第十四話 薄汚い商売
「はぁ……やっと着いたわね」
ギルドのある町まで戻ってきた頃には、なんだかどっと疲れてしまった。
一人で素材を採りに行っていれば、これほどまでに疲れたりはしない。今だって、身体的な疲労はほとんどないわ。
その代わりに、精神的に疲れたというか……ドキドキ疲れというか……。
サイラス様ならそういうことをされても嫌では無いのだけど……なんなら、ちょっぴり嬉しく思っちゃったり……お、乙女心は複雑なのよ。
「ギルドの皆が、首を長くして待っているだろうし、早く帰ろう」
「ええ、そうね――あら?」
少し離れたところで、小さな男の子が、大柄な男性に囲まれていた。
あの子って、たしか私に声をかけてきた男の子じゃない! あんな怖そうな人たちに囲まれて……早く助けないと!
「ん……? あの子、確か町の外れに住んでいる子じゃないか! 明らかにただごとじゃない!」
「助けに行きましょう!」
「エリシアなら、そう言うと思ったよ!」
急いで男の子のところへ走っていくと、話している内容が聞こえてきた。
「さっきから言ってんだろ! この薬草が欲しけりゃ、金貨三枚持ってこいって!」
「そ、そんなお金ないよぉ……それに、その薬草は一つで銅貨一枚くらいだって、前におじいちゃんが……」
「うるせえ! こっちだって、この薬草が大量に必要なんだ! それを売ってやろうって言ってんのに、ガタガタ抜かすんじゃねえ!」
どうやら、私達が採ってきた薬草の取引みたいだけど……薬草一つで金貨三枚って、何かの冗談でしょう? それだけの大金があれば、私達が持っている麻袋にパンパンに入った状態で、十袋は買えるわよ!
「ふっふっふっ……あのジジイのガキが怯える姿は、何とも愉快なものだ……おや、あなた方は?」
「すぐそこのギルドで働いている者です。良い大人がよってたかって小さな男の子に酷い商売をするなんて、なにを考えているんですか!?」
「私の商売が酷いだなんて、酷い言いがかりですねぇ。我々は正当な値段をつけているまでですよぉ?」
男の子を守るために間に割って入ると、まるで子供のように小さいけど、豪華な服を着て、宝石をふんだんに使ったアクセサリーをいくつもつけている男性が、ニヤニヤしながら私に言葉を返した。
「今はこの薬草は、我々が買い占めているため、この辺りの市場に出回っておりません。ゆえに希少性が上がり、値段も上がる。当然でしょう? むしろ、売ってやろうと思ってもらったことに、感謝をしてほしいくらいですねぇ」
感謝ですって!? 自分達が起こした買い占めのせいで苦しんでいる人がいるのに、なんなのその態度は!?
「あなた達――」
ガツンっと文句を言ってやろうと思ったのだけど、サイラス様に手を掴まれて制止されてしまった。
どうして止めるの。そう思った直後、私の代わりにサイラス様が前に出て、口を開いた。
「面白いことを言いますね。さきほど、自分達が買い占めたという言葉が聞こえましたが?」
「ええ。お得意様である、マグナス様のギルドからの依頼ですのでぇ。ところでお二方、あなた方もこの薬草を沢山お持ちの様ですねぇ。薬草を売ってくださいませんかぁ?」
「自分の商売のことしか考えないで買い占める人に売るだなんて、お断りします! そもそも、これは私達が使うために採取してきた物ですから!」
きっぱりとお断りをすると、商人のボディーガードと思われる大柄な男性が、物凄い形相で私を睨みつけてきた。
「おい姉ちゃん、調子に乗ってっと、痛い目に合わせんぞ!」
「薄汚い商売をするだけに留まらず、俺の前でエリシアに痛い目とはどんなものか……」
一旦言葉を止めたサイラス様は、その辺りに転がっていた手のひらサイズの石を手に持つと、なんとその石を握って、粉々に粉砕してしまった。
これには、さすがに私も驚きを隠せなかった。何も知らない大人や男の子なんて、顔を青ざめさせたり、ガタガタと震えている。
「……教えてもらえるか?」
「ひ、ひぃぃぃぃ……!!」
「あ、貴様らどこに行く! 主人を置いて逃げるな!」
「残ったのはあなた一人のようですが……あなたが俺に教えてくれるのですか?」
「わ、私はこれから非常に大切な商談があるから、今日のところは見逃してあげましょう!」
完全に怒ったサイラス様に恐れた商人は、焦り過ぎて何度か転びながらも、なんとか馬車に乗りこんで逃げていった。
まったく、酷いことをする人もいたものね……一つくらい、この子にあげたって罰は当たらないわ!
「君、大丈夫? 怪我は無い?」
「う、うん……あの、その……」
「大丈夫。私達は君の味方だよ。落ち着いて、深呼吸をして……それからゆっくりお話してみて」
「すー……はー……」
前回会った時と同じように、なるべく怖がらせないように接してあげたおかげか、初対面ではなくなったからか。男の子は、素直に深呼吸をしてくれた。
うん、さっきよりかは落ち着いた感じがする。これなら話が出来そうね。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん。助けてくれて……ありがとう」
「どういたしまして」
「……えへへ」
初めて私達に見せてくれた男の子の笑顔は、とても素敵なものだった。見ているこっちまで、自然と笑顔にさせてくれる。
「私、エリシアっていうの。こっちのお兄ちゃんはサイラス。君のお名前は?」
「……カロ」
「カロ君ね。よろしくね」
自己紹介をしてから、カロ君の頭を優しく撫でると、嬉しそうに目を細めた。
「カロは、どうしてあんな連中から薬草を買おうとしていたんだ?」
「僕のたった一人の家族の、おじいちゃん……昨日からお熱が出てるの。僕がお熱出た時に、おじいちゃんが薬草を煎じて飲ませてくれたから……」
「そっか。カロ君は、おじいちゃんのために、薬草が欲しかったのね」
「うん。でも……薬草がどこにも売ってなくて。それで、やっと見つけたから売ってほしいって言ったら……ぐすっ」
「……サイラス様」
「ああ、もちろん構わない」
私のしたいことを瞬時に察してくれたサイラス様に頷いてみせた私は、カロ君に両手で抱えるくらいの、たくさんの薬草を渡した。
「えっ……これ、いいの?」
「ええ、もちろんよ。お代はいらないから、持っていって」
本当は、商売をしている立場上、情にほだされてこういうことをしては駄目なのはわかってるけど、放っておけない。
この子に渡した分で出た損失は、私のお給料から引いてもらうように頼めばいいしね。サイラス様のことだから、受け入れてくれるか怪しいけど……。
「ところで、カロ君は薬草を煎じたことはあるの? この薬草、そのままおじいちゃんに飲ませることは出来ないわよ」
「……ない……ど、どうしよう……」
「そっか……サイラス様」
「エリシアのおかげで、仕事はかなり余裕があるし、問題ないよ」
またしても私の意図を汲んでくれたうえに、許しを出してくれたサイラス様には、感謝しかないわね。
「ねえカロ君。もしよければだけど、お姉ちゃんに、おじいちゃんを診せてほしいの。いいかな?」
「い、いいの!? でも僕、診てもらえるほどのお金が……」
「お金は要らないわ。私達が好きでやることだから」
「本当!? あ、ありがとう! 僕の家はこっちだよ!」
カロ君は、今までにないくらい明るい笑顔を浮かべながら、逸る気持ちを抑えきれずに走りだした。
「勝手に決めてごめんなさい」
「勝手? 君はちゃんと俺に聞いたじゃないか。それに、ここであの子を見捨てるようなことをしたら、君の目標に背く形になってしまうだろう」
「目標?」
「苦しんでいる人達を助けたいって言ってたじゃないか。あれ、違った?」
「いえ、違わなくはないけど……覚えていてくれたのね」
「エリシアの目標なんて大切な話、一度聞いたら絶対に忘れないから!」
……なるほど、以前サイラス様の目標をわたしが覚えていたことを話した時の気持ちって、こんな感じだったのね。言葉では言い表せないくらい、嬉しくて胸の奥が暖かくなる。
「それじゃあ、彼の家に……といいたいところだけど、俺は帰ってギルド長の仕事があってな……」
「わかったわ。それじゃあ申し訳ないけど、採ってきた薬草をギルドに運んでもらえるかしら?」
「ああ、任せておけ! 力仕事は俺の得意分野だからな!」
まるで肉体労働の方が得意な人が言うようなセリフを言いながら、先にギルドに帰っていった。
さて、早くカロ君の後を追わないと、変に心配をかけちゃうわね。サイラス様におんぶをしてもらったおかげでありあまっている体力を使って、全速力で追いかけましょう!
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