第二十六話 わかりやすい人
「いでででででっ!? おいレージュ、もう少し優しくやってくれよ! エリシアはもうちょっとだけ、優しくしてくれたぞ!」
「どうした、かすり傷じゃなかったのか?」
「それはそうなんだけど――いっでー!?」
クラヴェル家の屋敷に帰ってきて早々、レージュ様と一緒にサイラス様の治療を改めてすることになったのだけど、先程からサイラス様の悲鳴が、部屋中どころか、屋敷中に響き渡っている。
それもそのはず……レージュ様の治療のやり方が、少々乱暴だったの。あれでは、かなり傷むはずだ。
とはいっても、治療が下手だからというわけではない。むしろ、私が今まで見てきた薬師の中で、一番うまいといっても過言ではない。
なのにここまで痛がるということは……わざとやっているのね。恐らく、心配をかけたサイラス様に、お仕置きってところだろう。本当にこの二人は仲が良いのね。
「男なのだから、少しは我慢しろ! エリシア様の前で醜態を晒すつもりか!」
「いやいや、そんなもので痛みが我慢できるわけが……」
「…………!!」
「もうっ、あなたって人は、本当にわかりやすいわね!?」
私の名前が出た途端、サイラス様は脂汗を流してはいたものの、もう悲鳴を上げることは無くなった。
できるわけがないって言っておきながら、サイラス様なら多分耐えられるんだろうなとは思っていた。
だから、予想が的中したことに呆れつつも、私のために我慢しているって思うと、嬉しいような恥ずかしいような、複雑な気持ちだ。
「これでよし。しばらくは安静にしているんだぞ」
「いやいや、俺が安静にしていたら、ギルド長の仕事はどうするんだ」
「復帰した時に、残業してでも片付けるんだな。心配するな、急ぎの仕事は僕がなんとかしておくから」
「おい!? そこは全部やっておくくらい言ってくれてもいいじゃないか!」
「冗談じゃない。ほら、仕事が溜まるのが嫌なら、少しでもしっかり休んで怪我を治せ。エリシア様、行きましょう」
「え、ええ。おやすみ、サイラス様」
少し後ろ髪を引かれる思いのまま、私はレージュ様と一緒にサイラス様の部屋を後にすると、心配で様子を見に来た沢山の使用人とイリス様に迎えられた。
「エリシアちゃん、レージュ君、あの子は大丈夫なの?」
「はい。しばらく療養が必要でしょうが、命の別状はありません」
「よかった……もう、本当にお騒がせ息子なのだから。レージュ君から二人が危険なところに行った話を聞いた時は、生きた心地がしなかったわ」
「ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした」
治療をしている時に聞いたのだけど、私がサイラス様の助けに行ってから、レージュ様が事情を説明しに来てくれたそうだ。
それで、いち早く自分が助けに行くって、イリス様が大騒ぎしたみたいで……なんとかレージュ様や使用人がなだめて、騎士団に救援要請を出したそうだ。
自分の危険を顧みずに、助けに行くところは、親子そっくりね。
「レージュ様、あんなことを言ってよかったのですか? いくら本当に自業自得とはいえ、さすがに可哀想な気が……」
「ああやって煽っておけば、一日でも多くしっかり休んで、怪我を治してくれるでしょう。あいつが休んでいる間、ギルド長の仕事は全て僕が片付けておきますよ。しっかり反省した後に、また自分のせいでギルドに迷惑がかかったと思わせるのは、さすがに酷ですからね」
よかった、これでサイラス様の机に書類の山が、さらに高くなったらどうしようと思ったのだけど、その心配はしなくて済みそうだわ。
「エリシア様も、さぞお疲れでしょう。モール病の薬は僕が作って届けますから、今日はお休みください」
「お気遣い、ありがとうございます。ですが、やり始めた仕事は、最後までやり遂げたいのです」
「お気持ちはとても立派ですが、疲労している状態で製薬をして手元が狂ったら、どうするのですか? 素材は一つしかないのですよ?」
「そ、それは……」
モール病の薬の作り方は、さほど難しいものではない。作り方も、しっかりと後世に残されている。
しかし、それはあくまで体調が万全な状況での話だ。
いくら体力に自信があるとはいえ、命の危機に何度も直面して心身共に疲労している今では、絶対に大丈夫とは言えないわ。
「実は、あなたがいない間、僕が代わりにカロの家に行っておりました。なので、患者の今の容体はわかっています。落ち着いてはいますが、いつ急変するかわからないでしょう。薬を飲ませるなら、早い方がいい。なので、あなたが回復するのを待っている時間が無い……というのが、僕の考えです」
……そうよね。私の独りよがりな考えを、依頼人に押し付けるわけにはいかないわね。
「わかりました。作り方は大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません。なので、今日はゆっくりとお休みください」
「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」
私はレージュ様に深々と頭を下げてお願いをしてから、廊下で再び会ったイリス様や使用人と一緒に、彼を玄関までお見送りをした。
レージュ様なら、完璧な薬を作ってくれるだろう。だから、安心して今日は休んでも大丈夫ね……あれ、なんだか凄く眠くなってきちゃったわ。
「前の職場だったら、この程度で眠くなんてならなかったのに……こっちに来てから、少し気が緩んだのかしら……ふあぁ……」
駄目だ、顔を出した睡魔が収まる気配が無い。それどころか、どんどんとまぶたが重くなって、立ったまま寝てしまいそうだ。
「エリシアちゃん、大丈夫? ほら、私がお部屋まで連れて行ってあげるわ」
「そんな、イリス様のお手を煩わせるわけには……」
「こんな時まで遠慮しないの。ほら、私の手を握って」
あっ……イリス様の手、暖かい……なんだか、幼かった頃にお父様やお母様と手を繋いだ時を思い出して、凄くホッとする……。
「エリシアちゃん、大丈夫――って、眠ってしまったのね。ふふっ、可愛らしい寝顔……サイラスを助けてくれて、本当にありがとう。お礼に、このまま抱きしめてあげたいけど、そうもいかないわね。誰か、一緒にエリシアちゃんを運んでちょうだい」
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