第二十話 まずは一休み
ひとしきり泣いた私は、きっと真っ赤になっているだろう目を擦ってから、サイラス様の頬を優しく撫でた。
さっきの私、よっぽど勢い良く叩いちゃったみたいね……くっきりと、私の手の形で赤くなっている。
「ほっぺ……痛い?」
「ん? 急にどうしたんだ?」
「……元はといえば、私がこんな危険な依頼を持ってきたのが原因なのに、感情的になって暴力を振るって……最低だと思ったの」
カロ君に出会った時に、私が優しくしなければ……おじいちゃんを診た時に、自分には治せないと言ってしまえば……こんなことにはならなかった。
それが正しいこととは、全く思わない。でも、少なくとも……サイラス様をこんなに怪我をさせてしまうことは無かっただろう。
「なにを言ってるんだ! あの場に君がいなければ、俺がカロに話を聞いていたさ! それに、この怪我は俺が軽率な行動をした罰だ!」
「軽率だったかもしれないけど、あなたは自分の目標のため、正義のために行動したのでしょう! それを罰だなんて、あんまりじゃない!」
「………………うん、そうだな!それなら、これは勇気の勲章ということにしよう!」
「ええ、それが良い……って、どうして急に開き直ったの!?」
てっきり、もっと自分を責めるようなことを言うだろうから、もっと沢山励まさなきゃと思っていたのに、受け入れるのはあまりにも想定外すぎた。
「ははっ、このままだと互いに自分を貶しあう未来が見えたからさ。せっかくまた会えて、こんな密室でこっそりデート気分を味わえるのに、勿体ないじゃないか」
「この状況で、デートなわけがないでしょう! もうっ!」
「あはははっ、それもそうか!」
いつものようなやり取りをしていたら、少しだけ気持ちが落ち着いてきた。サイラス様はこれを狙っていたのかもしれない。
……だからといって、調子に乗らせないようにしないとね。サイラス様は怪我人なんだから!
「笑ってないで、ちゃんと休んで! あと、ちゃんと反省してよね!」
「わかってるよ。本当にごめん。帰ったら、みんなにも謝るよ」
「ええ……ねえ、サイラス様」
「ん?」
私は、手当てが終わって座って休んでいるサイラス様の隣に座ると、こてんっと頭を肩に乗せた。
「また会えて、良かった」
「エリシア……ああ、俺もだよ」
サイラス様は、肩に乗せられた私の頭を、抱き寄せるように抱えると、そのまま優しく撫でてくれた。
こんなことをされると、やっぱり私ってサイラス様のことを……? って思う。でも、自分の中で絶対の自信を持てないと、踏ん切りがつかいないのよね……。
「ねえ、ここに来てから何があったの?」
「さっき少し話した通りだよ。森に入ったは良いけど、想像以上にグリムベアが多くてさ。上手く隠れながら、サリューがある場所に目指してたんだけど、さっきのグリムベアに目をつけられちゃってさ。殴りかかったはいいけど、これがまあ強いのなんの! 自然界、恐るべし……」
生物の構造上、人間では武器も無しでクマに勝てるはずが無い。なのに、しばらく持ちこたえちゃう辺りが、この人の凄い……というか、人間を卒業しかけてるというか……あ、あはは……。
「あっ、あんまりくっつくと、俺の血がついて汚れちゃうな」
「そうね。せっかくサイラス様が用意してくれた、素敵で動きやすさ抜群のエプロンドレスを汚したくないわ」
「服くらい、いくらでも用意するぞ?」
「駄目よ。最初に貰った一着目なんだから、思い入れがあるの」
サイラス様なら、同じものを用意することは出来るでしょうけど、この一着目という称号が、この服の価値を大きく高めるのよ。
「まあいいから、病人は大人しく休みなさいっ」
「俺、眠くないよ~。エリシアが膝枕をしてくれたら寝るかも~」
「……サイラス君?? いつからそんな赤ちゃんになっちゃったの?」
「はいすみませんでした真面目に寝ますから許してください」
「わかればいいのよ。見張りはしておくから」
少しだけ余裕が出て来て、いつものようなおふざけモードに入りかけたサイラス様を一喝すると、自分の膝を枕代わりにさせながら、無理やり寝かせた。
すると、サイラス様は驚くほど早く、寝息を立てはじめた。
……無理もないわね。昨晩から、ずっと神経をピリピリさせて、危険な戦いまでしたのだから、疲れているに決まってるわよね。
「サイラス様……」
サイラス様が完全に眠ったのを見計らって、私は頭をゆっくりと撫でた。
サラサラの真っ赤な髪は、あちこちに砂や泥が付着している。これだけ外にれば、こうなるのも無理はない。
「こんなに怪我をしてでも、やり遂げたかったのね……」
サイラス様なら、この一件の仕事を無理にやらなくても、ギルドに大きな影響を与えることは無いのは、わかっていると思う。それに、
それでも、たった一人の男の子のために、体を張ってしまう正義感は、昔から変わらないわね。そういうところ、好きよ。
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