第二十四話 クマの恩返し
突然現れた黒い影。その正体は、すでに何度も会っている、額に大きな傷があるグリムベアだった。
そのグリムベアは、飛び出してくるや否や、護衛の人達に向かって勢いよく襲い掛かってきた。
「くそっ、熊の分際でまた私の邪魔をするのか!? さっさとそいつを殺してしまえ!」
マグナス様と商人を守るために、護衛の人達がグリムベアに対抗するが、不意打ちだったのもあってか、一方的にやられてしまっていた。
――グリムベアに意識が向いている今が、絶好のチャンス。そう思った私は、マグナス様の腕に噛みついた後、足の甲を思い切り踏みつけた。
当然痛みに悶えるマグナス様。その隙をついて、無事にマグナス様の手が私の腕から離れた。
「それ以上、気安く触るんじゃないわよ!」
「がっ……!?」
もう完全にマグナス様の手からは解放されたのだけど、怒りが収まらない私は、ついでに思い切り体当たりをお見舞いしてから、急いでサイラス様の元へと戻った。
「エリシア、大丈夫か!?」
「ええ、大丈夫! それよりも……!」
私は、サイラス様と無事に合流した後、改めてグリムベアの方を向くと、必死に抵抗する護衛の人達と戦っていた。
その戦いの中、商人の人は完全に腰が抜けて座り込んでしまい、マグナス様は……なんと、馬車の御者を蹴り落とし、自分だけ馬車で逃げていってしまった。
「じ、自分だけ逃げるなんて……! 待ちなさい!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」
馬車に追いつけるはずが無いのに、みんなを見捨てるようなことをした、マグナス様への怒りで追いかけようとする、私の意識を向けさせるかの様に、商人の人の悲鳴が辺りに広がった。
さっきまでは、マグナス様の後ろでニヤニヤとしていたのが、今では悲鳴を上げながら這いつくばって逃げようとしている。何とも情けない姿だ。
そんな醜くて哀れな彼に鉄槌を下すかの様に、グリムベアの太い腕による一撃が、彼のお腹に深々と刺さった。
「あっ……」
グリムベアの攻撃が直撃した商人の人は、物凄い勢いで近くの木に叩きつけられて……そのまま、再び動くことは無かった。
「こんなのに勝てるはずがねぇ! 依頼人はもういないんだから、早く逃げるぞ!」
マグナス様は逃げ、商人の男性はすでに事切れてしまった以上、戦う必要は無い……それを理解した護衛の人達は、脱兎のごとく逃げていった。
……とりあえず、問題は一つ解決したけれど……まだ安心するわけにはいかない。私達の前には、恐ろしいグリムベアがいるのだから。
「エリシアは逃げろ! おいお前! 俺が相手になってやる!」
「…………」
私が止める前に、戦闘態勢に入るサイラス様。一方のグリムベアは、先程までの殺気はまるでなく、静かにこちらを見つめるだけだった。
おかしい、明らかに相手の戦意が消えている。一体何を考えているのか……そう思っていると、先程助けた子熊が茂みから出てきて、私の元にやってきた。
「あなた、どうして……えっ、その口に咥えているのって……!」
「くー!」
子熊は咥えていた物を、私の足元にぽとんっと落とすと、可愛らしく鳴いてから親のグリムベアの元に走っていった。
そして、そのままグリムベアの親子は、森の中へと静かに立ち去っていった。
「……なんだかよくわからないが、助かったみたいだな」
「え、ええ……サイラス様、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
護衛の人達との戦いが始まる前に、グリムベアが間に割って入ってきたから、サイラス様に新しい怪我が無いのはわかってたけど、それでも心配なものは心配だ。
「とりあえず、ここに残っている必要は無いみたいだ。あの騒ぎを聞いて、別のグリムベアが来る可能性もあるし、一旦ここを離れよう」
「ええ、そうね。でも……あの人や、森で見つけた人は?」
「彼らには申し訳ないが、俺達にはどうしてやることも出来ない。あとで町に駐在している騎士団に連絡して、彼らを連れ帰ってもらおう」
「……そうね」
憎たらしい人達だったとはいえ、こんな森の中に置き去りにするのはかわいそうだと思ったけど、無理に連れ帰っているうちに、グリムベアに襲われて仲良く共倒れなんてなったら、笑い話にもならない。
「少し離れたところで休息を取ってから、改めて出発しない? さすがにこの疲労で動くのは大変だと思うわ」
「それもそうだな。そうと決まれば、早速行動だ」
私は、サイラス様に引っ張られながら歩いていると、小さな洞窟が見つかった。
どうやら中には何もいないみたいだから、有効活用させてもらおう。
「ふう、やっと一息だな……」
「そうね。その……色々と、ごめんなさい」
落ち着いてきたのを見計らって声をかけると、サイラス君は微笑みながらこちらを向いた。
「ん? さっきのこと? ははっ、もう終わったことだから気にすんな」
「…………」
突然振られた謝罪にも、笑顔で答えるサイラス様の優しさは、私にとって救いではあるけど……それでも、申し訳なくて顔を上げることが出来なかった。
そんな私の顔を、サイラス様は両手で持ち上げると、少しだけ手に力を入れて、口角を上にあげた。
「エリシアにそんな顔は似合わないって! ほら、色々あったけど無事だったんだし、笑顔笑顔!」
「サイラス様……」
「って、さっきから偉そうに言ってるけど、俺が言える立場じゃないか。ごめん」
「いいえ、そんなことはないわ……ありがとう、サイラス様。これからも、私をあなたのギルドに置いてくれる?」
「当然さ! 俺はエリシアやレージュ達と一緒に、ギルドを世界一にするんだからな!」
「ええ、頑張りましょう!」
多くの人を救い、サイラス様のギルドを世界一にする。そして……完全な支援で申し訳ないけど、今回の件で、更に復讐をしたいって気持ちが膨れたわ。
「それと、一つ疑問なんだが……あのグリムベアはなんだったのだろうか?」
「多分、私達にお礼をしに来てくれたんだと思う」
「お礼? あの凶暴なグリムベアが?」
「これを見て」
私は、先程子熊が残していったものを、サイラス様に見せた。
「これって、まさか……」
「ええ、サリューよ。きっと子熊を助けたから、そのお礼として、自分が食べるつもりで蓄えていた物を持ってきてくれたのだと思う。それで、私達が襲われていたから、助けてくれたのではないかしら?」
野生で住む獣に、そこまでの知能や恩返しをする気持ちがあるのか、私にはわからないけど……あの子達の行動を見てると、そうじゃないかと強く思うの。
「クマの恩返しってことか? やっぱり人助け……いや、クマ助けはしておくもんだなぁ」
「そうね。さあ、そろそろ行きましょう。ここまで連れて来てくれた馬が、待ちくたびれてしまうわ」
「おお、それは申し訳ないことをしてしまったな! 早く帰ろうか!」
休憩を済ませた私達は、どちらからともなく手を繋ぐと、森の出口に向かって歩き出す。
長かったかのような、短かったかのような森の大冒険も、やっと終わるのね……どっと疲れちゃったけど、サイラス様が無事だし、サリューも一輪手に入れたし、この冒険は大成功だわ!
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