第十三話 素材を求めて
「うぅん……」
小刻みに体が揺れる感覚に反応して目を開けると、目の前にはとても広い背中が広がっていた。
……これ、どういう状況……? そもそも、これって背中よね? 私、なにが……あ、そうだ! 前をちゃんと見てなかったせいで木に激突して、そのまま気絶しちゃったんだったわ!
「ん? エリシア、目が覚めたのか?」
「え、ええ」
ぴたっと揺れが止まると同時に、サイラス様の声が聞こえてきた。
やっぱりこれって、サイラス様におんぶされているのよね?
う、うぅ~……お姫様抱っこされるよりかは良いし、周りで見ている人がいないとはいえ……こんなにサイラス様に密着するなんて、やっぱり恥ずかしいわ。
「迷惑をかけてごめんなさい。それと、運んでくれてありがとう」
「いやいや、俺こそ調子に乗って悪かった」
「私が前を見て歩いてなかったのが原因なのだから、気にしないで。それと、もう大丈夫だから、降ろしてもらえるかしら?」
「えっ!? い、いや~……もう少し休んでた方が良いんじゃないか?」
サイラス様のことだから、絶対に素直に降ろしてくれないと思ってたわ……。
「私なら大丈夫よ。それに、ずっとおんぶしてたら重いでしょう?」
「重い? あははっ! 子供の頃から鍛えている俺なら、これくらい余裕さ!」
「そ、そう?」
「そう!」
見た目ではあまりわからないけど、こうして改めてサイラス様の体に触れると、がっしりとした筋肉の感覚が、体全体に伝わってくる。
これだけの筋肉があれば、誰かを運ぶくらいは容易かもしれないわね……さすがだわ……って、なんで私は冷静にサイラス様の体の感想を考えているの!? しかも、ちょっとドキドキしながら!
「……さっきから思ってたんだけどさ。エリシア、軽すぎないか? ちゃんとごはんは食べてるか?」
「ごはん? そうね……離婚してからは、毎日ちゃんと食べているわ」
「それまでは?」
「適当だったし、不規則だったわ。忙しすぎて、仕事をしながら食べられるものばかり食べてたから、栄養が偏っていたのも否めないわ。食べる暇がないこともあったし」
薬師たるもの、栄養管理は多少気にしていたけど、おいしいものではなかったし、食事を楽しんだりってこともなかったわね。
それに、食べる量も少なくして、食事に向く意識を極力減らしていたというのもある。
「よし、今すぐ帰ってマグナスをぶん殴りにいこう。そうと決まればダッシュ!」
「だ、駄目に決まってるでしょ! それに、前に似たようなことを話した時は、話をするって言ってたのに、今回は明らかに暴力的になってるわよ!?」
「ハハッ、ナンノコトヤラ」
「もうっ! その明らかな棒読みはなに!? 顔を合わせて話していたら、絶対に視線を逸らしてるわよね!」
「いてっ! ごめん、ごめんってば! 俺が悪かったから、暴れないでくれ!」
ポカポカとサイラス様の背中を叩きながら、ギャーギャー騒いでいると、いつのまにか目的の物がありそうな場所に到着していた。
「ほ、ほらエリシア! この辺りにあるんじゃないか!?」
「……そうね。確かにこの辺りにあると思うわ。よくわかったわね」
「へへっ、昔エリシアが授業で教えてくれたのが活きたな」
「覚えていてくれたのね」
「エリシアが教えてくれたことは、全て俺の知識として刻まれてるからな」
「サイラス様……」
そんな嬉しいことを言ってもらえるなんて、教えた身として、とても光栄だ。それと同時に……胸がきゅんとしてしまった。
「もちろん、エリシアが可愛かったところとか、笑ったところとかも、全部覚えてるぜ!」
「えぇ!? も、もうっ! そういうのは忘れなさい!」
「断る!」
「なんでそこで意固地になるのよ! もう~! さっきの反省はなんだったのよ~!」
「痛い! 痛い!!」
つい数秒前は嬉しいことを言われてドキドキしていたのに、今は恥ずかしくてドキドキしてしまい、再びサイラス様の背中で暴れて照れ隠しをした。
これにはさすがに観念したようで、ようやくサイラス様から解放されたわ。
「あ~痛い痛い。エリシアの愛の鞭は強烈だなぁ」
「サイラス君?」
「な、なんでもありませんっ!」
「わかればいいのよ。さあ、目的の物を探しましょう」
満面の笑みで名前を呼ぶと、サイラス様はそそくさと素材を探し始めた。
私もいつまでもサイラス様ばかりに構ってないで、目的を果たさないとね。え~っと、こういう木の陰になっていて、風通しの悪いところに……あった!
「思った以上に群生しているわね。これは穴場かも?」
私達が採りに来た植物は、入手自体はそこまで難しくないのに、色々な病気や怪我の薬に使える、とても優れた素材だ。
これはあくまで仮定だけど、マグナス様のギルドで大口の仕事が入って、この植物が大量に必要になったのだと思う。
仮にそうだとして……私がいなくなって、製薬班の人達は、大口の依頼が来て大丈夫なのかしら?
ほとんど私に丸投げして楽をしていたような人達だから、今頃忙しくて目が回っているかもしれないわね……いい気味だわ。
「うん、これくらいあれば足りそうね。サイラス様、そっちはどうかしら?」
「こっちもたくさんとれたよ」
持ってきた袋がいっぱいになったのを見計らって声をかけると、サイラス様の袋もいっぱいになっていた。
多少は残しておかないと、また何かあった時にここに採りに来られないし、もしかしたら生態系に影響を及ぼしてしまうかもしれないから、この辺で終わりにしましょう。
「それじゃあ、帰るとしようか」
「そうね……って、どうして私に背中を向けながら、しゃがんでいるの?」
「どうしてって、こうした方がおんぶしやすいだろう?」
「い、いいから! またおんぶなんてされたら、それこそ恥ずかしくて死んじゃうわ!」
「エリシアが、俺のせいで死ぬ!? 俺はなんて大罪を……この罪は、俺も死んで償わなければ……」
誰が聞いても比喩表現だってわかりそうなものなのに、まるで世界が滅亡したかのような、絶望感が漂う表情を浮かべていた。
「どうしてこんな言葉を真に受けちゃうの!? 大丈夫よ、そんなことでは死んだりしないから!」
「違うのか? よかった、君が死んだら……俺は……俺は……!」
「う、うぅ~……!!」
そ、そんなにホッとしたような顔をされたら、これ以上なにか言えないし、私が悪者みたいじゃない……!
「そ、その……おんぶとかは恥ずかしいけど、手を繋ぐくらいなら……いいわよ?」
「本当か!? やったー!」
「立ち直るの早いわね!?」
もしかして、私からこうなるように仕向けるための、演技だったのではないか。そんな疑問を抱きながら、サイラス様と手を繋いで帰路につく。
――この後、ずっと手を繋いでいたせいで、ドキドキしっぱなしだったのは、ここだけの話。
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