第十六話 重荷を背負わせるな
あれから一週間後、私は空いている時間を見繕っては、カロ君の家にお邪魔しておじいちゃんの看病をしていた。
幸いにも、特製の解熱剤のおかげで熱は少し引いたとはいえ、意識はまだ戻らないし、モール病の病原体が無くなったわけではない。
「エリシアお姉ちゃん、毎日おじいちゃんのために来てくれて、本当にありがとう」
「いいのよ。おじいちゃんを治すために、今なんとか薬を作ろうとしているの。だから、もうちょっとだけ待っててね」
「……うんっ」
約束なんて出来ないのに……カロ君を少しでも安心させるため、そして自分なら絶対に助けられると鼓舞するために、カロ君に期待させるようなことを言う自分が……本当に情けなくて、心の底から嫌になる。
「それじゃあ、私はそろそろギルドに戻るね。明日も、同じくらいの時間に来るから」
「わかった。バイバイ」
「バイバイ、カロ君」
私はカロ君の家を出ると、急いで町の図書館に駆け込み、モール病について調べ始めた。
この一週間の間、私は急いでギルドの仕事を終わらせてから、カロ君の家に行って容体を確認してから、図書館に行き、モール病やサリューの性質、それから例の危険な生物について調べている。
私は薬師になるために、一通りの医療に関する勉強をしてきたつもりだけど、当然全てを知っているわけではない。モール病という昔に流行った病で、今ではほとんど見られない病気なら尚更だ。
だから、本当は私達の知らない治し方があるのではと思い、こうしてずっと調べものをしているの。
もちろん、休息はちゃんと取っているし、ギルドの仕事も疎かにしていない。それを破ってしまったら、レージュ様に止められてしまうだろうからね。
「……なかなか見つからないわね」
極端な話をすれば、私にとってカロ君は特別というわけではない。あくまで、ただの依頼人の一人だ。
だから、そんなに肩入れをする必要は無いのはわかっているのだけど……どうしても、あの出来事が頭に引っ掛かる。
その出来事とは、サイラス様のお父様が亡くなったことだ。
元々体が弱い方で、もう手の施しようがないところにまで来てしまった彼は、泣きながら別れを拒むサイラス様やその兄妹様達に、生まれて来てくれてありがとうと、笑顔を浮かべたまま旅立ったそうだ。まるで、私のお母様のように。
サイラス様の中で、自分にもっと力があればよかったのにと思ってしまい、その出来事は非常に重く、まるで十字架の様になってしまったの。
その後、サイラス様も病に倒れ、お師匠様に助けてもらった後、弟子入りをしたと言っていた。
その話を聞いた学生時代では、すでに吹っ切れている感じだったけど……私もお母様を亡くしているから、気持ちがよくわかる。カロ君に……サイラス様みたいな悲しみを背負ってほしくない。
だから、絶対になにか方法がないか調べるんだから! 仮にもしなかったとしても、そこまで勉強した知識を活かして、新薬を作れるかもしれない!
希望は……必ずある! 諦めなかった人のところに、舞い降りるものなのだから!
****
■サイラス視点■
「よし、これですべて片付いたな」
真夜中のギルド長の部屋。いつもは書類の山積みになっているのに、今日は一切書類が置かれていない。
さすがにあれだけの量は、一週間はかかってしまったな。もっとギルド長って派手なことをするのかと思ってたのに、やってみたら地味な事務仕事ばっかり。理想と現実のギャップを始めて痛感したって感じだ。
まあなんにせよ、これで時間は出来た。俺がいなくてもギルドに迷惑をかけずに、サリューを採りに行ける。
あれだけレージュに言われても、俺はどうしても放っておくことが出来ない。
大切な人が、成す術もなく目の前で命の灯を消し、冷たくなっていく。あの絶望なんて、誰にも経験してほしくない。それが、俺が薬師を目指した理由の一つでもあるのだから。
「……いくか」
幸いにも、俺には戦う力がある。他の人を行かせるよりかは、勝算があるだろう。
勝手に行ったことがバレてしまえば、またレージュに怒られるかもしれないが、夜明け前にこっそり戻ってくればバレないだろう。そうと決まれば、早く出発しないとな!
「持っていく物は、ランプだけでいいか……あまり大荷物になっても、動きにくいだけだしな」
俺は、机に置かれているランプを手に持って部屋に出た。
もっと装備があった方が良いのかもと思われるかもしれないが、サリューがある場所自体は、至って普通の森の中だ。環境という意味では、あまり危険ではない。
だが、油断していると、例の凶暴な動物に襲われてそのまま……ってことになりかねないのが怖いところだな。
「父上、見ててくれ……俺は必ずやり遂げてみせるから」
憎たらしいほど美しく輝く満天の星空を見ながら、俺は亡き父上に向かって言葉を投げかける。
心配性の父上なら、絶対に止めるだろうな。それでも無理やり行ったら、罰としておやつ抜きとか、子供にしか効かないようなことを言いそうだな……父上……って、感傷に浸っている時間なんて無かったな!
「よし、行くか」
俺は自分の頬をパンっと叩いて気合を入れると、サリューを求めて町を出発した――
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