第二十三話 私が謝れば、私が帰れば
「だから言っただろう? サリューは我々が全て採取した。貴様達の分など、一切無いのだよ!」
わざわざ後をついてきたマグナス様と商人は、楽しそうに、そして私達を貶すように、高笑いを森に響かせた。
「くそっ……ごめん、エリシア……俺が勝手に飛び出して、こんな怪我をしなければ、間に合ったかもしれないのに……!」
「いいえ、あなたが悪いわけではないわ」
悪いのは、人のことなんて全く考えず、私利私欲を満たそうとするマグナス様達だ。彼らのしていることは、到底許されることではない。
……でも、この状況では彼らの方が有利な立場だ。私達には、彼らを責められる立場ではない。
「貴様達、サリューを求めてきたのだろう? 我々が採取したサリュー……欲しいよな? 欲しいよなぁ?」
マグナス様は、袋からサリューを一つ取り出すと、私達に向かってつきだして、ブラブラと見せつけてから、そのままパクッと食べてしまった。
「くくくっ……その悔しそうな顔、最高だな……そうそう。これが欲しいなら、相応の誠意を見せてもらおうじゃないか。とりあえずは、土下座して謝罪をしながら、靴を舐めてもらう……だけじゃあ、つまらないよなぁ?」
「っ……! さ、最低……!」
「おいおい、随分な言いようじゃないか。まだ自分の立場が分かっていないようだな? その服を全てひん剥いて、町中に磔にしてやってもいいのだぞ?」
「そんなことをしてみろ! 俺がお前らを完膚なきまでボコボコにしてやる!」
「ふっ……サイラス。威勢がいいのは良いことだけど、いい加減、状況を判断したうえで発言することを覚えたまえ」
青筋をいくつも立て、口調も丁寧なものが出来なくなるほど怒るサイラス様に、マグナス様の護衛として来ている兵士達が、一斉に剣を鞘から抜いた。
サイラス様は確かに強いけど、今は怪我をしているうえに、相手はここまでマグナス様をグリムベアから守ってきた精鋭……一対一ならともかく、複数が相手なんて、分が悪すぎる!
「……わかったわ。あなたに誠心誠意謝罪をするから、サリューを少しだけわけてください」
「え、エリシア!?」
この状況で、私に他の選択肢を選ぶことはできない。ここで頭を下げるだけで、サイラス様も、カロ君のおじいちゃんも助かるのだもの。
「ほう、急にしおらしくなったではないか。そういうのは嫌いじゃない。その調子で、貴様の反省と態度次第では、分けてやっても構わんぞ」
「やめるんだ、エリシア! 君がそんなことをする必要は無い! 代わりに俺がする!」
「貴様は馬鹿か? なんの恨みもない貴様に謝られても、意味はないのだよ」
サイラス様の気持ちは嬉しいけど、今回に関してはマグナス様の言い分が正しいわ。
「そういうことよ、サイラス様。あなたには、情けない姿を見せてしまうけど……これも私が蒔いた種だもの」
「エリシア……」
「ふははははっ! 素晴らしい絆ではないか! 思わず私のハンカチが、涙でびしょ濡れになりそうだ! ん? おお、そうだ……良いことを思いついたぞ! サリューを分けてやる条件として、我らのギルドに帰ってこい!」
「なっ……!?」
マグナス様のギルドにって……またあの地獄に戻らなければいけないということ!?
また、あの地獄の仕事の日々に……考えただけで、ストレスで激しい眩暈と吐き気を催してしまった。
「貴様のために、特別な措置を取らせることを約束しよう。きっと泣いて喜ぶようなものさ」
「特別に、毎日休みなく働かせて、エリシアがつらくて泣いているところを、あんただけがのうのうと喜ぶって寸法だろ!」
「……黙って聞いていれば、たかが伯爵家のガキが、随分と偉そうにしているな。私は侯爵家の人間……私がその気になれば、何のお咎めもなく、貴様を葬れるのだぞ?」
私を奪い取ろうとするマグナス様に、ついに怒りが爆発したのだろう。血走った目、今にも殴りかかりそうな拳、そして私にもわかるような殺意――チョンと背中を押してあげるだけで、そのまま殴りかかりそうな気迫だ。
でも、怪我をしているこの状況で戦ったって、返り討ちになるのは避けられない。
だから……私の大切な学友で、大切な教え子で、大切な人である彼を守るために出来るのは、これだけだ。
「マグナス様。あなたにはちゃんと謝りますし、ギルドにも戻ります。その代わり、サリューをサイラス様に渡して、ここから逃がしてください」
「ふん、まあいいだろう。ほら」
マグナス様は、一度馬車に戻ると、中からサリューが入った小さな袋を持ってきて、私に手渡した。
「お、おい! 何の冗談だよ! 人には心配かけるなとか、人の気持ちも知らないでとか言っておいて、君は自分で勝手に決めるとか、納得できるわけないだろ!」
「サイラス様……」
サリューが入っている袋をサイラス様に手渡しながら、私は言葉を詰まらせる。
ええ、わかっている。偉そうに言っておいてこのざまでは、お話にならないわよね。本当、私って馬鹿だわ……。
でも、サイラス様をここから逃がすためには、これしか方法が無い。
「俺は! 君と一緒じゃないと嫌なんだよ! 離れたくないんだよ! 君は、あんなクズの元に帰るんじゃなくて、俺と一緒にギルドを世界一にするんだろう!」
「ふん、最初は面白くても、二回目は飽きる。もういいから、早く乗りこめ」
「サイラス様、本当にごめんなさい。あなたを助けるには、こうするしかないの。あなたと過ごした時間は短かったけど、楽しくて、充実して、かけがえの無い思い出になったわ」
サイラス様に最後の別れをして、馬車に乗りこもうとした瞬間、マグナス様に腕を掴まれて、無理やりサイラス様に体を向けられた。
「私の復讐が、ここで終わるはずが無いだろう? 目の前で大切な仲間が傷ついて、挙句の果てに殺されでもしたら……貴様はどんな声で鳴く?」
そう言うと、マグナス様は指をパチンっと鳴らした。すると、護衛の人達が、完全に剣を鞘から抜き、サイラス様に攻撃しようとしていた。
「は、話が違うじゃないの!」
「なぜ私が、貴様との約束を守らなければならない? 私はお前が苦しむことなら、いくらでもしてやる所存なのでな!」
このままでは、サイラス様の命が危ない。早く助けに行きたいのに、マグナス様に腕を握られてしまい、それ以上動くことが出来ない。
「それと、その袋の中身だが……サリューではない。サリューを手に入れるついでに採取した、大して価値の無い薬草だ」
「な、なんですって……? サイラス君! 逃げて! 早く!」
「……はっ……ははっ……大丈夫だ、エリシア。逆にこの方が、俺にとっては都合がいい。さっきから、こいつらをぶん殴りたくてぶん殴りたくて、うずうずしてんだ。全員……! 俺が! 倒してやる……!!」
その気概は良いとして、サイラス様は怪我人なのよ!? あんな怪我で暴れ回れば、傷がさらに悪化してしまうし、そもそもこの人数差で勝てるはずが無い。
早くなんとかしないと……でも、どうすればいいの……そう思ったその時、黒くて巨大な影が、私達の中に突然飛び込んできた――
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