」
カロ君の頭を撫でながら褒めてあげると、今までで一番素敵な笑顔を見せてくれた。
この笑顔を見られただけでも、頑張った甲斐があったと思えるくらい……本当に、素敵な笑顔だった。
****
「おはようございます。遅れて申し訳あれません」
一時間ほど遅れてギルドにやってくると、あれよあれよと仲間達が集まり、私の体の心配をしてくれた。
サイラス様を追いかけて出ていった人が、帰って来たら三日も寝込んでいたなんて、心配をかけない方が無理があるわよね……。
「ご心配をおかけして、申し訳ございません。体は大丈夫ですので、ご安心ください。それと……軽率な行動を取って心配をかけてしまったこと、謝罪させてください」
「いや、こっちは大丈夫っすよ。エリシアさんが色々教えてくれたおかげで、仕事は回ってるっすからね」
「ですが……謝罪とお礼を兼ねて、皆さんに何かしたいといいますか……」
「話は聞かせてもらった!」
「きゃあ!? さ、サイラス様!? なんでここにいるの!? って、なんだか前もこんなことをした気が……」
「扉はもっと静かに開け閉めしてくれ。壊れたらお前のポケットマネーで直してもらうからな」
「そんなことをしたら、エリシアとのデート貯金が減ってしまうじゃないか!」
デート貯金って……そんなのをしていたなんて、初耳なのだけど。そんなお金を貯めてないとできないようなデートじゃなくても、二人でならどこでも……って、私は何を考えているの!?
「まあいい。まだ療養中なのに、なにフラフラしているんだ?」
「仕事は出来なくても、様子を見に来るぐらいは出来るだろう? それでここに来たら、ちょうど話が聞こえてきたんだ。そうそう、先程のエリシアの言っていた内容と似ていることだが……みんなに一つ提案がある」
突然なんだろうと、周りがざわつく中、サイラス様はむんっと胸を張りながら、口を開いた。
「今回我々は、モール病という恐ろしい病に打ち勝った! それもこれも、エリシアが現地で頑張る一方で、患者のケアをしつつ、薬も作ってくれたレージュ、そしてその間も通常業務をしっかりこなしてギルドを守ってくれた、みんなのおかげだ!」
「サイラス様だって、頑張ったじゃない!」
「俺のことは今はどうでも良いんだ。俺は、頑張ってくれたみんなを労いたい! だから、俺の家の庭で、お疲れ様会をしたいと思っているのだが、どうだろうか?」
え? そんな話、全然聞いていないのだけど……あっ! サイラス様……私を驚かすために、わざと黙ってたのね!
「それで、どうかな? 俺や屋敷のシェフが、腕によりをかけて作る予定だぜ」
サイラス様の料理。この話が出た途端、みんなが一気に乗り気になったのが見て取れた。
「まだ怪我は治ってないのに、大丈夫なの?」
「大丈夫!」
「本当かしら……ところでレージュ様、サイラス様のごはんってそこまで凄いのですか? 私、そういう話を彼としたことがなくて」
「ええ、一流シェフと遜色がないくらいです。たまにギルドでも振舞ってくれているので、ファンが大勢いるのです」
サイラス様が料理をするということを知らなかったから、驚きを隠せない。別の日にお願いしたら、何か作ってくれるかしら……?
「それでは、お疲れパーティーに参加を希望する人間は、手を上げてください」
レージュ様が音頭を取って皆に確認をすると……そこには、全員が手をあげる光景が広がっていた。料理パワー、恐るべしだわ。
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