第二十七話 愛ゆえに!
「んん~! ああ、よく寝たわ」
窓から差し込む朝日に起こされた私は、上半身を起こしてから、体を大きく伸ばした。
なんだか、少し体が痛む。もしかしたら、筋肉痛……というわけではないわね。運動量だけで言ったら、前の職場の時とさほど変わらないし。
きっと、熟睡しすぎて固まって寝ていたのね。疲れ切っている時は、たまにこうなるのよ。
「今日も良いお天気ね。早く身支度を整えて、サイラス様の様子を見に行って、それからカロ君の家に行かないと」
基本的に、身支度は一人で全て出来るのだけど、ここで生活するようになってからは、使用人に身支度をしてもらっている。
朝は忙しい時間だから、私のことは気にしなくていいと伝えたわ。
でも、これも仕事のうちだからと、困り顔をされてしまったので、迷惑をかけないように、お言葉に甘えているの。
「エリシア様、おはようございます。お体の調子はいかがですか?」
「おはようございます。ええ、おかげさまでとっても調子がいいです」
「それはなによりですわ。三日もお休みになられていたので、心配しておりましたの」
使用人を呼び出すベルの音で来てくれた女性の使用人の言葉に、うんうんと頷いた。
そうよね、三日も眠っていれば、それは心配するに……決まって……えっ、三日?
「私、そんなに眠っていたんですか……?」
「はい。よほどお疲れだったのでしょう」
いやいや、さすがに三日は寝すぎだって! それだけ眠れば、体が痛いのも納得だわ!
私の知らないところで、どれだけ疲労を蓄積していたというの!? マグナス様のギルドにいた時に、一日一時間くらいしか眠ってなかったからって、その分をここで取り返す必要は無いのよ、私の体!
「もうすぐ朝食が出来ますから、それまでに身支度のお手伝いをさせていただきます」
「え、ええ。わかりました。いつもありがとうございます」
自分でしたことなのに、自分が一番驚いている間に、使用人はテキパキと身支度を整えてくれた。相変わらず、手際が良くて惚れ惚れする。
「今日もお綺麗ですわ、エリシア様」
「ありがとうございます」
……綺麗なんて、私には勿体ない言葉なのはわかっている。
でも、ここで否定をすると、完璧に身支度を整えてくれた彼女の仕事が駄目と言っているような気がしたから、照れながらもお礼を伝えた。
「では、私はサイラス様のところに行ってきますね」
「かしこまりました。朝食が出来次第、お声がけいたします」
私は自室を後にして、サイラス様の部屋に行って扉をノックすると、はーい!と、サイラス様の返事が聞こえてきた。
「エリシアよ。入っていいかしら」
「エリシア!?」
なにやら、中でドタバタと音がしたと思ったら、部屋の扉が勢いよく開かれ……おもちゃを与えられた子供のようなキラキラした笑顔を浮かべる、サイラス様に出迎えられた。
そして、その勢いのまま、私はサイラス様に力強く抱きしめられた。
「よかった、目を覚ましたんだな! 帰ってきてからずっと起きないから、心配してたんだぞ!」
「ひゃあ!? し、心配をかけってしまったのは申し訳ないけど、だからといって抱きしめないで! 恥ずかしいわ!」
「なにを言っているんだ! こういう時だからこそ、回復を祝して抱きしめ合うものだろう!」
「言いたいことはわかるけど! も、もうっ! とにかく中に入れて!」
やや強引ではあったものの、何とかサイラス様の自室に入った私は、まだ怪我が完治していないサイラス様をベッドまで連れて行った。
はあ……まだ胸がドキドキしているし、顔が熱くて仕方がない。これは何度経験しても、慣れる気がしない。
「怪我の具合はどう?」
「エリシアが眠っている間、レージュが薬を届けるついでに、治療もしてくれてな。おかげで、順調に回復に向かっているよ」
「レージュ様が? そうだったの……彼には改めてお礼をしないといけないわね」
今回の一件で、レージュ様やギルドの人達にはたくさん心配をかけてしまったし、色々としてもらってる。完全に落ち着いたら、お礼をしないとね。
何がいいかしら……久しぶりにクッキーを焼いて、配って周るとか? さすがにお礼としては、インパクトに欠けるかも……? とりあえず、お礼はまた後で考えましょう。
「サイラス様も無事でよかったわ。あなたに何かあったら、私……」
「エリシア……大丈夫、もうこんな無茶はしないし、大切な君を置いていなくなったりしない。改めて約束するよ」
「サイラス様……」
サイラス様のまっすぐな言葉、まっすぐな心に、思わず胸の奥が大きく跳ねた。
そんな真面目な顔で、そんな格好良いことを言うなんて……ずるいわよ。おかげで、胸がドキドキしっぱなしだ。
「え、えっと……今日は既に治療をしたの?」
「いや、まだだよ」
「そうなのね。なら、今日は私がしてあげるわ」
「いいのか? ありがとう! いやぁ、エリシアの治療なら、治る早さが百倍くらいになりそうだな!」
「もうっ、そんなわけないでしょ」
サイラス様の軽口をいつものように受け流しながら、手際よく包帯を取りかえ、レージュ様が持ってきてくれてた薬を塗りこむ。
あの凶暴なグリムベアのいる森に、一人で半日はいたというのに、この程度の傷で済んでいるなんて、本当に運が良かったのね。
もちろん、サイラス様が強いというのもあるだろうけど。
「はい、おしまい。包帯はきつくない?」
「大丈夫だよ。エリシアの治療は性格が出ているというか、凄く丁寧で優しいよな。どっかの頭でっかちの眼鏡野郎とは大違いだ」
「はいはい、そんな憎まれ口を叩かないの」
レージュ様と仲良しだからこその憎まれ口だとわかっているから、私も軽くあしらう感じに返していると、先程とは別の使用人がやって来て、朝食が出来たことを伝えてくれた。
「そろそろ朝飯か。なあエリシア、俺まだ腕が痛くてさ。悪いんだけど、食べさせてくれないか?」
「腕が痛かったら、さっき私を抱きしめたのはなんだったのよ……」
「あれは、愛ゆえにだ! 今も愛ゆえに腕が急に悪化したんだ! うぅ~痛いよ~食べさせてくれよ~」
「どんな屁理屈よ、もうっ! あと棒読みすぎ! そんなことが言えるくらい元気なんだから、自分で食べなさい!」
さっきの格好良いサイラス様はどこへやら……いつもの調子に戻ってしまったサイラス様を置いて、私は部屋を出ていった。
――格好良いのドキドキと、嬉し恥ずかしなことを言われてのドキドキによる二階攻撃は、心身が持たないわよ……こんなことをされていたら、いずれ耐えられなくなりそう。
それで、サイラス様が看病に来て、治療として私の体中を……か、考えただけでドキドキが凄いし、鼻血が出そう……。
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