第十一話 新しいギルドの日々
翌日から、私はサイラス様の薬師ギルドで働き始めた。
わかってはいたことだけど、マグナス様のギルドと比べて、依頼の数は半分にも満たない。ここが人口が少ない小さな町だからというのもあるけど、やはりギルドの規模や知名度が大きく影響しているのだろう。
でも、そのおかげで早めにその日のノルマを片付けて、余った時間で製薬班の人達と勉強をしたり、事務班の人達の効率の良い仕事の仕方を教えることが出来るわ。
……ただ、さすがにサイラス様のギルド長の仕事は私にはどうすることも出来ないから、サイラス様の机の書類の山は片付いていないままだ。
「ふむ、なるほど……そんなアプローチの仕方があるとは……それにしても、さすがはマグナス様のギルドで働いていた実績を持つお方だ。その知識と技術には、嫉妬を覚えてしまうくらいですよ」
「お褒めにあずかり、光栄です。でも、レージュ様や他の皆様の技術や知識も、素晴らしいではありませんか。ここに来てからまだ火が浅いですが、色々と学ばせていただきましたもの」
「うんうん、やっぱりエリシアの授業はためになるな! あぁ~、なんだか学生に戻った気分だぜ!」
製薬班の人達と、互いの知識を教え合っていると、別室でギルド長の仕事をしているはずのサイラス様が、何故か混ざって勉強をしていた。
「サイラス、今日中に終わらせないといけない仕事があるのではないか?」
「全力でやればなんとかなる! それよりも、数年ぶりの超尊敬するエリシア先生の授業を――」
「そうやって楽観視して、何度僕に泣きついたと思っている!」
「ぐあ~!? は、放せ~!? 助けてくれ、エリシア~!!」
プンプンと怒るレージュ様に首根っこを掴まれたサイラス様は、そのまま引きずられて部屋を去っていった。
……サイラス様、今回は完全にあなたが悪いわ。授業ならいつでもしてあげるから、今日はちゃんと仕事をしてね。
「あっ……そろそろ、依頼人に薬を届ける時間っすね」
「薬をですか?」
「そうっす。基本的にはギルドに来てもらうんすけど、体調が悪くて動けない依頼人には、こっちから届けてあげるんすよ」
製薬班に所属する、若い男性からギルドのやり方を聞いた私は、思わず感心してしまった。
マグナス様のギルドでは、自分達は最大手の薬師ギルドなのだから、自分達のやり方に従えってスタンスだった。
それが嫌いだったのだけど、ここでは真逆のスタンスなのね。とっても好感が持てるわ!
「わかりました。私が行ってきますよ」
「そんな、俺達が行くんで大丈夫っすよ」
「いいのいいの。私、外で動くのも大好きですから。それに、運動しないと体にも良くないですからね。それじゃあ、いってきまーす!」
私は、彼から薬と届け先の住所が書かれたメモを受け取ると、ギルドを元気よく出発した。
「えーっと……回る数は、十件ね。さほど距離は無いし、パパっと済ませちゃいましょ!」
私は、町の中を颯爽と駆け回り、依頼人の元に薬を配ってまわる。
素材がある場所は、人の手が入っていない自然の中が多いから、自然と運動能力が上がったの。だから体力もついて、足も凄く早くなったし、走っても薬が零れないくらいのバランス感覚が培われたわ。
「うわっ、なんだあの子!?」
「あのお姉ちゃん、すっごくはや~い!」
すれ違う町の人達から、私の走り回る姿を見て驚きの声が上がる中、私は無事に依頼人に薬を配ってまわることが出来た。
「よしっ、今ので最後の依頼人ね。薬が早く効けばいいわね……早くギルドに帰りましょう」
「あ、あの……」
「えっ?」
最後の依頼人の家を出た私は、グーっと体を伸ばしていると、怯えた表情を浮かべる、小さな男の子に話しかけられた。
「坊や、どうかしたの? 私に何かご用かしら?」
「そ、その……ぼく……」
しゃがんで男の子の視線合わせながら、ニッコリと微笑んで見せたのだけど、男の子は怯えた表情をしたままだった。
「うん、なぁに? ゆっくりでいいからね」
「ご、ごめんなさい……!」
「あっ、ちょ……」
引き止める間もなく、男の子は走り去ってしまった。
一体何だったのだろうか……多分この町の子だろうから、今度見かけたら声をかけてみようかしら?
また逃げられてしまうかもしれないけど、なんだか事情がありそうな感じだったし……放ってはおけないもの。
とはいっても、どこの子なのか、何て名前なのかもわからない以上、こっちから行動できないのが、なんともムズムズする。
「こんなことになるなら、先に名前を聞いておくべきだったわね……」
自分の失敗を反省しながらギルドに戻ると、出ていく時と違い、みんなの表情がすぐれなかった。
「ただいまもどりました。なにかあったのですか?」
「じ、実は……今日仕入れるはずだった素材の一部が、納品されなくなってしまいまして!」
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