第十二話 欲しいものは自分の手で
「エリシア様にも、事情を説明してあげてください」
大変な事態だというのに、レージュ様は至って冷静に問いかけていた。この冷静さ、見習うべきところだわ。
「は、はい。商人の話では、別の商人が、うちの取引額の倍の値段で全てを買い占めてしまったそうで……」
買い占めなんてするなんて……それって、もしかしてマグナス様のギルドに繋がりのある商人じゃないでしょうね? あそこならやりかねないもの。
仮にそうだとしたら、人様のことを考えないで、素材を独占するだなんて、身勝手極まりない。
「ちなみにですが、その買い占めたところと、素材というのは?」
「聞いた話だと、マグナスさんのギルドみたいです。それと、素材これです」
やっぱり……なんて思いながら見せてもらった書類には、結構簡単に採取できる薬草が書かれていた。これくらいなら、パパッといって採ってくれば問題ないわ。
「ふむ、なるほど。とりあえず、その商人とは今後一切取引をしないのは決定事項として……不足分をどうするかですね」
「はい……明日には必要な素材なのに……一か八か、取り扱ってる商人を探すしか……」
「では、私が採ってきますね」
「なんだって!? 危険ではありませんか!?」
「心配してくれてありがとうございます、レージュ様。ですが、私は日頃から自分で素材を採りに行くことが多かったので、この薬草がある環境程度なら、なんてことありません」
自信満々に胸を叩いてみせたけど、レージュ様や他の人達は、まだ納得がいっていないみたいだった。
うーん、どうやって言えば説得できるだろうか。そんなことを思っていると、製薬班の作業場の扉が、バンッ! と勢いよく開いた。
「話は聞かせてもらった!」
「サイラス様!? 部屋で仕事をしていたのでは!?」
「ちょうどトイレに行こうと思って通りかかったら、話が聞こえてきたのさ。その調達、俺が同行する!」
「なにを言っているんだ。お前には、まだまだギルド長の仕事が残っているだろう」
「それはそうだけど、正直エリシアが心配で、仕事なんか手がつかないって! それに、レージュだって、エリシアを一人で行かせるのは不安なんだろ?」
「それは……その通りだ」
「ならいいじゃないか。俺は武術の心得もあるし、足手まといにはならない。どうだ、エリシア?」
考え込むレージュ様から、私の方へと視線を向けられる。サイラス様の表情は、とても自信に満ち溢れていた。
「……そうね、なにがあるかはわからないし、サイラス様が一緒にいた方が心強いわ。忙しいのに申し訳ないけど、一緒に来てくれる?」
「ああ、任せてくれ! 俺が一緒なら、エリシアに危険は訪れない!」
ふふっ、とても頼もしいわね。これなら危険な野生動物とか出てきたとしても、必死に逃げなくても大丈夫だわ。
それに、ここだけの話だけどね。深い自然の中や、危険な場所とかを一人で行くのは、何度経験してもやっぱり寂しいし、不安だし、怖いって気持ちもあったから……サイラス様が一緒でだと心強い。
「ふんふふ~ん……エリシアと合法的にデート、デート!」
「デートじゃなくて、お仕事だから! もうっ!」
……こんな調子で、大丈夫なのかしら? 今更だけど、ちょっと心配になってきた。
****
しっかり支度をした私達は、馬車で三十分ほど行ったところにある、小さな森へとやってきた。
私達が今回欲しい薬草は、暗くて風通しの悪い、じめじめした所を好む。だから、こういう森の奥の方に群生していることが多いのよ。
「久しぶりのエリシアとデート……しかも、こんな冒険みたいな感じになるなんて、ワクワクするなぁ!」
「だから、デートじゃないって……」
そもそも、学生の時からデートなんてした覚えが……あれ、よくよく考えてみると、ランチとか勉強とかも、ある意味デートだし、マグナス様に内緒で一緒に下校をしたり、ショッピングに行ったりしたのも、デートよね……?
わ、私……知らないうちに、こんなにサイラス様とデートをしていたの!? 考えたら、急に恥ずかしくなってきた……!
「ん? どうした、顔が赤いぞ! もしかして熱でもあるのか!? お、俺がお姫様抱っこをして運んであげようか!?」
「そ、それはまたの機会に」
「今じゃなければいいのか!? うわぁ、がぜんやる気が出てきた!」
し、しまった。サイラス様にお姫様だっことかされるのもいいかも……なんてぼんやりと思ったせいで、つい変なことを口走ってしまった。
サイラス様のことだから、多分ずっと忘れないで、楽しみにしているのが容易に想像できる……仕方がない、今のうちから心の準備をしておきましょう。
……私も……ちょっぴり楽しみ……うふふっ……って、私はなに浮ついたことを考えているの!? 早く薬草を採りにいかないと!
「ご、ごほんっ。不測の事態が起こるかもしれないから、油断はしないようにね」
「大丈夫、俺の辞書に油断って文字は無い!」
「本当かしら? 油断してるから、書類の山が出来てるんじゃないの?」
「うぐっ……エリシアまでレージュみたいなこと言わないでくれ……」
普通の人よりも、マグナス様を好意的に見ている私でも、さすがにそう思わざるを得ないわよ……。
書類仕事が大変な気持ちは、マグナス様のギルドで嫌と言うほど知ってるから、あまり強くは言えないけど、だからって甘やかすわけにはいかない。ギルドの人達の生活がかかってるんだもの。
「それじゃ、行きましょう!」
「おう! って、はやっ!?」
大小様々な植物が生い茂り、足元も良い状況ではない中、私は普段歩くよりも早く進んでいく。
今日はサイラス様と一緒なうえに、普通に歩いて進めるからやっていないけど、必要に迫られたら、木の上に登ったり、隣の木に飛び移ったりして進んだりもするのよ。
「さすがエリシア。運動もお手の物ってわけか! 益々惚れちゃいそうだよ!」
「ほれっ!? もうっ! こんな時まで変なことを言わないで! 手元が狂ってしまうわ!」
「変なことはないさ。俺の心からの本心だからな!」
「う、うぅ~!」
「っ……! エリシア、前!」
「あっ」
いつものように、愛情をストレートにぶつけてくるサイラス様に照れていたら、前方をちゃんと見ていなくて……目の前にまで迫っていた木に正面衝突してしまった。
ま、まさかこんな醜態を晒すだなんて……これはきっと、仕事の最中なのに浮かれていた罰ね……がくりっ。
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